魔法先生ネギま! 白面ノ皇帝(ハクメンノオウ)   作:ZERO(ゼロ)

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No.06:光ある場所へのTurning point

「ちったあ気は済んだか?」

「……ああ、みっともない所を見せたな」

 

大橋の上までエヴァンジェリンを背負って登りきったサイ。

そして心の許す限り今迄の分の涙を流し終わったエヴァンジェリン。

彼女の心は今迄の殺し合いをしている時とはうって変わり、何処と無く清々しさのようなものも感じていた。

まあその表情が軟らかくなった様に見える所を考えればスッキリしたのだろう。

 

「そっか、んじゃあもう大丈夫だな、お~い茶々丸、投げっぞ~~~しっかり受け取れよ~~~」

「はっ? ちょ、お前、何する心算だ!?」

「了解しました、サイさん」

 

何をするのか解らないらしいエヴァンジェリンは胸倉をいきなり掴まれて慌てる。

一方、茶々丸はサイが何をしようとしているのか理解出来たのか慌てずにサイの居る方を向いていた。

そして次の瞬間―――サイが思いっきりエヴァンジェリンをぶん投げた。

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!?」

 

そのままキャッチボールのように茶々丸の手にすっぽりと入るエヴァンジェリン。

いきなりのサイの行動にエヴァンジェリンは涙ぐんで怒鳴った。

 

「ば、馬鹿者がぁぁぁ!! 貴様どう言う心算だ!? 落としたらどうする心算だこの大馬鹿がぁぁぁぁ!!!!」

 

だがそんな言葉にサイは悪戯小僧のような笑顔を浮かべて返す。

 

「んじゃな、また楽しく喧嘩しようぜ。

もう俺とテメェはダチなんだから余計な遠慮は無用だ、次は身代わりとか何とかじゃなくて心行くまで楽しくな」

 

そう、サイにとっては殺し合いなどではない。

これは気に入った奴と心行くまで本音で語り合える喧嘩であり、彼にとってはこの死闘も喧嘩に過ぎなかった。

それは言うなればつまり喧嘩が終われば後はもう憎み合う事も無いと言う事である―――本当にどこまでも変わっている少年だ。

サイの走り去っていく後姿を見ながらエヴァンジェリンは小さく誰に聞かせるでもなく呟く。

 

「ふっ、本当に風のような奴だ。

光明司斉、こんな私でもやり直す事は出来るのだな……お前はそう教えてくれたな?

ならば私も……少しだけ前を向いてみようと思う」

 

小さな呟きだったが、高性能なガイノイドである茶々丸の耳には届いていた。

それを知ってか、それとも知らずか―――最後の方はエヴァンジェリンは心の中で呟く。

 

「(ナギ……お前は私に光をくれ、そしてその光を奪った。

お前を愛していた事は嘘偽りの無い事実だったからこそ、お前が死んだと聞かされた時から私は後ろを向いたままで立ち止まっていた。

だが奴の、サイのお陰で私はもう一度吹っ切って前に進みだす事が出来そうな気がするよ……全く、気の多い女だとお前には笑われるかもしれんがな。

だから此処で私は、過去の己と決別して生きようと思う―――私は前へ向かって進みだそう)」

 

清々しく、吹っ切れた表情のエヴァンジェリン。

その主の表情を茶々丸は何処と無く不思議そうに、そして何処と無く嬉しそうに見つめていた。

 

―――さて、一方サイはと言うと。

実は本来なら外に出てはいけなかったのだが、エヴァとの決闘の為であり約束であった為に後先など考えずに抜け出してしまった。

内心、シャークティとの約束を違えてしまった事に深く溜息をついていたのだ―――と言っても、自分で選んだ事なのだから別に後悔も何もしないのだが。

 

「(はあ……またシャークティ達との約束を破っちまった。

多分停電も終わってるし、帰って来てるんだろうな……また心配かけちまったぜ)」

 

誰よりも自由を愛し、誰よりも思うがままに生きる事が己の生き方であるサイ。

しかし同時に世話になった人への義理を欠くと言う事が好きではなかった―――意外と言えば意外だが。

特にシャークティやら美空やらココネやらは過去の記憶が無い自分にとっては家族のような存在だ。

そんな彼女に再び心配をかけてしまった事がサイにとっては重く圧し掛かっていたのである。

 

