突然だけど、346プロには「ひなななお」という番組がある。その名の通り、比奈さんと菜々さんと奈緒さんの三人、「虹色ドリーマー」が出演する、三人の冠番組だ。
放送内容は、言ってみればサブカルチャー総合。三人の現在のマイブームや流行に応じて色々と変わるけど、アニメ、ゲーム、マンガ、ラノベ……などについて、ダベったり、遊んだりという……まあ、そこそこある類の番組である。
三人ともいわゆる「にわか」というわけではなく、知識の幅も広いため、アイドル好きにとってもアニメ・ゲーム好きにとっても楽しめる。まあ、その辺ちょっと絶妙なバランスの上に成り立ってるとも言えるけど。
製作費も安価で、そこまで大掛かりな準備を必要としないのでスタッフにも優しい。そのおかげでBD/DVDもそこそこ安価で売れるのでファンにも優しい。色んな意味でwin-winな番組でもある。
さて、実はと言うとボクは今日、紗南さんと一緒にこの番組へ出演することに決まっていた。
今回の題材は「あのレトロゲームを遊ぶ」だ。
「レトロゲームって言っても色々あるけどね……」
「どのくらい前のかなぁ?」
「ゲームウォッチってことは無いと思うけど」
ボクらは今、番組の収録場所の付近にやってきている。もう数分程度で撮影が開始……するのだが、実はそれにあたってまだやるゲームの内容は知らされてなかったりする。
レトロゲー、というのは実のところかなり大雑把なくくりだ。どこからどこまでが「レトロ」なのかは人の尺度次第だし。
「紗南さんは何がいい?」
「んー、ドラクエとかどうかな? 氷菓ちゃんは?」
「ボクは……マリオブラザーズとか?」
「あー、いいね。ミスしたら交代する形式かな」
「そしたらボクから後に回らなくなっちゃうし」
「だったら氷菓ちゃんは順番の外かも」
「仲間外れやめてよ」
くすくすと笑い合いながらも、合図を待つ。
元々、同じ寮生でゲームが趣味ということもあって、ボクは紗南さんとそこそこ仲が良い。今回のオファーはそれが原因か……と言うのは流石にちょっと違うか。
実際のとこ、紗南さんにオファーを出したら偶然ボクもくっついてきた、という感じだろうか。千佳ちゃんの時みたく、出演にあたって紗南さんの方から口添えの一つや二つ、あった可能性はあるけども。
「じゃあそろそろ準備お願いしまーす」
「はい」
「分かりましたー」
スタッフさんの呼びかけに応え、軽く下に視線を落とす。服は……撮影だし、流石に外行き用。デニムとパンプスに、白い上着。その下にはグレーのインナーを着用している……程度のごくカジュアルなもの。紗南さんは比較的派手めな刺繍の施されたデニムシャツ。前を開けているおかげで、白いシャツと深緑色のパンツが見えている。割とよく見る紗南さんの普段着だ。
軽く埃を払い、立ち位置を確認して……これでオーケー。ちょっと紗南さんの立ち位置の方も微調整して……こんなもんかな。
「それでは本番入りまーす! 5秒前! 4、3、2……」
秒読みを終えた後、部屋の中から声が聞こえる。まずはタイトルコールとトークから。それが終われば、ようやくゲストの出番となる。
スタッフさんから合図を受けて、ボクらはインターフォンを押した。
「はーい」
「どうぞー」
「お邪魔します」
「失礼しまーす!」
部屋の中からの応答を受け、ドアを開けてリビングへ向かうと、三人がコタツに入って待ち受けていた。
どうやら既にセットは冬仕様になっているらしい。カーペットもふわふわなものを使っているようだ。放送の時はもう十二月に入ってる頃だろうし、こうなるか。
テレビを見る面を開けないといけない関係上、コタツは幅の広いものを使っているようだ。ゲストを含めて放送する場合は毎回四人以上はいることになるわけだし、妥当なところだろう。正直、ちょっと欲しい。
「というわけで今回のゲスト、三好紗南ちゃんと白河氷菓ちゃんッス」
