「あれ?うちわ職人の話なのにうちわの出番少なくね?でも製造工程多すぎワロタ。」
…だいたいこんな感じです。
うちわ職人の朝は早い。
午前6時。雑木林に入って素材の竹を探す。俺の作るうちわは柄と骨を1本の竹から作るため竹はなくてはならない。いくら成長の早い竹でも毎朝取っていればだんだん枯渇する。そんな時は植物魔法の使い手を呼んで竹を生やしてもらう。しかしいいお値段なのであまり使いたくはない。
竹をとってくるとうちわのサイズに切り分け貯水槽に入れる。本来は三日間漬け込んで柔らかくするのだがそこでこの秘密兵器である。
てれれれってれーという効果音(口笛)とともにタンスから1枚のうちわを取り出す。
変化魔法のかかっていないこのうちわはしかして柏工房最高のうちわのひとつだ。
ギミックは時間経過の魔法。つまりは時を進める魔法である。ただ進めるだけの一方通行の能力はこのうちわを扇いで通勤すると数秒後、数十秒後の時間を自分に経過させ擬似的なワープ機能を用いて普通に通勤するより半分ほどの時間で移動できるんじゃね?と考えて作ったものだ。しかし実際作ってみたら普通の熱風うちわを作るより魔法工程が数倍繊細な作業でこれを作ったら一発でげんなりしてしまった。
その製作難度の高さから市販はやめてひみつ道具のひとつになった。
時間経過うちわを30分間貯水槽の竹にパタパタ扇ぐと3日の時間経過を起こせる。まぁ魔力は割と使うが。
ここまでが下準備。ここから「骨」と「貼り」ふたつ合わせて計47の工程を経てうちわを作る。
「ふぁー、おはよ。」
そこで、間の抜けた声があがる。
俺の寝室を奪い取り作業場生活を余儀なくさせた張本人。かぐや姫だった。
「朝早いのね。びっくりだわ。」
寝巻き+髪ボサボサの状態で出てくる神経の方がびっくりだよ。あと、本当に緑目はカラコンだったらしく黒目だった。
「またうちわ作ってんの?飽きないわねー。」
「うるさいな。仕方ないだろ仕事なんだから。それより暇なんなら朝ごはん作ってくれよ。」
「はぁ?王女である私に作らせるわけ?あんた礼儀ってものわかってんの!?」
「うるせぇ!俺は手が離せないんだ!いいから作れっ!」
ぶうぶう文句を言いながらかぐや姫は食事場に入っていく。匿わないと拉致されたとお父さん(国王)にチクると脅されしぶしぶ匿っていた。都合のいい王女だ。
『木取り』と呼ばれる竹をまっすぐ縦に割る作業の後、手触りを良くするために『ふしはだけ』という内部の節を削る作業をしていた時だった。
「ご飯できたよー。」
かぐや姫から声がかかった。確かにどこかいい匂いがしている。
行ってみるとテーブルにはフレンチトースト、トマトサラダ、オレンジジュースなどそこそこ豪勢な料理が並んでいた。
「おいっ。これはどういうことだ…。」
先程のは全てかぐや姫サイド。机の反対側、つまり俺側にあったのはいわゆるTGK(卵かけご飯)。なんだこの格差は!
「ちゃんと作ってあげたんだから感謝してよ。」
「卵かけご飯でちゃんと!?調理時間1分もかかんないよね!?」
「馬鹿ね、よく見なさいよ。」
マジマジと卵かけご飯を見つめる。特に変わったものはなさそうだが。
「ちゃんとハーブをまぶしてあるでしょう?」
あ、ほんとだ。若干緑色の物体が…
「って違ーうッ!」
そうじゃないんだ。ハーブを入れたからってTGKはTGKなんだ。
「しょうがないわねー。私の魔力をあんたの料理なんかに使いたくないんだけどね。」
そういって指をパチンと鳴らす。すると目の前に焼きたてのししゃもが出てきた。
「うおっ、そんなことも魔法で出来るのかよ。」
「宮廷執事の魔法よ。感謝してよね。」
なるほど。コピー魔法というチート能力にとって周りが一流の魔法士の宝庫である王族という立場は相性が相当に良さそうだ。というか初めからししゃもが欲しかった。
「今日何かあるの?」
『付け』という編んだ骨を卵形に作る『骨』つぐりの最終作業を終え、『貼り』の作業に移ろうとしていた時、不意にそんなことを聞かれた。
「ああ。今日は今月の後期納期日なんだ。」
「借金の?」
「違う!うちわの話だっ!」
借金は通帳から天引きだこの野郎っ!
