青空よりアイドルへ   作:桐型枠

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 お久しぶりです。
 短めです。




後:デートis何

 

 

 デート、というのはアイドルにとってはある意味で遠く、ある意味では近くもある言葉だ。

 アイドルとは夢を見せる仕事だ。根本的なところでそこには純潔性というものが求められ、男女問題とか、そういう性的なものを匂わせるニュースは忌避される。

 けれど、同時に夢を見せるということは、想像の余地を残さなければいけないということでもある。もしこの人と付き合えたら。そういうことを考える人は、決して少なくないはずだ。

 

 そのどちらにも応えなきゃいけないのが、アイドルの務めであり、難しいところでもあるのだけど。

 

 

「に゛ゅ~……」

 

 

 ボクはバランスボールに乗りながら、クローネのプロジェクトルームでうめいていた。

 今回の雑誌の取材……というか、質問。「あなたのおすすめデートプランは?」に対する答えが、なかなか出てこない。

 考え始めてかれこれ30分だ。考えがまとまりきらず、とうとうヘリコプターのローターのようにぐるんぐるん回転を始める。あ゛~……遠心力気持ちいー……。

 

 

「何ですかその動き」

「頭ぐらんぐらんして何も考える気力無くなるよ。アリスさんやる?」

「できませんしまず考える気力を取り戻してください」

 

 

 残念。

 でも……なんて言うのかな。プロジェクトのそもそもの傾向の違いか、普段クローネの方の活動してても、あんまりこの手の質問って出てこないんだよね。

 エリクシアの方だったら割としょっちゅう来るんだけど……そっちはそっちで「今はアイドルで忙しいので考えたことがありません♥」で切り抜けられるのが多い。「付き合ったらどこに行きたい?」とかだから。けど……これ「おすすめデートプラン」って。逃げ場が無い上に適当に答えるのも後に尾を引くやつだよ。

 

 あー投げ出したい。投げ出してアリスさんとアーニャさんがやってるヨッシーに参加しにいきたい。けどお仕事だからそういうわけにもいかない。ファッション誌もそうだけど、やっぱりこの手の質問って苦手だ、ボク。

 

 

「やりたいこと……答えればいいと、思います」

「アーニャさんの言うことももっともなんだけどね……」

 

 

 例えばアーニャさんは天体観測とか、プラネタリウムに行きたいと答えた。アリスさんはいちご狩りをして、いちごづくしの料理を作る、とか。

 どっちが? と聞くのは野暮だ。でもどっちにしても、お相手はきっと大変な思いをするだろう。是非とも頑張ってほしい。

 

 ……さて。ではボクは?

 

 

「何にもない……ボクには何にも……」

「悲壮感も深刻さも感じられないんですけど」

「あ、分かる? まあそうなんだけど」

 

 

 別に今日すぐやんなきゃならないものでもなし、別の仕事に影響するようなことでもない。けど、なんかこう……何もしてない時間があると気になる。気が散る。そんな感じ。

 ぷぇーとバランスボールに顔を埋めてもう一度考えていると、プロジェクトルームの扉が開いて誰かが入ってきた。

 

 

「あ、こっちにいた。ひーちゃーん」

「あれ、はーちゃんだ」

Привет(こんにちは)……ナギは一緒じゃない、ですか?」

「残像だ。嘘です。後ろにいます」

 

 

 と、姿を現したのは、久川凪(なーちゃん)久川颯(はーちゃん)姉妹だ。

 シンデレラプロジェクト・スターライトプロジェクトの直系の後輩である新プロジェクトの一員でもあり、寮生かつ一つ年下……という境遇も相まって、同じ学年・学校のあきらさん、あかりさんに次いで付き合いの深い二人だ。

 見た目、二人ともよく似ているけれど、性質はどちらかと言えば逆。なーちゃんはダウナー系だけど、はーちゃんは自信家で活動的。けれどそれが悪い方向に作用することは無くて、姉妹仲は良好だ。

 

 最初に仲良くなったのは、はーちゃんの方。レッスンの中で分からないことがあるというので教えていたら、そのまま付き合いが増えて仲良くなっていったというところ。元々、アイドルに対してすごく熱心な子だから、向上心もすごく強くてボクも教え甲斐がある。なーちゃんはいつの間にかそこに交ざってたんだけど、なんだか妙に気が合った。振るネタのことごとくを理解してくれたというのも大きいかも。

