清滝一門の長男   作:Rokubu0213

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9月
迷走する盤王


「え!?この局面でまだ互角なのかよ。」

 

 

俺は今、自室で昨日の自分の順位戦をコンピューターで解析していた。

結果は勝利。

名人に負けてからどん底の俺だったが先月の順位戦でようやく連敗を5でストップ。その後また3連敗をしたが昨日の順位戦でそれもストップできた。

順位戦だけは辛うじて勝てている。

逆に今年のタイトル挑戦は全滅でほぼ終了なんだけどね……

 

 

そんな俺の次の相手は神鍋歩夢六段。

先日、竜王挑戦者決定戦で名人と死闘を繰り広げたあの神鍋歩夢だ。

神鍋くんはあの対局で一皮剥けた。

棋譜を見ればわかるが明らかに強くなっている。

今の、戦い方を手探りで探している状態の俺では確実に負けるだろう。

どうやったら勝てるか……実は策が無いわけではない。

しかし俺に指しこなせるだろうか……

 

 

「ただいま。」

 

「ん?ああ、おかえり。」

 

 

集中しすぎて銀子が帰ってきていたことに気づいていなかった。

銀子はコンピューターの画面を覗き込む。

 

「昨日の?」

 

「ああ。俺的には穴熊に組んだ時点で優勢かなと思ってたんだけどコンピューターは互角だっていうんだよなぁ。やっぱりコンピューターの基準はよくわからない。」

 

「……驚いた。」

 

「え、なにが?」

 

「兄弟子が穴熊に組んだから。」

 

「あー、確かにあんまり指してこなかったな。」

 

 

確かに今までは穴熊は組むのに手数がかかるた後手に回りやすく敬遠していた。

 

 

「最近不調だし、新しい戦法に挑戦してみようかと思ってね。」

 

「……そ、そう。」

 

 

銀子は何か言いたそうに口ごもったが結局なにも言わずに和室に行ってしまった。

和室に戻る時少しこちらを見た銀子の心配そうな表情が目に入った。

 

 

再び一人になりコンピューターと検討を再開する。

神鍋君の対策をするには、昔からライバルの八一に聞くのが一番いいんだけど、あいつ今竜王戦の準備に忙しいだろうし、俺と研究してもあいつのメリットなんもないからダメだよな。

様々な考えを頭の中に抱えながら一人黙々と検討を続ける。

 

 

✳︎

 

 

「山橋先生こんにちわ。」

 

 

明くる日俺は、気分転換に棋士室を訪れてた。

棋士室に入るとおそらく奨励会で最も年の離れた二人が将棋を指していた。

 

 

「こんにちわ。……鏡州さん。」

 

 

俺は少しぎこちなく挨拶する。

人の良い笑顔を浮かべて挨拶してくれたのは鏡州さん。

俺は鏡州さんの笑顔を見ていられなくなり目をそらす。

 

 

「お久し振りです。山橋先生。」

 

 

鏡州さんの反対側に座っているのは椚創多。

11歳で奨励会2段に所属して、史上初の小学生プロ棋士になれる可能性すらあるいわゆる天才。

 

 

「こんにちわ。椚君。」

 

「少し勉強させていただけませんか?」

 

 

鏡州さんが席を立って俺を呼び込んで来る。

 

 

「……はい。是非ともお願いします。」

 

 

俺は少し躊躇ったが結局指すことにした。

 

 

✳︎

 

 

「なるほど、ここは角を切る変化もありましたね。」

 

「俺も少し考えたけど、角打ちがうるさいと思ってやめました。」

 

 

椚君と俺の対局が終わり、感想戦に突入する。

練習対局だからお互いに本気ではないものの椚君の実力に恐怖を覚える。

この子は一体どこまで強くなるのか全く予想が付かない。

ニコニコと笑いながら検討を続ける椚君を見ながら背中に悪寒が走った。

 

 

「いや〜そんな変化もあったのか。」

 

 

隣でわざわざ棋譜をとってくれていた鏡州さんが感心したように呟いた。

 

 

「やっぱり二人とも凄いなぁ。……さすが神童。」

 

 

鏡州さんの言葉には何の皮肉も込められていない。

それがまた俺の心を締め付けるのだが……

 

 

「気になったんだけど、二人の脳内将棋盤ってどうなってるの?」

 

 

鏡州さんが目を輝かせながら聞いて来る。

脳内将棋盤。それは人によってそれぞれ違うものが浮かぶという。

確かに目の前の天才がどんな脳内将棋盤を持っているのか俺も気になる。

俺も期待を込めて椚君の方を見る。

二人の大人に見つめられて、椚君は男の子とは思えない綺麗な顔を驚きの表情へと変えた。

 

 

「え!?ぼ、僕ですか?僕は……ないです。」

 

 

「「はっ!?」」

 

 

全く予想外の答えが返って来て思わず、情けない声を出してしまう。

 

 

「僕は全部符号で処理しているので脳内将棋盤はありません。」

 

「「……」」

 

 

符号で処理ってなんだよ……

あらためて目の前の小学生の規格外っぷりに驚かされる。

 

 

「じゃ、じゃあ。山橋先生はどうなんですか?」

 

「お、俺ですか?俺は普通の将棋盤が目の前に有りますよ。」

 

「……それだけですか?」

 

「そ、それだけですよ。」

 

 

椚君の後に言った所為でめっちゃショボく聞こえちゃうじゃんか……

 

 

「何個見えてるんですか?確か人によっては複数見える人もいるって聞いたことがあります。」

 

 

椚君がフォローしようとしてくれているのか、さらに質問をして来てくれた。

 

 

「……残念ながら盤も一個しかありません。」

 

「で、でも一個で大量の変化を読んでるってことは思考速度がとても速いんですね。」

 

 

鏡州さんが苦し紛れのフォローを入れてくれた。

 

 

「読みですか?読みは同時に複数処理しますよ。」

 

「一つの将棋盤でですか?」

 

「うん。」

 

 

その言葉を聞いて鏡州さんと椚君の顔が強張る。

 

 

「つまり、一つの将棋盤の上に複数の局面を描けるんですか?」

「はい。」

 

「やっぱりこの人も天才だ……」

 

 

鏡州さんが小さく呟いた。

 

✳︎

 

 

鏡州さんと椚君と別れて一人家へと帰って来る。

鍵を開けて部屋の中へと向かうと居間に人影が一つ。

銀子が既に帰ってるのか。

 

 

「ただい……」

 

 

ドアを開ける手が止まる。

その理由は居間の人影にあった。

 

 

「はっ!!」

 

 

驚く俺の顔を見て、居間にいた少女はニヤリと笑った。




今日からまた投稿頑張っていきますのでよろしくお願いします。
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