そして彼の予感は的中した。

何と教会の入り口の前にシャークティが立っていたのだから。

 

「……シャークティ」

「お帰りなさい、サイさん」

 

表情は怒っている訳でも悲しんでいる訳でもなく、何処となく困惑しているようにも見えなくも無い。

そんな複雑そうな表情にサイが疑問を持っていると、ふとシャークティの後ろに他の誰かが立っていると言う事に気が付いた。

 

「……ん? 誰だテメェ等は?」

 

一人は眼鏡を掛け無精髭で煙草を吸っている人物―――タカミチ・T・高畑。

そしてもう一人は明らかに人間の骨格をしていない人物。

 

「てか何? もしかして宇宙人か新種のエイリアンか何かか?」

「……わしは人類じゃ」

 

そう、麻帆良のぬらりひょんこと近衛近右衛門学園長先生であった。

学園長の言葉にサイは教会に引き取られて今迄の中で一番驚いて叫び声を上げる。

 

「嘘だ、出鱈目だ!! テメェみてぇ口の中にもう一つ頭があるような外見のUMA(未確認生物)が人間の訳無ぇ!!」

「タカミチ君、シスターシャクティ―――わし泣いても良いかのぅ?」

 

床にのの字を書きながらいじけ始める宇宙人、もとい学園長。

このままでは埒が明かないと思ったのか早速シャークティが本題を切り出した。

 

「サイさん、此方がこの学園都市と呼ばれる麻帆良の責任者である学園長で、そして此方のこの学園の教員の一人の高畑先生です。

そして今まで黙っていて申し訳ありません……我々は魔法使いです」

 

「あっ? 何だ、シャークティもあのガキと同じ魔法使いだったのか?」

 

サイは冷静に言い返してはいるが内心は驚いていた。

まさかあんな不思議な力を持つ者が自分の近く、しかも家族のように思っている人がそうだとは夢にも思わなかったのだから。

その問いにゆっくりとシャークティは頷いてから言葉を続ける。

 

「はい、それにココネと美空もまた魔法使いです。

御免なさい、魔法使いの存在と言うものは公にする事は例え家族同然の人にでも出来ません。

それを知ってしまったら本来は記憶を消さなければならないのです」

 

其処で一度言葉を切ると一息吐く。

困惑のような感情もあるのだろうか、ゆっくりと再び続きを語りだした。

 

「この学園にいる魔法使いや、魔法使いの争いは全て此方で把握しています。

―――ですから先程のエヴァンジェリンと貴方の戦いも悪いとは思いましたが一部始終見ていました」

 

「ああ、道理でな……あれ見られてたのか。

どっかからか視線は感じると思ってたけどさ、まさか見られてたなんて思わなかったぜ。

見られてるって解ってりゃあんなクサい事は言う心算もなかったけどな、あ~恥ずかし」

 

ばつが悪かったのだろうかそんな事を呟くサイ。

いやその態度は実際、己の思い出してしまった事を伝える方法を模索しているかのようにも見える。

見られて居たと言う事はイコール、自らが人ではない姿となった事も見られていたと言う事なのだから。

そんな彼の心境が解ったのだろうかシャークティは優しく言葉をかける。

 

「サイさんの事は短い間ですが一緒に暮らして信頼出来る人だと私は思っています。

貴方がたとえ誰であれ、何であれ、私は貴方の事を信じます……だから、教えて貰えませんか?

何故魔法使いでない貴方が魔法を知っているのかや、貴方が思い出した事を」

 

どう説明していいのか迷うサイ。

確かに完全ではないが幾つかの事は一度死にかけた事によって思い出した事は事実である。

身の上の生まれがこの世界の人間ではない事、自らの正体、力の秘密など断片的ではあるが。

 

しかし実に突拍子の無い事であり、更に全ての記憶が戻った訳ではないのだ。

だがそんな風に迷うサイに煙草を吸い終わったタカミチが語りかける、何故か一瞬だけサイの顔を見て怪訝そうな表情をしていたようだが、直ぐに目頭を押さえて軽く首を振った後に口を開く。

 

「僕にも聞かせて貰えないかな?

