異世界なのにうちわ職人になりました。   作:柊彩

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負けられない戦いがそこにあるそうですよ?

「ねぇ。今日棟上げがあるらしいんだけど、行ってみない?」

 

朝食時、かぐやがおもむろに口を開いた。

 

「棟上げ?なんだそりゃ?」

「はぁ?あんた知らないわけ?棟上げっていったら新しい家がたった時にお菓子とか餅とかを投げるのよ。今日中田さんの新居ができるらしいわよ?」

「誰だよ中田さんって…。」

いつの間にかかぐやは村の人達と仲良くなっているようだ。このコミュ力は正直化け物だと思う。

「面白そう!お父さん、行こー!」

「ん…まぁアリシアがそういうなら行くか。」

最近は従業員も増え、少し時間的にも余裕がある。

たまには村の人達と交流するのも悪くは無いか。

「決まりね。アリシア、着替えは私が用意してあるわ。今日は戦争よ!」

…戦争?

 

この時、俺は知らなかった。女がいかに恐ろしいのかを。

 

――――――――――――――――――

 

「へぇぇ、立派な家だなー。」

村の少し外れに、その家はあった。二階建ての木造建築で、周りを堀で囲み、瓦葺きの黒色の屋根と檜の壁の白とのコントラストが見事だ。まだ骨組みは残っていたがこれが取り外されればこの家はこの村で1番綺麗な家になるだろう。会場にはどこで知ったのか多くの村人がいた。その大半がマダームたちだった。その中で俺は顔見知りを見つけた。

「村長じゃないっすか。村長も来てたんすね。」

40代前後の白髪の男性。この村の村長である。

「おー、お前も来てたのか。なんだお嬢ちゃんも一緒か。こんなとこにデートなんて…ん、隣に連れてるのは…」

村長の視線は俺の隣の隣、つまりかぐやが手を握るロリドラゴンのアリシアへと向いていた。

村長はアリシアと俺を交互に見つめる。

「なるほど。できちゃった婚か。」

おいまて、あんたはなにか壮大な勘違いをしている。というか仮に俺に子ができたとしてこんなに大きいわけないだろ。

「いいんだ。分かってる。複雑な事情なんだろう。言わなくていいぞ。」

何か言う前に村長は哀れげな目で俺を見つめると去っていった。今度ちゃんと誤解を解かないとな。

 

「それでその棟上げはいつ始まるんだ?」

「んー、そろそろ始まるんじゃない?」

「適当だなおい。」

「そんなにしっかりとは決めないのよ。あ、ほら、でて来たわよ!」

かぐやが指さした先にいたのはおそらく中田さん夫妻(知らないのでなんとも言えないが)だ。それぞれ手には大袋を持っていた。

 

「そーれっ!」

夫妻の声と共に大量のもちやお菓子が宙を舞った。

それと同時にその下では獣と化したマダーム達の壮絶な戦いが繰り広げられていた。あちこちから手が伸び、降り注ぐ餅やお菓子に手を伸ばしている。それらはスーパーのバーゲンセールを彷彿とさせた。

女って怖い。

 

「さて、私達も行くわよ!」

「ま、マジか。」

できればいきたくないのだが。

「当然でしょ?言っておくけど、この棟上げの戦利品が今日の晩御飯だからね!晩御飯抜きになりたくなかったら自分の分は確保しなさい!」

無茶苦茶だ!棟上げに過度な要求をしすぎだ!

だが俺の反論は完全に無視された。

 

かぐやとアリシアはバーサーカー軍団に突っ込んでいった。俺は残念ながらそうする勇気がなく少し傍からそれを見ていた。

 

欲望むき出しのマダーム達は、平気で人の体を突き飛ばしたり、頭を押し込めたりしており、地獄絵図もかくやといったことになっていた。だが俺が恐ろしかったのはそういったバーサーカー達の中にいながら、かぐやが存在感を放っていたからだ。並み居るマダームをまえに1歩も引かず、袋に手を伸ばしている彼女はどこか鬼気迫るものを感じた。あいつ絶対王女じゃないよ。あとさっきからアリシアの姿が見えないのが不安である。

 

「お前は取りに行かないのか?」

ふと、隣から声がかけられた。そこに居たのは申し訳程度のうまい棒豚キムチ味という反応しずらい戦利品を持った村長だった。

「ちょっとあの中に突っ込んでいく勇気はなくて。」

「そうか!まぁ仕方ないわな。」

「村長こそ、よくあんな中から取れましたね。」

うまい棒1本だけど。」

「なんか落ちてた。嫁が今頑張ってるよ。」

「お互い大変ですね。」

「そーだな。ま、あんなか入っていくのは無理だろうし、いっそのことここら辺で待ってみたらどうだ?もしかしたら降ってくるかもしれんぞ。」

「そんなことあるわけってぎゃ!?」

突然頭に衝撃が走った。見るともちの袋だ。ほんとに降ってきたよ、なんなの村長は未来でも見えてるのかな?

「ま、まさか本当に降ってくるとはな…。」

あ、たまたまだわ。まぁいい、これで晩御飯何もなしではなくなった。

「うーん。高瀬、ついてるな。ちっと羨ましいぐらいだ。ま、いい。せいぜい頑張れや。」

「うーっす。」

といっても特に何もしないのであるが。

 

20分ほど棟上げは続き、俺達の戦いはやっと終わりを迎えた。戦いの後、俺たちは合流し互いの戦果を見せ合う。

結局俺がゲット出来たのは偶然手に入れたもちが3つほど入った袋ひとつだ。だがこれを見せた時かぐやはめっちゃ驚いていた。 失礼な。

次にかぐや。頑張っていた割にはあまり取れなかったらしく俺と同じくもち袋一つ。同点だがどこか勝った気がしてちょっと嬉しかった。

最後にアリシア。えへへーと笑いながら背中に隠した戦利品を見せた。もち袋が3つにお菓子が3つという快挙だ。うろうろしてたら落ちたやつを拾ったしていたらしい。これが無欲の勝利というやつか。

 

そして晩御飯。かぐや本人がほとんど取れなかったせいか普通にご飯が作られてました。




棟上げは作者が子供の頃はしてたんですが最近見かけませんよね。そもそも棟上げ自体知らないって人も多そうです。これがジェネレーションギャップ…!?
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