異世界なのにうちわ職人になりました。   作:柊彩

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畑が荒らされたようですよ?

『貼立(はりたて)。』

うちわの先端から持ち手までの部分を穂と言う。穂にのりをつけ、地紙を貼り付ける作業だ。

 

このときムレがあればそれはうちわの完成度に直結する。その為にも神経を研ぎ澄ませ、一片の歪みなくハケでのりを塗っていく。

そしてのりがかわかないうちに地紙を貼り付ける。

ムラなく、気泡なく。あと少し…。

 

「お昼ご飯って言ってんでしょっ!!!」

 

ああっ!気泡がっ!ムレがっ!

耳元で怒鳴られた。心臓に悪いな全く。

 

「おい!せっかく綺麗にのりづけしてたのに台無しじゃねぇか!今作業に集中してただろっ!ちょっと待てよ!」

「待ったわよ30分ぐらいね!何回呼んでも来やしない!冷めちゃうじゃない!」

 

ため息をつき、もう売り物にはならないこと確定のうちわを置く。仕方が無いのでこういったものは魔法練度を高め、俺の護身用うちわにする。

この女が来てから数日。料理は彼女の担当になった。意外な事に料理の腕はそこそこだ。料理魔法でも使っているのかと聞いたら素で怒られたのでおそらく前世で磨いたのだろう。

 

食事場からは香ばしい匂いがしてきた。

食卓に並ぶのはバタートーストと塩コショウで味付けされた鮭のムニエル。同じ皿にはサニーレタスとプチトマトが添えられなんとも美味しそうだ。

 

…もうお気づきだろうが、先程のはかぐや姫。

反対側に並ぶのは白ご飯。まぁこれはいい。寛容な白米はどんなものにも合う。

そして肝心のおかず。こんがりと黄金色に焼かれ、丸い筒状の中にはかわいらしい黒色がのぞく。そう。これは

 

----ごぼう天(食べやすい一口サイズver.)だ。----

 

いやおかしいよね?確かにしろご飯は何でも合うけど。ごぼう天はないだろ。しかも一口サイズ単体て。

 

「まさか文句があるわけじゃないわよね?この私手作りのごぼう天なんてオークションで1万はくだらないわよ?」

「なわけあるか!スーパーで100円で買えるわ!」

「ほんとにおバカさんなのね。まさかこの私がスーパーで売っているものなんて作るわけないでしょう?」

 

もう嫌な予感しかしないが万に一つの奇跡を信じてじーっとごぼう天を見つめる。何かの魔法でいろんな味の楽しめるごぼう天とか?

 

「産地直送で農薬・化学肥料不使用の最高級ごぼうよ?」

奇跡などありはしなかった!というか力の使いどころおかしいよね?もっとましな料理が欲しかったよ!

 

…でも確かに最高級ごぼうはおいしかったです。

 

 

「高瀬!いるかっ!」

 

白米から大地の旨みを噛みしめていると玄関の扉が開かれ、40代前後の白髪の男性が現れた。

その男性はこの村の村長で、水魔法の使い手だ。普段は人懐っこそうな笑顔をしているが今はどこか険しい。

 

余談だが、雨の少ないこの地方では夏場に田んぼに安定した水を供給するために水魔法が使えるものは村長の元で貯水班に入ることになる。

 

「村長、どうかしたんですか?」

「畑が荒らされとる!オークらの仕業かもしれん!」

 

村長に連れられ畑に行ってみる。冬の今の時期に作っているのはなばなや大根だ。被害にあったのはどうやら大根畑のようだ。立派な青首大根が地面から5センチほど顔を出している。もう少しすれば葉が横に広がり、ちょうど収穫時だ。

 

「ひどい…。」

隣でかぐやが呟く。その畑の敷地の3分の1程が失われていた。特徴的なのはその荒らされ方。イノシシなら地面を掘りまくるので地面がむき出しになる。しかし今回は違う。大根があったであろう場所に、等間隔にこんもりと土が盛っている。まるで、人が抜いたように。

 

これはつまりイノシシではない。盗賊や獣人(オーク)ぐらいしか考えられなかった。

 

「夜中警備のものが犯人を見たとのことじゃ。とても小さくてすばしっこかったんで鉄砲が当たらんかったらしい。」

 

ちなみに鉄砲というのは俺のアイデアでシーナが作ったものだ。もちろんただの代物ではない。小規模な爆発魔法と電気魔法の組み合わせで作られたサブマシンガン。

…まぁ。といっても銃身が固定せず命中率が酷い。そのため影で無い方がマシんガンと呼ばれているのは秘密だ。

 

それでも訓練された夜警が取り逃したのなら相手は相当なのだろう。

「高瀬、お前の力で犯人を捕まえてくれんか。」

 

そこで俺に話が回ってきたのか。俺は時折こういった事に呼び出される。俺の戦闘能力を見込まれているようだ。

…え?職業?うちわ職人ですが?