「よろしくなー」
「よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「それじゃあ、お二人も来ましたしお茶淹れてきますねー」
「あ、いつもありがとッス」
「ありがとうお母さん!」
「お母さん!?」
「ありがとうお母さん」
「ちょっとシャレんなんないやつやめてくれます!?」
ちょっとジョークで言ってみただけだというのに、何故か気の毒なものを見るような視線が注がれた。
しかしね、ボクはもう家族のいる身だよ? そこまで言うこたぁ無いんじゃないのかな。確かに母親はいないけど。菜々さんみたいなよく気がつく人が母親だったら、もっと健全に成長できたかもなぁとは思う。まあ、過ぎたこと言ってもしょうがないんだけど。
「そういうとこッスよ氷菓ちゃん……」
「え、何が……?」
そんなどうしようもないようなものを見るような眼で見てくるのはやめてくれないだろうか。
ボクだって傷つかないわけじゃないんですよ。
「ま、ともかく! 今日のテーマは『あのレトロゲームを遊ぶ』だ」
「二人ともゲームが趣味って聞いたッスけど」
「紗南ちゃんはもうみんなが知ってるってくらいですけどね」
「氷菓は?」
「あんまりコレってものは無いです。あ、面白そうだなーって思ったら何でもやるタチなので」
「よく一緒にゲームはするけど完璧主義の凝り性って感じで、何だか気付いたらトロフィーコンプとかやってたりするんだよ。忙しいはずなのにね」
「紗南さんだって似たようなことはやってるのに」
「あたしは楽しんでやってたらそうなるだけー」
「それってどう違うんですか?」
「氷菓ちゃんは最短距離を最効率で駆け抜ける系で、あたしは道草楽しみながら偶然コンプする系?」
「ボクだって楽しみながらやってるよ」
というかゲームは普通、楽しみながらやるものだ。ボクだって楽しみながらやってたら、つい最初に最短距離でやってしまうというだけだ。トロフィーコンプは結果でしかない。
その後はそれこそ更なるやり込みをするし、協力プレイや対戦を楽しみもする。そりゃあ、まあ、こう、多少はね? 多少はこう、早解きしすぎたかなぁとは思ったりするけども。だからこそ、その分攻略wikiとか更新できたりするのはひそかな自慢だったりする。だから時々思いっきりゲームの進捗具合読み間違えて、ネタバレかましたりしたことについては許してほしい。ダメか。
「で、改めて『あのレトロゲーム』な。今回は……」
「なんでしょうね。ファミコンか、スーファミか、それともメガド」
「ニンテンドー64だ」
「!?」
「もう20年以上前の機種ッスからねー」
「!!?」
「ボクが生まれて一、二年くらいでWiiだからもう随分だよねぇ」
「!?!?!?」
「どしたの菜々さん?」
「い、いえー……いやちょっと……ちょっと、はい……」
ちなみにこの話、先生にした場合は一瞬で真顔になる。本人曰く、「そんなに経ってないはず」だとか。本人の中ではまだ今は2000年代らしい。
ボクとしてはちょっと分からない感覚だが、あと十年、二十年経つうちに似たような思いを抱くようになるのだろうか。
ちなみにPS1の発売が1994年なので更に品としてはレトロである。そろそろPS2もこの括りに入ってきそうだ。
「最初は何かな?」
「最初はこれだな。マリオ64」
「うん、鉄板だね」
「鉄板すぎるくらいだよね」
スーパーマリオ64。DSで一度リメイクが行われ、更にバーチャルコンソールでの配信も行われた名作中の名作。
現在でも動画配信サイトなどで実況動画やTAS動画などを撮影・配信する人は絶えず、未だ知名度は高い。
アクションは単純。ストーリーは明快。3Dゲームのノウハウが蓄積されていなかったあの時代にあの内容は、なんというか色々とおかしいと思う。良い意味で。
「それじゃあ、最初は誰から……」
「はいはいはい!」
