青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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7:ユニットを組む

「――――っと!」

 

 

 地獄の(基礎体力)トレーニングの開始から数日。世間はすっかり春休みに突入している。珍しいことに今日は、ボクと慶さんの二人でレッスンルームにいた。

 連日にわたってのトレーニングの結果、ボクは毎日のように筋肉痛と向き合いながらもなんとか心肺機能をアップさせることに成功していた。その成果を試す場として、まず一度全体曲――「お願い!シンデレラ」をもう一度踊ってみよう、という話になったのだ。

 リベンジ、というと何だか変な話だけど、一度失敗したのは確かだ。前回とは違い、慶さんと二人きり。手本は無いけど、前回見たそれは既に記憶に焼き付いている。

 

 息が切れ、視界が霞み始める。動きのキレが無くなり、やがて汗で滑って眼鏡が吹き飛びそうになったところで――曲が、終わった。

 

 

 

「やっ……たあああああ!!」

「や……っ……!!」

「む、無理に喋らないで氷菓ちゃん!」

 

 

 その場に倒れ込みながら、喜びに片腕を上げる。ほとんどプルプルしながらだったが、どうにかこうにか手が上がった。手首から上だけ。

 だいたい四分間、必死になって踊り続けたんだ。ボクじゃあ当然、こうなる。動けないとかいうレベルじゃない。全身ズタボロだ。

 

 と、そんな中、ふと部屋の入口の方から控えめな拍手が聞こえてきた。

 誰だと思ってそちらに視線をやると――あ、眼鏡が無いから見えねえや。

 ええと、うん。多分気配から察するに根津Pだ。

 わあクッソ恥ずかしい。貴様いつから見ていたッ!

 

 

「あ、おはようございます。プロデューサーさん」

「おはようございます。白河さんは、ええと……大丈夫?」

「ご覧の通りです……」

「は、はは……」

 

 

 そうだよご覧の有様だよ!!

 やめて! こんな無様なボクを見ないで!

 

 

「じゃあ、とりあえず通達だけしておくよ。11時からプロジェクトルームに集合、そこでユニットのことについて話すから」

「…………ぃ」

「はいって言ってます」

「お、おう」

 

 

 声も出ねえ。

 憎まれ口を叩く余裕も無い。

 オ・ノーレェェェ!

 

 

「とりあえず、まだしばらく時間はあるからゆっくり休んで」

「……ぁ」

「分かりましたって言ってます」

「慶さん通訳か何か?」

 

 

 この数日間ずっとこんな感じだったので、ボクの言いたいことが何となく分かるようになったらしい。

 訓練の賜物だね! こんな技能必要無いだろうけど。

 

 

「……お、俺の方は、他の子たちにも連絡に行ってくるから。それじゃあ」

 

 

 と。そんなボクの体調を考慮して――というか、単純にいたたまれなくなったのだろう。根津Pは速足で退散していった。

 けど、そうか。そろそろプロジェクトが動くのか。

 ユニットの話って言ってたけど……どうなんだろう。ボクと誰が組むことになるのだろう。

 ……何だか不安でたまらなくなってきた。本当に大丈夫かな……。

 

 

 

 と、そんなこんなで、十分に休憩を取って、11時。ボクたちは、改めてプロジェクトルームに集合していた。

 ホワイトボードの前に根津Pが立ち、背の低い人からソファに着席。他の面々は立った状態で――という形式だ。

 

 

「集まってくれてありがとう。それじゃあ、暫定的にだけど、今のところ決定しているユニットについて発表していくよ」

「プロデューサー。暫定なの? 決定なの?」

「殆ど本決まりに近い仮決定って感じかな。変更は、もしかしたらある、かも、って程度」

「ふぅん……」

 

 

 マキノさんの質問ももっともだ。「暫定的に決定」って言われると、どっちがどうなのかいまいち分からない。暫定って、あくまで一時的な決定、って感じだし。

 

 

「まあ、ともかく!」

 

 

 あ、面倒くさくなったなプロデューサー……。

 

 

「半分くらいは決定事項と思ってほしい。それじゃあ一組目だけど……古澤さんと、八神さん」

「はい」

「ええ」

 

 

 頼子さんとマキノさん……成程、傾向が似てる二人だ。

 クールで知的、とでも言おうか。この二人、見た目の印象とは異なり、頼子さんの方が身長が高かったりする。頼子さんが猫背気味で、一見同じくらいに見える……という理由もあるけど。

 売り出し方も、やっぱりクールなビジュアルを()せる方向性になってくるだろう。やや自信に欠ける頼子さんにとっては、良い相方だと思う。

 

