本当は2回に区切るべきだったかも知れません。が、ひと段落つくとこがなく…。
この世界には多様な種族が存在している。その中でも、ドラゴンというのは最も最強に近い種族だと言われている。一切ご飯を食べなくても生きていけたり、死の間際まで体の老化が起きなかったりといろいろ規格外だ。
が、一番の特徴はその巨体の通りの莫大な保有魔力量だ。こどもでも成人男性の50人分の魔力を持っている。成体なら平均して300人分だ。
…そのドラゴンが、今、目の前にいる。
全長5メートルほどで、成体なら20メートルはくだらないことからもおそらく子供だろう。
…でもね?ドラゴンはドラゴンなんだよ?
一介のうちわ職人の出番じゃないとおもうんだ。
とか思ってたらドラゴンさん体を翻して尻尾を叩きつけてきた。紙一重でかわせたが地面が抉れている。
大根がっ!いやそれより俺の命がっ!
ドラゴンはその豊富な魔力で常時肉体に高濃度の魔力を宿している。それは攻守一体。体に触れただけで高出力の魔力の餌食となり、こちらが攻撃しても魔力の鎧に防がれる。
唯一の救いはその巨体ゆえ攻撃がどうしても大振りになることだ。そのためなんとか攻撃をよけられた。
だが、いくら専守防衛に努めても攻撃できなければ意味はない。何とか攻撃できないものか…。ガッ、という鈍い音とともに足がもつれた。見るとペシャンコになった大根の葉が絡みついていた。思考に気を取られ、足元がおろそかになっていたようだ。
「やばっ!」
焦れば焦るほど体は最善とは対極の行動をとってしまう。
ここぞとばかりにドラゴンが右腕を振り上げる。
なんとか葉っぱを振りちぎったがもう遅い。
振り下ろされる腕は速度を増し。
衝撃。そして、稲妻。
一瞬、何が起きたかわからなかった。ただ、目の前には憎らしげにこちらを見るドラゴン。そして、ドラゴンの攻撃を蹴り飛ばし、俺の前に立つかぐやの後ろ姿があった。
さすが王女だ!…え?いやいや、王女はここまで戦闘能力は持たないだろ。こいつバーサーカーか何かか?
「雷魔法、展開。」
低く呟き、かぐやは目にも止まらぬ速さで縦横無尽に駆ける。あちこちから地面を蹴る音と稲妻の音が聞こえ、ドラゴンの体に蹴りを入れていく。その度にドラゴンの巨体が大きく軋み、苦しげな声を上げた。
「とどめっ!」
地面を大きく抉り、ドラゴンの腹めがけ突っ込んだ。
グォォォォ!!!!
瞬間、爆音が耳をつんざく。ドラゴンが危険を感じたのか特大の咆哮を出したのだ。これにはさすがのかぐやも退いた。さすがにそう簡単にはドラゴンは倒せない。
そして、ドラゴンの体から光が発せられた。
爆裂魔法でも仕掛けてくるのか!?距離を取らなくては!
だが、光はますます強くなり、目も開けられなくなった。ちらりと横を見るとかぐやもまた動けていない。せめて、彼女だけでも…!
手を伸ばす。あと数センチ。届けっ!手が彼女の服に触れた瞬間、ひときわ強い光が俺達を飲み込んだ。
だが。思っていた衝撃はいつまでたっても来なかった。
「何やってんのよ。」
ペし、と頬を叩かれた。恐る恐る目を開く。
まず見えたのは不機嫌そうなかぐや。そして。
壊滅した大根畑の土の上で平伏し、頭を垂れる、いわゆる土下座を行っている緑髪の少女。え?これどういうこと?
「ずみまぜんでじだ!!」
泣きながら、少女は頭をよりいっそう地面に頭を擦り付けた。
「…あなた、はぐれ種ね?」
かぐやはゆっくり口を開く。
はぐれ種。ごくごく稀に種族の特性を持たずに生まれることがある。それらの個体の総称だ。
「うう…はい、私は竜種ですが…魔力を持ちません…。」
怯えた目で少女が顔を上げて答える。
「なるほどね。だから群れからはぐれちゃったと?」
「はい…。」
ドラゴンには大きく3つの生き方がある。
1つは自然の中でドラゴンの群れの中で生きること。死と隣合わせではあるがその分自然の中でのびのびと生きていける。
2つ目は人間界に加わりその豊富な魔力で工場などで働く事だ。電気のないこの世界は魔法が中心であり、魔力の多いドラゴンは人間界では超vip的な扱いだ。俺の父親(現場主任)と働いているのを見たことがあるが作業効率が凄まじかった。なまじそのドラゴンを監督する立場の親父は少し腰が引けていた気がする。
3つ目はヌシ、と呼ばれる存在になることだ。これはドラゴンの中でも特に強力な個体が一定の土地の支配者になることであり、その土地に住むものの安全を保証する代わりに一定の収穫物や工芸品を献上させる。
だが、はぐれとなるとその全ては不可能だろう。たかだか10歳の子供にその重責は重すぎる。
「…でも、なんであんなに大根を盗んだりしたの…?」
俺の1番の疑問はそこだ。
ドラゴンというのはその魔法量の高さから一切ご飯を食べなくても生きていける。まぁ魔力を持っていないのならそれが通じないのかもしれない。
…が、畑の3分の1というのは多すぎる。
「それは…おとうさんに言われたから…」
「…お父さん?親がいるの?」
「群れから追い出された私をお父さんが拾ってくれたの。おとうさんが、必要だからって…。」
…それは違う。多分、君は利用されている。はぐれ種の大半は、盗賊達の使い捨ての道具にされる。この子もおそらく…。
「私を、その人のところに案内して。」
かぐやが口を開く。
「お父さんに何をするの?」
「あなたは騙されているわ。その人を、殺しに。」
「かぐやっ!」
確かにそうだ。だが、そんなにはっきりと言わなくても!
