雪解けが始まり、少しずつ冬から春へと変わっていく。その日のかぐやはこの上なく深刻そうな顔を浮かべていた。
担当作業の『型切り』をしている時、特に顕著に現れた。たたき鎌といわれる曲線の金具をうちわに当てて木槌で叩く作業なのだがさっきからそれを逆で、木槌を鎌で叩いていた。絶対そっちの方が難しいと思うのは俺だけなのか?
「おい。地面くり抜くつもりかよ。」
「あ、、ごめん。」
「なんかあったのか。なんか集中できてないようだが。」
「私は…気づいてしまったのよ。」
ふだんまったくそのような素振りをしないため、その様子は異様に思えた。なんだろう。ついにこの田舎暮らしに飽きて城に戻るとか言い出す感じだ。うーん、それは困…こま…あれ、そんなに困らん。
「…あんた、七草粥の種類なんだったか覚えてる?」
「…は?」
予想より斜め下すぎた。
「そろそろ春なのに七草粥作ってないわ。毎年食べるのに。」
「おいまて、少なくとも今の母さんは作ったことないしこっちの世界じゃ七草粥なんてないんじゃあねぇの?なんで食べてたの?」
「そんなもの決まってるでしょ。無理矢理作らせたのよ。」
「鬼かお前は。」
「というわけで今日は七草粥にしましょ。」
「どういうわけだよ。」
「お母さん。七草粥ってなに?」
「えっとね、春に食べる雑草のご飯だよ?」
「雑草じゃねぇよ!?」
中国人に謝れよ。
「雑草って何入れるの?」
「えっと…タンポポ?」
「タンポポは入れねえよ!?お前毎年食ってんじゃねーの!?」
「だって。言ったら作ってくれたもん。」
ふん。俺が前世の小学校時代に必死に覚えた七草知識を披露してやろう。
「芹、なずな、御形、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロだ。」
「へぇー。詳しいのね。」
「お母さん、なずなって何?」
「えと…?」
おい、こっちを見るな。
「なずなっていうのはぺんぺん草のことだな。」
「なんでぺんぺん草って言わないの?」
「アリシアー、それはね?男の子ってのは難しい言葉を使いたがるのよ。」
「おいまて、なんで人を勝手に中二病扱いしてんの?
七草は小学校の時必死で覚えたからな。秋の七草も言えるぞ。オミナエシ、ススキ…」
「ああその話つまんない。」
言えるのに…、言えるのに…!
――――――――――――――
「…なんで俺山菜採りなんてしているんだろ?」
かぐやの提案をうけ、俺たちは七草を取りに来ていた。かぐやとアリシアは田んぼや道に生えている草を、俺は山で草を探す。
「なかなか見つからんもんだな。」
前世ではよくとってたので草の種類はわかるのだが。
30分ほど山の中を探し回っていた時だった。
不意に、背後で気配がした。もちろん人が来ないこともないのだが一応ここは俺の私有地だ。ましてやまだ冬が抜け切ってない今たけのこ取りもないだろう。となると。
「盗賊か…熊か…?」
いずれにしろ、招かれざる客だ。というかクマ怖い。あいつらでかいし早いし強すぎるんですけど。
そっと懐に忍ばせたうちわに手を伸ばす。俺専用の超練度うちわだが少し量が心もとない…。
ガサゴソという音が確実にこっちに近づいてきた。
「気づかれてるなら…仕方ないか。」
先手必勝。うちわに魔力を込め、音のする方へ全力で振った。ギミックは炎。火炎魔法を織り込み、超火力がうちわから出てくる。10メートルほど先までの道が焼け野原となった。避けることは不可能で…
「あっぶねぇ。あれ俺じゃなかったら死んでたよ?」
突然背後から声がした。
「仲間っ!?」
慌てて振り返り、うちわを構え、振り下ろそうとした。
「ん、そこまで。」
パキン、という音ともに握っていたうちわの先が切られていた。
全く見えなかった。
「そう怖い顔すんなよ。俺はあんたに会いにきたんだよ、うちわ職人さん。」
上等そうな真っ黒のコートに刀という不釣り合いなものも真っ白に脱色された彼の髪とギラギラ光る双眸で違和感を感じなかった。白銀の刃に映る彼の姿はどこか狼のような鋭さを映していた。
なんか食べ物ばっかですね。作者も反省しております。あと、日常系の話題が尽きました。まさか作者がここまで発想が貧困だと思っていませんでした。というわけで次回からはすこし本編に戻ろうと思います。
え?うちわ?知らないですねぇ。(現実逃避)
ハーメルンで読んでいる作品では視点変更とかあるんですがこれでも取り入れようか迷ってます。アリシアとか。