艦隊これくしょん -apprivoiser-:軍艦・球磨、始まりの海、最果ての空   作:AyLsgAtuhc

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「めんどうみたあいてには、いつまでも責任があるんだ。まもらなけりゃならないんだよ、バラの花との約束をね……」
(1943年出版、サン=テグジュペリ『星の王子さま』より)




第1章:水面で揺れる歴史たち
第1節「軍艦と人間、始まりの海」


 

『海軍大佐――――。大日本帝国海軍・軍艦(艇)球磨、艦長ヲ命ス』

 

 小寒の候、冬晴れの空。

 本日天気晴朗、ナレドモ海風冷冷タリ。

 

――僕は夢を見た。

 

 一人の黒衣の男が軍艦の前甲板に屹立している。

 齢40近いこの男は、隊伍を組んだ黒軍服の手前、その一点に屹立している。

 第一種軍装を身に纏い、短剣を剣帯し、士官軍帽の陰に潜む、その凛と輝く柔和な目で、艦首旗竿に掲げられた海風に揺蕩う日章旗を見据えていた。

 小柄で無口なこの男は、襟章や袖章から察するに、海軍大佐であると窺える。

 

 本日、この男が屹立している軍艦、その前甲板にて、艦長着任式が執り行われた。

 この軍艦は、1919年7月14日に佐世保海軍工廠で産声を上げた、全長162.5メートル、全幅14.25メートル、排水量5500トン、最大速力36.0ノットという快速を誇る強豪艦である。

 しかしそれは、あくまでも進水当時の話であり、今現在ではやや旧式となった二等巡洋艦であった。

 

 兵装は40口径三年式8センチ高角砲2門、53センチ連装魚雷発射管8門、そして50口径三年式14センチ砲7門が備え付けられている。

 特徴的な3本煙突の先は、ふっくらと丸みを帯び、通称「そろばん玉」と呼ばれる雨水除去装置が取り付けられていた。

 

 帝国海軍における二等巡洋艦の命名慣例である河川の名称が襲用され、大正天皇に奏聞し治定された、この軍艦の名は「球磨」。

 この海軍大佐は、大日本帝国海軍の軍人として、「軍艦・球磨」艦長の任に就く、誉高きこの日を迎えたのである。

 

『まさかの祝――人目の艦長だ。球磨も驚きだ。でもおめでたい』

 

 

 ………………………………

 

 

――――11月、0630、横須賀鎮守府停泊、軍艦・球磨、艦長室。

 

「本日は航海長の知っての通り、各種整備の後、1200より馬公要港部へと向かう」

「了解です。艦長」

 

 日の出遠き朝、電燈の明かりの下。

 着任の翌日、大佐は艦長室の机の上に乱雑ながらも秩序的に並べた航泊日誌と方向航海計器(コンパス)、そして海図へと視線を落とし、航海長と本日の任務について話をしていた。

 

『台湾は久しぶりだ』

 

 ふいと、大佐はあどけなさが残り、どこか間延びした少女の声を聞いた気がした。

 唐突に顔を上げ、そして訝しげに首を傾げる大佐。

 その大佐の様子に、航海長も不審げな表情を浮かべた。

 

「……航海長。今誰か、喋らなかったか?」

 

 寸秒の後、大佐は航海長に向かって口を開いた。

 

「いえ、艦長。艦長室には私たち以外、誰もいませんが……」

 

『鳳梨酥(パイナップルケーキ)と烏龍茶で一服。うん、それも悪くない』

 

 二言目。

 大佐は、今度こそしっかりと少女の声色を聞いた。

 

――幽霊か、はたまた、妖か。

 

 青褪めた大佐の様子に、航海長も殊更不安げな表情を浮かべる。

 寸秒の後、大佐は意を決した様子で航海長に向かって口を開いた。

 

「航海長……変な事を聞くようだが……この艦に童が紛れ込んでいる……なんて事は無いな?」

「え、ええ……少なくとも水兵からその様な報告は上がっていませんが……」

 

『もっともこの球磨、そんな美味しいモノを飲んだり食べたりする事は出来ないが』

 

「……」

 

 三言目。

 大佐は自分が疲れているのでもなく、少女の声色が自分の聞き違えでもない事を確かめると、深刻な表情で頭を抱えた。

 

