清滝一門の長男   作:Rokubu0213

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長男が生まれた日

「きよたきせんせーの弟子にしてください!!」

 

 

俺は清滝先生の家の門の前で土下座をしている。

 

親に黙って家を抜け出し、かれこれ清滝先生が家を出るまで30分以上家の前で待った。

 

2月の朝は恐ろしいほどに寒く、両手は氷のように冷たくなり感覚がない。耳も痛いし、段々気が遠くなって来た。

 

 

「おい桂香!ちょっと来てくれ。」

 

 

清滝先生に抱きかかえられて家の中へ入った。

 

 

気がつかくと布団の中で寝ていた。

 

 

「あ、気がついた?大丈夫?」

 

 

茶髪のキレイなお姉さんが襖を開けて部屋に入ってくる。

 

「おねえさん誰・・・?」

「始めまして。清滝桂香です。君の名前を教えてくれるかな?」

「やま・・・!?知らない人には名前を教えられません。」

 

 

ここで俺は気づく、目を覚ましたら知らない家の中にいて、知らない大人が目の前にいる。

つまり!俺は誘拐されたんだ。

 

 

「ウワアァァァァァン。」

 

 

怖くて俺は泣きじゃくった。

 

 

「えぇっ!?大丈夫だよボク、私は悪い人じゃないからボクをお母さんの所へ帰してあげるから名前だけ教えてくれない?」

 

知らない女の人は優しく俺に話しかけてくれて少しずつ落ち着いていく。

しばらく女の人と話していると、襖が開いて憧れの人が部屋に入って来た。

 

 

「あっ!き、きよたきせんせー。」

 

 

急いで正座をする。

 

 

「そんなに緊張しなくてもいいよ。」

 

 

清滝先生は優しく笑いかけてくれた。

 

 

「どうやって儂の家の前まで来たんや?」

「えっと、一人で歩いて来ました。」

「親御さんはそれ知っとるんか?」

「んっ、、、はい。」

「親御さんは何て言ってた?」

「えっとそれは・・・」

 

 

俺が言葉に詰まると清滝先生はじっと俺の目を見る。

そして笑った。

 

 

「嘘をついてはあかんで。親御さんに内緒で来たんやな?」

「・・・はい。」

 

 

観念して白状する。

 

 

「お名前はなんて言うんや?」

「山橋勇気、5歳です。師匠の弟子にして下さい!」

 

 

清滝先生に土下座をする。

 

 

「桂香、将棋連盟に連絡して山橋くんの親御さんを探してもらってくれ。」

「はい、お父さん。」

 

 

お姉さんが部屋を出ていくと清滝先生は俺に向き直って言った。

 

 

「勇気くん、弟子になりたいんやったら今から試験や。」

 

 

清滝先生は俺の前に将棋盤を出して駒を並べていく、俺も慌てて駒を並べて行く。

 

 

「4枚落ちや、思いっきりかかっておいで。」

「はい!」

 

 

大きく深呼吸して俺は飛車先の歩をついた。

 

 

✳︎

 

 

一度戦って親御さんの元へ返すつもりだった。

ただ、今は目の前の少年の才能の高さに驚いている、惹かれている。

 

 

「グスッ。」

 

 

勇気くんは勝たなければ弟子になれないと思ったのだろう。敗勢になると涙を流しながらひたすら攻めを受け続けた。

終盤の受けはまだまだダメだが、中盤の駒組みには目を見張るものがある。

5歳で思いつくような手ではない。これがまぐれでないとするなら彼は間違いなく将棋の神に選ばれた子供である。

この子を育てたい、いち棋士として、目の前にいる大きな才能を伸ばしてみたい、そんな感情が生まれる。

 

 

儂と勇気くんが感想戦を行なっていると桂香が月光会長と2人の大人を連れて部屋に入って来た。

勇気くんの顔に突如緊張が走る。

 

 

「お母さん。」

 

 

両手をグッと握りしめて下を向く。

 

 

「山橋勇気くんのご両親を連れてきましたよ。」

「勇気帰るわよ。」

 

 

勇気くんは母に手を掴まれ無理矢理に連れていかれそうになる。必死に抵抗しながら儂に助けを求める目線を送る。

体が熱くなる。将来将棋界の宝をになるかもしれない才能をここで無くすわけにはいかない。

 

 

「お母様、少しお話を聞いていただきたい。勇気くんには素晴らしい才能がある。彼は近い将来必ずプロ棋士になれます。いや、儂がプロ棋士にしてやります。せやから、儂に勇気くんを預からせて下さい。」

「せんせー。」

 

 

勇気くんが泣きながら儂に笑いかけてくる。

 

 

「お言葉ですが、清滝さん、あなたは今までにタイトルを獲得したご経験は?」

「!?ありませんが・・・」

「タイトルも取れないような方がなぜ、この子がプロ棋士になれると言えるのですか?」

「それは・・・」

 

 

彼女の口撃に一気に劣勢に立たされて防戦一方になる。

もう投了寸前、ここで儂は起死回生の勝負手を放った。

 

 

「確かに儂のようなタイトルも取ったことがないように二流棋士ではお母様も心配でしょう。ならこちらにいる月光9段の弟子になるのはどうでしょうか?彼はタイトルも獲得していますし、おそらく今関西で最も強い棋士です。これなら文句あらへんでしょう!」

 

 

隣で話を聞いていた、兄弟子の口が開く。すまん、後で話すから今は引き受けてくれ。

 

 

「いやや・・・」

 

 

完全に蚊帳の外になっている勇気くんが、口を開いた。

 

 

「そんなんイヤや、僕は師匠の弟子になりたいんや!師匠に強くしてもらいたいんや。テレビで見た師匠みたいに強く熱い棋士になりたいんやぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

5歳の子供の魂の叫びにその場にいた全ての大人が言葉を失った。

 

 

「勇気・・・」

 

 

息子の必死の叫びに母親の動きが止まる。

 

この後、儂と勇気くんは勇気くんのご両親と話し合いなんとか、弟子入りを認めてもらった。

 

八一と銀子が内弟子になる一年前の出来事だった。

 

 

✳︎

 

 

「まぁつまり俺が言いたいのは憧れこそが強くなる重要な要素だってことだよ。八一はあいちゃんの憧れの人なんだ。お前が師匠として導いてあげるんだぞ!」

「・・・はいっ!」

 

八一の目に炎が宿る。

 

 

ーーまたひとつ成長するなーー

 

 

八一のさらなる成長を予見して体の芯がグッと熱くなる。

 

 

「そういえば、兄弟子から俺と姉弟子が来る前の話聞くの始めてですね。俺が来る前って兄弟子どんな生活してたんですか?」

「うーん、まぁ色々あったよ。」

「色々ってなんですか?」

「懐かしい話してるわね。」

 

 

桂香さんが洗い物を終えて俺の隣に腰を下ろす。

 

 

「桂香さん、俺たちが来る前って3人でどんな生活してたんですか?」

「うーん、あの頃の勇気くんはねー・・・」

「ちょっと桂香さん!今日はこの話はもう終わりにしよう。八一明日公式戦だろ、早く家帰りなさい。」

「えっ!?兄弟子そんな反応されたら余計きになる・・・」

 

 

渋る八一を無理やり連れてあいちゃんと3人で福島のアパートへ戻った。

 

 




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