「納期って…どこかに売りに行ってるの?」
「ああ。注文の受託と依頼主への配送を斡旋してるところがあるからな。そこへ行くんだ。」
そのためいつもは10枚ほどのうちわを作っているが今日は3枚にして午後から街へ出る予定だった。
「街へ出るのねっ!?」
何故かかぐや姫は目を輝かせている。
「来るつもりか?」
「もちろんっ!ならさっさと作業終わらせてよ!」
「無茶言うなよ。てかお前コピー魔法持ってるのなら手伝えよ。」
「うーん。それはちょっと無理。あんたの固有魔法って地味だけどうちわに色んな魔法組み込む複合型っていう高度な魔法だからコピーできないわ。」
「…案外使えんな。」
「うるさいっ!無駄口叩いてないで早く仕上げてよ!」
柏工房から約2km。街の外側にはミノタウロスが門番をしており、数多くの屋台商が軒を連ね、ユニコーンタクシーが街中を走り回る。そして街の中央には大いなるドラゴンの像が立つ。ここが。
「へぇー!ここが英雄の街かぁ!」
大いなるドラゴンに見守られるこの都市はこの国の産業の中心地として名高い。
半月分のうちわ150枚(変化魔法でボールペンサイズ)をもって街まで歩き、げっそりしている高瀬とは対称に隣の姫様は目をキラキラさせていた。ちなみにだがそのままの姿で出てくると騒ぎになるので変化魔法で浪人姿になっている。
「おい、あんまはしゃぐなよ。」
「だって!お姫様じゃ外に出れないんだもん。ファンタジーに転生したんだからこういう風景こそ醍醐味じゃない!」
一体何がそんなに楽しいのか。俺は5歳で飽きたというのに。
とりあえず重いのでうちわをさっさと運ぶことにした。目的地は街の中央の小さいが立派な店舗付き一軒家だ。
ここが俺の契約している事業代行会社だ。
「ちわーっす。」
ゆるーく挨拶をして扉を開ける。
扉の先には肩まで伸ばした青い髪と灼眼が目を引く麗人がいた。
「おー、柏君じゃーん。おひさー。」
ゆるーく返事をしてくるこの人がここの会社社長、フローラだ。まぁといってもただの人間ではなく半分エルフのハーフなのだが。
ハーフは優れた魔法使いがおおい。彼女の魔法は意識の実像化。簡単に言えば影分身を作れるというものだ。これによって本体は会社で電話対応をしながら各所に赴き契約を取り付いだり商品を運搬したりする。最大20人まで可能らしい。
「今月分ここに置いときますねー。」
「はーい。はい、今回の報酬と来月の依頼書ね。」
彼女の手から茶封筒を受け取る。フローラさんは手続きが面倒という理由でいまどき珍しく給料手渡しだった。
魔法うちわ1枚の相場が8000円ぐらいなので120万ぐらいだ。ありがたや…。
「あんたって…意外と稼いでんのね…。」
フローラの店を出ると、心底意外そうな目でかぐや姫がこちらを見てくる。失礼な奴だ。
「借金とかローンとか言ってたからてっきり毎月10万ぐらいだと思ってたわ。」
「おいっ。借金があるのはあの山を買ったからだ。」
うちわ作りに安定した竹の供給は必須でありもう山ごと買っちゃった方がはやくね?という短絡思考の結果家でローンが必要になってしまった。まぁ、他にも理由がなくもないのだが。
その時、街の中心で賑やかな声がした。どうやらまたやっているようだ。
「さあさあっ!シーナ開発所の新作メカだよっ!よってらっしゃい見てらっしゃいっ!」
人混みの中心で女子小学生くらいの小さな1人の女の子がたたき売りをしていた。
「あ、高瀬っ!」
彼女は俺を見つけると笑顔を振りまいた。
何を言っていると思うかもしれないが彼女こそこの俺・柏高瀬のライバルである。
というわけでうちわの製造工程も少しは触れようと思います。しかし、本文でも書いたように全行程は47工程あります。多すぎ…。これ全部書いていくと絶対飽きるので少しずつ出していこうと思います。あと、本作でのうちわの作り方は丸亀うちわといううちわの製造方法を参考にしております。
(注)読み飛ばしOK
☆今回登場した工程
・竹挽(たけひき)…作業その1。竹をノコギリでうちわのサイズに切り分ける。平均40-45センチ。
・水かし…作業その2。切った竹を20-30本の束にして3-4日水につける。これにより水分を含み加工しやすくなる。
・木取り…作業その3。水かしした竹をうちわに合う幅に縦に割る。まっすぐ割れる竹の性質を利用する。
・ふしはだけ…作業その4。竹の内側のザラザラ感を取るため削る。これにより肌触りを良くする。
・付け…作業その11。『骨』作り作業の最後にして最高難度。その前工程の『編み』によって糸で編まれた竹の骨組みの形を作る。そして各所のムレを直しながら左右対称になるように糸をとじつける。