 ……流石に眼鏡が決め手じゃあない、とは思いたい。

 

 

「次に、イヴさんとクラリスさん」

「はい」

「はいー!」

 

 

 次は、イヴさんとクラリスさん……外国人二人か。

 サンタとシスターという前職、それに金髪と銀髪――本当は白髪だけど――もそえて外見バランスもいい。

 問題は、イヴさんがやや日本の文化に疎いという辺りだけど……クラリスさんは日本に住んで長いらしいし、そこはフォローしてくれるだろう。

 

 

「それから、こずえちゃん、聖ちゃん、芳乃さん」

「はーい……」

「はい……」

「承りましてー」

 

 

 なるほど、次は年少組トリオ……うん? うんん?

 いやそこまで年少というわけじゃない。芳乃さん、あれで16歳だし。

 いや。うん。でも、多分、問題は無い。外見的バランスも内面的バランスも、パーフェクトと言えばパーフェクトだ。

 ただ一点問題がある。あの三人、やや浮世離れした性格だったはずだ。素質も最初から備えている能力も全部が一級品だと思うんだけど、それはそれとして多少の不安が残る。

 大丈夫か根津P。きっちり引率できるんだな根津P……?

 

 

「それと……村松さん、大石さん、土屋さん」

「はいっ!」

「はい」

「はいな!」

 

 

 次はいつもの仲良し三人組か。

 見てて安心感すら覚える人たちだ。この三人は、売り出しの方向性からちょっと異なってる……というか、傾向が違う気がするけど、あれかな。シンデレラプロジェクト一期生のユニット、ニュージェネレーションズを意識してるのかな。

 仮にそうだとしたら、売り出し方については気を遣うところだろうな……当のシンデレラプロジェクトの担当プロデューサーである武内Pが統括としている以上、そういうことは無いと思うけれど。

 

 

「……五つ目に、一ノ瀬さん、池袋さん、白河さん」

「あ、は~い♪」

「うむ」

「……はい」

 

 

 そして、ボクのユニットもまた、決定した。

 あの日の三人――ボクと、志希さんと、晶葉さん。

 それぞれに何らかの特異な知識を備えた、知能派……というより、技能派の面々。それぞれがそれぞれ得意とすることは違うけど、正直言って、何となく気が合うように感じた三人。

 思わず、笑みがこぼれかけた。けど、まだまだボクの体力じゃ二人にはついていけないな。もっと体力をつけないと。

 

 ……そして、だ。

 残りは四人、となればおのずと答えは絞られる。恐らくは、しゅがはさんがソロユニット、そして肇さん、七海さん、みちるさんの三人ユニットだ。

 第一期生の神崎蘭子さんのソロユニット、ローゼンブルクエンゲルに倣ったかたち、と言えるだろうか。圧倒的な個性の持ち主は、下手をすると他のメンバーの個性を食いつぶしてしまいかねない。しゅがはさん自身、かなり独特の個性の持ち主だ。蘭子さんは蘭子さんで、自分の個性と拮抗するものを持つ二宮飛鳥(にのみやあすか)さんや、白坂小梅(しらさかこうめ)さんとのデュオユニットも組むことができたらしいけど……しゅがはさんはまだその辺未知数すぎてよく分からない。となればソロでやるのが一番いいだろう――――。

 

 

 

「そして……藤原さん、浅利さん、大原さん、はぁとさん(・・・・・)、以上6ユニットで活動してもらおうと思う。何か質問ある人?」

 

 

『『『『 え 』』』』

 

 

 

 ――――その瞬間、時が止まった。

 

 あん?

 肇さんと? 七海さんと? みちるさんと? うん。しゅがはさん?

 

 ははーん。プロデューサーは馬鹿だったんだな?

 

 

「助手、頭でも打ったのか?」

「オイコラ失礼だゾ☆」

「正気かどうかで言うとちょっと厳しいかもしれないけど」

「マジかよ」

 

 

 プロデューサー道は死狂(シグル)いとかそういうアレなのか。

 いやまあ、まともな考え方でできるような職業じゃないかもだけど。

 

 

「……しゅがはさんはソロユニットの方が輝くんじゃないの?」

「それも含めて考えたんだけどね、トレーナーさんたちと一緒に考えて、こうするのがいいんじゃないかっていう結論になったんだ」

 

 

 どんな判断だ。

 

 

「はぁともソロの方がいいと思うゾ☆」

「悪いけどこれ決定事項なのよね。あとそれ単に自分が目立ちたいだけじゃないか。プロデューサーそういうの分かっちゃう」

 