 

「分かりました。依頼を受けましょう。」

もちろんボランティアでやっている訳ではなく報酬として新鮮な野菜を分けて貰える。これがwin-winの関係というものだ。

 

 

「…にしても、お前も案外すみにおけんな。どうやったらあんな美女連れ込んだんだ?」

帰り道。かぐやに聞こえないよう小声で村長が聞いてくる。

「どうやってって言われても…」

竹から生まれてきました、なんて言えるはずがない。答えに詰まり、そしてふと違和感に気づく。

 

「村長、あの子に見覚えはありますか?王女とかそっちの方面で。」

「ん?いや、ないが?あんなかわいい子見たら忘れんだろ。」

 

おかしい。かぐやは今変化魔法をかけていない。つまりここにいるのは紛れもなく王女かぐや姫なのだ。なら、見たことない、なんて普通はありえないだろう。

 

「というか、お前、知らんのか?この国の王女様って言ったら白雪の姫様ひとりだぞ。いくらかわいいからって王女は言いすぎじゃないか?」

 

そういって村長は笑いだす。だがその笑い声はひどく遠くに感じられた。王女は、白雪姫ただ一人?

そうだ。冷静に考えればわかることだった。いくら情報の伝達機能が低くても、一国の王女が失踪してなぜ街の様子は何も変わらなかったのだ?

 

 

なら、、、

視線を向ける。かぐや、お前はいったい、なんなんだ?

 

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「…あんたが今、考えてること、当ててあげよっか?」

夕食時、不意にかぐやがそんなことを言い出す。そのときは珍しく二人とも同じメニューだった。

「…なんだよいきなり?」

そこで、かぐやはガラスのような、はかなげな顔になる。

「…私がほんとに王女なのか、気になるんでしょう?」

むせこんだ。確かに気になってはいたが表には出さないようにしていたのに。

「ごめん、魔法の一つにね、心を読む魔法があるの。…なんで聞かなかったの?」

その理由は自分でもよくわからなかった。でも。

「言いたくないんだろ?じゃあ言わなくていい。」

「…スパイとか、そういうことは考えなかったの?」

「俺の心が読めるんだろ?なら聞く必要はないだろ。」

「…ありがとう。」

 

その言葉の真意はわからない。でも、これでいいような気がした。とりあえず、今のところは。いつか、彼女が話してもいいと思えたとき、改めて聞かせてもらおう。

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夕食を終え、約束通り夜警に出る。とりあえず護身用うちわは10本。反対したがかぐやもついてきた。

 

畑に来てみるとガサゴソと音がする。どうやら二夜連続で荒らしに来たらしいな。だがその愚行を悔いるがいいッ!

 

「そこまでだぜ泥棒やろうっ!大人しくお縄に…」

言葉に詰まる。畑で必死に大根を抜いていたのはシーナよりさらに小柄の、10歳ぐらいの女の子だった。

肩にかかる緑の髪が揺れ、緑の両目が俺をとらえる。彼女の目に映るのはロープを持った俺氏。

え、これ傍から見たら俺って幼女誘拐犯じゃね?

 

とか思ってたら幼女は一目散に逃げだす。しまった!可愛さに見とれてしまった!

だが、彼女の前にかぐやが立ちふさがる。いつの間にか回り込んでいたようだ。ナイス!でもロープはやめたげたら!?

 

もはや逃げ道はない。それを悟ったのか幼女は体をぶるぶるふるわせる。泣いているのだろうか。俺も一緒に謝ってあげる、と言おうとした時だった。彼女の小さな体が膨らみ始め…え、膨らんで…!

 

発達した巨躯、緑の光を鋭い目に宿し、鋭い歯が口から見え隠れする。背中からは大きな両翼。

 

なんということでしょう。可憐でかわいかった幼女は一瞬にして全長5メートルはあろうかという立派なドラゴンになりました。

 

…って、おかしいだろぉぉ!

 




若干かぐや姫でシリアスに入りかけましたが最後のヒロインが登場するまではシリアスに行くつもりは無いんです。残念だったなかぐや姫!


言い訳程度で出てきたうちわの工程について。
・貼立(はりたて)…『貼り』の作業その3。うちわの穂の部分にのりをつけ、地紙を貼り付ける。
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