「紗南かー……やらせて大丈夫なのか?」
「それなら大丈夫ッス。ミス交代じゃなくってステージごとに交代って形式にしたらいいんで」
「むしろ氷菓ちゃんに回しちゃダメだよ。スター0枚からでもクリアするから」
「どういうことなんですか!?」
「鍵もいらないよ」
「ちょっと待てよ!?」
「流石に普通にやる分には自重するって」
まあ確かに、紗南さんとゲームする時のこと改めて考えるとちょっとやりすぎちゃった部分が、無いではないかなぁとも思うけれども。
正直、できることをやってるだけなんだから――という思いも無くはない。いや、流石に今はやらないけどね。
「それじゃあまずはあたしからねっ!」
と、宣言してスタート。まずは恒例のピーチ姫のお手紙。TAS動画ではgdgdパート、なんて呼ばれているものの、やっぱりこれが無いと始まらないのは変わらない。一種の様式美と言えるか。ボク個人はこれが無いとちょっと締まらない気分になる。
「gdgdとか言っちゃダメだよー」
「誰も言ってないぞ!?」
「誰かが言うから先に釘さしとかないと」
「誰かって誰ッスか……」
「誰だろうね」
多分ネットユーザーとかそういう人たちだろう。あとボクとか。
しばらくマリオを走らせると、今度は例のカメラマンが現れて説明を始める。これは――。
「gdgdパート2とか言っちゃダメだよー」
「だから誰も言ってませんよ!」
やっぱり釘を刺されてしまった。
……いや、でも、やっぱこれいらな……やっぱいいです。
「それじゃあファーストステージ行ってみよう!」
「紗南ちゃんはこれやったことあるんッスか?」
「バーチャルコンソールでやったことあるよ。まあ、ゲーマーなら基礎教養みたいなものかな」
「基礎教養は言い過ぎだと思うけど……ボクも一応」
菜々さんもプレイした経験自体はありそうだけど……気にするのも野暮か。
「あのぉ……ナナなんだかあんまりよろしくないこと考えられてるような予感って言うか悪寒? がするんですけど」
「菜々さんがお母さんっぽいからそんな気がするだけだよ。オカンだけに!」
「氷菓、ドヤ顔するのやめろ」
「氷菓ちゃん最近楓さんに似てきてない?」
「そう? えへへ」
「ちょっとかわいいけど多分そこ照れるとこじゃないッスよ」
そんなバカな。
いや、楓さんよりももっとすごいアイドルに、なんて言った手前、似てると言われて喜ぶのも違う……え、それも違う?
じゃあなんなんだ一体。
と悩んでいる間にも、紗南さんは見事な動きで最初のステージをすいすいと攻略し、スターを手に入れていった。
恐ろしく素早い手さばき。ボクでなきゃ見逃しちゃうね……なんつって。
「おー、お見事ッス」
「へへん。よそ見してたらどんどん進んじゃうんだからねっ」
「いやホントホント」
「氷菓ちゃんの場合はだいぶ違うと思うよ?」
「最終的な着地点がある以上そこに何の違いもありゃしないよ」
「違うんだよ!」
そこまで言うほどではない……ような……そうでもない……ような気がしなくもなくもないんだけど……。
いや、まあ、うん……色んな意味でゲームそのものが致命的なことになるのは、まあ、違う……かなぁ……。
「じゃあ次奈緒さんね!」
「お、おうっ。それじゃあ次は……どこ行こうかな……」
次にプレイするのは奈緒さんか。で――安易にすぐ次のステージには行かず、同じステージでしばらくスターを集めるつもりか。なるほど、堅実な作戦だ。
「奈緒さん」
「ん? 何だ?」
「加蓮さんが『奈緒は普段はあんまり面白み無いよねー』って言ってた理由が分かったよ」
「お前ホント最近遠慮なくなったなぁ!?」
「ま、まあまあ! 打ち解けられたってことですよ! 多分……」
「菜々さんもそこは断言してくれよぉ」
実際のとこ、ボク個人は相当打ち解けられてると思ってるんだけど、どうだろう。
