アニメの7局の予告だけで涙腺崩壊しました。
「頑張ってね!」
「行ってきます。」
彼はそう言うと家から出て行く。
その後ろ姿を見送りながら私の心にはモヤモヤがかかる。
今日が何月何日がわかってるのかしら……
彼が完全に見えなくなってから家に戻り、家事を始める。
今日は私は公式戦がないからできるだけ多くの場所を掃除しておきたい。
まずは朝の洗い物を洗い始めるとふと、紙袋が目に入る。
朝渡すつもりが渡せなかった物。
私が勇気くんと付き合い始めてから一つわかったことがある。
それは彼の生活の中心は将棋だということ。
付き合う前からそれはわかっていたことだった、でもいざ付き合ってみると私と彼のみている世界が全く違うことがわかった。
彼は付き合い始めても全くいつもと変わらない。
公式戦前はしっかり準備して早く寝て、何もない日はダラダラ過ごしている。
まるで姉弟で二人暮らししてるみたいに、マイペースに過ごしている。
私は毎日ドキドキしているのに……
そんなモヤモヤを抱えながら家事を進めて行く。
✳︎
午後7時対局を終えた勇気くんが帰ってくきた。
「ただいま。疲れたよ〜」
そう言ってはいるものの圧勝しているので普通より早い時間に帰ってきている。
「おかえり。今から餡作るから一緒に食べましょ。」
「うん。」
彼は着替えに自室に戻り、私はご飯の用意をする。
「手伝うことある?」
彼が着替えを終えて居間にやってきた。
「もうできるから待ってて。」
「わかった。」
彼は素直に座る。
「ジーッ」
彼が何故か私を見てくる。
「どうしたの?何か顔に着いてる?」
「そうじゃないんだけど……」
彼は気まずそうに視線を逸らした。
料理が出来上がって食卓に並べて行く。
今日は餡掛け焼きそば。
餡のトロミをいい具合で自分でも納得できる出来だ。
「美味しいよ!」
彼も喜んでくれてるようで嬉しい。
その無邪気な笑顔を見ると彼が年下の子だということを思い出さしてくれる。
食事を二人とも終わってから彼にチョコレートを渡す。
「ねぇ、これバレンタインだからあげる。」
私はなるべく平静を装って渡す。
「ありがとう!」
彼が嬉しそうに笑う。
「開けるね。」
彼はそう言うと包みを無造作に破る。
「ちょっと!?その包装も可愛いの選んだんだけど……」
「え!?そうだったの?ごめん……」
「まぁ、いいわよ。」
そんなところも彼の可愛いところ。
「ありがとう。本当に美味しいよ!」
「よかった。嬉しいわ。」
「本当に……」
彼の顔が突然曇る。
普段そんな表情を私たちには絶対見せないようにする人だから余計に心配になる。
「どうしたの?」
「あと1ヶ月待って。」
「え?」
「3月になったらさ、順位戦が終わるから。そしたら桂香さんの行きたいところ、どこでも一緒に行こうね。」
「勇気くん……」
彼が私のことをしっかり考えてくれていたことがわかり嬉しくなる。
「ごめんね。付き合ったのに全然彼氏らしいことしてあげられてなくて。」
「そ、そんなこといいのよ。」
彼は私の事も考えてくれている上でしっかりと、将棋にも向き合ってる。
やっぱり彼は私の自慢の彼氏だ。
「じゃあ、3月はいっぱい付き合ってもらうから代わりに、今月は私が彼女らしいことしてあげようか。何かして欲しいことないの?」
「して欲しいこと?」
彼が焦り出す。
将棋を指す時の真剣な表情も好きだけど、年相応のこう言う表情も好きだなぁ。
「えーと……なんだろうなぁ。」
彼は言葉を濁して目が彷徨っている。
こう言う時素直にならないからなぁ。
まぁ、ここはお姉さんがリードしてあげましょう!
「え!?ちょっと桂香さん!?」
彼の頭を無理やり私の膝に持って行く。
「たまには私に甘えなさい。」
徐々に抵抗するのをやめて大人しくなる。
恥ずかしいのか顔はずっと下を向いたままだ。
「お疲れ様。」
彼は八一くんや銀子ちゃんの前では頼もしいお兄ちゃん、メディアの前では将棋界の新星、将棋盤の前では盤王、どこでも弱いところなんて見せられない。
彼のこんな姿を見れるのは私だけ。
彼の弱いところを独占できるのは私だけの特権なの!
彼の頭を撫でたまま思う。
いつまでも彼と一緒いたいとーー
これでバレンタイン特別編は終了です。
いつも書いている作品とは全く違う雰囲気の物になりましたが楽しんで頂けだでしょうか?
明日からようやく原作に戻ります。