「……艦長?」

「ああ……すまない、久方ぶりの国外任務で何分緊張しているのだ。1100の総員集合時には顔を出す。それまではよろしく頼む」

「……承知致しました。失礼致します」

 

 航海長は敬礼の後、普段であれば決して見る事が無い、頭を抱えた大佐の姿に狼狽しつつ、艦長室を後にした。

 

「……まさかな」

 

 暫くの後、大佐は確かめる様に口を開いた。

 

「……この部屋に誰か居るのか?」

「球磨も人間になれたら……っておい、そこな艦長……もしかして、この球磨の声が聞こえてるのか?」

「……」

 

 まさか頭を抱える原因を作った張本人から言葉が返されるとは思わなかった大佐は、気を保ちながら恐怖を嚥下し、その震える唇を開き、語気を強めて問いかけた。

 

「……だったらどうした、貴様はなんだ? この大日本帝国海軍が誇る軍艦・球磨に住み着く幽霊か、はたまた、妖か?」

「失敬な。この球磨こそ紛うことなき、大日本帝国海軍が誇る球磨型二等巡洋艦の1番艦、球磨だ。知っての通り、佐世保生まれだ」

 

 大佐の言葉にその存在は、「ぷんすか」と言わんばかりの声色で、堂々と己が名前を告げた。

 

「貴様、何を言って……」

「そうだな……舟魂って知っているか? 海の民が航海の安全を願う神さまの事だ。多くの場合は女性である事が多い。まぁ、そんな存在だと思ってくれ」

 

 その存在の言葉に、大佐は頭を上げ、艦内に鎮座する艦内神社を想起した。

 「軍艦・球磨」の名の由来となった「球磨川」が流れる熊本県・球磨郡に位置し、縁結びの神様が祀られている事で知られる「市房山神宮」。

 その分社である艦内神社には、神木を刳り貫いて作った舟型の中に、舟魂を模った紙の人形と、撤下神饌が供えられていた。

 こうした艦艇内に神社を設ける分祀行事は、帝国海軍では連綿と続く慣わしである。

 軍艦、ひいては艦艇が女人禁制と度々言われるのは、この舟魂、つまり女性の神さまが嫉妬して、機嫌を損ねてしまう可能性を憂いての事らしい。

 

「つまり貴様は……神か?」

「そんな大層な者ではない。球磨は『軍艦・球磨』だ。それ以上でもそれ以下でもない。最も球磨以外に似た様な存在が居るのかは知らん」

 

――そんな妖怪変化を信じてたまるか。

 

 仮にも文明人で帝国軍人でもある大佐は、この事実を否定しようとしたが、こうやって会話が成立している以上、信じない訳にはいかず、大佐は腹を括った。

 大佐は伊達に40年生きていない、ましてや伊達に20年近く軍務に就いていた訳ではない。

 大佐は自分自身の肝っ玉を信じ、艦長室の虚空を仰ぎ、諦めた様子で言葉を投げた。

 

「……で、貴様の目的は何だ?」

「……」

 

 大佐のその言葉と同時に、この「軍艦・球磨」と名乗る存在は沈黙した。

 そうして艦長室には荒涼たる空気が唐突に流れ、大佐は思わず身震いし、身構えた。

 

――この神とも霊とも妖とも分からぬ存在から、果たしてどの様な宣告がなされるのか。

 

 大佐は唯々固唾を呑んで、この少女から告げられるであろう言葉を待った。

 

「……いんだ」

「……」

「……寂しいんだ」

「……は?」

 

 そして告げられた少女の気恥ずかしそうな声色に大佐は、ふにゃりと自分自身の緊張の糸が緩んだのを感じた。

 続けて軍艦・球磨たる存在は言葉を紡いだ。

 

「お前が初めてだったんだ。この球磨が生み出されてから早15年近く、こうやって言葉を返してくれる人は誰一人として居なかった」

 

 そしてその声色は、どこか嬉しそうな色を孕んでいた。

 恐らく今、この少女がこの場に人間として姿を現していたならば、大佐に向かって赤面して嬉しそうな笑顔を浮かべていたであろう。

 大佐は少しでも身構えた自分が阿呆だったと溜息を吐き捨て、軍艦・球磨たる存在に続けて言葉を投げかけた。

 