 

 

「ひーちゃん……? はーちゃん……? いつの間にそんなにあだ名で呼ぶほど仲良く……?」

「餌付けされました。きっとフォアグラのように太り殺されてしまいます。はーちゃんが。凪は付け合わせのササミ」

「ちょっと何言ってるか分からないんですが」

「自主レッスンの時どうしても遅くなる時あるっしょ? んで、遅くなるたびに作ってもらっちゃってさ!」

「餌付けじゃないですか」

「言い方」

 

 

 そういう表現するとなんだかボクが下心があって近づいた、同僚の同性狙いのやべーやつみたいじゃないか。

 そりゃ多少は仲良くなりたいって目的もあるけど、それだって普通の考えだと思うんだよ。たぶん……。

 

 

「それで、どうしたの?」

「なんかひーちゃんのが気になるから後でいいよ」

「気にしなくてもいいよ、雑誌のQ&Aだから」

「取材ってやつですか。アイドルっぽいですね。アイドルだった」

「ずっと悩んでるみたい、です」

「どういうの?」

「こういうの」

 

 

 二人に見せると、なんとも怪訝な顔をされた。

 まあ……ボクにとっては難問でも、他の人にとってはそうじゃないっていうのはあるよね、やっぱり。

 その辺はボクの場合より顕著だけれど。

 

 

「ひーちゃんこういうのソツなくこなしそうなのに」

「ううん、全然ダメ。苦手分野」

 

 

 そもそも恋愛というものをなかなか考えられないんだから、ちょっとどうしようもない。

 今なお、好みのタイプはと聞かれてもキャプテン・アメリカか団長さんというところだ。それだって「人間として好ましい」くらいだけど。

 

 

「デートis何ってレベル」

「シキやアキハと……遊びに行くようなこと、書くのは、どうですか?」

「それは……ちょっと」

 

 

 言うまでも無いことだけど、ボクらが行くような場所っていうとそれはもう特殊なものを売ってる場所が多い。

 薬品だったり機械部品だったり……時と場合によっては服を買いに行くこともあるけど、そっちは必要に応じてだから一旦除外。

 

 ……ともかく、ボクが欲しいものって言うとそれはたいていゲームかマンガかというくらいだから、どうしても世間的なイメージからは外れるんだよね。

 他に欲しいもの……は、あんまり無いし、海外に行ったり他の県に行ったりっていうのは、「デート」って趣旨からは外れる。

 

 

「まあ、いいよこれは。急ぐことじゃないし。それより、レッスンの方の話にしよう」

「逃げましたね」

「Бежали……」

「心の隅に片付けておくだけだよ」

「クールに言って騙されるのは蘭子さんか飛鳥さんだけですよ」

「その言い方も言い方で二人に失礼だよ」

 

 

 でも実際この逃げ方で逃げたことはある。

 

 

「ダンスの動きなんだけどね? なー、手伝ってー」

「いいでしょう。阿波踊りだな」

「違うよぉ!?」

「任せろ」

「だから違うよひーちゃん!」

「イエー」

「いえー」

 

 

 なーちゃんとハイタッチ。このままズッタンズッズッタン! って感じのダンスに移行する手もあったけどそっちはやめておく。

 別に阿波踊りすることも目的じゃないし、ふざけるのはこのくらいにしよう。

 

 

「サビ前の部分で、こうっ、で、こう! なるでしょ? でもそこでどうしてもステップ失敗しちゃうんだよねー。どうすればいいの?」

「体重移動の問題かな。大きめにスタンス取ってみて。人間の骨格上どうしても特定の動作から特定の動作には移れないってことがあるから、足の位置も注意してね」

「はーい。あ、なんかできそう!」

「早い……ですね?」

「へへー、基礎ができてるからね、基礎が!」

 

 

 自慢げに言ってみるはーちゃんだけど、それもこれも彼女の普段の努力のたまものだ。そもそも、はーちゃんなーちゃんに料理を作ってる……っていうのも、寮の食事時間が潰れてもまだやってるってほど、レッスンを重ねてるっていう意味でもある。基礎とかそういう部分以前の問題として、まず体力作りを優先してたボクとしてはちょっと羨ましい。

