fate/brave gunfighter 作:ひもきゅうり
アメリカ西部開拓時代、ある伝説があった。
曰く、不殺のガンマン。
曰く、秩序の流れ者。
曰く、臆病な勇者。
曰く、もう一人のキッド。
曰く、幼き正義の味方。
彼のふたつ名はいくつもある。しかし在り得ないほどの彼の伝説から後世の研究家は彼の存在を否定した、彼はビリーザキッドの活躍に刺激された誰かの創作であると結論付けられた。彼の足跡の少なさもその結論をより現実的な物としていた。彼が登場するのはたった一度のみ、とある町になんの前ぶりもなく現れ、そして消えるよう去っていた、その後彼の姿を見た者はいなかった。その町以外に、彼の存在を示す証拠はどこにも無かった。故に彼の実在は曖昧な物となっている。
しかし、彼の存在を肯定する人たちも確かに存在する。彼らは親から子へと脈々とその伝説を語り継いでいた。伝説には幾つかのパターンがあるが、どのパターンでも必ず最後はここう締めくくられる。
『困った時や迷った時、自分ではどうしようもないと思った時は必ず誰か助けてくれる人が現れる。けれど勘違いしてはいけない、その誰かは目の前に立ち塞がる障害物を除いてくれるだけ、その後は必ず自分の足で歩いて行かなければいけない』
伝説が語られる家庭では、子供がある程度大きくなるとカウボーイハットと玩具の拳銃、そして丸い顔をした狸をデフォルメしたような人形を子供に与える。臆病でもいい、決して力強く無くてもいい、ただ勇気を持って優しく、人を思いやれる人間に育ってほしいという願いが込められる。
やがて時を経て伝説は海を渡った。そしてある日、アメリカから太平洋を超えた先にある島国において、ある少女に伝説がまた語り継がれ、贈り物が贈られた。少女はまだ幼く、伝説の意味を理解できていなかったが、なんとなくかっこいいと感じて贈り物を大切な物とした。
それからいくらかの年月が流れた。成長した少女は抗えない絶望を感じた。諦めず、目を逸らさず、手を伸ばしても、それでも間に合わない、もう自分ではどうしようもない。
願った。
少女は願った。誰か助けて欲しいと、お守り代わりのカウボーイハットを片手で強く握りしめ、ただ強く純粋に願った。
そして願いは届いた。本来、
「とりよせバッグ!」
手が届いた。少女の手ではない。彼女のものよりももっと幼く小さな手だったが、空間を超え確かに届いた。手は掴んだ者を離さないように強くひっぱり、自分のもとへととりよせた。
その空間にいた者達は皆が手の主に注目した。手の主は幼い少年だった。親しみやすそうな丸っこい顔に真ん丸なメガネを掛け、黄色いシャツと短いズボンを身に纏い、腰には二挺の拳銃を、そして頭には少女の持っていた物とそっくりなカウボーイハットを被っていた。
少年は自分に視線が集まっていることに気が付くと少し気恥ずかしそうしながらも、しっかりと少女に向き合った。
「えっと、さーばんと? だったっけ? まあいいや、さーばんと、アーチャーです。しょーかんに応えてきました。お姉さんが僕のマスターですか?」
誰もが、呆気に取られた。その中で最も早く我を取り戻したのは、少女だった。
「うん! 私が願ったの、私は藤丸立香! あなたのマスターだと思います!」
「分かったよ。とりあえずむつかしい事はよく分からないけど、これでよかったんだよね?」
少女の願いが正しき物であったかどうか、それを判断出来る者はいない。ただ彼女の願いは確かに運命を超えた。
「馬鹿な! サーヴァントだと!? まさか聖杯が反応したのか!?」
次に我に帰ったのはシルクハットを被った男だった。彼は手に持つ杯と少年を驚愕の表情で見比べる。