先程の戦いやエヴァとの言葉は全て見たし、聞かせて貰ったよ。

それで君は口は悪いが真っ直ぐな人物だと言う事も理解出来た―――それにエヴァを助けてくれた君を不審者だなんて思っていない。

下手をすれば自分の命も危ないかもしれない状況で迷う事無く飛び出して彼女を助けた姿は信頼に値するからね」

 

更に学園長も髭を撫でながらサイに言葉をかける。

 

「わしもタカミチ君と同意見じゃ。

それに君は、わし達が知る由も無かったエヴァの心の壁に正面からぶつかって見事に破壊してしもうた。

エヴァがあれ程悩み苦しんでいた事にわし達は気付かなんだ……友人である彼女を救ってくれた事に感謝しておる。

故にどのような話であれ、わしは君を信じよう」

 

そんな三人の言葉にサイは小さく溜息を吐きつつ答えた。

 

「解った解った、良いよ、他でもないシャークティの頼みだしな。

ただし俺はまだ完全に記憶が戻った訳じゃねぇから思い出した事だけしか話せねぇし、碌でもねぇような話も多分出るぞ。

それに今更記憶を消すとか頭ん中を覗くとかは止めてくれ、アンタ等にはアンタ等の事情があるんだろうが……今のこの時を忘れるのは納得出来ねぇし、勝手に人の頭の中を覗かれるのは気に食わねぇからな。

余計な事は聞かねぇ調べねぇ、それでも良いなら教えてやるよ」

 

揃って頷く三人、そうして教会の中で話を聞く事となる。

だがそこに思いもしない人物が居る事を4人は気付いていなかった。

 

それは裸状態になってしまった為にサイから上着を借りていたエヴァンジェリンとその従者の茶々丸だ。

教会に上着を返しに来ただけだったのだが学園長達の姿を見つけ、気付かれ難い所で様子を見ていた。

 

 

 

 

「さて、取り敢えず思い出せたのは俺自身の事だけだし、俺の事を語る事にするぜ。

まず最初に断っとくが俺は人間じゃねぇ、それとこんな姿(ナリ)してっけど外見よりは長く生きてるぜ」

 

礼拝堂に入って開口一番の言葉はその言葉だった。

確かに時々サイが見せていた遠い目は同年代の者達が簡単に醸し出せるようなものでは無かった為、年齢云々については納得出来る。

しかし例え全身が傷だらけの人物であっても、どう見ても人間にしか見えないが。

 

「フォ? 人間ではないじゃと? おぬしは何処からどう見ても人間にしか見えぬが?」

 

「まあ正確に言えば“半分人間”だ。

俺は“魂獣(スピリッツ)”って呼ばれる存在と人間との間に生まれたハーフなんだよ。

魂獣ってのは多分、現世で伝わってる“精霊”とか“妖怪”とかってのと同じ様な存在の事だ……ただし魂そのものの存在みたいなものだから力の強さなんかはそれ以上だろうけど。

後、おまけに言っとけば俺の実年齢は多分アンタ等を裕に越えてると思うぜ」

 

説明を受けても意味が解らないし、あえて流さざる言葉もあった。

それはそうだろう、精霊やら妖怪やらを超える存在など本来殆ど存在しないのだから。

しかし三人の疑問を他所にサイは淡々と続けていく。

 

「魂獣ってのにはそれぞれ人間の種族と同じで大体10の種族に分かれてる。

俺はその中でも力の強い事と数が少ないと言う事で“超希少種族”って呼ばれてた『白面九尾一族』の長の子さ」

 

その時、一瞬耳を疑うようなフレーズが出てきた。

確認の為にタカミチがもう一度サイに尋ねる。

 

「あ、え~と。 悪いんだけどもう一度教えてくれないかい? 光明司君、今君は何一族って言ったかな?」

「いやだから『白面九尾一族』だ……何だその表情は、俺なんかそんな面される事言ったか?」

 