「嫌だ…、お父さんが…殺されるなんて…!やっと…やっと私を…私を認めてくれたのにっ!」
少女の目から涙が溢れた。ドラゴンでも、子供なのだ。
「そんなものは幻想なのよ。」
「嘘だっ!お父さんは約束したもん!死ぬまで私の家族なんだっ!」
かぐやの冷徹な言葉に少女は顔を歪める。すこし、きつすぎやしないだろうか。と、彼女は右腕に魔力を貯める。
「おいっ!何をやって…!」
「黙ってなさい、この子には必要なことよ!」
かぐやは少女の心臓部に魔力を貯めた右腕を突き立てた。
「ごはっ!?」
少女の口から血が吹き出た。気を失いかけてはいたが、死んではないようだ。
「何やったんだ。」
「…べつに。殺してはないわよ。」
「ふむ、ドラゴンを負かすとはね。」
そのとき不意に、背後から男の声がした。
振り向くと、森の影から一人の男が立っていた。中肉中背のその男はこちらを一瞥すると邪悪な笑みを浮かべる。
「お父さんっ!」
少女が叫ぶ。なるほど、こいつが…。
「お父さん、ごめん、わたし…負けちゃった…。」
「いいんだよ。お父さんは怒ってないよ。だって。…はぐれ種に期待などしていないからね。」
しまった!
そう思った時、すでに少女の体を水魔法の弾丸が貫いていた。彼女の顔が苦痛に歪む。
「おとうさ…なんで…。」
「喋りかけんな出来損ない。お前みたいな娘なんていらねーよ。」
「さて。邪魔なやつは消したし、お前らにも消えてもらうか。」
男はケタケタと笑う。
「…なんで。」
「あん?」
「なんで殺した?」
「そんなの決まってんだろ?1度負けたヤツはもう使い物にならん。はぐれのドラゴンなんて珍しかったんだがなぁ。そんじゃ、お前らも死んでくれや。」
少女の顔が思い浮かぶ。
「…おれはお前を殴る資格はない。」
「…はぁ?」
「俺はあの子を救うどころか知ることさえなかった。そして、お前は偽物でもあの子に希望を与えていた。それだけでもお前はあの子にとって生きる希望だったんだろうさ。」
「何を言ってんだよ?」
「だから。これからやることはただの逆恨みだ…!」
うちわを全力で振る。そのうちわは煙幕魔法。ふれば煙が現れる退却用のうちわだが今回ばかりは別の用途だ。
「何をしやがった!?」
男から声が上がる。その間に煙に紛れ男の元へかける。
と、煙を超えた先に男を見つける。同時、握りしめた拳が男の顔を捉えた。
グシャ、という鈍い音が聞こえ、拳に衝撃が走る。勢いのまま拳を振り抜くと男の体が吹き飛んだ。
「…気はすんだ?」
男をロープで縛った後、かぐやが俺に聞いてきた。
「…ああ。だが、結局この子は守れなかった。」
視界に映るのは涙に濡れた少女の亡骸。俺がやったのは結局は憂さ晴らしだった。
「いや。これで良かったのよ、この子のためにも。」
そんな俺の気持ちとは裏腹にかぐやはこんなことを言ってきた。
「お前…!それ、本気で言ってんのか… !」
「…あのまま、こんな男に騙されるなら1度死んだ方がいいわ。」
「かぐや…っ !」
「だから。今度はちゃんと助けてあげるのよ。」
指を弾く。すると少女の胸が光りだし、傷が消えていく。
「お前…、あの時…!」
「………蘇生魔法。本当は秘術のひとつなんだけど。」
傷が消え、少女が目を開けた。本当に、生き返った。
だが、俺たちよりも、少女自身が驚いているようだ。そんな彼女にかぐやが近づく。
「…知ってると思うけど。あんたは1度死んだ。あんたがお父さんと呼んでいた男にね。」
「…っ。」
「だから。あんたとこの男はもう家族じゃない。そして。生まれ変わったあんたは、今から私達の家族よ。」
少女の顔が驚きに変わる。そして、涙を流す。
かぐやが肘で俺を小突いてきた。なにか言えと言っているようだ。
「…えーと。君は俺の子供だ。それでいいかい?」
「…はいっ!」
小さな、けれど確かな言葉が返ってきた。
という訳で念願の緑髪&緑目の女の子を出せました。
割とシリアスになってしまったと猛省しております。
あと、自分の一番のお気に入りキャラなのに(故に?)名前の案が出てきません。良い案ないですかね?(無茶振り)