清滝一門の長男   作:Rokubu0213

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長男の旅立ち

史上最年少14歳のプロ棋士誕生

将棋の歴史がまた一つ塗り変わった。歴史を変えた子供の名は山橋勇気、清滝鋼介九段の門下生である。

ープロ棋士になった率直な気持ちを教えてください

ーーまだ実感はないけど、ただただ嬉しいです。

14歳でプロ棋士になった天才は、年相応の初々しいインタビューで場を和ませた。

 

 

 

「兄弟子、この写真緊張しすぎてしょ。あははははっ。」

 

「顔が引きつってる、フフッ」

 

 

八一と銀子は雑誌将棋次元の俺の記事を読んで大爆笑している。

俺の四段昇格を口実に関西中のプロ棋士を家に招いて師匠は酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしている。

 

 

「あんなに一杯の大人に囲まれたら絶対みんな緊張するんだよ、馬鹿にするな!」

 

 

俺と八一と銀子が喧嘩している横でいつもは止めてくれる桂香姉さんも口元を隠して必死に笑いを堪えている。

 

 

 

「ちょっと、桂香さんまで笑ってるやん。」

 

 

指摘すると桂香さんはとうとう我慢できなくなって、吹き出してしまう。

 

 

「もー。」

 

 

今夜の清滝邸は笑いで溢れていた。

 

 

✳︎

 

 

夜も更けてきてどんちゃん騒ぎしていたプロ棋士達が一人また一人と帰っていく。

最後の一人を見送って、桂香さんが居間に戻ってきた。

その顔にはさすがに疲労の色が濃く出ている。

 

 

「ほらみんな、もう遅いから早く寝なさい。」

 

 

桂香さんが戻ってきたことにも気付かず、将棋を指す銀子と、隣でそれを見る八一。

今日は中々将棋を止めようとしない。

 

 

「詰み、15手詰めだよ。」

 

「え!?そんなはず……あっ。」

 

 

銀子は自分の玉が詰むことを確認すると悔しそうに口を噛む。

 

「もう一局!」

 

「次は俺!」

 

「もう遅いし、3人とも明日も学校でしょ。」

 

 

桂香さんは2人を注意するしかし、本気で止めようとはしていないのはその声音から分かる。

 

 

「だって、明日からお兄ちゃんいなくなっちゃうんだよぉ。」

 

 

銀子はそう言うとシクシクと泣き出した。

俺はプロ棋士になるのと同時に一人暮らしをすることを決意した。

そして明日から俺は福島のアパートに一人暮らしすることになっていた。

銀子の言葉を聞いて八一も寂しそうに俯く。

ついさっきまで楽しい笑い声に包まれていた清滝亭は一転して感傷的な雰囲気に包まれていた。

 

 

✳︎

 

 

結局その後も将棋を指し続けとうとう銀子は寝落ちしてしまった。

 

 

「置いてかないで・・・」

 

 

銀子は切なそうにそう言いながら俺の服の袖を小さい手でチョコンと掴んでいる。

俺の妹はやっぱり世界一可愛い。

愛しくなり寝ている銀子の頭を優しく撫でる。

 

 

「どこにも行かないよ。」

 

「ううん……やめて。」

 

 

鬱陶しそに寝息をたてる。

愛らしい姿に思わず顔がにやける。

 

 

自分で決めた覚悟が揺らぎそうになる。

いつまでもこの家でみんなと楽しく過ごしたい。

でもこの家では俺は強くなれない、盤上では常に1人で戦わねばならない。

そのためには甘えを捨てなければならない。この家にいたら俺はみんなに甘えてしまう。

 

 

桂香さんが銀子を部屋へと連れて行き部屋に残ったのは八一と俺だけ。

 

 

「八一、一回本気で指すぞ。」

 

 

八一が驚いて顔を上げる。そして嬉しそうに笑った。

 

 

「よろしくお願いします!兄弟子!」

先手は俺。7六歩8四歩2六歩・・・一般的な駒組みが続く。

八一が10手目俺の角を取る。

八一はお互いに得意な角換わりの将棋に持ち込む。

 

一番得意な戦法で挑んでくるか、いいだろう受けて立とう!

余計な考えを全て排除して棋士モードになる。

 

 

✳︎

 

 

69手目俺の攻めの拠点の歩の後ろに角を打って俺は優勢を確認する。

八一も必死で粘り続けたが99手目3二金打ちを見て八一は投了した。

 

 

昨日より確実に強くなっている。八一の才能が俺を上回っているのは最初から気付いていた。

しかし最近その成長が目覚ましい、八一もすぐにプロ棋士の世界にやってくるだろう。

俺はこの一局でそう確信した。

 

 

「八一、待ってるぞ。」

 

「うん、絶対兄弟子と同じ世界にすぐ行く!」

 

 

翌朝早朝俺は師匠と桂香さんに見送られながら静かに家を出た。

 

 

「辛くなったらいつでも帰ってこい。ここはもうお前の家だぞ。」

 

「ご飯は毎日三食食べるのよ。つらくなったらいつでも帰ってきていいからね。」

 

 

いつも厳しかった師匠の始めての優しい言葉に涙が溢れそうになる。

桂香さんは心配そうに、だけど笑顔で送り出してくれる。

涙を必死に堪えながら俺を棋士として人間として大きく成長さしてくれた師匠と桂香さんに深く頭を下げお礼を言った。

 

 

「行ってきます。」

 

 

プロ棋士になって一人暮らしを始めて俺はさらに将棋に打ち込んだ。




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