昼休憩になり八一たちと合流するため電話をかけようとすると、見覚えのある黒のゴスロリドレスが目に入った。
「あ、えっと……、あの……」
天衣ちゃんである。
しかし天衣ちゃんの周りには八一達はおらず、いつも側に居るボディーガードの池田晶さんもいない。
いつもの強気なお嬢様の雰囲気は完全になく、心細そうに涙目で周りを見渡している。
「よっ!迷子さんですか?」
天衣ちゃんにバレないように後ろから近づいて、話しかける。
「きゃっ!?あ、あんたね。」
天衣ちゃんの可愛い声が聞けた。
しかし天衣ちゃんは俺に気づくと目の涙をぬぐいいつものお嬢様モードに戻ってしまった。
「八一たちは?」
「あいつらは私を置いていったわ。」
「はぐれたんだろ。」
「……」
はぐれたらしい。
「ちょっと待ってな。今八一と連絡とるから。」
ーーー
トゥルルルル
「天ちゃん見つけたぞ。」
「え!?今兄弟子といるんですか?」
「うん。」
「おいっ、お嬢様はどこにいる。吐け今すぐ吐けぇぇぇ。」
「うげぇぇぇぇ、今兄弟子と、いっしょ……」
「ちょっと晶さん、八一くん呼吸できてないから!」
「おい、山橋勇気今すぐお嬢様を出口まで連れてこい。万が一お嬢様に何かあったらどうなるかわかっているな!!」
ブチッ
ーーー
乱暴に電話が切られた。
「……」
「どうしたの?」
「絶対無事にみんなの元に返してあげるからな!!」
「な、なんでそんなにやる気なのよ……」
俺の首がかかっているからな!!
俺は天衣ちゃんに手を差し出す。
「?、何よこれ?」
「手、繋がないとまたはぐれちゃうだろ。」
「い、いいわよそんなの。一人でついていけるわ。」
「いや、そう言って八一とはぐれたんだろ。」
「……」
また黙り込んでしまった。
まったく難儀なお嬢さんだ。
「こういう時は大人を頼りなさい!」
強引に手を繋いで歩き出す。
「ちょっと!?勝手になにやってるのよ。だいたいあんただってまだ未成年でしょ!大人ヅラするなー!!」
天衣ちゃんの罵倒がさらにヒートアップしていく。
本当に天衣ちゃんは恥ずかしがり屋だなぁ。
あいちゃんとは大違いだ。
こういうタイプの子どもと接するのは始めてだなぁ。
銀子も八一もどちらかというと素直に俺を慕ってくれたし、あいちゃんも年相応に感情を表現する子だ。
でも天衣ちゃんは自分の感情をあまり表に出さない。
まるで仲良くなることを恐れているかのように。
こういう子、放っとけないんだよなぁ。
俺は突然立ち止まった。
天衣ちゃんは止まれず俺の背中に激突する。
「危ないでしょ!いきなり止まらなでよ。」
「ごめんごめん。」
天衣ちゃんに向き直る。
天衣ちゃんの目をジッと見つめる。
「な、何よ……。気持ち悪いわ、通報するわよ。」
「これあげる。」
ポケットから飴を取り出して天衣ちゃんに渡す。
「何これ?」
「飴だよ。」
「どういうことよ?」
「午後も対局あるんだからこれ舐めて落ち着きなさい。」
俺は諭すように優しく言う。
さっきまで俺を睨みつけていた天衣ちゃんの目から怒りが消えた……ように思う。
大人しく俺の手から飴を受け取り口に運んだ。
「美味いだろ。俺のお気に入りなんだ。」
「何これ!?辛いんだけど……」
天衣ちゃんの顔が歪む。
んー、お嬢様にはハッカ飴はお気に召さなかったようだ。
「美味しくなかった?」
「これを美味しいと感じるならあなたの舌はどうかしてると思うわよ。」
「この飴はな、大人には美味しいと感じるんだよ。つまり天ちゃんはまだまだ子供だねー。」
天衣ちゃんの顔がみるみる赤くなる。
「ま、まぁよくよく考えると美味しくもなくもないかもしれないわね。」
結局美味しいのか不味いのかどっちだよ……
「大人でも嫌いな人は嫌いなんだけどね。」
「あんた騙したわね!?絶対許さない!!」
天衣ちゃんが怒り出す。
「これで少しはリラックスできただろ?」
「はぁ!?」
「午後もしっかり自分の将棋を指せよ。応援してるから。」
「な、何よいきなり……」
天衣ちゃんが急に大人しくなり、どこか怯えたような表情になる。
怒ったり黙ったり忙しい子供だ。
「よしっ、早く八一たちのところ戻ろうぜ!」
不意打ちで手を繋ぐ。
「あんた絶対に覚えてなさいよ!!」
天衣ちゃんが顔を真っ赤にして文句を言う。
相変わらず罵倒されてるけど、今日は天衣ちゃんのいろんな表情が見れた。
子供はやっぱり表情豊かじゃないといけない。
口では文句言ってるけど、繋いだ手は無理矢理に振りほどこうとしなくなった。
✳︎
出口に近づき八一たちの姿が見えてきた。
「おっ、八一たち見えたぞ!」
「……あんた慣れてるのね。」
「何のこと?」
「何でもないわよ。もう一人で行けるから離して。」
「はいはい。」
天衣ちゃんは俺の手を離して先に行ってしまう。
「未成年のくせに大人ぶって……」