 なお、はーちゃんと比べるとなーちゃんはちょっとサボり気味である。

 

 

「でもこういうの、みんな平然とこなしててすごいよねー。はーもなーもだけど、やっぱすっごい疲れるもん」

「ぬふはは、それほどでも!」

「氷菓さんのこの時期って確か」

「それ以上はいけない」

「ひーちゃんのことは言ってないと思いますよ。自分を知れ」

「なんてひどいやつだ」

 

 

 去年から今年にかけてのボクの成長度合いを見てみるがいい。きっと成長力B(スゴイ)くらいはあるぞ。体力に関してのみ言えば。

 それ以外の部分は……まあ置いとこう。触れない方が賢明だ。常識力とかついたよ。きっとついてる。うん。たぶん。

 

 

「じゃ、次ひーちゃんね」

「えっ」

「はーちゃんの相談だけで済む……そんなオイシイ話があると思ったか」

「済ませて♥」

Плохо(だめです)♥」

「颯さんドア塞いでください」

「オッケー」

 

 

 くそっ、逃げ道を塞がれた!

 何でみんなこういう時に限って抜群の連携を見せるんだ! ボクがことあるごとに逃げてるからか! ごめんなさい!

 

 

「凪饅頭です。味は保証できない」

「ウボアー」

 

 

 そしてなーちゃんまでバランスボールに乗ってるボクの上に乗ってきた。気分は三段鏡餅の二段目。ひょうかもちと言ったところか。

 雪見大福か何かか。

 

 

 その後は必死になってなんとかみんなで相談しながら捻り出したけど……これで良かったかと言われるとちょっと微妙なところ。

 だって日頃から食べに行ってて、この辺のアイスクリーム屋さん全部制覇してるのに、何で改めてデートで行かなきゃいけないんだろう?

 普段と違うことするからデートなんじゃないの? 違うの?

 ……わからん。

 

 

 


 

 

 

≪白河氷菓ちゃんを見守護るスレ その□□□≫

 

814 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

俺アイスに詳しくなってくるぞ俺

 

815 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

いきなりどうした

 

816 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

氷菓ちゃんのデートプラン

・映画観る

・アイス食べに行く

・一緒に本を見に行く

女性誌だから知らない人も多いだろうけど

 

817 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

映画リサーチしてくるわ

 

818 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

落ち着けお前ら常識的に考えて付き合えるわけないだろ

アイス屋張ってきます

 

819 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

映画無限ループしてくるお

とりあえず名探偵Pカチュウから

 

820 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

本って何だ・・・?

やべえスレ民なのに何も知らんぞ俺

 

821 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

>>820

マンガでいいと思うぞドリフとか読んでたみたいだし

 

822 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

>>820

漫画小説ラノベ何でも読む雑食って言ってたぞ

 

823 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

書店員の俺氏即ポップ制作に取り掛かる模様

 

824 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

アイス美味い店どこ!?

氷菓ちゃん知らない店ある!?

 

825 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

出会いを求めて駆け回るスレ民に草ァ!

 

826 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

そういう無駄な足掻きをするよりもっと接点を持てるような職に就いた方がいいと思うぞ

 

827 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

>>826

やめろカカシ

その術は俺に効く

 

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>>826

今年就活の俺氏346プロへの就職を希望する

 

829 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

必死過ぎワリロンヌ

 

830 会員番号774番目  20XX/XX/XX ID:***

ファンってそういうものよ

 

 

 






 お久しぶりです。大変お待たせしました。
 今後も短めのお話になりそうですが、今回のように一話の中にお話と掲示板(可能なら)を詰め込む予定です。
 シン劇のようなものとお考え下さい。

 他の話の掲示板回ですが、54~60話前半くらいまではモチベーションが上がれば、いずれ書ければなぁと漠然とは思っていますが、最終話に関しては書く予定はありません。外側から見たお話になるとどうしても茶化す意図が含まれてしまうためです。最終話だけは、どうかお話単体だけでお楽しみいただければと思います。


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