「目的は分かったが……それにしても何故、私にだけ貴様の声が聞こえるのだ? 先刻まで居た航海長には聞こえなかったようだが」

「球磨にもよく分からんが、どうやらお前とは波長が合うみたいだ。嬉しいぞ、こうしてお前と話せるのは」

「私はちっとも嬉しくない。それに今後、貴様と言葉を交わすつもりは更々無い」

「むぅ……女の子に対して何て口の利き方だ……」

「第一、貴様と話して私に何の利点がある?」

「そ……それは……」

 

 大佐の言葉に辟易した少女は、寸秒考えた後、早口で大佐に捲し立てた。

 

「伊達に15年近く軍艦はやっていない、多少なりとも助言は出来る! 意外に優秀な球磨ちゃんって、よく言われる! 後は……そう! お前も人の上に立つ身だ、何かと孤独だろう。その孤独を枯らしてやる事も出来る!」

「私に助言なぞ必要ない。それに孤独こそ男の本懐。そんなもの犬か軟弱な余計者にでも食わせてしまえ」

「ぐぅ……」

「それに私は必要な時以外、無駄口を開きたくない。だから黙っていてくれ」

 

 とりあえず害が無いと分かった大佐は、少女の言葉を無視し、だんまりを決め込む事にした。

 軍艦・球磨は大佐に何度も話しかけるが、大佐はウンともスンとも言わず、机の上に広げた航泊日誌に記述している。

 

「なぁ……球磨が少しお喋りだったのは謝る……」

「……」

「だからお願いだ……返事をして欲しい……」

「……」

 

 暫くの後、この軍艦・球磨たる存在は、悲しみを吐き出す様に嗚咽を漏らした。

 

「……お願いだ……時々で良いから返事をして欲しい……話しかけても誰も答えてくれないのは本当に辛いんだ……」

 

 そして悲しみを押し殺した声で、少女は大佐に懇願した。

 その軍艦・球磨の言葉と声色を聞いた大佐は、思わず想像してしまった。

 

 西洋袴(スカート)の裾をぎゅうと握りしめながら冷たく震え、涙を浮かべて唇を噛み締め、「お願い行かないで」と、自分から離れ行く人々の姿を成す術もなく眺めている少女の姿を。

 

――思い浮かべてしまった。

 

 大佐はその少女の声色と情景に折れ、苦笑して諦めた様に溜息を吐いた。

 

「そうさな、分かったよ……1年か2年程は、この艦に着任する事になるだろうしな。忙しくなければ何時でも話しかけていい」

 

 そして大佐は、月明かりの様な柔和な目を中空へと投げかけ、口を開いた。

 

「それは本当か!?」

 

 大佐の言葉を聞いた少女は、ぱあっと曇天から光芒が差し込んだ様な歓声を上げた。

 

「ただし、他の水兵が居ない所で話しかけてくれ。流石に精神病科の独房で生涯を送りたくはないからな」

「分かった! ありがとう、本当に嬉しい! 球磨は一寸古いところもあるけど、頑張る! ええと……」

 

――なんともまぁ、ぬらりひょんな道連れが出来たものだ。だが、これもまた面白かろう。

 

「――大佐だ。よろしく頼むよ、球磨」

 

 大佐は昔好んで読んだ、とある帰化人作家が著した怪奇文学作品集の内容を思い出しながら、軍艦・球磨に己が名前を告げた。

 大佐が浮かべたその表情は、月明かりの様に柔らかな笑顔であった。

 

「こちらこそよろしく! ――大佐」

 

 そして軍艦・球磨は、日の光の様に温かくも力強い声色で、大佐に返事した。

 

 

 ……………………………… 

 

 

 1200、予定通り、軍艦・球磨は抜錨した。

 

 この時を以て、球磨と大佐は、軍艦と人間という奇妙な関係で結ばれた。

 そして軍艦・球磨は、大佐と多数の水兵を担い、馬公要港部へと向かう為、帝国の栄光と誉、そして各々の想いをその胸に抱き、天高く日輪が栄える水平線を進んで行った。

 

 その進む先が、二度目の「大戦」という、帝国の斜陽であるとも知らずに。

 

 

 ……………………………… 

 ………………………………

 

 

『……提督! ……起きろクマ!』

 

「ん……ぁ……?」

 

