多くの人に読んでいただいてとても嬉しいです。
ありがとうございます。
僕の作品が良いというよりも、アニメ『りゅうおうのおしごと!』の注目度の高さに助けてもらっている部分がほとんどだと思いますが。
これからも頑張って投稿していくので引き続きよろしくお願いします。
「そう、勇気くんが……」
勇気くんと名人との対局から一夜明けて、今日も私のための研究会が開催されている。
でも今日は私と銀子ちゃんの二人だけ。
「夜は一人で泣いてた。朝会った時は表面的にはいつも通りだったけど、時々ぼーっと考え込んでる時があった。」
勇気くんが心配だったから今日は勇気くんには私の研究会は休んでもらうことにした。
電話で伝えたときは今日も研究会やりたそうだったけど、今回は若干強引に休んでもらった。
銀子ちゃんの話を聞いていると思っていた以上に重傷みたい……
今は一人でいる時間が必要だと思う。
「私も人の心配してる場合じゃないか……」
勇気くんのことを考えながら自嘲気味に呟いた。
2日後には研修会の例会がある。
ここで私がBを消せなければ女流棋士への夢が遠のく……いや途絶えると言ってもいいかもしれない。
いや、Bを消せなければ諦めるそれくらいの気概で挑まなければダメだ。
「銀子ちゃん。」
「な、なに?」
私の顔を見て銀子ちゃんが怯えて返事をする。
今そんなに怖い顔してるかな……?
「2日後の研修会でBが消せなければ研修会辞めることにした。」
「え……!?」
「突然決めてごめんね。でも、それくらいの覚悟で挑まなきゃ勝てないと思う、あいちゃんや天衣ちゃんには……」
「……」
銀子ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で私を見ている。
「け、桂香さんがそう決めたなら私は……全力で応援する。」
「ありがとう。」
そして今日も銀子ちゃんは私にみっちりと稽古をつけてくれた。
銀子ちゃんを勇気くんの家まで送り届けて自分の家に帰ってくる。
勇気くんと銀子ちゃんと研究会を始めてから私は、自分がどれだけ周りの人に恵まれていたのかを理解した。
この歳になるまで夢を追いかけることを黙って許してくれている父親。
私のために自分の時間を削ってくれる銀子ちゃんや勇気くん。
私が会いたくないって言ったから距離を置いてくれている八一くん。
勇気くんから聞いた話だが八一くんは毎日勇気くんに私の様子を聞いていたらしい。
これだけ多くの人に支えられている。
それがわかっただけでも25歳まで研修会に居続けた意味はあったと思う。
もし今週Bが消せなくて研修会を辞めることになっても悔いはないかな……
家に帰ると、一件メールが来た。
その差出人は勇気くん。
ーーー
将棋を楽しんで!!
ーーー
内容は見る人が見たら、とても素っ気ないこれから人生のかかった対局をする人にかけるには無責任すぎると思われるかもしれない。
でも、このメールは昨日名人と極限の勝負をしてそして負けた勇気くんから送られて来たもの。
今、誰よりも将棋で苦しんでいる人から送られて来たメッセージがこの言葉であることに私は感動を覚えた。
そしてこのメールは私の中に忘れていた大事なことを思い出させてくれた。
✳︎
「桂香さんがっ、桂香さんが、辞めちゃう。桂香さんを勝たしてあげてよお兄ちゃんっ。」
銀子は家に帰ってくるなり泣きじゃくって俺の足に顔を埋めている。
こんなに泣きじゃくる銀子を見るのはいつ以来だろう……。
「大丈夫だよ、大丈夫。」
昔みたいに銀子を慰める。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。桂香さんずっと頑張ってきたの。誰より努力してだから助けてよっ。」
「うん。」
桂香さんにBが付いてからずっと桂香さんと一緒に将棋を指し続けて一番近くで涙も見せずに見てきた銀子の我慢がついに限界に達したみたいだ。
清滝一門の長女を慰められるのは長男の俺しかできないことだから、黙って銀子の話を聞き続ける。
「俺が桂香さんにしてあげられること……」
今日一日、俺は名人との対局をずっと頭の中でリピートし続けた。
過去の自分の棋譜なんかも引っ張り出して、並べて見たりもした。
完全に迷走している。その自覚はある。
結局何か強くなる当てがあるわけでも思いつくままに将棋と向き合って得た答えは将棋が好きという事実と、将棋を通じて得た、八一や銀子、桂香さんや師匠が大好きということだった。
その桂香さんが研修会を辞める。
女流棋士になる夢を捨てる。
もちろん桂香さんには女流棋士になって欲しい。
でも、もし桂香さんが研修会を辞めて女流棋士にならなかったとしても、俺たちを出会わしてくれた将棋だけは嫌いにならないで欲しい、そう思った。
今俺が桂香さんに一番伝えたいことだけを書いて桂香さんにメールで送った。
✳︎
「今日、連勝してBを消せないようなら……研修会を辞めるつもりです。」
研修会の例会日、私は家を出る前に父親に言った。
「今までわがままを言ってごめんなさい。こんな歳になるまで面倒を見てもらって、それなのに勝手にこんなこと決めて、本当にごめんなさい。」
父親は黙って私の顔を見る。
「けど、そのくらいの覚悟でやらないと……どうせダメだと思うから。」
「桂香……」
「行ってきます」
父の言葉を遮るように私は頭を下げ、家を出た。
私が勝たなければならない理由は他にもある。
名人との対局に敗れた次の対局で勇気くんは完敗した。
中盤の無理攻めで自爆して70手過ぎたあたりで既に『完切れ』状態だった。
明らかに普段の勇気くんではしない負け方。
もし勇気くんに教えてもらってる私が今日負けちゃったら多分勇気くんは立ち直れなくなっちゃうだろう。
だから、私は勝たなきゃならない。
せめてそれが私をどん底から救ってくれた家族への恩返しになると信じて。
研修会に行くと一言も喋らずに静かに対局の時を待つ。
私は意識的に周囲を威圧している。
才能のない私がいきなり強くなることはできない。
だからこそ自分が使える武器は全て使う。
私は……
異様な雰囲気に包まれた中で今日の手合いが発表された。
「清滝桂香くんと夜叉神天衣くん。平手」
「清滝桂香くんと雛鶴あいくん。平手」
これも何かの運命かしら。
私は小さく深呼吸して天衣ちゃんと将棋盤を挟んで向かい合う。
私の一世一代の対局が始まるーー
最近書きたいことがドンドン浮かんでくるけど、その全てを表現し切ることができない自分の文章力の低さが、もどかしく、悔しいです。