清滝一門の長男   作:Rokubu0213

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この話を書く時は『あの日タイムマシン』を聞いていました。


「この日」を誇れるように

マイナビ女子オープン予選決勝が一斉に始まった。

この舞台にあいちゃん、天衣ちゃん、桂香さんの3人全員が立っているのは既に奇跡と言っても過言ではない。

しかし、人間というのは欲深い生き物だ。

ここまできたら3人とも本戦に出て欲しいと思ってしまう。

中継を見ながら自然と両手に力が入る。

 

 

ーーーガンバレーーー

 

 

俺はただひたすら祈る。

今俺にできるのはそれだけだから。

 

 

最初に俺たちの目を引いたのは天衣ちゃんの対局だった。

 

 

「鹿路庭さんが居飛車……」

 

 

隣で一緒に観戦している鵠さんが驚いていた。

天衣ちゃんの対戦相手の鹿路庭珠代女流二段。たしか振り飛車党だったと記憶している。

 

 

「これは……明らかな挑発。」

 

 

そして天衣ちゃんは生粋の負けず嫌い。この挑発に乗らないはずはない。

そう考えていると天衣ちゃんはほぼノータイムで飛車先の歩を進めて相掛かり戦へと持ち込む。

天衣ちゃんの口元が少し笑ったように見えた。

 

 

負けず嫌いのお嬢様のお仕置きが始まる……!

 

 

✳︎

 

 

「これは……すごいな……」

 

 

あいちゃんvs祭神雷は予想通り混沌とした戦いになっていた。

祭神は超力戦将棋になる戦法、ダイレクト向かい飛車を選択した。

それに対してあいちゃんも守りに使うはずの金銀を前線に繰り出して速攻で相手を潰す作戦を取った。

これは定跡など存在しない混沌とした戦い。信じられるのは己の才能のみ。

才能と才能のぶつかり合いがいま目の前では起こっている。

自分の才能に絶対の自信を持つエゴイスト、祭神雷らしい将棋だ。

八一もとんでもない奴に好かれたもんだな。

 

 

「はぁ……」

 

 

隣では鵠さんの口からため息が漏れる。

そのため息は感嘆か恐怖か、はたまた羨望かそれは鵠さん本人にしかわからない。

しかし確かなことがひとつだけある。鵠さんは今、一人の将棋指しとして目の前の将棋に引き込まれている。

それは俺も同じだ。

この勝負がこの先どう進むのか楽しみで仕方がない。

俺達は二つの規格外の才能が描く絵画が完成するのを固唾を飲んで見守る。

 

 

✳︎

 

 

「……」

 

 

私は盤の前で一言も喋らずに対戦相手を待ち続ける。

 

 

あと一勝、あと一勝で本戦。

 

 

私は念仏のようにひたすら頭の中で繰り返す。

 

 

1戦目は自分でも驚くくらいに完璧に指し切った。

さっきの対局で一生分の運を使い果たしたのじゃないかと思うほどね。

……いや、まぐれでも勝てればそれでいいわ。

まぐれだろがなんだろうがあと一勝だけ、一勝できればそれでいい。

私はハンカチを握りしめているかもわからない将棋の神に祈る。

 

 

向かいの席に私の対戦相手、千ちゃんが座った。

お互いに目は合わせない。

頭の中では色々な事が思い出される。

千ちゃんとの思い出。

悔しくて泣いた日、嬉しくて笑って日色んな苦楽を共にしてきた。

 

 

「ありがとうね……桂ちゃん。」

 

 

対局開始から2分。

持ち時間三十分の将棋では異例なほど長い時間を使ってから、千ちゃんは飛車先の歩を動かした。

 

 

その一手は居飛車党の千ちゃんからしてみればごく普通な一手。

2分も費やして差す手ではない。

その2分間で千ちゃんは何を考えていたんだろう……

 

 

「!?」

 

 

