◆ ソシャゲの沼 ◆
「というわけでコレなんだけど」
「ソシャゲ? ロボットものか、これ?」
ある昼下がり、ボクはクローネのプロジェクトルームで奈緒さんとアリスさんを前にしてスマホの画面を見せていた。
内容は知っての通り、ソーシャルゲーム「グランドレッドインファントリー」。二人はやや怪訝な顔でその画面を見ていた。
「この前言ってたソーシャルゲームですよね? 私、こういうの、あんまり好きじゃありません」
「ありすは前から言ってるしなぁ」
「はっきり言って単なる集金システムですよ。ゲーム自体もそんなに面白いものじゃないはずです」
「はずって」
「まあ確かに何年か前までは一本調子で面白くないヤツも多かったけど、最近は本格的なRPGとか戦略SLGだったりシナリオに力入れてるやつも増えててさ、あたしとしては最近は特にFG――」
「これ、はっきり言えばスパロボとかと同じようなゲーム性だから、そこまで心配するほどつまんなくはないと思うよ」
「そうですか?」
「遮られた!」
奈緒さんはちょっと話が長くなりすぎる傾向にあるので、適当なところで遮って、先にこっちの用件を告げておくのが一番いい――というのが加蓮さんの対応法である。
「で、何でコレを?」
「ボクこれに出演してるので、知り合いにちょっと広めてみてほしいって運営の人からお願いされちゃって」
「本物の運営の回し者初めて見た」
「回し者ですよね」
「まあ回し者だけど」
そこに関しては否定できる要素が無い。だってボク完璧に関係者だもの。
ただ、そういう身内補正とか抜きに、スタッフさんの熱意はすさまじいものがあると思う。
声優さんの選定に苦慮してるとはいえ、全キャラにL2D完備というイカれっぷりにレビューサイトも困惑であった。
「まあ、やらない分には仕方ないけど」
「誰もやらないとは言ってないぞ! なあありす」
「は、はい。それはまあ」
良かった。流石にこの段階で断られてたらちょっとショックだった。
ソシャゲに対してお金を使いたくないっていう気持ち自体は、まあ分かるけど。使う人は本当に際限なく使っちゃうだろうし。
「氷菓がやってる役って確か、えーっと……あった、これだ」
「このキャラクターですか。随分その……」
「ニッチなところ突いてきてるな……」
「まあ、うん……」
軍人で、強キャラで、傲岸不遜なように見えて無駄に面倒見が良い。オマケに性転換キャラ。マニアックと言われても仕方ない部分はあると思う。
それはそれとしてサービス開始当初からの人気キャラでもあるのだけど。理由はボクに聞かれても困る。
「一種のキャラゲーだから、あんまり本気になりすぎずに気に入ったキャラを適度に育てるくらいの感覚でいいと思うよ」
「そうだよなー。でもあたしも結構アニメとか見てきてるし、ハードル上がっちゃうぞ」
「フリですか?」
「違うよ!」
「でも奈緒さん一期ごとに嫁とか婿とか増えてそうな感じだし」
「そ、そそそそそんなことないぞぉ!」
図星なようだ。
でもそういうの奈緒さんだけじゃないから別に気にしなくてもいいのに。
――その後、本人曰く「独り言が多くなるから」という理由で奈緒さんは一時離脱して帰宅。アリスさんは寮のボクの部屋でやる、という運びになった。
シロがいるせいか何なのか、その場で即座に最高レアを引いていたのは……晶葉には言わないでおこう。
その後、何のかんのあって奈緒さんは大爆死し、アリスさんはそこそこ程度に引くだけに留めることで無駄なお金を使うことを回避した。
晶葉は相変わらずの爆死っぷりであった。
◆ 開陳!トンデモ鑑定団 ◆
「ふむ、これはなんとも」
「ほうほう……」
現在、ボクはある意味で途轍もない危機に陥っていた。
いや、危機というかなんというか……あえて表現するなら危機としか言いようがないというか。
人気番組、トンデモ鑑定団。その鑑定品の一つに――その昔、ボクが描いた贋作のうちの一つが紛れ込んでいたのだった。
――さて、まず最初の問題としては、そもそも何でボクがこんな番組に出ているか……だけど、これに関しては簡単だ。おじじが出演するのに付き合わされているから、である。
実はおじじだけど、この前の家族騒動以前から
で、お金もできたし、以前から何となく欲しかった美術品を手に入れたので鑑定団に応募したら、これが見事に当選。スタジオ収録に呼ばれることになってしまった。