聞き返したフレーズに皆驚く。

当然だ、サイはあまり知らないかもしれないが『白面九尾』とは知らぬ者の方が少ない伝説の大妖怪だ。

まさかそんな大妖怪の名を冠する一族の長の子だとは思って居なかったのだろう。

そんな三人の心境はお構い無しに更に話を続ける。

 

「まあ良いや……んで、元々俺は魂獣界にいた筈なんだがどう言う訳か地上界に落ちちまってね。

その時の衝撃で記憶を失っちまったんだと思うんだが、それ以外は良く解んねぇ」

 

実にざっくりとした説明だ。

だが実際にサイが思い出せたのは己が魂獣と人間のハーフであると言う事。

サイは外見年齢よりも遥かに長く生きていると言う事。(厳密には何歳かは不明だが恐らく学園長達よりは上)

そして種族の数と一族の名が『白面九尾一族』だと言う事と、種族特有の能力だけであるのだから仕方が無いのだが。

 

「フムム―――2、3の質問は構わんかね?」

「良いぜじいさん、解る限りの事ならな」

 

快く返すサイに学園長は礼を言いながら質問を飛ばす。

 

「まず一つ、魂獣とは一体何じゃ?

先程ざっくりと精霊や妖怪などと同じようなものと言っておったが、そのような存在はわしも長く生きておるが聞いた事が無い」

 

「説明が面倒臭ぇが簡単に説明すりゃあ神具の核である魂石に宿る精霊だな。

基本的に火の玉とか不定形な形してる奴とか多いけどレベルが高くなる程に個性的な外見になるんだ、しかも一人たりとも同じ個体はいねぇ。

それと魂獣には抑制状態(セーブモード)と解放状態(バーストモード)っつうのがある……抑制状態ってのは本来の力を抑制された仮の姿、解放状態ってのが力を完全に解放した真の姿の事さ。

ちなみに俺のこの状態は抑制状態で、さっきの戦ってる時の身長が伸びてた姿が解放状態だ。

俺の場合は人間の血も半分流れてるから抑制状態でもそれなりに戦えるがよ」

 

聞き覚えのある名称を聞いた学園長は続いての質問を飛ばす。

 

「二つ目じゃが、神具とは何じゃね? わし等魔法使いにも同名のアイテムは存在するが」

「ああ、そりゃ実際に見せた方が早ぇ―――出でよ、七魂剣スサノオ!!」

 

掛け声とともにサイの手に七魂剣が握られる。

それを学園長に手渡すとその力の濃度の高さや強さに驚いていた。

 

「これが神具。

じいさんが言ってるのがどう言うのか知らねぇけど、俺らのは所謂“肉体の一部”って言っても過言じゃねぇよ。

魂獣職人が自分の魂石を削って、そこに使う奴の魂石をはめ込んで使用する代物だ」

 

「これは……何と言う強大な力を感じる物じゃ。

成る程、神具の名は伊達ではないと言う事じゃな―――済まぬのぅ、返すぞい」

 

学園長から七魂剣を返して貰いまるで手品のように消し去る。

そこから更に学園長の質問が来た。

 

「では最後に魂獣界とは?」

 

「俺達魂獣の元々住んでる世界さ。

人間の住む地上界とは異なる次元に存在する、地上の物理法則ってのが一切通用しない不可思議な事象が数多く存在する世界。

住人は全部で7種族……いや新種族二つと古代種族が見つかったから全部で10か、その十の属性に大別されてる事から別名『十天(十の天下)』なんて今は呼ばれてる。

大分小競り合いなんかが多かったけど、風景だの何だのは良かったと思うぜ―――記憶が完全じゃねぇから良く解んねぇけど」

 

もう一言付け加えそうになるが、サイは上手い具合に誤魔化した。

魂獣界の昔を此処で語れば多分、いや間違いなくシャークティはショックを受けるだろうから。

聞かれれば今は違うので答えても問題はなかったが、あえて此処で自分の話に耳を傾けている者達を嫌な気分にする必要もあるまい。

そしてそんなサイの様子を何となく理解したのか、学園長達から敢えてこれ以上の事を聞こうとするような事はなかった。

 

「ふむ、成る程のぅ―――信憑性は少し微妙じゃが、先程の神具のような存在は此方には存在せん。

うむ良かろう、お主の言葉を信じよう」

 