『……何時まで寝ているんだクマぁ!!』

 

「……ぅぐあっ!?」

 

 その言葉を皮切りに、少女の手から放たれた鉄槌パンチが、寝ていた壮年の男の腹部へと叩き落された。

 加減はあったとは言え、無抵抗の状態で攻撃を受けた男は、成す術も無く腹の中の空気を全て吐き切り、そして飛び起きた。

 

「コホッ……ガハッ……ぃ……痛ってぇ……球磨ぁ……もうちょっと優しく起こしてくれないかな……?」

「うるさいクマ! 今何時だと思っているクマっ!」

「ええと……1200かな……?」

「何寝ぼけているクマっ!? 0630だクマ! そんなに寝てたら、いくら提督でも普通に首が飛ぶクマ!」

 

 鳶色の長い髪と瞳、バネの様なアホ毛をぴょこぴょこと揺らし、そして語尾に「クマ」を付け、その男へと噛みついている、端麗な顔立ちの艦娘。

 白衣のセーラー服を纏った「艦娘・球磨」は、呆れた表情で、あどけなさが残り、どこか間延びした声色を、その男「提督」へと浴びせていた。

 

「妹たちはとっくに起きて食堂に居るクマー。球磨もお腹がすいたクマ。これだから秘書艦は大変だクマー。ちなみに今日の給養当番は大井だクマ。基地の皆も大喜びだクマ。球磨も大喜びだクマ。だからちゃっちゃと身支度を整えろクマー」

 

 提督は先程、球磨の拳が叩き込まれた腹部をさすりながら、申し訳なさそうな表情で球磨に言葉を投げかけた。

 

「ごめんよ、すぐに行くからさ」

「クマ」

 

 分かればいい、と言わんばかりに返答した球磨は、ふんすと鼻を鳴らし、独り言の様に提督へと言葉を紡いだ。

 

「……それにしても起床ラッパが鳴ってもなお、提督が起きて来なかった事なんて、今まであったかクマー?」

 

 球磨は「珍しい事もあるな」という表情の儘、提督が普段寝泊まりしている部屋の扉、そのドアノブへと手を掛け、提督の私室を後にした。

 

「……夢、か」

 

 毛布に身を包んでいた提督は、柔和な目で部屋の真正面を見据え、幾分か朧げな意識の儘、先程の夢を思い出していた。

 しかしチクタクと一秒毎に刻まれる時計の音により、その夢の記憶が刻々と削られていく。

 やがて先程までありありと目に映っていたであろう叙景から鮮明さが失われ、「軍艦・球磨」と「大佐」という断片的な記憶のみが残滓として、提督の脳裏に留まっていた。

 

「球磨が秘書艦になってからもう2年も経つのかぁ……」

 

 提督は誰に語るでもなく、自分自身へと語る言葉を虚空へと投げかけた。

 恐らく、長らく秘書艦として提督に尽くしてくれた球磨、つまり純粋に単純接触回数が多かった球磨だからこそ、あんな形で夢に出てきたのであろうと、提督は先程見た夢の解釈を行っていた。

 

「僕が一等海佐(大佐)である事と、何か関係があるのかな……でも所詮、夢の話だしなぁ……」

 

 提督は一つ大きな溜息を吐き捨て、「夢は夢である」と最終的な結論を出し、その夢の記憶断片をさっさと脳裏の片隅へと追いやった。

 寝ぼけてふわふわと定まらない意識の儘、提督は寝床から起き上がると、さっと寝床を正し、ばしゃばしゃと洗面台で意識を覚醒させ、ぱっぱと身嗜みを整え、ぱりっとした白シャツを着付け、黒ネクタイをぎゅっと締め、着慣れた常装冬服にすっと袖を通し、制帽をひょいと被ると、ちゃっちゃと部屋を後にした。

 

 

 ……………………………… 

 

 

 僕たちはもうずっと昔から戦争をしていた。

 確か僕が大学を卒業後、国防海軍に入隊して間もなくの出来事だったかなと記憶している。

 

 「深海棲艦」と呼ばれる存在が突如、日本国近海を中心とした世界各国の海域に出現し、航行する船舶を無差別に襲ったのである。

 