 

 確かに、しゅがはさんはだいぶこう、目立ちたがりだ。

 グイグイ自分から前に出ていく肉食系……というかなんというか。だからホント、他の人と食い合わせがものすごく悪い。

 他ならぬ、ボクたちを目の前でずっと見てきたトレーナーさんたちとの話し合いの結果だとはいえ、ボクたちとしてはやはり、難色(なんしょく)を示さざるを得ない。

 勿論、これはしゅがはさんが何か悪いってわけじゃなく、全体との兼ね合いとして、って話なんだけど……。

 

 

「肇さんたちは何か言いたいこと、無いの?」

「フゴ?」

「みちるさんはいいです」

「フゴッ!?」

 

 

 見たところ、自分がどう、というあたりについては特に何も思うところは無いようだし、それで追及して困らせるのも悪いし。

 というかこの空気の中で何で平然とパン食っとるんだ。食っとる場合か。一応これ業務連絡のはずなんだけど。

 

 

「七海はプロデューサーがそうした方がいいっていうなら大丈夫れすよ~?」

「そう……ですね。私も、異論はありません」

 

 

 肇さんは……そうは言ってる割に、表情はどこか納得していないものがあるようだ。

 一方の七海さんは、彼女自身が言う通り特に気にしたような様子は見られない。それは能天気さゆえのものではなく、むしろ冷静に状況を俯瞰した結果、この結論を出しているような気さえする。

 いや、あるいは――しゅがはさんがユニットを組むことに何らかの意味がある、ということか?

 だとすると、それは……。

 

 

「デビュー時期に関しては、四月の下旬から順次、という風に考えてる。ユニット名は、みんなで考える方向で行こう。今日は休日。あと個別に質問があれば後で言ってくれ。できる限りは答えるから」

 

 

 そう言って部屋を出る根津Pを見送り、ボクは肇さんの背中を軽く叩いた。

 彼女もそれで察したのか、あとからプロデューサーを静かに追いかけていく。

 

 人間、変化しない者はいない。たとえ大人でもそれは同じだ。

 しゅがはさんのグイグイ前に出るその性質はテレビ向きだろうけど、同時にやや自分本位なところがあって、自分「だけ」が前に出ようとする。

 今後仕事をしていく上でそれに問題が無いとは言えない。プロジェクトと346プロの性質上、他のアイドルとユニットを組んだり、一緒にお仕事をする機会は多いはずだ。そこに馴染めないとなれば、孤立したり疎まれたりということもありうる。事前に予防するために、もっと協調性を持ってもらうのが重要、という話……の、はず。だからこそ、ソロユニットではなくてグループ活動、という結論に至ったんだと思う。

 

 ただ、精神的な成長って難しいんだよな。人に言われてやるんじゃ本質的には何も変わってない。いずれ忘れてまた同じことを繰り返すようになる。言われて本当の意味で改善できるのは、自分の問題点を問題点だと正しく認識できた人だけだ。

 だから一番望ましいのは、しゅがはさん自身がそれに気付くことだ。皆の前ではそのことが言えなかったから、後で個別に……という話をしたんだろう。

 ……前途多難だなぁ。

 

 

「むう。色々と言いたいことはあるが仕方がない。今はユニットのことだけを考えるか」

 

 

 しゅがはさんについての話自体はさっきのことで一応の決着を見たためか、他の皆は自分たちのユニットメンバーとの話し合いに移っていた。

 自然と、ボクら三人も一か所に寄り集まっていく。

 

 

「よし。改めて、よろしく頼むぞ、二人とも」

「うん。こちらこそよろしく」

「よろしくね~。ま、なんとなーくこうなる気はしてたけど♪」

 

 

 もしかするとあの日、ボクたちがあの部屋に集められたことは、必然だったのかもしれない。

 ……いや、運命とかそういうんじゃなくって。スカウトした時点でこういう方向性のユニットを組もうとしていたっていう意味で。

 根津Pも意外にしたたかな部分があるしなぁ。そういうのは多分、有り得る。

 

 

「でさ、急にお休みになっちゃったけどどうする~? プロデューサーは多分、ユニットの名前とか考えるための時間ってことにしてるんだろうけどー」

「いや。まだ時期尚早だろう。実のところ、私たちは互いのことについてよく知らない部分がある」

「そうだね。プライベートにまで踏み込むのはちょっと良くないけど、この3人にどういう共通点があるのかとか、どういう方向に進みたいのかとか、そういうところを把握してからにしないと……」

 

 