学園長の一言に難しい表情で聞いていたシャークティとタカミチも苦笑して頷く。

そこから直ぐに学園長が真面目な表情でサイに尋ねる。

 

「さて、ところでじゃがの光明司君。 聞いておきたいのじゃが、お主これからどうする心算じゃ?」

「サイで良いぜじいさん、苗字で呼ばれるとケツが痒くて仕方ねぇ……如何するってのは何が?」

 

聞き返すサイに学園長はゆっくりと呟いた。

 

「お主は記憶も戻らんし元の世界に帰る方法も無いのじゃろう?

未だにこの世界にいるのじゃから……で、これからどう身の振り方をする心算じゃね?」

 

そこでサイは腕を組んで考える。

考えても見れば教会に住んで記憶を取り戻すという事以外になんら目的は無い。

 

「別に特に考えてねぇなぁ。

このままシャークティの教会の手伝いでもしながら記憶を取り戻せば良いと思ってたし、別に目的もねぇし。

まあ良いんじゃねぇの、風の吹くまま気の向くままでさ」

 

「お主、見た目と違って大分爺臭いのぅ。

フム……ではものは相談なのじゃが、わしに良い考えがあるのじゃが聞いてくれんかね?」

 

実に嫌な予感がする、特にシャークティやタカミチはこの学園長の性格を知っている。

そこそこに実力があり、どこかに所属していないと言えば恰好のターゲットだった。

 

「お主、実年齢は何歳か解らないのは別としても見た目には小学生か中学一年生位にしか見えん。

そこでわしが学園長を勤める麻帆良学園の中等部に編入するというのはどうじゃね?

記憶の戻らない現時点では多くの知識やら何やらを得る格好の場所じゃと思うのじゃが」

 

シャークティとタカミチが想像した嫌な予感は的中した。

このジジイ、どうやら正体不明のサイを自らの学園に通わせる心算だ。

一方、サイはその申し出にどうやら多少興味が惹かれたらしい。

 

「ふ~ん、学校ねぇ……良いぜ、その麻帆良学園の中等部だっけか?

どうせやる事もないし、じいさんがそう勧めるなら信じて貰ったお返しにその提案に乗ってやるよ」

 

シャークティやタカミチが止めようとするのを気にせずに即答するサイ。

本当に何も考えない小僧である―――とは言っても、義理堅い昔気質の漢のタイプのようだが。

 

「フォッフォッフォッ、そうかそうか、では早速……『ああ、でも条件があるぜ』……フォッ? 条件とな?」

 

サイの即答に上機嫌で準備をしようとする学園長。

だがそんな学園長にサイが出した条件は結構なものであった。

 

「ああ、まず最初にこれだけ言っとく。

俺は束縛されるのが嫌いでね、例えアンタの勤める学校ってのに行っても命令されても俺は何もやらねぇぜ。

元々、誰かの下に付いて命令されるなんてのは大っ嫌ぇだからよ……好きにやらせてもらうってのが条件の一つだ」

 

更に続けて彼は“魔法使い”の存在の根底を覆すような事を言う。

 

「それに俺は正義の味方じゃねぇ。

生きたい様に生きる自由が俺の性分だ、助けたいと思った奴にはルールだって無視する。

アンタ等が気に入らねぇ事だってやるだろうし、それに他人からなんと言われようが俺は自分の生き方を曲げる心算もねぇ。

まあそれでも良いってんなら好きにしろよ」

 

「むむむ……し、しかしその条件はお主が損をする可能性だって在るのじゃぞ? それでもお主は良いのか?」

 

正直迷いながらそう言う学園長。

実際の所、学園長がサイを中等部に入れようとしている事には理由がある。

実は己の大切な孫娘が居るクラスには良くも悪くも個性派な生徒達が揃っている……そして件(くだん)の子供先生が担当するクラスもそこなのだ。

そういった状況で彼のような人物が居れば、嫌な言い方だが“利用する”事は出来る。

口の悪さに似合わず面倒見が良さそうな少年故だ。

 

