清滝一門の長男   作:Rokubu0213

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盤王覚醒の裏側。


史上最強の棋士

史上最強の棋士は誰か。

この質問に対する答えは人によって様々だろう。

ある人は昭和の大名人の名をあげるかもしれない。ある人は現名人の名をあげるかもしれない。ある人は皮肉を込めてソフトというかもしれない。

しかし俺の答えは違う。

史上最強の棋士とは……

 

 

✳︎

 

 

「これ意味ないな。」

 

 

八一に残酷な真実を告げられてから丸一日ひたすらコンピューターとにらめっこすた。

AIの読みは深くそしてとても広い。これは到底人間に理解できるものじゃない。いくらAIの読みを知り評価値を見たところでそれはあくまで人間の感情を廃した客観的な数字でしかない。これを使ってAIと同じ将棋を指すことはできない、少なくとも俺には……

 

 

「はぁ。」

 

 

頼みの綱のコンピューターすら役に立たないと分かりため息が出る。

何八つ当たりしてんだろ……

清滝邸でのことを思い出して激しい自己嫌悪に襲われる。

八一に図星を突かれて思わず感情に任せて八つ当たりしてしまった。八一には何も悪気はないのに。

ふと我に帰ってはじめて空腹を感じる。

そういえば昨日から何も食べてない……

重い体を無理やり起こして何かを食べるためにキッチンに向かう。

 

ピンポーン

 

 

突然インターホンがなった。

八一かもしれない!

急いでドアを開けにいく、昨日のことを謝るために。

 

 

「ごめっ……」

 

 

ドアの向こうにいたのは八一ではなかった。というかそれ以前に、男じゃなかった。

 

 

「へっ。ここが盤王様の家ですかい。」

 

「お邪魔さしてもらいます。」

 

「は?」

 

 

目の前にいる二人が余りにも意外すぎてまだ自体が飲み込めていない。

目の前にいたのは二人のタイトルホルダー、女流王将と山城桜花。

二人は固まる俺を相手にもせずズカズカと家の中に入って行った。

 

 

✳︎

 

 

「燎と万智さん……?何で俺の家の前にいるの?ていうかどうやって俺の家知ったんだ?」

 

 

少しずつ事態が飲み込めてきて、次々浮かんでくる疑問を手当たり次第二人にぶつける。

 

 

「いっぺんにしゃべんな。」

 

「八一はんからお願いされましたので。」

 

「八一から?」

 

「にしても兄弟喧嘩とはまだまだ青いな。」

 

 

ニヤニヤしながら肩を掴んでくる燎。

 

 

「喧嘩なんかしてないよ。」

 

 

絡んでくる燎を引き剥がす。

 

 

「まぁ不調の時イライラするのは当たり前だからいいんじゃねーの?」

 

 

燎がそっぽを向きながら、遠慮がちに言った。

これで何となく察した。

二人は八一にお願いされて慰めに来たのか。

同い年で同じ世界に生きる二人だから声を掛けたのかな。

 

 

「不調にしてもあれはあきまへんよ。」

 

「あれって?」

 

「あんな不細工な穴熊は始めてどす。穴熊の面汚しどす、早く引退なさい。」

 

「酷すぎない!?てか慰めに来てくれたんじゃないの!?」

 

 

既に傷心の俺の心に追い打ちをかけるように、切りつけてくる万智さんマジ鬼畜。

 

 

「何でわざわざお前慰める為だけに行かなきゃ行けないんだよ。見返りが必要に決まってんだろ。」

 

「見返り?」

 

 

燎はせっせと駒を並べていく。

 

「棋士にとって見返りつったらこれしかないだろ。」

 

「将棋か……」

 

 

結局俺たち棋士にはこれしかないんだよな。

苦笑しながら将棋を指す。

 

 

✳︎

 

 

「ごめん。流石にもう限界。」

 

 

結局一日中将棋指した。

流石に2日連続徹夜はキツイ。

痛む頭を支えながら将棋盤を片付ける。

 

 

「情けねーな。そんなんでよくタイトル戦戦えたな。」

 

「タイトル戦でもこんなに長く指さないだろ。」

 

 

燎や万智さんとは不思議な関係だ。

小学生名人戦で始めて出会いその後もなんだかんだで関係が続いている。

気兼ねなくなんでも話せる相手、それが燎や万智さんだ。

 

 

「俺って変わった?」

 

「ん、なんだいきなり。」

 

「いやまぁ、昔から俺のこと知ってるし……気になってね。」

 

 

普段茶化したことしか言い合わない、燎にこんなことを聞くのはなんとなく気恥ずかしい。

 

 

「そうどすね。昔ほど変人ではなくなった気がします」

 

「変人?」

 

「あー確かにお前は昔、天野宗歩オタクだったからな。」

 

「は?」

 

「知らねーの?俺らの世代でお前は『天野宗歩オタク』って言われてたんだぞ。」

 

「なん……だと。」

 

 