 志希さんは独り暮らし、晶葉さんは都内の一軒家に住んでて、ボクは寮生活。そして残念なことに、三人ともに生活圏が一致していない。

 電車に乗れば、会おうと思えばすぐ会えるけど……ボクがあの有様だったもんで、会おうにも会えなかったんだよな……。

 

 

「ふんふん。じゃあ、氷菓ちゃんのお部屋に行くのはどうかな?」

「ボクの部屋? 別にいいけど……面白いものなんて、あんまり無いと思うよ?」

 

 

 少なくとも、年頃の女の子が見て楽しいものもあんまり無いんじゃないかな……とも思ったけど、この二人、割と「普通」の範疇からは外れてたっけ。

 なら大丈夫か。

 大丈夫か?

 大丈夫だって思いたいなぁ。

 

 

 

 @ ――― @

 

 

 

 それから十分ほどして、寮のボクの部屋に辿り着く。

 寮なんだから当然と言えば当然なんだけど、他の部屋と比べても特に差異は無い。しいて言うなら他の部屋と比べてかざりっけが殆ど無いことくらいだろうか。部屋にあるのは、ゲーム機とテレビ、パソコン、本棚、こたつ……あと、小さな鉢植えくらいのものだ。どれも安物だし、色合いもモノトーンで派手さは無い。

 

 

「男の部屋か何かか」

 

 

 思わず口を衝いて出た晶葉さんのツッコミが心に響いた。

 いや、まあ実際中身は元々男だったんだけど。

 

 

「わぁ冷凍庫の中身アイスばっかり~」

「何勝手に見てるのさ」

「人の家の冷蔵庫って気になるでしょ? あ、ビバオールだ。もらっていいー?」

「いやまあいいけど……適当に座ってくつろいでてよ。お茶淹れてくるから」

 

 

 そういえば志希さん岩手の方出身だったっけ。

 もしかすると懐かしい味だったりするのかもしれない。またこんどアンテナショップか通販で仕入れとこうかな。

 

 適当にお湯を沸かして、ほうじ茶を淹れる。お盆に載せて部屋の中に戻ると、何故か晶葉さんはボクのP●4のM●:Wを勝手に起動してプレイしていた。志希さんは漫画本片手にビバオール食べつつその様子眺めてる。

 いや待てや。

 

 

「おいコラ」

「いやくつろいでてと言われたからつい」

「くつろぎすぎだよ」

「いや、ほら。人がプレイしているデータというのも気になるだろう?」

「気持ちは分かるけどさ」

 

 

 何でそこでノータイムで実行に移しちゃうのかな!

 ……でも、データ消されてるわけじゃないし、まいっか。

 そういうことにしとかないと話も進まないし。

 

 

「マンガのラインナップもちょっと独特だよね~。いわゆるジャッパーンのマンガ! みたいなのが無いような感じ?」

「あるよ。『シグルイ』」

「和風だけどこういうのじゃなくって」

 

 

 ……まあ、マニアックなことは否めない。『虚無戦記』とか『衛府の七忍』とか。でも『サイボーグクロちゃん』なんかは普通に普通の人に勧められると思うんだけどどうだろう?

 

 

「で、あの鉢植えは何なんだ?」

「あれは輝子さんから貰ったんだよ。『トモダチの輪』って。マイタケらしいよ」

 

 

 貰ってからは丁寧に育てている。時期的には秋ごろに収穫できるらしい。

 トモダチを食べるってのはどうなんだろうと思わなくもないけど、曰く「食べて栄養にするのが一番の供養。腐らせるのが一番良くない」だそうで。キノコ料理にも割と造詣(ぞうけい)が深いらしい。

 

 

「……なんというか、異質な空間だな!」

「うん、まあ。そうだね」

 

 

 否定する材料が欠片もねえ。

 

 

「ずっとこうなの?」

「小学校に入ってくらいから、かなぁ。それまでだったら、そもそも自分のものが無かったから」

「いやなんなんだその子供は」

「色々あったんだよ。勉強ばっかりしてたから」

「どんな~?」

「こんな」

 

 

 取り出したのは、一冊の写本だ。

 収納の奥に隠していた稀覯本(きこうぼん)の写本。かつてボクが錬金術の秘奥に辿り着くために読みふけった書物の写し。

 エメラルド・タブレットの原文……なんて、言ったところで理解できるか分からないけど。これを手に入れるために色々苦労したものだ。それも含めて語りたいところだけど残念ながらそれを記すには余白が足りない。

 

 

「見せてー♪」

「はい」

 

 

