清滝一門の長男   作:Rokubu0213

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今回まったく進んでいません。



交錯する兄弟の思い

「かはっ。はぁ・・・はぁ。」

 

 

俺は研修会の雰囲気に押されてトイレで空嘔吐きを繰り返した。

 

 

苦くなった口をすすぐため飲み物を買いに二階の道場へ降りるとー

 

奥まった場所に、姉弟子がポツンと座っていた。

 

その向かい側に俺も座る。

 

「・・・どうも。」

「・・・」

 

 

俺と姉弟子は無言のまましばらくいる。

 

 

「兄弟子は?」

「今はちょっと・・・」

「ああ・・・」

 

 

兄弟子の対局は棋譜でだが俺も確認した。

兄弟子らしくない、厳しく言えば酷い将棋だった。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

お互いにまた黙ったままである。

 

 

「どうして桂香さんの邪魔をするの?」

「桂香さんが女流棋士になれなくてもいいの?桂香さんが大事じゃないの?」

 

 

姉弟子はそう俺に言いたいのかもしれない。

 

 

「ここで何してるんだお前たち?」

 

 

重い空気をぶち壊すように明るい声で兄弟子が来た。

 

 

「「!?」」

 

 

俺も姉弟子もどう言葉をかけたらいいか戸惑う。

 

 

「なんかこうやって3人で会うの久しぶりな気がするなぁ」

 

 

兄弟子は表面的にはいつも通りである。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

 

3人とも沈黙している。

 

 

今日の桂香さんと、あいと天衣の対局はいわば、俺と兄弟子の代理戦争、外から見れば兄弟喧嘩に見られているのかもしれない。

 

 

「俺は上に戻るね。」

 

 

俺は弟子の戦いを見届けるべく、研修会に戻る。

 

 

「俺も行こう。銀子はどうする?」

「あと少しだけ・・・ここに・・・」

 

 

道場の隅で聞くその声は、幼い日にずっとここで将棋を指し続けたがって泣いていた、ちいさな女の子と同じものだった。

 

 

✳︎

 

 

八一の後に続いて重い足取りで3階へと向かう。

 

正直人の心配をしていられる余裕はないのだが、どうしても桂香さんが心配で見に来てしまった。

いや、桂香さんが心配というのは半分は本当だが、半分は言い訳だ。

今はただ自分の将棋からは逃げ出したい、そんな気分だった。

 

 

一人で考え事をしながら研修会の扉の前に行くと、中から泣きじゃくった女の子が出て来た。

 

その子は俺の姿を確認すると鬼のような形相で俺に向かって俺の足をポコポコと叩いて来た。

 

 

全然痛くないし、むしろカワイイ。

 

 

「あんたでしょ!!あのババアに教えたの。」

 

 

あのババア=桂香さん

 

 

「なんのことかわからないな〜。」

 

 

俺は意地悪にとぼけてみる。

 

 

「あんたしかいないでしょっ。あんな将棋教えるの……」

「強かっただろ?」

「……フンッ!」

 

 

最後にもう一度俺の足を叩いてトイレへと消えて行った。

 

 

この様子だと桂香さんは天衣ちゃんに勝ったみたいだな。

 

正直に言うと桂香さんが天衣ちゃんに勝てる確率はそれほど高くないと思っていた。

桂香さんの成長を実感して素直に嬉しい。

自分の教えている人が成長するというのがこれ程嬉しいことだとは思っていなかった。

 

今すぐにでも褒めたい。

 

確かに八一があいちゃんにデレデレなのも仕方ないな。

 

 

あの天衣ちゃんに勝ったと知って、桂香さんがBを消す期待がグッと高まった。

この研修会で天衣ちゃんより強い子などいない、一人を除いて。

 

 

心なしか足取りが軽くなって研修会に入る。

 

 

しかし俺の期待を将棋の神様は嘲笑うかのように粉々に打ち砕いた。

 

 

「!?」

 

 

桂香さんの対戦相手は・・・あいだった。

 

 

不安そうにあいと桂香さんを見つめる八一の隣へ行く。

 

この対局は俺と八一が見届けなければならない。

 

 

「まさか、こんなことになるとはな……」

「本当に……将棋の神様は残酷ですね。」

「ああ。」

 

 

八一が少し視線を彷徨わしてから口を開いた。

 

 

「あの、兄弟子……、昨日の将棋のことなんでけど……いやすいませんなんでもないです。」

「そ、そうか。」

 

 

八一が竜王になって以来、八一が俺に将棋の話を振ることはなくなった。

おそらく八一なりのケジメなんだろう。

同じプロ棋士出てある以上いつかは戦わなければならない相手、その相手に必要以上に将棋の情報を与えるのはデメリットしかない。

それは多分勝負師としては正しい考え方。

 

 

しかし、敵であっても家族と大好きな将棋の話をしたいというのは俺の甘えなのだろうか……。

 

 

その後俺と八一は一言も喋らずに自分たちの教え子の対局が開始するのを待つ。

 

 

そこに銀子もフラフラと危ない足取りで俺たちの横に来た。

 

 

「姉弟子大丈夫ですか!?」

「大丈夫。見届ける。」

 

 

銀子の様子を見て改めて銀子がどれほど俺たち一門のことを大事に思っているのかを再確認する。

 

今は、微妙な関係だけど絶対に八一とも元の関係に戻れると、戻らなければならないと思った。




すまない、天衣ちゃんが活躍するのはもっと先の話なんだ。


ほのぼのした話も書きたいと思う今日この頃。
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