そもそもボク自身は出演するつもりは無かった。……のだけど、おじじが偶然鑑定団のスタジオ出演に呼ばれた件について話してたら専務さんに知られ、じゃあこの際だし家族であることをアピールするためにもついでに出てもらおう……という話運びで、観覧席に座ることになってしまったのだった。
しかし、そんな折にお出しされたのが、どうもボクが過去に描いたらしき贋作。ボクとおじじは二人揃って内心アタフタだった。
「……あれどこに売ったやつ?」
「……どこぞの好事家だったと思うが、顧客リストでも見んことには分からん」
販路に関しては完全におじじたちに任せていたのが不幸だったか、ボクにもその辺は分からない。
ただ、贋作商というのは、相手に贋作であることを理解してもらってから売るものだ。まあ、贋作と言うよりはあくまで「複製」と呼ぶのが正しいのだろうけど……売り先は主に学校での教材用だったりと、複製画の展覧会用にだったりというのが主だ。こんな風に、個人の手に「本物」として渡ることはまず無いと言っていい。
となると、流れてきた大元は……個人的に複製画を自宅に置いておきたいという好事家が、飽きて古物商に手放して、そこから本物と勘違いして……というあたりだろうか。本来なら刻んであるはずの「H.S」のサインも消えているようだ。今はH.Kだが。変態仮面ではない。
「…………」
「……」
ナビゲーターのマキノさんと頼子さんも、こちらの様子を見て事情を察したらしい。
片や苦笑いで、片や呆れたように額に軽く手を当てていた。
「――――」
「……」
た、す、け、て、と軽く口を動かして頼子さんに懇願を向ける。こんな時に一番頼りになるのは頼子さんだけだ。文字通りの意味で。
しばらく、食い入るように画を見つめる頼子さんとマキノさん。記憶と照合して違いを探しているのだろう。マキノさんは思い出せなかったのか、少しすると諦めたように目頭を軽く揉んでいた。
「……あの、先生。少しお話が」
そんな中で頼子さんはどうにかその相違点について気付いたのか、こっそりと鑑定士の先生に耳打ちをした。
先生方の中でも意見が色々と分かれていたらしく、後で聞くところによると、頼子さんのこの一言がきっかけで贋作と判別できたのだとか。以前、見分け方について少し助力した甲斐があったものだと思う。
……で、結局鑑定額は五万円。絵の出来が良いからということで値段に色はついたが、偽物は偽物である――とのこと。
この一件があった結果、頼子さんが美術品の目利きができる17歳ということで話題になったのだけど、それはまた別のお話。
◆ シンデレラな前世占い ◆
「……ですか?」
「そう! どう? ロックじゃない?」
「ロックじゃあないかにゃあ……」
とある日、ボクはシンデレラプロジェクトの地下ルームの方にお邪魔していた。
今日この日にいたのは、打ち合わせ(?)中のアスタリスクのお二人と、トライアドプリムスのお仕事で凛さんが抜けている状態のニュージェネのお二人、更にキャンディアイランドの御三方だったり、「HappyHappyTwin」で「あんきら!?狂騒曲」の打ち合わせのためにいるきらりさんだったり……と、かなり豪華な面々である。
ちょっとアーニャさんと組みますよということでお話を伺いに来ただけだというのに、なんともはや圧倒されて仕方ない状況でもあった。
「前世ねー。氷菓だから実はどっかの妖精さんだったりしても驚かないよ杏は」
「杏ちゃんがそれ言うー?」
「あ、あははは……」
「? 卯月ちゃん、どうしたの……?」
「んん、まあ色々あるんだよ。うんっ……」
卯月さんと未央さん、ボクの経歴については知ってるから前世占いの何のと言われるとちょっと言葉にしづらいところがあるんだろうか。杏さんはその点なんというか巧いな。下手に気にしてる風じゃなくて、適当にからかってる感がよく出てる。というか仮に知らなくても言いそう。
「まあみくはネコちゃんだよね! 間違いなく!!」
「ネコ科ではありそうだけど豹とかそっちっぽそう」
「関西出身だし……」
「何でそっちピックアップするんだにゃあ!?」
「氷菓ちゃんはー……お花みたいな感じもすゆっ☆」
「ええっと、雪の花の妖精さん……とか、ですか?」
「ちえりん混ざってる混ざってる」
そんな可愛らしいモンじゃないんだよなぁ、というのは一部含めた関係者は分かってる話だが、そこのところは語れない。
でもそもそもいかつい外見じゃなかったのは確かだし、むしろ今に通じる程度には当時もモヤシだったし……モヤシの妖精かな?