考え込みそうになる自分を無理矢理現実に引き戻して、私も飛車先を突き返す。

二人で何度も指してきた相掛かり。

数え切れないほど見てきた局面なのに何故かとても懐かしく感じる。

私は溢れてくる涙を押さえ込みながら指し続けた。

 

 

✳︎

 

 

局面は完全に私が優勢。

目の前の千ちゃんもそれは分かっているのだろう。

なのに千ちゃんは淡々と指し続けている、その表情はどこか清々しく見える。

千ちゃんの手が突如止まる。千ちゃんは目を瞑って微動だにしない。

時間はどんどんと過ぎて行き、秒読みが始まった。

 

 

「負けました。」

 

 

ハッキリと投了を告げた。

 

 

「あっ」

 

 

私は何も言えずに反射的に礼で返す。

 

 

「実はね私、戦う前から負けるって分かってた。」

「……」

 

 

私は何も言えずに千ちゃんの言葉を聞き続ける。

 

 

「いつの間にこんなに差がついちゃったんだろうな……」

 

 

千ちゃんは俯いて独り言のように言った。

 

 

「……」

「ありがとうね。私の首切り役になってくれて。」

 

 

涙が溢れて止まらなくなる。

 

 

「グスッ……うん。」

「私の分まで頑張ってね。」

「うん。……頑張る、頑張るからね。」

 

 

千ちゃんの長い長い夢が今日終わった。

 

 

✳︎

 

 

「では清滝桂香さんの強みは積み上げてきた研究量ということですね。」

「はい。桂香さんの研究量には目を見張るものがあります。昔は定跡に囚われて自由な将棋が指せない時期もあったんですけど、今はとても定跡を使いこなせてると思います。」

 

 

俺はいま将棋世界のインタビューを受けている。

マイナビ女子オープンの特集を組むらしい。

俺はアマチュアながら本戦出場を決めた桂香さんについてのインタビューを受けている。

 

 

「次の本戦へ向けてお弟子さんへのメッセージなどありますか。」

 

 

記者の金田さんから最後の質問が来る。

 

 

「本戦の相手は……月夜見坂燎女流王将と、非常に強い相手ですけど、臆することなく自分の将棋を指して欲しいと思います。」

 

 

インタビューが終了すると、金田さんとなんとなく雑談が開始した。

 

 

「清滝桂香さんも、もちろんすごいでけど九頭竜竜王のお弟子さん達も凄いですよね。」

「正直俺も雛鶴さんが祭神女流帝位に勝つとは思ってませんでした。」

 

 

「ところで……」

 

 

金田さんは記者の鋭い視線を向けてきた。

 

 

「雛鶴さんの中盤の金銀二枚攻めはとても……盤王の将棋に似たものを感じたのでけど雛鶴さんにも仕込まれたんですか?」

「そ、そんなわけないじゃないですか。」

「……」

 

 

 

金田さんにジッと見つめられる。

 

 

「記事にはしません。これは私の個人的な興味です。」

「……絶対に八一には内緒にしておいてくださいね。」

 

 

八一も師匠に内緒で弟子達が他の棋士に将棋教わってたら気分良くないだろうから。

 

 

金田さんとの雑談も一通り終わり、金田さんは慌てて席を立つ。

 

「私はそろそろ次のインタビューに行ってきますね。」

「大変ですね。頑張って下さい。」

 

 

金田さん少し歩き出してから再び振り返る。

 

 

「早く清滝桂香さんの元に行ってあげて下さい。多分もう限界ですよ。」

「はい。」

 

 

激戦を勝ち抜いた家族に今日は何をご馳走してやろうかな。

足取り軽く桂香さん達が待つパレスサイドビルの入り口へと向かった。




なんとか4巻終わった……
なんだかんだで1ヶ月かかりましたね(笑)

明日からはまた箸休めの回を挟む予定です。
どのキャラとの話がいいとかリクエストありますか?

ところで前から予告していたように銀子を純正クーデレキャラに戻すために勉強を少しづつしています。
昨日はクーデレキャラの書きかたを勉強するために『デートアライブ』を読み返して、鳶一折紙を愛でました。
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