「優真優真ー。……はい、あーん」
「ふぁて、ふぁて(待って、待って)」
「んー?どうしたの?」
「……………ちょっとまってて飲み込めなくなるから」
静かな新幹線の車内の中で俺たちは朝買ったパンを食べていた。……え?なんでお前がそんな所にいるのかって?それは……
「もう、ゆっくり食べなよ?危ないから」
「なら無理やり口に入れて来るな」
「あー、それはごめんごめん。それにしても早く着かないかなぁー京都」
「焦っても仕方ないしな。ゆっくり行こうぜ」
そう俺と曜は二人で京都に旅行に行くのだ。
そもそもこの旅行は東京に上京してすぐにやった抽選で俺が京都二泊三日の旅行券を当てたところから始まる。あれから気が付けば4ヶ月経っていて月日が流れるのは早いものだ。というか
「どうしたの?優真?」
「なんでも無い」
「いつもそればっか」
曜はムスッと頬を膨らませて言ってくる。
「そう怒るなって、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」
「誰のせいでこうなったと思ってるの?」
「俺のせいか?」
「そうだよ!」
「それは悪かったな。ほれ、サンドイッチだ。これで許して」
「……あーん、してくれないと許さない」
「そんなのお安い御用さ、……ほれっ」
「あーん。……んー、美味しい」
「そりゃ、良かった」
「優真とは小さい頃から一緒にいるけど初めてだよね。こうして二人だけでどっかに行くのって」
「言われてみれば確かにな。誰かしらいたもんな」
「今回の旅行は優真にたっぷり甘えながら行くもんね」
「おう、ばっちこい!」
俺達がそんな話をしていると目的地に着いた。
「着いたー!」
やって来たのは知る人ぞ知る清水寺。清水の舞台でも有名な場所。
「曜、俺から離れるなよ?正直この人混みの中で探すのはちと辛い」
「人多いからねぇ。外国人観光客も多いし」
「俺英語出来ないから」
「知ってるよ。中学の時私が教えたもん。英語」
「その節はお世話になりました」
曜の言う通り、俺は英語ができない。高校受験の時に曜に家庭教師をやってもらったこともあるくらい。
「でも大丈夫だよ。こうして……」
曜はそう言うと俺の横に来て俺の左手に自分の右手を絡ませた。
「手を繋いでいれば!」
曜は笑顔で言った。なんだかんだでこの手を繋ぐことにも抵抗が無くなってきた。いや、最初からあんまり抵抗があった訳では無いけど、手を繋いだらそれこそ恋人同士に見えてしまって曜に申し訳ないと気持ちが出てきたり。
「むすぅ~」
しばらく考え事をしていると曜が頬を膨らませてこちらを見ている。どうやら俺が苦い顔していたから手を繋ぐのが嫌だと勘違いしているらしい。というかむすぅっていう人がいるのか。可愛い。
「違う違う。ちょっと昔のこと思い出してただけだから」
「昔のことって?」
曜は首を傾げてこちらに問いかける。
「何でもないさ。そんなことより早く行こうぜ!」
「ちょ、ちょっと……」
俺は曜の手をしっかり握って歩き出す。
「そろそろホテルにチェックインいないとね」
気がつくと辺りは暗く、昼間の暑さは無くなっていた。
「そうだな。んじゃ、行くか」
「ヨーソロー!!」
曜は笑顔で敬礼しながら言った。
「ねぇ、優真。卓球やらない?」
「俺は別に構わないが……」
旅館に着き、荷物を置いて曜が発した一言目がこれだ。
「ふふん、じゃあ行こー」
曜は不敵な笑みを浮かべ俺の手を引っ張る。曜のやつ何か考えてるな。
「優真優真!」
「はいはい、なんだ?」
「山手線ゲームしながら卓球やらない?」
「は?山手線ゲームしながら?」
山手線ゲーム。別名古今東西ゲームとも言う。それはひとつお題を決めて、そのお題に沿った単語いうというシンプルかつ多人数でも楽しめるゲーム。そうだな、例えばお題が都道府県だったら東京都!とか京都府!とか都道府県を言えばいいのだ。もし横浜県など存在しないもの又は一度言ったもの言ってしまったら負けになる。というか都道府県じゃすぐ終わっちまうじゃねーか。
「別にいいが、難しくないか?」
「この曜ちゃんにとっては楽勝だよ!」
「そうかい。お題は?」
「う~ん。そうだな。…………あ、じゃあ、調味料!」