「あっ、出たよ。このサイトで前世が調べられます、だって」
「おっ、かな子ナイス! じゃ、ちょっとやってみよーよ!」
「誰からやる?」
「そりゃーまあ話題に出てる氷菓ちゃん……は一旦置いといて」
「置いとくんですか」
「私美味しいものは最後に取っとく派なんだよね」
いや、それもそれで……どうだろう。
まあ、別にこんな程度のそれでバレるようなことはまず無いだろうし、遊びにはいいか……。
「それじゃあ、最初はその氷菓ちゃんに指名してもらうのはどうかな?」
「いいねっ! じゃあひょかちゃんお願い!」
「え。えー……それじゃあまずは卯月さんからで」
「あっ、はい! 頑張ります!」
「しまむー、これ頑張る要素どこ?」
回答を、だろうか。
何にしてもそんなに気を張るようなことじゃないけど。
で、みくさんがキリンと診断されて死んだ目を晒してみたり、かな子さんがそもそも生物ですらないバームクーヘンなどと言われてしまったり、李衣菜さんなんかはロックミュージシャンと言われて大喜びしてみたり――と、なんというか一言で語り切れないような内容の占いを終えてボクの番。ほんのちょっと緊張しながらも必要事項を入力してみる。
「幸福の王子様。献身的で人のために尽くして命を散らした悲劇の人……ねぇ」
「おうふ」
「ひょ、氷菓ちゃん、それはちょっと……」
「色んな意味でキツいんだけど大丈夫かな……」
「そんなに言うほど……?」
い、一応遊びのつもりだよね? そんな意図を込めて杏さんに視線を送ってみる。返ってきた視線には「諦めろ」との意がしっかりと込められていた。ちくせう。
事情をしっかり理解してる人は勿論のこと、そうじゃない人もなんとなく変な部分で察してしまうのだとか。
……うん、こういう結果を出すサイトが悪い。そういう風に強引に結論付けることにして、ボクはその場を締めくくった。
◆ ショッピングエリクシア ◆
ボクの錬金術が色々万能なのは知っての通りだけど、それはそれとして別に買い物が必要ないわけじゃない。
何せ当のボク自身に創造性が無いわけで、例えば服なんかを作ろうと思うと大抵無地の白Tシャツとかになってしまったりする。
もっとも、そこを含めて何とかしようと努力するのも、錬金術師としての修行なのだろうけども……そんなわけだし、必需品だったり、その場で思いつかなくて現地に行ってやっと気付くようなものだったり――というものもあるので、外で買い物をする機会というのは決して少なくはない。
「そろそろボクも何か仕掛けてみる頃だろうか」
「いきなり何を言い出すんだ」
「いやね、いつもはボクストッパー役というか何もせずに見てる方じゃん。けどそろそろ何か実験でもしてみるべき頃合いかと思って」
「いいね! 何やるの?」
「それが問題なんだよね。別にやりたいことがあるでもないし、実験なら他人で試す必要無いし」
「ひょーかちゃんはローコストだもんねー」
薬なら志希さんの専門分野だし、ロボットなら晶葉の専門分野。大概において実験と言ってもボクがしようかなとふと思ったものはどちらかが先にやっているし、仮に実験をしようと思っても、錬金術=「あちら」の技術を人前に晒すことになりかねないため、安易にやるわけにはいかなかったりもする。
「やっぱボクは人のサポートに回ってこそなのかもね」
