翌日の朝、大広間へきてみると真っ赤なコートを着た神龍様に20歳ほどの女の人がつばを飛ばしていた。真っ黒なスーツが印象的だが、何よりも目を引くのは彼女の頭にぴょこんと生えた犬の耳だ。獣人と呼ばれる種だ。さてその内容はと言うと…
「王女を相手に喧嘩売るとか!何考えてるんですかあなたはっ!バカなんですか!?そうなんですか!?そうでしょう!?死ねばいいのに!」
「おい、主人に対して何言っちゃってくれてんの。余が死んだらこの町終わるぞ。」
「普段たいして何もしてないでしょうがっ!」
…最強の…竜って…。
「む、あなたは…誰ですか?泥棒?」
「ちょっと?いきなり泥棒扱いとか酷くないですか?」
「ああ。あなた達が相手でしたか。私の主がご迷惑をおかけしました。」
先程とは打って変わって丁寧な口調に思わず身構える。
目の前の女性はこの街の顔役で、神竜の代わりに国政や事務作業を行っている。もちろん戦闘では神竜に遠く及ばないが彼女なしでは街が回らないので神竜も強くは出れないのだろう。だが、先ほどのはあまりにも…。
「…はぁ、王女様もいらしたようですし、今のところはここまでにしてあげます。今夜は寝かせませんが。」
…すげぇ、ここまで色気というものを感じさせない今夜は寝かせないは初めてだ。
その日の白雪姫は中世貴族のような装飾が施されたドレスを着ていた。明らかに荒事に適した服装ではないのだが、余裕の証だろうか。
「よし、揃ったようだな。では始めるとしよう。これからやってもらうのはこいつを余の下へ引っ張って来ること。生死は問わん。余は奥でいるのでな。先に連れてきたやつの言い分を余が認めてやる。」
彼が見せたのは大きく拡大された写真が貼り付けられた手配書だった。その写真に映るのは緑がかった半透明の衣に身を包んだ気弱そうな顔の妖精族の男だった。
「元々小柄で見つけにくい上にこいつはおそらくジャミング系の魔法を有している。匂いがあるものも残念ながらない。少々難しいだろうがまぁ、そのへんは期待しているぞ。」
…うーん、ただ単にこの人が働きたくないだけに思えてきたのは俺だけなのだろうか。まぁ、ここで負ければ俺は死ぬだろうしな。
何故か一周まわって死への緊張が薄れ、ひどく落ち着いた中、神竜が開始を告げる。
同時、突風が吹き抜け、フッドの姿が消えた。本当に街を走り回るようだ。魔法で追跡が不可能なら走って探すという完全脳筋思考。
それに対して、彼の主の白雪姫は10個ほどの精霊を呼び出していた。それらは一瞬で消える。
「反響魔法…。」
かぐやが低く呟いた。
「なにそれ?」
「エコーよ。この街全てに超音波を包むつもりなんでしょう。」
え、なにそれ怖い。
彼女が出ていったので広間には高瀬とかぐや姫ふたりとなった。
「こっちはどうするの?早くしないと、さすがにフッドもお姉様も街全てを洗うには時間かかるでしょうけど必ず見つけてくるわよ。」
「そうだろうな。」
「何を呑気に、、、」
「お前、龍神の真意がわかってないのか?」
「…は?」
追跡の魔法が聞かない以上、この勝負はどれだけ頑張ろうと白雪姫側が先にたどり着くのは目に見えている。だから、彼は勝利条件を、容疑者を連れてくることにしたのだ。
「あんたも気づいてたんだろ?フッド。」
「…俺はただ姫様の命令にしたがったまでだ。」
屋根の上から軍服姿のフッドが現れた。
「い、いつから…?」
「ずっとだよかぐや。こいつは外に行った振りをしてただけでずっとここにいた。」
「…ちょっと早すぎる気もするんですがね。」
背後に気配を感じ、振り向くと精霊の力か滑るようにこちらに向かってくる白雪姫の姿があった。そしてそれに引きずられるように小さな人のようなものがいた。手配書にあったあの男だ。しかしこの短時間で本当に見つけ出してくるとは全く持って末恐ろしい。男はしっかり気絶させられているようでピクリとも動かない。
「…龍神様も遠まわしなことをするのね。さっさと勝負させてくれれば良かったのに。」
まぁ恐らく仕事をサボりたかったのも理由の一つなのだろう。