「クソッ! 実にふざけたことだが、まあいい。どのみちオルガの肉体は既に壊れている、サーヴァント一体でどうにか出来る問題でもない。消え去るのがほんの少し遅れるだけだ」
「レフ……」
「ああオルガ、君の燃え尽きる姿を見れないのは実に残念だけれど、そろそろこの特異点も限界のようだ。48人目の適正者とカルデアの諸君、既に人理の焼却は成った。無事なのは磁場に守られたカルデアぐらいのものだろう。だがそれも2016年を迎えるまでの短く虚しい抵抗だ。この結末は変えられない、精々残った時間で祈りでも捧げるといい。では私は他にも仕事があるのでこれで失礼するとしよう」
男はそう言い切ると、すぐに姿を消した。
「レフ……どうして……、私は……私は……」
「所長しっかりして!」
少年が手にとった者は茫然と、焦点の合わない視線を男が消え去った場所に向けていた。それを見た少女、藤丸立香が励ますが、返事はない。
『まずいぞ、特異点の崩壊が始まった! 皆、今急いでレイシフトを実行している! もう少し待ってくれ!」
「ドクター! でも所長は!」
「分かってる! でもどうしようもないんだ! 肉体が既に死んでいる限り、所長はレイシフトに成功してもすぐに消え去ってしまう!」
「そんな……」
そんな会話がなされている横で、少年は頭を捻っていた。大きな盾を持った少女と半透明の男が会話しているが、少年はいきなり呼ばれた上に状況もさっぱり分からない、そこで少年は自分を呼んだマスターに問いかけた。
「ねえ、どういうことなのか僕にも説明してよ」
「えっと、私も詳しい仕組みとかは分からないんだけど、所長はもう死んでるから帰れないみたい……」
「えっ、もう死んでるって事は……、ギャーお化けー!」
『随分と失礼なサーヴァントだな! それより君は誰、いやそんなことは今はどうでもいい。君はなんとか出来ないのかい!?」
「ご、ごめんなさい。えっともし肉体が無事だったら所長さんはなんとかなるの?」
『なんとかなる、かもしれない。正直に言って、肉体から魂だけが抜けた状態で、肉体が滅ぶなんて特異な状況は僕も遭遇したことがないんだ。でももし、なんとかなるなら最善は尽くすべきだ、お願いだ名も知らぬ英霊よ、どうか所長を救ってくれ!』
「……分かった、取り合えずやれるだけやってみます!」
『ありがとう!」
少年はおもむろにポケットに手を入れると、明らかにポケットに入るサイズではない道具を二つ取り出した。
「カチンカチンライトとテキオー灯!」
少年は懐中電灯のようなその二つの道具から出る光を所長と呼ばれる人物に当てた。
『よしなんとかレイシフトは間に合いそうだ! 立香君、マシュ、念のためにしっかり所長を捕まえておいてくれ!」
その声とともに所長を中心として、少年達は光の粒子となり、特異点から脱出した。彼らの姿が消えてすぐに彼らのいた空間は瓦礫に押しつぶされた。
少女は暫く意識を失っていたが、彼女を呼ぶ声に目が覚ました。
「立香君、やった成功したぞ!」
「……ドクター? ここは……っそうだ所長は!? ドクター所長とマシュはどうなったの!?」
「安心してくれ、マシュは無事だ。ただ所長に関しては僕もうまく説明出来ない、一応、所長らしき者は君たちと一緒に帰ってきているけど、意識がないうえにまるで鉄の塊みたいにカチンカチンになっているんだ。たぶん君が呼んだサーヴァントが最後に何かしていたみたいだからそのせいだと思う」
「じゃあそのサーヴァントは?」
「君の隣で気を失っているよ、ひとまず彼を起こして所長の状態を説明してもらおう」
そう少女が説明を受けている隣で、少年は起こされるまもなく目を覚ました。
「やあ目が覚めたみたいだね」
「ここは……?」
「ここはカルデアだよ、まあ詳しい説明はまた後でしよう。今はひとます所長を優先したい」