まあ、ちょっと加蓮さんっぽいところが多少あるかもなーというところについては否めないような感じも……あるっちゃあるのだけども。クローネで団体行動してるとどうしてもそういう部分が出てきてしまうというかなんというか。なんだかんだ加蓮さんの立ち回り方が相当上手いので、参考にしてると、こう、奈緒さんをついイジってしまうというか……今後は自重しとこう。
さて、その後も危なげなく奈緒さん、比奈さんと続き……菜々さんも、なんというか実に慣れた手つきでコントローラーを動かしてスターを入手。そんなこんなでボクの手番と相成った。
「氷菓ちゃん、コントローラー壊しちゃダメだからね!」
「壊さないよ!?」
ボクは一体何だと思われてるんだ。
そんなことしたら勿体ないし、何より筋力が無い。壊したって何も良いことは無い、と言わざるを得ないところだね。
「こうして近くで見てるとよく分かるんですけれど、氷菓ちゃんって時々ちょっとズレたこと考えてません?」
「時々どころかしょっちゅうだよ菜々さん」
「みたいですね」
「見た目はほぼほぼ完璧って言ってもいいくらいクールなんッスけどね……」
「ご存じだか知らないですけどボクだって多少は怒るんですよ?」
そりゃまあ人より多少閾値は高い方ですけれども。
ともかく、そういうわけでボクもゲーム開始。事前に釘を刺された通り、どうにも人間にできるか怪しいようなことはせず、適度に……まあ、そこそこの範囲でできることだけをこなすことにした。
ルートを調整。最短距離を算出して、最適な動作でもってルート取りをして……あと、そこそこ見栄えがするように魅せプレイも差し込む……と、まあそこそこ程度ではあるけど、上手くいったんじゃないだろうか。
しかし、比奈さんは裏で一体何をしているんだろう? 用意してるのは……もう一本のソフト?
「それじゃあ、ちょっとセーブして……ここでちょっと新しいソフトの方に交換しましょう」
「え?」
「何で?」
「いやぁ……実はッスね。ネットユーザーから氷菓ちゃんにリクエストがあって」
「はあ」
「紗南ちゃんがツイッターで『氷菓ちゃんが人力TASができる』みたいなこと呟いたらしいじゃないッスか。そこで、ちょっとここで……ってことッス」
「な、なるほど……?」
そりゃまあ、できるかと言われればできるけれども。
それを今ここで……って言われると、ちょっとこう、いいの? さっき紗南さんに釘さされたんだけど。
「ええと、じゃあ、まあ……」
紗南さんも促してくるし……言われた通り、電源を点ける。
まあ、何とでもなるだろう。とりあえず、解析解析。
これなら……こうして、ああして……よし。
「計測お願いします」
「了解ー」
紗南さんがストップウォッチを構える。指で押し込むのに合わせてゲームを開始した。
まずは恒例のゲーム開始直後の操作不能画面。ここで一分ほどが費やされていく。
そしてゲーム開始直後、目まぐるしい速度でマリオが動く動く。
「……何やってんだ?」
「乱数調整の舞じゃない?」
「できていいものなんですか!?」
「実際いま現実にできてるし……?」
実際、乱数は見えている。あとはここをこうしてドット単位の調整をして、位置取りを変えてやれば……と。
――ヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤッフゥゥゥ!!
マリオが飛んだ。
ケツで飛んだ。
物理法則に反して空を飛び、データとデータの隙間を縫って駆けていく。判定をズラし、誤魔化し、それこそ隙間を利用して別の画面へと抜けていく。そして十数秒も経つ頃には、およそ全ての行程を飛ばして
「ジャスト2分だ」
「……!!?!?!?」
「ちょっと待てよ!?」
「こんなの絶対おかしいよ!! ッス!」
「今の最高記録が何でしたっけ?」
「4分強?」
「だいたいこんな感じです」
「どうやって手動でやってるんだよ……!?」
