清滝一門の長男   作:Rokubu0213

47 / 55
押し掛けあの娘は雷少女

「なんでここに……!?」

 

 

目の前にいるのは世界中で最も俺と仲の悪い人物、祭神雷。

 

「はっ!八一の家の上に住んでるのは前から知ってたさぁ。」

 

「どうやってここに入ったんだよ!?」

 

「色々やった。」

 

 

俺の家のセキュリティはガバガバなのか!?

祭神は俺の姿を見るやすぐに駒を並べて行く。

突然顔を上げて不思議そうにこちらを見た。

 

 

「早くそこに座って、将棋指す。」

 

「何言ってんだよ。お前俺の将棋は嫌いなんだろ?」

 

「早く早く早く早く早く早く早く。」

 

 

祭神はイライラしながら爪を噛む。

この状態になった祭神には何を言っても無駄だ。

観念して俺は祭神の対面に座って駒を並べた。

 

 

「……わかった。一回だけ指すからそしたら帰ってくれよ。そして二度と俺の家に来るなよ。」

 

「はっ!!」

 

 

祭神の嬉々とした声が響き渡った。

振り駒の結果、祭神が先手。

 

 

「始めるさぁ。叩き潰してやる。」

 

 

祭神はニヤリと笑って角道を開けた。

それを見て俺は飛車先の歩を進めて居飛車の構えを見せる。

序盤の戦型の駆け引きが始まった。

この駆け引きは俺が最も得意としている所。

簡単に相手の思うようにはさせない。そう思っていた。

 

 

5手目祭神は飛車を持ち上げ俺の飛車の向かい側に置いた。

向かい飛車、先月のマイナビであいちゃん相手に祭神が使用した戦法だ。

祭神は敢えて俺にこの戦型をぶつけて来た。

まるで才能比べをやりましょうと言わんばかりに。

 

 

ふざけやがって……!

 

 

苛立つ感情を表には出さずに、無表情で慎重に相手の角を取り角交換を済ました。

 

 

9手まで進んでここまでは普通の進行だ。

ここで俺の手が止まった。

 

 

あの戦法を試すべきか?

 

 

頭の中で様々な葛藤が生まれる。

 

 

---公式戦では一度も使ったことのない戦法だ、これなら祭神の意表を突いて倒せる

 

 

---なれない戦法を使えば負けるんじゃないか?

 

 

ーーーまた負けるのか?

 

 

ーーー怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

 

俺は震える手で目的の駒を掴む。

なんで練習対局でこんなに緊張してるんだよ。

俺は震える手に精一杯力を込めて目的の駒を持ち上げて、真っ直ぐ動かした。

 

 

その手を見て祭神が相貌が大きく見開かれる。

 

 

「はっ!!」

 

 

祭神は歓喜の声を挙げて力強く銀を動かして行った。

 

 

駆け引きは終わった後はどちらかの王が倒れるまで戦い続けるだけだ。

 

✳︎

 

 

「これで満足か?」

 

「……」

 

 

祭神はさっきから黙ってジッと盤を見つめている。

盤上には周囲を敵に囲まれた祭神の王将が寂しそうにポツリと残っている。

 

余裕そうに振舞ってはいるが、祭神は確実に強くなっている。

しかも銀子を遥かに凌ぐ速度で……

祭神は程なくしてプロ棋士と互角、それ以上に戦える程の実力をつけてくる。

祭神が覚醒した時、女流棋士の世界はどうなってしまうのか。

本当に末恐ろしい奴だ……

まぁ、それは一旦置いといて、いい加減そろそろ帰ってもらわないと困るよなぁ。

 

 

「おーい。聞こえてるか?」

 

「……」

 

 

反応がない。

こいつでもこんなに静かになる時があるんだなぁ。

祭神の意外な一面を見れたような気がして少し得した気分になる。

 

 

「あは、あはは、あははははは。」

 

