異世界なのにうちわ職人になりました。   作:柊彩

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第一章 プロローグ、柏工房編
プロローグ


六畳間の狭い作業場。そこから聞こえてくるのはカン、カンとリズミカルに響く高い音と、その作業を行う一人の男の息遣いのみ。

 

異世界に来た俺、柏 高瀬はうちわを作っていた。

なぜこうなったのか。時は少し遡る。

 

前世の記憶(高校生まで)と自身の死因(フグ毒)をもって生まれた時、俺は異世界転生を確信した。そしてそれは正しかった。晴れて病院を出た時広がっていた青空にはドラゴンが飛んでいた。ベビーカーからなんとか顔を捩らせ世界を見渡せばエルフや半魚人の姿がある。ガチファンタジーだった。

 

だが。非常に素晴らしいことだが。この世界は平和だった。ドラゴンとかめっちゃ友好的だったし。20メートルはあろうかという巨体なのに敬語とか。ビビるわ。

5歳にして気づいた。あれ?ここ、ファンタジー要素薄くね?、と。ちなみに親父の仕事は食品製造メーカーの現場主任。夢がない。

 

そんな悲惨な5歳の時の俺の唯一の希望は16歳で与えられる固有魔法だった。この世界ではその時に与えられた魔法しか使えない。つまりその魔法しだいで人生の勝ち負けが決まる。

そして当日。能力を手にしたその日職安のお姉さんから半笑いで勧められたのがうちわ職人だった。死にたい。

 

へり取りと呼ばれる作業を終え、仕上げの変化魔法でボールペンサイズとなったうちわを隣に置く。炎魔法を織り込み、あおげば暖かい風の出る熱風うちわは持ち運びは変化魔法で縮小し使いたい時だけサイズを戻せる利便性としっかり暖かい効果の高さから冬季の看板商品だ。その人気の高さから夏の氷魔法を織り込んだ清涼うちわと合わせて予約は1年待ちだ。

 

うちわ魔法。自身の制作したうちわには炎や氷、召喚に変化など実に多様な属性の魔法が付随できる。それが俺の固有魔法だった。地味すぎて涙が出てくる。

 

しかし案外この能力使えなくもない。売上はそこそこだし。なによりこの平和な世界では派手な能力があっても使い道はなかった。おっと、竹が無くなった。取りに行かなければならない。

このご時世、うちわ作りをやりたいという者がいるはずもなく。柏工房は俺一人の個人経営だ。そもそもギミック付きのうちわを作れるのは俺一人なので仕方が無いのだが。

 

工房の裏手にある雑木林から良さそうな竹を探す。良質な竹はほとんど取り尽くしてしまったようだ。植物魔法の使い手でも呼んで竹を生やしてもらおうか。そう考えていた時だった。

 

「こ、これは…」

見つけ出した一本の竹。その竹の節の1本から黄金の光が溢れていた。

「これってもしかして…」

光る竹。それはもしかしなくてもあれなのでは…?

だが、ふつーに考えてみよう。竹の中に女のがいるわけないじゃん?普通に窒息モノじゃん?いや、しかしなぁ。

うじうじ考えていると突然竹が震えだし中から弾けた。

先程まで立派な竹があった場所には金色の和装に身を包んだ16歳くらいの少女がいた。真っ白な肌はこの世のものでは無い神秘性さえ感じさせた。

「何をぐずぐずしてるのよ!苦しいじゃない。」

神秘性の欠片もなかった。そもそも苦しいならなぜ竹などに入っているのか。

「うーん、ちょっと頼りなさそうだけど…」

おい、なんだ初対面で失礼な。反論はしないけど。

「あなた。ちょっと私を匿ってくれない?」

「…は?」

思わず素っ頓狂な声が上がる。いや、流れとしては正しい気もするのだが…

 

「いたぞっ!かぐや姫だっ!」

と、その時、上空から男の声がした。見ると20代ぐらいのスーツ姿の男がペガサスに乗っていた。ちなみにだがこの世界ではペガサスはハムスターレベルの珍しさでペットショップに普通においている。