「お姉様。私は…。」
「今は言葉を交わすときではないわ。あなたも魔法を有しているのでしょう。それに、あなたの付き人はやる気満々のようだし。」
「当たり前だ。俺にとっちゃ生きるか死ぬかの瀬戸際なんだから。」
先手必勝、懐からうちわを取り出す。火炎魔法のうちわで目くらましにでもなればと思って振りかぶるが、瞬間、一陣の風とともに後ろからうちわが切り捨てられる。
「あなたも懲りない人ですね。」
返す刀で振りかぶられた刀身を工具で受け止める。真正面から受け止めた工具が折れ曲がる。どれだけの馬鹿力なんだこいつは。絶え間なく続く剣戟に間一髪で対処していく。その間にもフッドの剣速は加速している。これが進化魔法。相手が強いほどさらに強くなれる魔法。
横1文字にふり抜かれた刀を受け止めきれずに壁に打ち付けられる。
一瞬の目眩の後、視界に映ったのは刀を大きく振りかぶったフッド。反応しようと体を動かすがもう間に合わない。せめて防御をとろうと両手で頭を庇うが、実際に体を襲ったのは側面からの鈍い痛みだった。弾き飛ばされた先で少し痛みに悶えながらも目を開くとそこにはフッドの刀を氷魔法を使ったサーベル型の氷柱で受け止めるかぐやの姿があった。
「姫様。邪魔立てするなら容赦は致しませんよ。骨の1本は覚悟していただきます。」
「ふん、あんたの魔法は、複合魔法じゃない。あなたの進化魔法、ここで超えてみせる。」
「まがい物で勝てるほど、俺の魔法は安くありませんよ。」
「そんなもの、やってみなきゃ分からないわ。高瀬、こいつは私がもらうわ。お姉様の相手はあなたがしなさい。」
ちらりとこちらを一瞥すると氷のサーベルと刀の打ち合う音だけが聞こえてくる。氷が何度も折れてはすぐに作り直しているようで、破片があちこちに飛び回る。ただ、やはりかぐやの方が分が悪いようで氷のサーベルの壊れる速度が早くなっていく。
震える足に喝を入れ、立ち上がる。見据えるのは千の精霊を従える白雪姫。ただしその瞳には様々な思いが錯綜しているようでどこか儚い印象を与える。
「…あのかぐやがね。あなたがそうさせたのかしら。」
「あん?」
「なんでもないわ。」
彼女が出したのは数十の色とりどりの精霊。さっきエコーの魔法フル稼働したのにこれとか、こいつ竜種とか?
「っ!あぶね、これ1発でアウトだな。」
いきなりの風魔法によるカマイタチの斬撃で床がえぐれた。持久戦は絶対的に不利だ。出し惜しみできる余裕はなさそうだ。
多彩な魔法ではあるが、フッドに比べ、速度のない白雪姫の魔法はうちわで対処出来た。どうやら異なる魔法属性は同時使用ができないようだ。おかげで1番恐れていた全包囲攻撃は飛んでこない。それでも最低3つの魔法は飛んできているので体をうごかし続ける。そして、やっとの思いでそれに辿り着いた。
超貴重なものなのだが背に腹は変えられない。
取り出したのは手のひらサイズの金属塊。そしてそれには蓋がついており、開けるとボタンがある。これはシーナの開発した転移魔法機械であり、金属塊のボタンを押すと、その機械に登録したものを呼び出せる。唯一の欠点は、この機会は座標交換というものらしいので、対象物のあったところに機械が飛んでしまうため、出すだけのものと言った点だ。
そして、ボタンを押す。手から機械が消え、出てきたのはひとつのうちわだ。女竹を使用した柄は手に馴染み、それでいて華美な装飾のないそれは、機能美に優れている。
「さて、リベンジマッチと行こうか。」
丸亀うちわ、京うちわと並び三大うちわと称されるその名は房州うちわという。
房州うちわ、京うちわ共に資料が少なくて具体的なことがあまりかけないのが残念です。誰かうちわ職人に知り合い居ないものでしょうか。いないですね、分かります。
調べてみたらこの房州うちわというのは竹から作れるのが一人しかいないという絶滅危惧種っぷりでした。やばいですね、詰んでますね。これを読んでいる酔狂な人の中から後継者が現れることを願っています。
無理ですね、分かります。
レポートとバイトで更新不定期になりそうです。ごめんなさい。