だが、そんな聞き方によっては脅しとも取れるような発言に対してもサイは表情も変えずに答える。

何も考えていないと言うのは訂正する、彼は彼なりに考えて答えを出しているのだ―――それが例えどんな理由であれ。

 

「はっ、関係ないね。

それに俺はそんな勝手な事を言ってるんだ、それによって生じるリスクから逃げる心算なんてねぇよ」

 

そう、サイはそう言う人物なのだ。

自由に生きると言う事の良い部分も悪い部分も良く知っている。

そしてそう言った言い訳をしない生き方をするからこそ、エヴァのように凍りついた心を持っていた人物にも言葉が響いたのだから。

サイのそんな部分を改めて理解した学園長は深く頷いて言う。

 

「ふぅ……まあ良いじゃろう。

成る程の、お主のその何処までも真っ直ぐな瞳の意味が良く解ったわい……ほかに何か条件はあるかの?」

 

「そんじゃあ寝泊りは教会(ここ)でさせてくれ―――まあ、シャークティが迷惑だってんならの話だけどよ」

 

サイの言葉に今まで黙っていたシャークティは小さく首を横に振る。

 

「迷惑だなんて思いません。

短い間でしたがサイさんは私にとって家族のような風に感じています。

学園長がお許しになるなら、サイさんは此処から通わせてあげてくださいませんか?」

 

「ふむ、良いじゃろ。

元々寮の方は部屋が一つも空いていない故、何処に住んで貰うか迷っていた所じゃ。

……その代わりにわしからも一つだけ頼みたい事があるのじゃが」

 

サイは学園長の方を向く。

学園長の眼差しは何処までも真面目なものだ。

 

「……頼みによるな」

 

「何、君の考え方を否定するようなものではない。

ただ君の編入するクラスの中にわしの大事な孫娘が居る……その子を影ながら護ってやって欲しい。

勿論、君の出来る範囲で良いからのぅ」

 

頭を下げる学園長。

サイはそれを見ながら一言だけ返した。

男が頭を下げるという事がどういう事か解っていたが故に。

 

「―――良いぜ、出来る範囲で良いならな」

 

そしてその言葉を最後に学園長とタカミチは教会を出て行く。

こうしてバトルや暴露話などで彩られた長かった一日の幕は静かに下りたのであった―――

 

 

 

 

「や~れやれ、昨日は良く寝たな。

色々な事があった分、爆睡出来たぜ……一応、大手を振ってこれからは外に出れるしよ」

 

首を鳴らしながら教会の前で伸びをしているサイ。

今日からはある程度自由に外に出る事が出来る―――自由への抑圧を好まないサイにとってはこんなに嬉しい事はない。

今までの教会での生活に文句があった訳でもないが、やはり彼は風と言う存在(自由)の体現者なのだ。

そんな時、ふと後ろから知っている二つの気配を感じた。

 

「よう、がきんちょに茶々丸。 こんな朝から何だ、喧嘩の再戦要求か?」

 

それは茶々丸と妙にスッキリしたような表情のエヴァンジェリンだった。

 

「違うわ、馬鹿たれが」

「おはようございます、サイさん」

 

そう言うと茶々丸はサイに手に持っていた物を渡す。

それは昨晩、エヴァンジェリンが一糸纏わぬ姿となってしまった故に貸したサイの上着だった。

 

「お~、何だ態々届けてくれたのか?

んな事しなくてもこっちから取りに行ったのによ……まあ礼は言っとくぜ、ありがとよ」

 

そのまま上着を纏うサイ。

良く見てみれば昨日の死闘の際に付いた傷などは一切合切消えていた。

別にエヴァンジェリンや茶々丸が縫った訳ではない、次の日には新品同様に戻っていたのだ。

 

「済まんな、本来は昨日返す心算だったのだが学園長のジジイやらタカミチやらが深刻そうな表情で居たので入って行けれんかった。

そこで悪いと思ったのだが聞かせて貰ったよ、貴様の生まれやら魂獣やら神具やらという話を」

 

それについてサイは何も言わない。

まあ別に聞かれた所で、目の前に居る人物は魔法使いなのだから問題など無いのだが。

少々の沈黙の後、エヴァンジェリンが口を開く。

 