「そういう部分はありそうだな。ちょっとそこのパーツの検査頼めるか?」
「ん。手前から四番目右から二番目が一番いいよ」
「ついでにこっちもおねがーい」
「調合用ならむしろ幅が出る方が良いと思うから志希さんのは直感で選ぶくらいでいいんじゃない? 純度高いのが要るなら買ってからボクの方に貸してよ」
「あいあーい♪」
その分、二人の実験や何やには色々と付き合うことにはしている。
今日やってきたのは、総合的な化学薬品だったり機械用品だったりを取り扱っている店だ。ややアングラな趣もあるが、その分マニアックな素材を売っていることも多いため、色々と重宝している。
「そういえば前に言っていた、エリクシールの調合などはできないのか?」
「できたらちょーだい♪」
「作り方教えたら志希さんでもできるんじゃない?」
「んーでもあたしがやるよりひょーかちゃんがやる方がイイって感じがするからいっかな?」
「何それ」
「サイエンティストの勘ってヤツ♪」
「把握」
「把握しちゃったか」
そういう勘は馬鹿にできないからね。それこそ志希さんクラスの化学者に関しては。
晶葉だって似たような経験はあるんじゃないだろうか。配線だったりAIだったり。理論上成立していない状況でも、勘に従ってみてやったらできたみたいな。だからツッコミきれてないとも言えるのだが。
「今度こそスタエナとの調合を確立させたいんだけどなぁ」
「それマジでヤバいやつじゃないのか?」
「でもヤバいからこそ手を出したくなるよね~?」
「それもその通りだ」
「んでんで、成功の基準は?」
「プロデューサーの疲労がすっかり消えて菜々さんの肌年齢が17歳そのものになるくらい」
「道は遠いな……」
「そうだね」
言いつつボクはボクで市販のエナドリなどを買い物かごに放り込んでいく。
確かに道は多少遠いかもしれないけれど、そもそもその道を創り出してショートカットしてこその錬金術師。頭の中で理論を適度に構築しながら、この後も晶葉の目当てのジャンクパーツの選別を手伝ったり、志希さんのお薬の材料に目星を付けたりなどして過ごすことにした。
後日、プロデューサーの疲労が消え去ったり消えてなかったり、あるいは断続的に謎の筋肉痛が現れたり、菜々さんの腰痛が改善されたり逆に腹痛が増えたり何だりしたのはまた別のお話。
◆ IF:もしも錬金術を隠さなかったら ◆
人は過ちを繰り返す。
かつての時代、かつての日。あるアイドルの言葉によって、世界は一変した。
――錬金術という遺失技術が存在します。
科学にとって代わられるだけだった「それ」を、彼女は拾い上げ、己がものとして身に着けた。
錬金術を活用した彼女のステージは変幻自在。彼女自身が創り上げ、あるいは作り変えるそれは、現実にはあり得ざる煌びやかさで見る者を圧倒し、圧倒的とも言えるパフォーマンスによって観客を魅了した。文字通り、観客は黄金のような時を過ごし、珠玉の体験をしたと言う。
あまりに非現実的な体験故に、疑惑の目が向けられた。その結果として放たれた答えが、これだ。
文字通りの非現実性。凡百に再現できないその能力により、その少女は一躍トップスターとなった。
しかし、その栄華は長く続かなかった。
規格外とも言えるその能力に目を付けた者がいた。
煌びやかなステージを作り出す?
見る者を魅了する?