 これはかつてボクが真理に到達するための最後の一助となったものだ。これが無くとも金を錬成することくらいはできるが、これを見ているといないとでは精度がまるで違う。

 しかしながら普通の人がこれを読んだところで、オカルトかつスピリチュアルな眉唾物としか思えないことだろう。数種類の暗号がちりばめられているため、読み方にも色々と工夫が必要なのだ。

 それに。

 

 

「これ何語?」

「アラビア語」

 

 

 元々、エメラルド・タブレットというものはギザの大ピラミッドから発掘されたものだという。

 なら当然、そこに記されているのは現地の言葉なわけで。

 加えて暗号も含んでいるともなれば、読み解けないのが普通のことでもあるのだった。

 

 

「何コレ」

「錬金術の書物」

「錬金術って、あの錬金術?」

「あの錬金術」

「へー。ほーん。なるほどにゃー♪ 化学として体系化する前のれっきとした『学問』としての錬金術の書物ってことか!」

「ま、まあそういうこと」

「いいよいいよ、面白いよ! うん、氷菓ちゃん面白い! それでそれで、もしかしてこれを学んだことで、あんなカンペキにダンスが踊れるようになったりしたってこと?」

「うん。そうなるかな」

「ンフ。いいねいいね~♪ オカルティックであからさまなくらい胡散(うさん)臭くって不可思議で、でもそれができちゃってるんだから信じるほかに無い!」

 

 

 いつになく、志希さんの眼が爛々と輝いている。これは――あからさまに興味をそそられた顔だ!

 

 

「いやホント、氷菓ちゃんは興味深いね~♪ (ふる)い知識で最新の技術に勝るとも劣らない能力を発揮できるなんて、まず無いよ?」

「……いかん、目が痛い。氷菓、本当にこれを読めたのか?」

「解読に二、三年かかったけど、なんとか」

「小学校に入る前だよな?」

「うん、まあ」

「ってことは~……氷菓ちゃんもいわゆるギフテッド?」

「ギフテッド……かな?」

 

 

 ええと、意味合いとしては……「神様の贈り物(ギフテッド)」だっけ? 特殊な才能を持ってる人のことを、そう呼んでたはず。

 ボクの場合はギフテッドとは若干意味合いが異なると思うんだけど……いや、でもよく考えると、前世の記憶を持ってるってこともある種のギフテッドなのか?

 確かにその事実を知らずにボクのことを見たら、そんな感じには写るだろう。我ながらおかしなことだ。

 

 

「それでー、晶葉ちゃんもギフテッド♪」

「うむ、私も天才だからな」

「……まあ天才だよね」

 

 

 何をどうすればあんな高度な嘘発見器が作れるのか、それが分からない。

 発想力技術力ともに異次元のものだ。少なくともボクに想定できるそれではない。下手すると自立稼働可能なロボットくらい平気で作りかねないってくらいだ。

 

 

「もちろんアタシもギフテッド♪」

「そうだな、とんでもないと思う」

 

 

 ボクと違って、志希さんのそれは彼女自身の才能の賜物だ。

 化学分野についての知識も異常なまでに豊富で、特に「におい」に関わることに関してはその辺の科学者を圧倒してしまえるほどの知識を持っていると言って過言でない。

 また、体の動かし方、ビジュアルの魅せ方、あらゆる部分で新人としては規格外のものを持っている。言わずもがな彼女も天才だろう。

 

 

「つまり三人ともギフテッドってことー。これ、名前になりませんか? よろしくお願いします」

「それ何年前の番組だ……?」

「ボクの記憶が確かなら十年以上」

「そんなに」

 

 

 楽しい番組だったな、トリビ●。また特番やらないかな。

 ……流石に無理か。うん。

 

 

「でも、言われてみるとこれは確かに、一つの傾向……方向性だな」

「うん。名前にしようと思えば、何かできると思う」

「そのままギフテッドとか……」

「流石にそれはいかがなものかと思うよボク」

 

 

 そこはもっとちゃんとした意味込めないと。

 

 しかし、そんなこんなで話し合っても、結局案はそこまでまとまらなかった。

 いかに神様というものに祝福を受けて生まれてこようとも、常に何事に関しても上手く行く――というわけじゃないらしい。

 やがてどうしようもないくらい行き詰まった結果、今日のところはおひらき、というはこびになるのだった。

 

 

 




 前に出ようとする意志も当然必要なのです。
 過剰なのはちょっとね、というだけで。
 このお話のしゅがはさんは無印R直後なのでまだだいぶ尖っているのだということで解釈お願いいたしまする。




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