清滝一門の長男   作:Rokubu0213

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まずはジャブのような話を一つ。


1月
初詣


激動の2015年が終わり、新たに2016年が始まった。

今日はその最初の日、元旦である。

 

 

「いやーやっぱり人が多いな!」

 

「そうですね。お参りするだけで、一苦労でしたね。」

 

「……。」

 

 

俺と八一と銀子の3人は初詣で住吉大社に来ていた。

住吉大社は大阪でも12を争う人気の神社。

ここに祀られれている神は開運招福・商売繁盛の神様であり、商売の街である大阪の人々がこの神社を放っておく筈がない。

住吉大社は人でいっぱいで、立つのもやっとな程である。

 

 

「どうします兄弟子?おみくじでも引きに行きますか?」

 

「そうだな、やっぱり初詣といったらおみくじだな!あと、桂香さんと師匠へのお土産にお守りを買って行こうか。」

 

「そうですね、行きましょう。」

 

「……。」

 

 

何故桂香さんと師匠がいないのかというと大晦日、当然の如く棋士仲間と呑んでドンチャン騒ぎをした師匠は二日酔いでダウン。

師匠一人では心配だということで桂香さんも不参加になった。

本当に師匠は何歳になっても懲りない。

 

 

「よっしゃ。突っ込みますよ。」

 

 

八一はそう言うとおみくじ販売所があるであろう方角の人混みの中へ突入する。

 

 

「また人酔いか?大丈夫か?」

 

「大丈夫、歩けるから。」

 

 

さっきからずっと、腕にもたれかかってるんだけど……

 

 

「そんなに辛いならお姫様抱っこでもしてあげようか、白雪姫?」

 

「ぶ、ぶちころしゅぞわれぇ……」

 

 

決めゼリフにもいつものキレがない。

というかよく見ると顔も赤いし、本当に熱あるじゃないか!?

 

 

「ホンマに大丈夫か?」

 

「え、うん。大丈夫だから。でも……疲れたからこのまま行きたい……かな」

 

「わかった。疲れてるんだったらわざわざおみくじ引きに行かなくてもいいぞ。」

 

「えっ!?……あのだから腕貸してくれたまま、その……」

 

「大丈夫だ!俺がお前の分まで引いて来てやる!」

 

 

可愛い妹のためだ。勢いよく人混みの中に突撃する。

 

 

✳︎

 

 

兄弟子とともにおみくじを3つ確保した俺は、境内の入り口の門で待っていた姉弟子と合流した。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「もう治った。」

 

「そうですか、よかったです。」

 

 

姉弟子は門の柱に隠れるように、寄りかかっていた。

 

 

「なんでそんなところにいるんですか?」

 

「ナンパされるから。」

 

「あぁ……。」

 

 

新年早々ナンパなんてする暇なやつもいるんだな。

 

 

「兄弟子は?」

 

「御守り買ってからくるそうです。」

 

「そう。」

 

 

姉弟子は俺の腕からおみくじを一つぶん取って早速確認する。

少しは感謝の言葉とかないのかな……

 

 

「どうでした?」

 

「中吉。」

 

「まぁ、いい方じゃないですか?」

 

「そうね。八一は?」

 

「えっと俺は……吉でした。」

 

 

姉弟子は俺の結果を聞くと口角がわずかに

上がる。

 

 

「勝った。」

 

「勝ったって……。」

 

 

将棋指しはどんな事でも勝ちたがる、たとえそれが将棋と関係のない事でも。

でもさすがにおみくじの結果は良くないかな?

 

 

「おお、いたいた。」

 

「兄弟子こっちです。」

 

 

兄弟子が両手に紙袋を持ってやって来た。

 

 

「お守りありました?」

 

「あったよ、あった。ほい。」

 

 

兄弟子はそう言うと紙袋に手を突っ込んで赤色のお守りを取り出す。

目の前に差し出されたお守りを受け取る。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「竜王防衛祝いってことで。そんで、はいどうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

 

兄弟子は青色のお守りを姉弟子に渡す。

姉弟子はちょこんとそのお守りをつまんで大事そうに両手で持つ。

 

 

「あ、そうだ。これ余り物ですけどどうぞ。」

 

「俺の今年の運勢は〜……ゲッ!?」

 

「どうしたんですか?」

 

 

兄弟子は苦笑いしてこちらにおみくじを見せてくる、そこには大きな文字で『凶』と書いてあった。

 

 

「うわ!?凶だ……。」

 

「縁起悪すぎよ。八一もう一個買って来て!」

 

「了解です!!待ってて下さい。」

 

 

今年は1月から王将戦もあって、大事な時期なのに縁起悪すぎる。

人混みに向かって再びアタックしようとした俺を兄弟子が止める。

 

 

「待って待って。別におみくじくらい凶でも大丈夫だから。」

 

「何言ってるんですか!?兄弟子は玉将戦も順位戦もあるんですからちゃんとゲン担がなきゃダメですよ!」

 

「そうよ。おみくじをなめないで!」

 

「なんで俺が怒られてんの!?」

 

 

俺たちが兄弟子に説教していると、いつの間にか周りに人だかりができていた。

 

 

『あれ、竜王ちゃうか?』

『白雪姫もおるで!!』

『山橋くんや!!』

『ホンマやホンマや!!』

 

 

 

しまったバレてしまった。

瞬く間に人は増えていき、ファンが押し寄せてくる。

 

 

『空先生、頑張って下さい、応援してます。』

『3段昇格応援してるで』

 

 

『はよあのクソ眼鏡から名人奪ってくれよ!』

『生石玉将との関西頂上決戦待ってんで!』

 

 

兄弟子と姉弟子の前には早くも行列ができている。

 

 

あれ?ーー

 

 

笑顔でファンに応じる二人を見ながら違和感を覚える。

この時何故か俺には兄弟子と姉弟子の笑顔が少し歪んでいるように見えた。

 

 

「竜王戦見たで、感動さしてもろたわ。ホンマにおおきに。」

 

 

後ろからいきなり酒臭い大男に肩をバシバシと叩かれる。

 

 

「イテッ!?……あ、あぁ、ありがとうございます。」

 

「これからも頑張ってな!応援してんで!」

 

 

そう言うと大男は去って行った。

強烈な人だ……。でもあんなに応援されたの初めてかもしれない。

基本俺アンチしかいなかったし。

ちょっとは人気出て来たかも……?

 

 

『握手して下さい!』

『僕も握手して下さい!』

『順位戦も頑張ってな!』

 

 

気づくと俺の前にも行列ができていた。

ちょっとは人気出て来たかも……!




〜最近の悩み〜

失踪してた3ヶ月の間に、銀子と八一と勇気の理想の関係像が変化してしまったこと。

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