「計算して?」
「計算ッスか」
「多分志希さんもできると思います」
「できるんだ……」
「確かにできてもおかしくなさそうですけど」
でもまあ、やる必要は無いんだけどね……こういうの。
文字通りゲームそのものの寿命を縮めかねない(コントローラーも筐体もソフトも莫大な負担がかかる的な意味で)し、演算処理が死ぬほど手間だ。遊ぶなら普通に遊ぶのが一番だ。
「良い子は真似をしないように!」
「できてたまるか!」
なお後日、今回のルートがシラカワルートとして更に洗練され、記録を少しずつ更新されていくことになったが……余談だろう。
さて、記録の更新と引き換えに、本体に甚大……とまではいかずとも、やや後を引く程度のダメージを与えてしまったマリオだったが、一通り終えたところで比奈さんが次のソフトを持って来た。
「じゃ、次行きましょう。『ゴールデンアイ 007』ッス」
「これはあたしも知ってるな。確かゲッ」
「FPSだね! Wiiでリメイクもされてるはずだよ」
「スルーやめてくれ」
「対戦が中毒性がすごくて友達を呼んで一日中対戦を………………って聞いたことありますよ!」
「リメイク版の方はかなり操作性なんかが違うらしいけどね」
「そッスね。今回は四人対戦をするつもりッス」
「おっ、対戦かぁ、いいね!」
対戦かぁ。今となってはそこそこ人の心も勘定に入れられるようになって、未来予測もそれなりに精度が上がってきたけど……そもそもそれでだって、さっき言われたようにボク自身かなりズレてるところがあるから、どこまで通じるかって話になっちゃうんだよね。
まあ、だからこそ良い、というのもあるんだけどさ。対戦ゲームは人の心が介在してるからこそ、深読みして外したり、運に助けられたり、運が敵に回ったり。そういうままならない部分があるからこそ楽しいんだろう。
「紗南と氷菓有利じゃないか?」
「いやぁ、そこはほら、四人もいるから。集中的に狙われたりしたら分かんないよ?」
「あとボク対戦そこまで得意じゃないですし」
「さっきあれだけのことやっといてそれは説得力に欠けるッスけど」
「ボクは人の心が分からない」
「その言い方も言い方でどうかと思うッス……」
「どっかのセイバーか」
でも事実だからしょうがない。人の心とは常に機械や計算では計り切れないものなのだ……みたいな、多分そんな感じ。
むしろ正確に最善手が見えているからこそ、そこから外れると未来予測が上手くいかなくなる。紗南さんとゲームする時はいつもそれでやられてるんだから困りものだ。
「順番はどうします?」
「最初はゲスト二人とあたしら二人で勝ち抜けかな?」
「負け抜けじゃなくてです?」
「多分この二人永遠に抜けないぞ」
「そこまでじゃないよ?」
「そうそう。二割程度は勝てるし」
八割勝てないとも言う。
そこに関しては、まあ、しょうがないというか……紗南さんの読みとゲームに対する適応力がおかしいとも言う。ボクに想定できないことを当然にスイーッとやりにくるから、本当に手に負えない。
「でも、FPSなら勝率はギリ四割まで持っていけると思う」
「だから氷菓ちゃんは怖いんだよねー」
「結局二人有利じゃないか!」
「そんなことなくもなくもなくもなくも」
「とりあえず始めましょーよ……」
そんな比奈さんのボヤきに応じて、菜々さんと奈緒さんがジャンケンして順番を決める。どうやら今回は比奈さんが待機ということになったらしい。
さて、ゲーム開始だ。
まず最初はみんな特定の拳銃しか持ってないが、まずボクの最初の狙いは――スナイパーライフルだ。
「くっ、やっぱり狙撃狙ってる!」
「え、何? そんなにヤバいのか?」
「なんかマズそうってのは確かですねぇ」
紗南さんはそれを理解しているからか、最初からボクを狙いにきている。
フフフ……追われるってのは気分がいい。自分が比較的優位に立てていると実感させてくれる……!