というか、やっぱりこの子かぐや姫だったのか。タメ口のかぐや姫ってなんかいやだな。

とか考えていると男は首にかけていた笛を鳴らす。仲間を呼んでいるのだろうか。というかこの世界平和すぎて荒事とかなかったんだが。

 

その時。ドガッシャア!という爆音が鳴り響き、俺は見た。俺の、俺による、俺のための柏工房がおそらく男の仲間であろう女によって破壊されていた。それはもう見るも無残な感じで。

 

「おい、そこの男。かぐや姫をこっちに寄越してもらおう。逆らってもいいことは無いぞ。」

男の声が低く響く。男の魔法であろう炎の槍が男の右腕握られている。だが俺にとってそんなことはどうでもよかった。

それよりも。作業着の下に隠したそれに手を伸ばす。変化魔法で縮小化したうちわ数本を取り出し魔法を解除し普通サイズに戻す。

まず1本。空に向かって思いっきり一振する。その動作で織り込んだ空間魔法が発動し、男の目の前に移動した。驚きの顔のを浮かべる男に容赦なく二本目のうちわを振る。

「ローンまだ八年あんだぞっ!どうしてくれんだっ!」

半泣きで。

2本目のギミックは超練度の氷魔法。市販のうちわが涼しい風を出すのに対してこれは軽自動車サイズの氷を出す。氷に吹き飛ばされ男は落ちていった。

仲間がやられ女が慌てて魔法を展開した。が、時既に遅く。三本目のうちわが振られる。これは台風クラスの突風を起こす風魔法。暴風にあおられ落ちていった。

 

ストン、と地面に立つ。同時に使用したうちわが音を立てて壊れた。

高瀬自身が全力でうちわの能力を使うとその負荷でうちわが壊れてしまう。これもまた彼がうちわ職人にならざるを得ない理由だった。

「あんた…意外と強いのね…。」

かぐや姫が褒めてくるが、そんな事は今はどうでもよかった。瓦礫とかした柏工房(笑)をみてため息をつく。うちわ自体は頑丈に作ってあるため無事だろうがこれではうちわが作れない。こんなことなら時間魔法のうちわを作っておけばよかった。

 

心底後悔していると隣から声が掛かる。

「あー。家か。ごめんごめん。直してあげるわよ。」

見るとかぐや姫が両手を突き出していた。そして手が光ったと思った瞬間、工房が元に戻っていた。

彼女は時間魔法か。結構珍しい能力だ。

「ふふっ。感謝してもらって結構よ。」

「おお、マジありがとう!工房が無くなってたら20で借金ぐらしだったぜ!」

一通り感謝を述べ。

「あれ?元はと言えばお前のせいじゃね?」

「まぁそこはご愛嬌よね。」

はぐらかされた。まぁ怒っても仕方ないか。工房の玄関を開ける。「お邪魔しまーす」と、かぐや姫も何故か入ってきた。工房はしっかり元通りだ。6畳間の作業場には作ったうちわと使い込んではいるが手入れの行き届いた機械1式。そして目の前には立派な竹が。あれれ?おかしいな。竹が無くなったから取りに行ったはずなんだがな。

「おい。まさかと思うがどこまで時間戻してるんだ?」

「うん?昨日の時点。」

かぐや姫ははにかんで答える。それはつまり、丹精込めて作った今朝のうちわは元の竹にバックトゥザフューチャーされたということか。なるほどなるほど。

「何してくれてんだっ!」

「ええっ!?なんで怒られてるの!?」




はじめましての人ははじめまして。過去作、今掲載中の別の作品を少しなりとも見てくれた方はお久しぶりです。
今回は地元の産業に少し焦点をあてて小説を書こうと思いノリで書いたものです。こんなこと書くと出世地バレバレなんですがまぁ作者のことなどどうでもいいことだと思うのでこの辺で。

見切り発車&他作との平行なので続くかは分かりません。とりあえず前のやつを早く片付けないとなぁ…。

こんな作品(笑)を読んでいただきありがとうございました!
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