否。そんなことよりも、もっと活用すべきものがある――と。
あらゆる国、あらゆる組織が彼女へ接触した。その全てにおいて拒絶を示したが、こういった「客」が絶えることは無い。
やがて、半年と経たずに彼女は消息を絶った。自身の存在が無用な争いを呼ぶことを危惧したものと言われている。
しかし――その事実に対して、黙っている者はいない。
あの技術は何だ。錬金術とは何だ。あれほどの力は何なんだ。
欲しい。
その力があれば、より世界は発展する。その力があれば、より高次の軍事力を得られる。その力があれば……。
人々は求めた。そして、
そんな中、ある国が錬金術を用いた兵器、物質分解弾頭、通称「ジャガーノート」の開発に成功。各国もこれに追随し、独自の兵器と兵力を得た。
張り詰めた糸のような緊張状態は長く続かない。やがて、世界は第三次大戦の時を迎えることとなる。
分解兵器の応酬、応酬、応酬……山は削れ、海は枯れ、草木は死に大地は砕けた。20XX年のことである。
文明は崩壊。何一つとして、遺されるものは無かった。
しかし、人間は死滅してはいなかった。死した大地に再び立ち上がり、歩き出したのだ。
しかし――人は、過ちを繰り返す。
「ヒャーハハハハハァ! 逃げろ逃げろ~!」
「男は殺せ~! 女も殺せ~!」
「死んだヤツだけ可愛がってやるぜぇ~! ギャーハッハッハ!」
「くっ……」
文明崩壊後の廃墟の街を行く者がいた。
一つは、街から街へ行く隊商。もう一つは、下品に声を上げ、暴虐の限りを尽くす
文明が崩壊したその後、既存の秩序もまた崩壊した。旧来の法は一切の意味を失い、力こそが正義という世に変わってしまった。
理性を失った者たちは暴力により己の欲を満たし、弱者は淘汰される――その光景はもはや、地獄と言っても過言ではない。
「に、逃げなさい!」
隊商の中から、一人の男が飛び出した。不健康的に痩せた男だ。悲壮な決意に瞳を染めて、巨大な
「ヒーハー! とんでもねえバカだぜぇ~!」
「わざわざ死にに来たんじゃねぇ~かぁ~!?」
「けなげな!」
巨大なバイクが悪路を粉砕しながら進む。その暴威に抗える者など、存在するはずはない。
「ヒャッ?」
そのはずだった。
その瞬間に、蒼い風が駆け抜ける。「それ」が吹き抜けた直後、
何が起きたのだ、と隊商は困惑の声を上げる。やがて、その声に応じるようにして小さな足音が廃墟の街に響いた。
「無粋だ」
その先にあるのは、蒼い色彩。
吸い込まれそうなほどの美を携えた――魔性。
「
その声はあらゆる存在を屈服させるほどの覇気に満ちていた。その言葉は魔法めいて周囲の人間の脳に浸透し、魂を揺らす。
やがて、「それ」が近づくにつれて廃墟の様相が移り変わっていくことに気付く。灰色の武骨なコンクリートが、美麗な白亜の壁に。ネオンライトで彩られたその空間は、まるで旧時代の「アイドル」のステージを思い起こさせるものだった。
「――――ここは私の
@ ――― @
「ナニコレ」
「もしものシミュレーション?」
「ははーんもしかして馬鹿だったんだなキミ?」
「失礼な」
◆
「そもそも誰だこれは」
ある曇天の昼のこと。
ロボットや機械を作るのに湿気が良くないということで、ボクの部屋に訪れた晶葉だが……モニタを見るなり、ボクに対してそんなことを問いかけた。
画面には、ボクと同じく青い髪を持った女性が凛々しく舞い、歌う姿を映している。まあ、一見しただけじゃ誰か分かんないのも無理はないが。
ちなみに話はズレるけど、トンテンカンと機械を弄っている音が気に入らないせいか、シロはベッドの下に隠れている。
「ボクだよ」
「は?」
「や、だからボクだって」
「いやそもそもキミはここにいるだろう」
「だからまあ正確に言うとボクじゃないんだけど」
「まるで意味が分からんぞ」
「まあ色々やっててさ。コピーみたいなものだよ」
「……いや、もうちょっと詳しく」
何がそんなに晶葉の琴線に触れたのだろうか。ここまで食いついて来るのもなかなか無いけど……。
「疑似的に並行世界を作り出して」
「その時点で意味が分からないんだが!?」
「えー……」
「そんな『何で分からないの?』的な目で見るな私は天才だけど凡才でもあるんだぞ」
「一文で矛盾してる」
いや分かるけど。