 

祭神はいきなりクイッと頭を上げて、狂ったように笑い出した。

笑い方が怖すぎるよ……てかすんごい近所迷惑だからぁ〜

 

 

「お、おい。取り敢えず黙ってくれ。近所迷惑だから……」

 

「これさぁ。これなんだぁ。あいつ倒すにはこれさぁ。」

 

「あいつって……」

 

 

聞くまでもなくあいちゃんだよなぁ……。

 

 

「ねぇ、勇気……」

 

 

祭神はさっきまでの狂ったような笑いをやめて今度はモジモジとしだす。

まるで、女の子が好きな男子に告白する前のように、少し顔まで赤くなっている。

 

 

「な、なんだよ急に気持ち悪い。」

 

「あの、あのね……私に……」

 

 

祭神は言葉を切って、またモジモジとする。いつもの狂った祭神とは違って女の子らしい、祭神を不覚にも可愛いと思ってしまう。

 

 

「将棋教えて!」

 

「断る。」

 

 

即答した。

こいつと定期的に会うとか絶対イヤだ、絶対俺は胃痛で死んでしまう。

これは、自分の命を守るための選択だ、決して銀子にバレた時に殺されそうだからとかそう言う理由ではない!

 

 

「ちっ!釣れない奴さぁ。」

 

「お、おい……」

 

 

すっかりいつもの太々しい祭神に戻っていた。

 

 

「将棋の世界は等価交換だ。俺がお前に教えるメリットがない時点で教えるわけなんてないってことぐらいわかってただろう?」

 

「等価交換……」

 

 

祭神は再び黙りこくって何かを考えている。

狂ったように笑い出したり、演技だけど恥じらって見たり、黙ったり、本当に忙しい奴だなぁ。

そんな呑気なことを考えていると、ゴソゴソときぬ擦れの音がする。

 

 

……は!?

 

 

祭神を見ると、制服のボタンを外して、シャツを脱ぎ去ろうとしている。

 

 

「いきなり、何しようとしてんだよ!?」

 

 

俺は焦って、祭神の動きを封じに行く。

八一の話を聞いてやばい奴だとある程度は理解したつもりでいたが甘かった……こいつ絶対におかしい。

プロ棋士だからとかいう言葉で片付けられないほどにおかしい。

 

 

「等価交換さぁ。将棋を教えてもらう代わりに、私のはじめてをあげるさぁ。」

 

「何言い出してんだよ!?」

 

「男はJKのはじめてが何よりも価値を感じるさぁ。」

 

「それは間違った知識だからね!?絶対に外で今の発言するなよ!?」

 

 

祭神の両手を押さえ込んで取り敢えず動きを抑え込む。

 

 

「ちょ、離せ!」

 

「いいから一回黙れ、そして動くな!」

 

 

祭神と一進一退の攻防が続く。

しかし、ここで俺は大きなミスをしてしまった。

俺は祭神に集中しすぎて背後の人間の存在に気づけなかったのだ。

 

 

「た、……だいま。」

 

「!?……お、お、かえりなさい、ぎ、ん、こ。」

 

 

なるべく平静を装って返事をする。

 

 

「兄弟子?」

 

「いつからいた?」

 

「『男はJKの……』ってとこから。」

 

 

一番誤解されるとこぉ!!

 

 

「早く続きしてよ♡。」

 

 

祭神お前は一旦黙ってろ。

この後俺がどんな地獄を味わったかはかはみんなの想像に任せるよ。

 

ただ、長い将棋の歴史の中で、この夜が大きな転換点になったことを、未来の将棋指しはおろか、本人達さえも気付いてはいないのであった。




お久しぶりです。

こんなに投稿期間が空いた作品を読んでくれる人がいるのかはわからないですけど、読んでくれる人がいるならありがとうございます。

色々悩みましたが、取り敢えず自分が書きたいと思うものを書いていこうと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。