全く気づいてなかった。

衝撃の新事実すぎて固まってしまう。

 

 

「これ気付いてないパターンだ。」

 

「他の奨励会会員がみんなトップ棋士の棋譜並べてはる横で、勇気はんは『棋聖天野宗歩手合集』広げてはりましたしね。」

 

「関東でも有名なほどだったんだし、普通気付くだろ……」

 

「そんな。関東まで広まって……」

 

 

比較的棋士の中では常識人だと思ってたのに……

 

 

「子供ん時は、勇気が神鍋みたいになって、神鍋が勇気みたいになると思ってたのに見事に逆転して驚いたぜ。」

 

「俺が神鍋くんみたいに!?」

 

 

子供の時の俺どんな奴だったんだよ。

一息つくと、ふとお腹がすいたことに気づく。

二人を見ると二人とも同じことを考えていたのか無言で頷く。

 

 

「おい、腹減った。飯作れ。」

 

「おい……女の子なんだからなんか作ってくれないの?」

 

「我が家は使用人がいるので作ったことないどすね。」

 

「カップ麺なら得意だぞ。」

 

「……俺が作る。」

 

 

女子力低すぎ!?

銀子といい女流棋士はみんな女子力壊滅的なのか?

いやあいちゃんや桂香さんは女子力高いし、やっぱり個人の問題か……

 

 

✳︎

 

 

「始めて食べる味どすけど中々美味ですね。」

 

「確かに学生が集まるご飯お代わり無料のラーメン屋のチャーハンくらいは美味しいな。」

 

「なんだその微妙な評価……」

 

「ん?最大級の評価だろ?」

 

 

燎は頭に?マークを浮かべながらムシャムシャとチャーハンを食べる。

これはボケなのか?本気なのか?

 

 

「ここまで美味しい料理を出されると女としては少し悔しどすね。」

 

「そうだな。絶対コイツ俺たちのこと見下してるな。」

 

「み、見下してないぞ……」

 

 

本当のこと言ったら絶対殺されるな……

 

 

「俺たちも本気出しゃ料理くらいできるぞ。」

 

「そうどすね。私たちもうら若き乙女どすから。」

 

「う、うん。」

 

 

似合わねー。

 

 

「てことで、台所借りるなー。」

 

「え、ちょっと待って!?」

 

「いいから。いいから。公式戦近いんだから将棋しとけ。」

 

 

燎から無言の威圧感を感じる。

タイトル戦前の棋士のようなオーラだ。

 

 

「は、はい。」

 

 

仕方なく棋書を読む。

……集中できない。

 

 

「まずは油ひかなきゃダメどすね。」

 

「油どこだ?」

 

「これどすかな?」

 

「なんか、瓶小さくないか?」

 

「色が黄色どすよ。」

 

「そうだな、これだろう。」

 

 

ジュワ〜

 

 

「おい!蒸発してるぞ。……臭いぞ!?」

 

「お前それお酢だから!?」

 

 

✳︎

 

 

台所を無茶苦茶にして燎と万智さんは去って行った。

 

 

「あいつら……」

 

 

ブツブツ文句を言いながら押し入れに顔を突っ込んで、ある棋書を探す。

古本のカビ臭い匂いにに包まれながら目当ての棋書を探す。

 

 

「これこれ。」

 

 

 

『棋聖天野宗歩手合集』

 

 

これを見ると小学生の頃を思い出す。

 

毎日師匠に将棋を教えてもらい、八一と銀子と寝落ちするまで将棋を指して、学校では先生に隠れて棋書を読んだ。

あの時は将棋を楽しんでいた。

新しい戦法を覚えてはすぐに使いたくなった。

負けたら相手の使う戦法の棋譜を血眼で探して対策を練った。

勝ってガッツポーズした次の日にはまた違う戦法でボコボコにされる。

そんな繰り返し。一般人からしたら不毛な繰り返しと思うかもしれない。

俺にとってはそんな繰り返しが最高に楽しかった。

 

 

そんな毎日の中で出会ったのが『棋聖天野宗歩手合集』。

始めてこの棋書を読んだ時俺は衝撃を受けた。

その棋譜は江戸時代の物とは思えないほど新しかったのだ。

江戸時代の将棋は現代の感覚で言うと遅い将棋になる。お互いにガッチリと陣形を整備してから戦いが始まるそれが当時の主流、定跡だった。

しかし、天野宗歩はそんな当時にしては珍しく早い段階で仕掛ける棋譜が多く残っている。

これこそが、天野宗歩の凄さ。

時代の常識にとらわれず、自分の感覚にのみ従って将棋を指す。

しきたりや差別、様々なものに苦しめられながらも自分の信念を曲げずに自由に指す。

 

 

俺はそんな天野宗歩に憧れてーー




感想にて過程がないので違和感があるという指摘を頂いたので、書きました。
でもやっぱり後付けだと言い訳みたいになってあまりしっくり来ませんね。

二次創作はとても難しい。
でもそれが最高に楽しい。
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