晶葉はロボット分野の天才には違いない。けれども、他の分野についてもそうだというわけじゃない。実は理数系以外の科目はあんまり得意じゃないし、アイドル活動ではミスしたりもする。その分、二度と同じミスをしないように、あるいは本番では絶対にそんなミスをしないように、血の滲むような努力を繰り返しているのだけど。言ってしまえば、ロボット工学の天才でもあり努力の天才でもある、というところだ。毎回付き合っているボクは割とボロボロである。
「マクロコスモスとミクロコスモスって言って分かる?」
「……遊戯王?」
「じゃなくて。大きな宇宙……いわゆるボクらの生きてるこの宇宙……には、対になるように小さい宇宙……この場合は人間だね。そういうものが存在するんだっていうこと」
「よくわからん」
「まあ詳しくはwiki○ediaでも見てよ」
「なんて雑な」
「ともかくそういう、錬金術にも通じる理論があるんだよ。で、ホムンクルスって言って分かる?」
「そっちは分かるぞ。人造人間とかそういうやつだったな?」
「うん。で、まずそれを作って」
「サラッと恐ろしいことを言ったな」
あっちの錬金術師にとっては割合普通のことである。
「そのホムンクルスを量子分解して」
「一気に残酷になったぞ!?」
「別に生命体じゃないから」
「そういう問題じゃないんだが!?」
「まあそういうわけで、このフラスコを外界と切り離すことで、ホムンクルスという『
「よく分からないのは変わらない上にスルーをするな!」
「スルーをするーな?」
「ホントに楓に似てきたな……」
って言ってもツッコミにノり続けてたら永遠に説明ができないじゃないか。
というわけで、いちいちノらずに説明だけしておく。
「疑似的な
「軽々話してるが私たちより遥かにヤバいことやってないかキミ」
「多少はいいじゃん」
「悪いとは言ってない」
「そっか。で、この
「うむ」
「その因果が巡り巡ってポストアポカリプス」
「Falloutか何かか」
「どっちかって言うとマッドマックス……?」
「メタルな方かもしれんな」
マッドマックスはいいぞ。そんなことを呟きながら、ボクは手元にグラスを錬成してボトルのジュースを注いだ。
「そんなに便利だからな」
「まーね」
「ついでにコンデンサ作ってくれ」
「はいよー」
言われて、晶葉の手元にコンデンサを作り出す。
ぱちんと軽く指を弾けば、そこですぐに晶葉の手の中にコンデンサが錬成された。現在進行形で晶葉が何を作ってるのかは分からないが、多分ロクでもないものだろう。結果は見たいので止める気も無いが。
「で、あの究極体氷菓は?」
「どっちかって言うとスカルグレイモン的方面だけど、ポストアポカリプス世界に対応しなきゃいけないから、百年がかりで作り上げた究極体って感じ」
「百……?」
「だいたい一日で一年経つように時間調整してるから」
「ああ、そういうやつか」
ゲームや何やでよくあるそういうやつである。
「こっちではそうしないのか?」
「しばらくは自然の成長に任せるから」
まあ、適当な年齢になったらそこで固定すると思うけど。
開祖様みたいなもんだ。開祖様は開祖様であの姿が自分にとって最適、かつ最優だと思ったからこそあの姿なわけで。錬金術師として、ボクだって同じようにしちゃいけないって縛りはそもそも無い。まあ、混乱を呼ばないためにも一回老衰してみたり……っていうプロセスは必要になると思うけど。
「で、私はどうなってるんだ?」
「全身機械化してエデン大統領みたいになってボクのバックアップしてたよ」
「私ェ……」
なぁに百年以上生きて開祖様みたく追われる立場になりながら、戦場に乱入して武器を分解して文字通り
何なんだアレ。本当に何なんだアレ。多分錬金術の存在広めちゃって責任感じてあんなんなっちゃったんだろうけど、それにしたってもっと良い方法あっただろうに。ほぼボク自身のことだから、また何か努力の方向性間違ったんだろうなぁとは思うけど。もうちょっとなんとかならんかったのかアレは。
「人間って難しいね」
「キミが言うと意味深に聞こえるからやめるんだ」
概ねリクエストに沿った形にしていますが、ご要望通りにできなかった場合はすみません。
また、今後本編として投稿する場合や、ちょっと実現不可能な場合はオムニバスとして組み込めない場合もありますのでご了承ください。