 直ぐに深海棲艦掃討の為、各国の軍隊で連合軍が結成され、総力を挙げて深海棲艦と戦った。

 だけど、最新兵器を駆使して戦った各国が得たものは、惨敗という成果のみ。

 無駄に各国の人命や軍事力、ひいては国力を削ぐ結果となってしまった。

 

 某国が躍起になって核兵器の使用を国連安保理決議案で提出したけど、それは結局、反対大多数で否決された。

 その理由は2つあった。

 1つ目は、仮に倒せたとしても、核兵器を使用した際に発生する環境破壊等のデメリットが大きすぎる為。

 そして2つ目は、これは僕がずっと不思議に思っている事だけど、当初危惧されていた最悪のシナリオ。

 「深海棲艦が陸に攻めてきて人間を駆逐する」と言った動きを、一切見せなかった為である。

 

 結果はどうあれ、これにより海路による大規模輸送が不可能となり、資源輸入国だった日本の経済、そして世界経済は緩やかに変わっていった。

 それが停滞なのか衰退なのか、はたまた発展なのかは、僕には分からなかった。

 少なくとも言えるのは、その後、深海棲艦に対する積極的な軍事介入が次第に行われなくなり、各国も半ば諦めた状況で、自国の政治形態を内政重視にシフトせざるを得なくなった。

 その為、他国間での貿易が活発に行われなくなり、少しずつ経済が停滞、そして技術水準が過去の時代へと遡行していったのである。

 

 これが歴史書にも綴られている、現代史の一幕であった。

 

 

 ………………………………

 

 

 それから暫くの後、今から大体4年前に、「艦娘」という存在が現れた。

 

 聞けば「妖精さん」なる存在が生み出した、「旧日本海軍の艦艇の魂」をその身に宿し、「艤装」と呼ばれる海上走行および海上戦闘が可能になる武装を操る事で、軍艦艇に近しい戦闘力を得る事が出来る、深海棲艦と戦う為の唯一の存在らしい。

 

 何度聞いても奇々怪々なオカルト話だ。

 

 艦娘が現れた当時、それは大騒ぎとなった。

 非人道的な人体実験、デザイナーベビーなど、軍部の闇が取り上げられたりもした。

 僕も気になって、自分の地位を利用して、独自に調べてみた事もあった。

 

 でも、そうした形跡は何一つとして見つからなかった。

 僕が最も信頼を置いている地方総監部(鎮守府)司令官に聞いてみても、首を横に振るばかり。

 また彼女たちに出生を聞いてみても、生まれた時の記憶は殆ど無いと答えるばかりだ。

 

 言ってしまえば、管理職である僕でさえ、彼女たちがどのように生まれたのか、一切分からないのである。

 こればっかしは、神さまのみぞ知る。

 

 だけど正直な所、彼女たちの出生について、僕はそこまで熱心に調べなかった。

 何故なら、そんな事を考えている暇があったら、唯目の前に居る彼女たちの為に心血を注ぐべきかなと、僕は考えていたからだ。

 つまり彼女たちの存在そのものを懐疑したり否定したりしてみても、其処に存在しているであろう以上、僕にはどうしようも出来ないのである。

 結局の所、どの様な生まれであれ、彼女たちが今この瞬間、生きているという現実。

 彼女たちの実存について、おいそれと反証を挙げる事が、僕には到底出来なかったのである。

 

 話は変わって、これは僕たちの仕事なんだけど。

 

 何故、深海棲艦が出現したのか。

 深海棲艦は何の為に攻撃を行うのか。

 

 その原因の究明、ひいては海上防衛及び制海権奪回の為、現在の国防海軍の一部門に位置し、「艦娘」との親和性を高める為に、旧日本海軍の階級制度と用語を並行的に採用した艦娘管理部門、通称「大本営」が置かれたんだ。

 

 それで僕の主な仕事はと言うと、昔よりも往来するようになった輸送船や艦艇、また近海任務にあたる別の部隊が攻撃された際に、直ぐに出撃して対応する後援救助部隊の役割を担う艦娘の司令官として。

 そして万が一、深海棲艦が陸に上陸した際の足止めと陸空軍への早期警戒を促し、近隣住民を避難させる、警備基地の司令官として。

 こうした後方任務を主とした、小規模な海軍警備施設の司令官、言うなれば後詰の司令官を、僕は任されていた。

 

 

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