ここでのミソはあくまで「比較的」だ。実質的にはまだ薄氷の上であることを忘れてはならない。
「よし、見つけた」
「早っ! うう、くっそぉ。こういう時どうするのが一番だっけ……」
「おっ、いたな紗南! くらえっ!」
「あっ、ちょっ」
と、今度はボクへの対処を優先しすぎたせいか、奈緒さんの接近に気付けなかった紗南さんが一回死亡。これで残るライフはひとつだけ。
そして、ついでに――――と。
「あっ!?」
「ビューティフォー……」
「今どうやって……」
「あっ、もしかしてこの豆粒みたいなのがそうか!?」
「奈緒さん正解」
「うわぁ……これホントに氷菓ちゃんの独壇場になっちゃうんじゃ」
「大丈夫だよ。今倒した」
「!」
「何なんッスかこのもうプロやな――って感じの攻防戦」
「プロなんでしょう」
色んな意味で。
まあ、実際紗南さんは割とゲーマーとして熟達している。ボクは様々な問題を強引に解決していってるんだが、その辺を踏まえると明らかに紗南さんの方がゲーマーとしては上だろう。
これで弱冠十五歳というのだから色々と卑怯だ。まあ、ゲームは触れ始めた年齢や反射神経、思考能力が重要になるから、年齢は関係ないと言えばそれもその通り。
その後は黄金銃を手に入れた紗南さんが無双を始めたり、そんな紗南さんをヘッドショットしてみたり、時に横槍を入れられて全滅したり……と、全体的にわちゃわちゃと、騒ぎ回るようにみんなで対戦を楽しんだ。
しかし、うん。やっぱりボクはどっちかって言うとFPSとかの方が好きだと分かった。
対戦ゲーム……例えば格闘ゲームになると、どうしても常に行動を選択することを迫られるし、対戦要素のあるRPGとなると、読めないか読みやすいかの両極端になってしまう。こういう、複数人の思惑が交錯してやり取りし合ったり、時に逃げたり、あるいはあえて立ち向かって見たり……と、最善手というものが存在しない方が楽しいというか。決まりきった手ばかりだと、マンネリ化してどん詰まりになる。自由な選択肢が取れる方が、ボクとしてはやっぱり楽しいと思える。
「あー、結構やったなぁ……」
「どっちも名作なだけあって随分楽しめましたね!」
「ちょっとハッスルしすぎた気もするッスけど、楽しかった……ッスよね?」
「はい、勿論」
「うん! やっぱいいよねレトロゲー。ね、氷菓ちゃん!」
「そだね。今度互換機を買ってみるのもアリかなぁ」
「その時はやらせてね……」
「へっへっへ、よく分かってますぜ旦那ァ」
「そこ、小芝居始めない」
「「すみませーん」」
へっへっへ……でも奈緒さんもちょっとやりたそうにしてるの見えたし、ボクの部屋に来たならその時はみんなでできるように調整しとかないと。
コントローラー、あるかなぁ。お金は……施設の分以外はだいたい貯金してるかアイス買ってるかでそんなに使ってないし、買う分には問題無いか。
「しかし今回は紗南ちゃんのスーパープレイも、氷菓ちゃんの意外な一面も見ることができましたねぇ」
「意外なっていうか……」
「寮だともっとダラッとしてるし、今日よりもうちょっとヒドいよ?」
「そうなんッスか?」
「プライベートですから。それを言うなら紗南さんだって」
「へへーん、ゲームする時は真剣だもんねっ」
「宿題を忘れるほど熱中」
「う゛っ」
「う゛っ」
「う゛ぅ゛っ」
「何で今奈緒ちゃんと菜々さんがダメージ受けたんッスか!?」
……ええと、きっと何かあるんだろう。菜々さんに関しては。
奈緒さんはあれだ。自分もよくラノベ読んだり深夜アニメ見てたりで宿題忘れてたりするんだ。実際この前受験勉強教えに行った時に見た。
「じゃ、今回はここまでッスかねー。それじゃあ皆さんお疲れ様でしたー」
「「「「お疲れ様でしたー」」」」
始まった時と同じく、ややダラッとした空気の中で撮影を終える。
そもそものこの番組の気風というやつだ。ドラマなんかの撮影だともっとビシッとしてることが多いんだけど、こういう撮影もこういう撮影でいいものだなぁ……。
「で、次の撮影なんッスけど」
「あっ」
「あ、そうだった」
――――と、しみじみとしているところに声がかかる。そうだそうだ、忘れてた。この番組、一回の収録で二回分撮るんだ。笑点みたく。
次に比奈さんが取り出したのは……今度は、最近のソフトとゲーム機。
「次は、PS4のFPS、『タイタンフォール2』とリマスター版『
「おおっ」
「へへっ。ってことは、また……」
「……対戦……だな……」
そこはもしかすると
まあ、でも、改めて撮影を始めるまで分からない。そういう和やかでふんわりした雰囲気も、いいところじゃないだろうか。
……そんなこんなで、今日の趣味全振りの番組収録は夜まで楽しんで撮影ができたのであった。
だいたいゲームしてるだけだったけど。
2018年現在だとPS2~GCの前後あたりがレトロ・非レトロの境目でしょうか。