「私は最初、勘違いをしていた。

何も解らん小僧が勝手な事を言っているだけだと……だが貴様はその生まれ故に同じように苦しんだのだな?」

 

サイは何も答えない。

実は他にも記憶を取り戻した事はあった―――しかしそれは、あの場で語れるような“良い話”ではない。

それを隠して話していた筈なのだがエヴァンジェリンは気付いたという事だろう。

更に彼女は言葉を続ける。

 

「昨日、貴様に言われた事を少し考えてみた。

そして気付いたよ、私は確かに貴様の言う通り逃げていただけだ。

裏切られる事を恐れ、失う事を恐れ、全ての存在を否定する事で自分を悲劇のヒロインのように演じていただけだ。

奴が、ナギがこの場所に私を置いていったのはそんな事の為ではないだろうに」

 

黙って聞いているサイ。

そんな彼を真っ直ぐ見ながらエヴァンジェリンは一息吐いてから言葉を続けた。

 

「光に生きてみろ―――

私は最初、その言葉の意味を“陽の当たる一般人達が居る世界”の事だと思っていた。

だからこそ血に塗れ、多くの命を奪い、薄汚れた私には生きる事の出来ない世界だとな。

だが本当の意味は違う、ナギは私にやり直せると伝えたかったのだな」

 

そう小さく呟くように、噛み締める様に言うエヴァンジェリン。

己の生き方を垣間見、そして何処までも真っ直ぐな少年の言葉を聞いてやっと解ったのだ。

光に生きるというのは光の差す場所だけではなく、己自身が輝く事(変わる事)なのだと。

 

「前を向いて生きろ、光は前からやって来る」

「……何?」

 

今まで黙っていたサイが口を開く。

その言葉はサイが忘れていた、今尚尊敬する父親が教えてくれた言葉。

 

「昔、記憶を失う前に面影も思い出せない親父に教えてもらった言葉だ。

目と言うのが前に何故付いているのか? それは前からやって来る光を見て、前へ前へと進む為だってな。

後悔して後ろを向いたって構わない、だけど前に進む事だけは決して止めるなとも言われた。

だから誰だって諦めなけりゃ、何時だってどんな事だってやり直す事が出来るって事さ。

腐って足を止めるか、それとも泥だらけになっても先に進むか、それで人が変われるか変われないかは決まってくる。

まあ結局人生ってのはよ、どれだけ前向いて進めるかって事じゃねぇかな」

 

ぶれる事のない生き方。

少なくともサイは人間と人外の合いの子……どちらにもつけず、どちらからも否定された人生を生きた。

数少ない理解者である親友は居たが、己の生まれを呪った事もある。

しかしそこから完全に曲がってしまわなかったのは、父のそんな言葉があったからだろう。

 

「……強いな貴様は」

「強くなんてねぇさ、ただ当たり前の事を言ってるだけだ」

 

しみじみとエヴァンジェリンはそう呟いた。

どんな現実であっても、どんなに辛い道を歩んでで来たとしても、全てを受け入れて真っ直ぐに前を向いて生きている。

ある意味サイの強さは魂獣と人間のハーフである事や何百年も生きていると言う事ではない、逃げないと言う事実そのものが彼の強さなのだろう。

そんなサイを見て、そして何かを決意したような目になると彼女は続きを語る。

 

「ならばサイ……わ、私の行く末を貴様が見届けろ」

「……あん? どう言う意味だそりゃ?」

 

思えば名で呼ばれたのは初めての事だろう。

エヴァンジェリンはほんの少しだけ頬を紅く染めてサイに言った。

己の考えた答えを、素直になった事があまりない為か恥ずかしがりながらだ。

 

「き、貴様の言葉で私は……前に進む事を決心した。

だ、だが私はお前のように強くも無いし、進み続けていればまた後ろを振り返ってしまうだろう。

だからこそ私を表の世界に引っ張り出した貴様が責任を持って……わ、私の進む先を見届けろと言ってるのだ!!」

 

照れ隠しの心算かサイの首元を掴んで激しく振りながら怒鳴る。

その言葉の意図を理解したか、それともしていないかは解らないが、サイは笑ってから納得した。

 