「よし、分かった。こい!」
俺と曜はお互いに向き合う。
「よぉーし、行くよ、優真」
「おう、こい!」
「古今東西調味料~!」
そう言うと曜はピンポン球を真上に投げ、こちらに玉を返してくる。
「醤油!」
「塩!」
俺は曜が打った球を打ち返す。曜の一撃が結構強烈。
「砂糖!」
「味醂!」
「酢!」
「味噌!」
「マヨネーズ!」
「えっと…………あっ!」
しばらく続いたゲームの決着は突然来た。
「やたー、私の勝ちー」
「悔しい。卓球やりながらだと頭が回らないんだよなぁ」
「ねぇねぇ優真。別のお題でやろう!」
「ああ、いいぞ!次は負けねぇからな」
「次も私が勝つもんっ!」
こうして2戦目が始まった。
「やたー、また私の勝ち!」
「な、なぜ。なぜ勝てない」
あれからもう4、5戦したが俺が勝つことは一度もなかった。勝負したうちの一戦は俺の卓球のミスだったが残りは全てお題に対する単語が出てこなかった。
「この曜ちゃんに勝とうなど百年早いのだ!」
曜は手を腰に当てて満面の笑みでこちらを見てくる。
「ちくしょう。何としてでも一度勝ちたい」
「優真。最後に一戦やろ!」
「おう、いいぞ!」
「で、勝った方は負けた方にジュースを買う!」
「まぁ、そのぐらいならいいぞ。ただし……」
「ただし?」
「お題は俺が決めるぞ?」
「うんっ!いいよ。何が来ても優真には勝てる気がする」
「言ったな?最後は俺が勝つからな!」
「じゃあ、私に勝ったらご褒美あげる。それでお題は?」
「お題は…………お互いの好きな所で行こう!」
俺は曜の目をしっかり見て言う。これなら確実に勝てる自信があった。
「お、お互いの好きなところ!?」
「どうした曜?何が来ても俺に勝てるんじゃないのか?」
「で、でも少し恥ずかしいっていうか……」
「そっかそっか曜は棄権か。なら俺の勝ちで……」
「やる!」
恋人同士になってもこの関係は変わらない。お互い幼馴染だからだろうか。ある程度の冗談も通用する。
「じゃあ、始めるぞー」
「うん、いいよ」
「古今東西お互いの好きな所…………ほい、笑顔!」
「え、えっと……や、優しい所!」
「朝起こしてくれる所!」
「ええ!?えっと……頼りになる所!」
朝起こしてくる所は頼りになる所という解釈の仕方があるかもしれないがここはスルー。肝心の曜は言う度に顔を真っ赤にしていく。これなら勝てる。
「寝顔が可愛い所!」
「ね、寝顔!?えっと…………お、面白い所!」
「元気な所!」
「えっとえっと……」
曜の顔は今にもプシューと音を立てそうな感じです。とても可愛いです。これが見たかった。
「えっと……あっ!」
曜は球を返したが単語を返していないため負けである。
「しゃー、俺の勝ち!」
「うぅ、恥ずかしいよぅ」
俺は曜の頭に手を乗せてゆっくり撫でる。すると曜は顔を真っ赤にしながらでも嬉しそうに目を細める。
「さ、部屋に戻って飯にしようぜ!」
「う、うん。でもその前に飲み物買ったげる」
「サンキュー」
こうして俺たちは部屋に戻った。
「なぁー曜」
「どうしたの?」
「花火。やるか?」
「うん。やるやる」
俺たちは外のちょっとした広場に向かい、花火を開けた。そんな数はないからすぐに終わっちゃうけど。
「ねぇねぇ優真!」
「大丈夫大丈夫見てるから」
「なんか久しぶりだね。優真と一緒に花火するの」
「そうだな。二人っきりは相当久しぶりかも」
「だよねだよね。ねぇ、優真」
「ん?どした?」
「寄りかかってもいい?」
「花火は?」
「もう終わったよ」
「いつの間に」
「もうっ!でもそうゆう所も好き!」
「なんか恥ずかしいな。改めて言われると」
「さっきの卓球のお返し」
「怒ってる?」
「ううん。恥ずかしかったけどお互いの好きな所が再確認出来たからね」
「顔を真っ赤にしてる曜は何度観ても飽きない」
「もうっ!意地悪っ!」
曜は俺の体を揺さぶる。
「もうっ、ご褒美はお預けね」
「え?嘘だろ。ごめんごめん。曜って!」
曜は俺の手を引っ張りながら旅館に戻るのであった。
古今東西ゲームってやったことないのよね俺。ついでにネット型スポーツは基本できない人間なのでこんなのは理想中の理想です。次回がいつになるか分かりませんがよろしくお願いします。