「あれからみんな少しずつ変わったんだね」
「そりゃあんなに時が経てばな...」
犬夜叉はかごめの横顔を見ながら答える。かごめがこの世に戻ってきて1週間になる。
「そういえばかごめ、もうこの世になれたか?随分あっちの世界にいたから鈍ってただろ」
奈落との戦いを終え、かごめを元の世に返した瞬間骨喰いの井戸が閉じた。一生会えないかと思った。しかし2年後、再び井戸から帰ってきたかごめ。奇跡に思えた。
「そうね...でもだいぶ慣れたわよ!みんなサポートしてくれたし!」
「なんでぇ、サポートって」
「あ...手助けよ!珊瑚ちゃんや七宝ちゃん、楓ばあちゃんが色々教えてくれたから!」
「そうか...なら良かった」
と言いつつ、少しばかり苦労したのは内緒である。薬草の種類やこの村のしきたり、弓の扱い方などほぼ忘れている部分が多かった。
「あはは、それにしてもあの戦の毎日が嘘みたいね....」
犬夜叉、かごめともに平和な世の中で一緒に暮らせることを喜んでいた。
「帰ろうぜ、そろそろ日が暮れる」
「うん!」
その夜。
「すごいわよねぇ、弥勒様と珊瑚ちゃん!子ども3人も生まれて...子宝に恵まれてるわね」
「いつも俺はあの子どものおもちゃになってるぞ」
「まあまあいいじゃない、襲われるわけでもないし(笑」
「けっまあそうだけどよ...」
そんなたわいもない話をしている最中にも、犬夜叉は悩み続けていた。
《俺とかごめは子を作っていいんだろうか?》
犬夜叉は半妖。当然、子どものころ受けてきた差別やいじめ、そして母への他者からの冒涜は今でも心に焼き付いている。
《かごめと子を作れば...子とかごめがいじめられる...》
そんな思いが犬夜叉の心にあった。
《いや、そんな奴俺がぶっ殺してやる。...いや、人間を傷めつけると逆にかごめが悲しむか...》
そんなことをかごめが帰ってきてからずっと考えていた。
「犬夜叉?」
「んお!?なんだ?」
「いや、なんかボーッとしてたからどうしたのかなって」
「い、いや何でもねぇ!ほら寝るぞ!」
「えっ早くない!?」
「うるせぇ!ほら、布団に入れ!」
こうして1日が終わる。正直、考えて1日が終わる感覚はもううんざりだった。
翌日。
「おい、弥勒」
「おや犬夜叉、今日は遅いですね」
いつもは朝早い犬夜叉だが、今日は昼に外を出た。
「どうしたのです、こんな昼間に出てくるなんて」
「うるせぇ、昨日の夜考え事してたら起きるのが遅くなっちまったんだよ!」
「考え事...?」
「うっ...まあ、弥勒には相談していいか...」
「どうしたのです、まあ向こうの河原にでも行って話しましょう」
そうして弥勒と河原へ向かった同時刻。かごめと珊瑚。
「ねぇ珊瑚ちゃん。相談、いいかな...?」
「...? 珍しいね、どうしたんだい?」
ほぼ同じ時刻。二人は全く同じ質問をしていた。