清滝一門の日常
「兄弟子、もう一局お願いします。」
小学四年生の少年、九頭竜八一は悔しそうに俺に求める。
「待って八一、次は私がお兄ちゃんに指してもらうの。」
小学二年生の銀髪の少女、空銀子は少年を将棋盤の前から無理矢理追い出そうとする。
このままでは取っ組み合いの喧嘩になりそうだったから、仕方なく仲裁案を出す。
「わかった、わかった、2人とも同時に相手するからもう一個将棋盤出すよ。」
「「!?」」
俺は2人の表情が勝負師の顔に変わるのを横目に見ながら将棋盤をもう一つ取りに行った。
「絶対次は勝ってやる!」
「私も勝つもん」
いくら兄弟子といえどもニ面指しで負けるわけにはいかないと弟弟子と妹弟子は気合が入っている。
駒を並べる手にも力がこもっている。
あんまり強く叩きすぎると壊れちゃうからほどほどにしてね......
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結局ニ面指しは俺の二勝で幕を閉じた。
「まだまだ、修行が必要だな。」
俺は得意げに弟と妹にドヤ顔をする。
これで兄弟子の威厳はしっかりと保たれた。
ここまではよかったのだがここで想定外の事件が起こってしまう。
俯いて盤面を見ていた二人頬から滴がポタリと......あれ?
「「うわぁぁぁぁん」」
負けた2人は悔しさのあまり泣き出してしまった。
「うわぁ!?ごめん、ごめん、2人とも確実に強くなってるからね。そんな泣かないで。」
俺は焦ってこの状況を変える最善手を探す。
しかし俺が最善手を導き出す前に時間切れになってしまった。
「また2人泣かしてダメでしょ!」
高校二年生の俺たちのお姉さんである清滝桂香さんが襖を開けて中に入って来た。
「違うよ、姉さん俺何も悪いことしてないんだよ。」
言葉の通じる桂香姉さんに弁明を開始しようとしたその矢先に、言葉の通じない方の人がドスドスと和室に近づいてくる。
アカン、これめっちゃ怒ってる時の師匠だ。
「コルゥラ、勇気、喧嘩するな言うたやろ。」
俺たちの師匠清滝鋼介が先生が荒々しく襖を開けて中に入って来て俺を叱りつける。
ゲンコツを一発くらい、あまりの痛さに......
「うわぁぁぁぁぁぁん。」
「ちょっとお父さん、暴力はダメって言ったでしょ!」
「せやかて......」
これが将来数々の将棋タイトルを獲得することになる清滝一門の日常だった。
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あの後たっぷり師匠に怒られた俺は縁側で1人泣いていた。
そこにさっきとは違って優しい雰囲気を纏った桂香姉さんがやって来た。
「ようやく2人とも泣き止んで寝てくれたわ。」
「ほら、勇気君も今日は遅いからもう寝よ?」
「......」
拗ねて無視を決め込んでいると桂香姉さんは優しく微笑みながら俺の隣に座った。
「なんでお父さんは勇気君をいつも厳しく叱るんだと思う?」
「そんなのわかんないよ。」
素っ気なく答える。
「それはね、勇気君がお父さんの一番弟子だからだよ。一番お兄さんの勇気君には八一君と銀子ちゃんを守ってあげられるくらい強くなって欲しいと思っているんだよ。いや、なれると思っているんだよ・・・」
後半になっていくごとに桂香姉さんの声は小さくなる。
そんな桂香姉さんを見て居ても立っても居られなくなって突然立ち上がる。
そして夜空に向かって高々とこう宣言した。
「わかった、俺強くなるよ。八一や銀子、それに師匠や桂香姉さんも守れるくらい強くなるよ!」
桂香姉さんは一瞬驚いたような顔をして、そしていつものように優しく微笑んだ。
強くなると誓ったあの日から俺はひたすら将棋に打ち込んだ。
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