「良いぜガキ、テメェの願いは理解した。

お前の行くべき先は俺が見届けてやる、これから再び道をひん曲がりそうになったらブッ飛ばしてでも止めてやらぁ。

―――宜しく頼むぜ、これからな」

 

握った拳をエヴァンジェリンの方に向けるサイ。

意図が理解出来たのか、エヴァンジェリンも拳を握ってサイの拳とくっ付けた。

 

「ガキではない、これからは名で呼べ。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……前にも名乗ったがそれが私の名だ」

 

この儀式こそがこれから長き先を生きていく仲間となる二人の始まり。

誇り高き白面九尾一族の少年と真祖の吸血姫の道は今、此処に繋がったのだ。

 

「そう言えば一つ聞かせろ、その“アタナシア・キティ”ってどういう意味だ?」

 

本来はあまり呼ばれたくない名である彼女のミドルネーム。

だが、不思議とこの少年には呼ばれても不快ではない。

 

「アタナシアは不死でキティは子猫と言う意味だが……それがどうかしたか?」

 

不死の子猫(アタナシア・キティ)……何と皮肉なミドルネームだろうか。

そんな言葉を聞いてサイは笑いながら頷く。

 

そして―――

 

「じゃあ“キティ”で良いか?

エヴァンジェ何とかなんつうのは呼び辛ぇし、その外見なら“子猫”の方が合ってるだろ?」

 

その呼ばれ方は昔、ある人物が彼女を悪ふざけで呼んでいた呼び方。

しかし・・・生き方を変え、闇から陽の指す場所に踏み出そうとする彼女にとって、生き方を変えるに相応しい名のようにも感じた。

 

「(ククク、もし奴が居れば更に私をおちょくっただろうな―――)

良いだろう、そう貴様が呼びたいと言うのならば好きにしろ―――だが、そう呼ぶのを許すのは貴様だけだぞ?」

 

過去の思い出にあるナギともう一人の、まるで喧嘩友達のような人物であった男の面影を一瞬思い出す。

 

 

「じゃあ、宜しくな“キティ”」

 

 

その名を呼んだサイの首に手を回して抱き付くエヴァンジェリン。

突然の事に驚いているサイを他所に彼女は心の中で“過去への決別”を宣言した。

 

「(ナギ……ありがとう。

お前の事は忘れない―――だがもう、お前の面影を追って立ち止まるのはこれで最後とする。

私は先へと進む、サイと共にな……)」

 

時が止まり、人の温もりを忘れ、絶望の中で生きる事しか出来なかった少女。

一度は光を見つけるもその光は儚く消え、その心を頑なに凍らせていた真祖の姫。

しかしこの日、少女は“光”の本当の意味を知り……前へと歩き出す事を誓ったのであった。

 

 

尚、彼女がサウザンドマスターが生きていると知るのはもう少し後の話である―――

 

 

 

そしてもう一つ。

 

「おいちょっと待て……それ本当(マジ)かキティ!?」

「あぁ、と言うかそんな事に一々嘘を吐く理由が何処にある?」

 

九尾の少年が向かう先。

その先にあるものが彼の想像だにしなかった場所だという事を彼は今知ったのであった。

 

 

「クッ、あんのクソジジイがぁ!!

何で俺が“女しか居ない学校のクラス”に編入しなきゃなんねぇんだよ!? 責任者、出てこぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!」

 

 

―――サイの虚しい叫び声が、雲一つない晴天の空へと響いていた。




六話の再投稿をこれにて完了いたしました。
作品的な傾向で考えるとこの作品は多分サイとエヴァが主人公ってな感じですね。
結構『唯我独尊』タイプの人物であったエヴァも、にじファンに投稿していた最新話の頃までには大分姉貴分みたいな感じになってましたから。
一応確かに考え方としてはダブル主人公で間違いは無いと思います。

さて、これで原作三巻の『ネギVSエヴァ』の部分は書き終わりました。
ですがストーリーの流れとして一応、ネギとも戦わせなければいかんと思いましたのでこれから何話か後にネギとエヴァの戦闘も描かせて頂きます。
それまでは原作一巻、二巻のストーリーなどを描くと思いますので次をお待ちください。
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