大量のフラッシュに囲まれている、一人の女性と二人の女の子。
一人は戸惑ったように周りを見ている。
一人は威風堂々と立っている。
一人は夢の中にいるような表情で目をパチパチとさせている。
あいちゃんと天衣ちゃんと桂香さんはチャレンジマッチを4連勝で突破した。
アマチュアながら3人とも圧倒的な強さで勝ち進んだことで、メディアから注目されている。
実は注目されている理由はそれだけじゃないんだけどね。
『一斉予選へ向けての意気込みをお願いします。』
「いつも通りに指すだけです。」
「いっぱいいっぱい勉強しなきゃですけど……次の一斉予選も絶大に勝ちますっ!!」
「先に女流棋士になった昔の修行仲間と公式戦で対局できるのはすごく嬉しいです。……頑張りたいと思います。」
三者三様の受け答えをしていく。
『あれが竜王が同棲している・・・』
『二人とも小学生だぞ』
『二股なのか!?』
『あの人が盤王の彼女・・・』
『空銀子とは真逆のタイプだな』
『どっちが本命なんだ!?』
いろんな意味で注目されてるね……
インタビューも終わり冷や汗を垂らしている俺と八一の元に3人がやって来た。
「「おめでとう。みんな。」」
戦いを終えた3人に労いの言葉をあげる。
「はいっ。ありがとうございます!」
「ふん。このくらいは余裕よ。」
「緊張した〜。」
「よしっ。今日はみんながチャレンジマッチを突破したお祝いに俺が夜ご飯を奢ってやろう!」
「いいんですか!?」
「別にいらないわよ。……まぁ行ってやってもいいけど。」
「そんな、勇気くんに奢ってもらうなんて悪いわよ。」
「いいっていいって。」
そう言って俺は歩き出す。
後ろから八一が駆けてくる。
「本当に大丈夫ですか兄弟子?いくら小学生もいるっていっても5人分ですよ。」
「え?だって俺と八一が割り勘だろ?」
「え!?いつそんなこと決まったんですか!?」
「ついでに銀子も誘っておこう。」
「チョット聞いてます!?」
八一を無視して電話をかける。
ーーー
トゥルルルル
「どうしたの?」
「いやさ、今から桂香さんたちの突破祝いに夜ご飯食べにいくことになってるんだけど一緒に行こうぜ。」
「……行く。」
「オッケー。じゃあ吉祥寺の駅で待ち合わせな。」
「わかった。」
「吉祥寺まで一人でこれるか?迎えに行こうか?」
「行けるわよ。子供扱いしないで。」
ガチャ
ーーー
✳︎
「ふーん値段の割にはちゃんとした肉じゃない。」
「コラッ、天衣!店の人に聞こえちゃうだろ!?」
「師匠、次はなに食べますぅ〜?」
「あ、あい。自分でとるから・・・」
「なに食べます?」
「じゃあそこの玉ねぎでお願いします。」
「はい♪」
八一は二人の小学生に囲まれて中々大変そうだ。
「天衣ちゃんも欲しいものあったら言ってね。」
「子供扱いするなババア。」
まだ天衣ちゃんは研修会でのことを根に持っているようだ。
「天ちゃん、年上の女性に向かってそれはダメだよ。桂香さんは優しいから許してくれるかもしれないけど……」
「どーせ私はババアですよー。25歳にもなって女流棋士になれてない老兵ですよー。」
桂香さんがネガテイブモードに入った……
桂香さんと天衣ちゃんが戦っている横では違う戦いも勃発していた。
「おばさんお肉苦手なんですか?さっきから食べてないですけど。」
「ぶちころすぞわれ。」
「まぁまぁ姉弟子。あいも姉弟子を思いやって話しかけてくれてるんで大目に見てやってくださいよ。」
「……わかったわよ。」
その日はあいちゃんと天衣ちゃんが加わってから始めての一門全員集合食事会になった。
仲良くできるか不安なメンバーも何人かいたが意外とみんな楽しんでいた。
これからもみんなで定期的に集まりたいな。
「そうだ八一、この会、師匠には内緒な。絶対拗ねるから。」
「そうですね……」
短いけど今日はここまで。