俺は今関西将棋会館の前である人を待っている。
ぶっちゃけ対局前よりも緊張している。
その原因は今回の待ち合わせ相手にある。
「いはりました。」
俺の前にやって来たのは対局時の着物姿でもなく、記者モードのスーツ姿でもない私服姿の共御飯さんである。
白のワンピースを着ていてなんというかその・・・胸がとても強調されている。
俺は頑張って胸から視線を外そうとする。
「こ、こんにちわ。」
「ウフフ、まだ朝ですよ。」
「ひゃい!?」
万智さんは耳元で甘く囁いて来た。
なぜ俺がこんなに取り乱しているのかというと、話は昨日にまで遡る。
✳︎
関西将棋会館の棋士室で同じ関西将棋連盟所属のプロ棋士の人と研究会を行い、帰ろうとした時のことであった。
「山橋さん!」
名前を呼ばれて振り返ると観戦記者モードの鵠さんが居た。
「あの・・・明日・・・10時に将棋会館の前に来てくれませんか?」
いつもの鵠さんのような余裕が感じられない。
「暇だから大丈夫だけど何か用?」
「えっと、用というかその・・・」
鵠さんは両手を前に組んでモジモジとしてなかなか言い出さない。
普段とは全く違う女性らしい鵠さんに思わずドキドキする。
「デートして欲しいんです!」
「!?」
「それでは待ってますね!」
そう言うと鵠さんは走り去ってしまった。
・・・デート!?
確かに万智さんとは同い年で同じ関西所属の棋士だから今までも話す機会はたくさんあったように思う。
でも俺万智さんに好意持たれるようなことしたっけなぁ。
しばし考えていると俺は衝撃的なことに気付いた。
ーー初デートだ!ーー
生まれてからずっと将棋ばっか指して来た俺にとってデートなどというものは完全に別世界のものだと思っていた。
そんな俺もついに初デートをする日が・・・
ヤバイ、そう考えると急に緊張して来た。
どんな服着ていけばいいんだ?どこ行けばいいんだ?というかそもそも何話せばいいんだ?
あーもう準備することが山積みだ。
早速研究しないと!
その夜俺はタイトル戦前よりも高い熱量でデートの研究を行った。
✳︎
「ほな行きましょか。」
万智さんは俺の手を引いて歩き出した。
あれ?
俺色々と行くとこ考えてたんだけどなぁ。
万智さんに連れられて最初に行った場所は水族館だった。
大阪には海◯館という全国的にも有名な水族館があり、カップルの定番スポットになっている。
ここも昨日の研究で検討済みだ!
俺は自信を持って万智さんの後に続いて入館した。
「勇気はんは、こなたは魚やとなんやと思います?」
二人で魚を見ながら歩いているといきなり万智さんが聞いてきた。
「うーん、オットセイかな。何となくおっとりしてそうだし。」
「何かイメージがいまいちわきまへんなぁ。」
あら、共感してもらえなかった。
「じゃあ、俺のイメージは?」
「そうですねー。」
万智さんは立ち止まって本格的に考え出す。
「クジラですかね。はたから見ると愛らしくて人気がある・・・」
おー、万智さんの評価めっちゃ高いじゃん。
「でも、その実肉食で獰猛です。相手を誘っておいて向こうが近づいてきたら本性を現し、猛り狂う己自身をぶち込む・・・」
何か途中から変な方向に話が進んでる気がするけど・・・気のせいだよね。
その後万智さんオススメの蕎麦屋に入り、昼食を食べて、本屋で万智さんオススメの本(BL)を教えてもらった。
人生初デートは万智さんにリードされっぱなしだったけど、とても楽しかった。
一通り遊んで将棋会館の前まで戻ってきた。
「ではこなたはここで。ありがとうございました。おかげでいいサンプルが取れました。」
「いや、こちらこそ・・・ん!?」
今、万智さん何て・・・
「八一はんを落とすためにはどういう方法が効果的なのか知りたくて協力してもらいました。」
「え、じゃあ昨日からのやつって。」
「全部演技どす。」
ギャァァァァァ騙されたぁぁぁぁぁ
俺が半ば放心状態で突っ立っていると突如万智さんは俺に近づいて耳元で囁いた。
「サンプルとは関係なく楽しかったどす♪」
万智さんは走り去って行った。
やっぱり万智さんは食えない人だ。
万智さんに呆気にとられてしばらく放心状態でいると、後ろから肩を叩かれる。
「何突っ立ってるの?」
「へぇ・・・ぎ、銀子!?」
「今の見て・・・」
「早く帰るわよ。」
そう言うと銀子はドンドン先を歩いて行ってしまった。
・・・見られてないよね?
京都弁ってなんやねん!!(大阪府民並みの感想)
明日も箸休め会です。
べ、別に時間稼ぎしてるわけじゃないんだからね!!