「あっそうだよ! 所長さんの体はどこですか!?」
「残念だけど肉体はほとんど残っていなかったんだ、なんとか所長の物と思われる肉片は確保してあるけれど……」
「じゃあそれを急いで持ってきてください! カチンカチンライトは5分しか効果がないんです!」
「5分? いや今はいいや、所長の肉片はもうここに持ってきているよ」
そういって、ドクターと呼ばれた男はバケツに入った血肉の集まりを少年に差し出した。
「うっ……」
その生々しい物体に少年は思わず吐き気を催した上に気が飛んでしまいそうになったが、なんとか堪えると、ポケットから一つの道具を取り出した。
「タイム風呂敷!」
少年が取り出した布切れをバケツに被せると、風呂敷の中で何かが膨らむように蠢いた。
「なんだこれ、いったい何が起こっているんだ!?」
ドクターが不思議な物を見るような目でその様子を見ていると、いつの間にか風呂敷の中の動きは収まった。それを確認した少年が風呂敷をどけると、そこには血肉はなく、一人の人間の肉体が存在していた。
「これは!? 間違いなく所長だ! こんなのはもうほとんど魔法の域だぞ!?」
「えっとドクターさん? 所長さんはどこですか?」
「あ、ああうん、君たちと一緒に帰ってきた所長なら君の後ろにいるよ」
少年が後ろを振り返るとそこには確かに所長がいた。ただ帰還する前と変わらず虚ろな視線はどこも捉えていなかった。
「よし、いれかえロープ!」
少年はまたもポケットから道具を取り出した。今度は何やら紐状の物であった。
「ドクターさん、これを所長さんの体の手に握らせてください」
「ああ、わかった、もう何が起こっても驚けそうにないぞ」
ドクターがロープの方端を所長の肉体の手に握らせ、少年はもう方端を一緒に帰ってきた所長らしき物の手にくくりつけた。すると途端に魂であった所長がロープを伝って肉体に吸い込まれるように消えていった。
「やった! うまくいったぞ!」
「ん……ここは……?」
「所長! よかった気が付いた!」
所長の肉体に確かに魂の灯が宿った。
「ありがとう名も知れぬ英霊、所長はまだ意識がはっきりしていないみたいだから、代わりに僕がカルデアを代表してお礼を」
「そんな照れるなあ」
「謙遜することはない、君が行った行為は奇跡にも等しい。それと名前を教えて欲しい、いつまでも名の知れぬ英霊じゃあ格好がつかないからね。見たところアメリカ西部開拓時代のガンマン風だから、もしかしたらかの有名なビリーザキッドかな?」
「いやあ、ビリーザキッドなんて言われるとますます照れちゃうなあ。僕はノビータってことになってるけど、本当は野比のび太っていうんだ」
「ノビータだって! 実在していたのか! それにその本名からするともしかして東洋人かな? これは歴史的大発見だぞ、かの伝説のガンマンが実在していて、しかもあの時代ではほぼ在り得ない東洋人だったなんて!」
その存在は御伽噺とされていた。だが伝説が事実だった。
「ノビータ! やっぱりあなたがノビータなんだ!」
「マスターは僕の事を知ってるの?」
「もちろん! 私のひいおばあちゃんからとおじいちゃんのお母さんから何度も話を聞いたもの!」
海を越えて、時代を超えて、過去の伝説が今再び蘇った。少年は決して力強くない、頭だってそれほどよくない、運動だって苦手、それに臆病、だけど銃の腕前は宇宙一、そして他人を思いやれる優しさととびっきりの勇気を持っている。
これから彼らは、とても大変な困難に挑んでいくことになる。だけどきっと彼らが負けることはない。正しき優しさが、世界を救うことになるだろう。これはその道程のはんの始まりに過ぎない、ただのプロローグだ。
勢いで書いたけど秘密道具解禁すると作者の手に負えなくなる。
続くかは未定