これ以上ここにいると俺のイメージが下がる一方だと感じ、急いであいちゃんと八一を連れて地下へといった。
ようやく落ち着いて、今はあいちゃんの作ってくれたおにぎりと卵焼きをを3人で食べている。
「ホントにあいちゃんは料理上手なんだな〜」
あいちゃんの絶品弁当を食べて俺は感心する。
「えへへ〜うれし〜です。将来のお兄さんになる人だし気に入られなきゃ・・・」
あいちゃん、何を計算してるの・・・
「あ、そういえば、歩夢が対局前に、『おのれグランドマスターよ、貴様を倒す機会を待ち続けている、覚悟していろ。』って言ってましたよ。」
あいちゃんの計算などには全く気付かずに八一は世間話を始める。
「あー、そ、そうか。」
「おじさんは、あの、マントの人と関係があるんですか?」
「いやー、まぁプロデビュー戦の相手だったんだよね。」
俺が盤王となった次の対局が神鍋歩夢のプロデビュー戦だった。名人と戦い覚醒していた俺はその勢いのまま中盤戦で完全に勝負を決めて歩夢を泣き崩れさしてしまった。
その後もその勢いのまま中盤戦で相手との駆け引きに勝利し、圧倒的な差をつけて相手を絶望させて勝ち続けた俺についた新たなあだ名が
【中盤の鬼】
だった。
「だから今、攻め将棋といえば兄弟子と女流棋士の月夜見坂燎女流王将が有名なんだよ。」
八一から歩夢くんのデビュー戦の話を聞いたあいちゃんは怖がりながら俺の方を見た。
「おじさんは本当は怖い人なんですか!?優しい言葉で油断さしておいて本性を現す鬼なんですか!?」
またスキャンダルと言われそうな言い回しで俺を分析するあいちゃん。
「ちがうよ!?あいちゃん。確かに将棋ではよく怖いって言われるけど、対局以外では優しいおじさんだよ。」
9歳の女の子に嫌われないように必死になる俺。
あいちゃんと八一との昼食タイムはあっという間に過ぎて、八一は対局に戻ることになった。
「あい、ちゃんと兄弟子の言うこと聞いて4時になったら帰るんだぞ。」
「えっと・・・はい・・・。」
あいちゃんは少し黙ったが素直に頷く。
「あいを引き続きお願いします。」
「うん、まかしとけ。」
「あと、・・・ゴメンなさい。」
八一はそう言うと逃げるように俺の前から去って行った。
『ゴメンなさい』ってなんのことだろう?
✳︎
夕方4時になり八一の約束通りあいちゃんを清滝邸まで送り届けようとした。
「あいちゃん、そろそろ帰ろうか。」
あいちゃんは少し困った表情をしてその場に立ち止まる。
「あの、師匠は・・・」
「もう少し対局が長引きそうだから先に帰ろうね」
俺が外に行こうとしても、中々歩き出さないあいちゃん。やっぱり師匠が気になるんだろうな。
「八一の対局見たい?」
「!?ハイッ!」
あいちゃんは元気よく答える。
「そっか、いいよ。見ておいで、連盟には俺が話通しておくから。」
俺はウキウキで対局室へ行くあいちゃんの後ろ姿を見送る。棋士にとって一番大事なものは憧れだと俺は思うから。
✳︎
あいちゃんのことを将棋連盟に話して俺は自分の家へと帰った。
いつものように鍵を挿して回すと手応えがない。
ーーおかしいーー
鍵が開いている。
現在俺の部屋の鍵を持っているのは俺と八一だけ。
まさか泥棒に入られた!?
俺が恐る恐るドアを開けると中に人影が一つ。
まさか、本当に泥棒がいる!?
中をゆっくりと覗いてみるとそこには見慣れた顔があった。
「あ、兄弟子おかえり。」
「なんでいるの!?」
銀子が当たり前のように俺の部屋で棋譜を並べている。
「今日から、しばらく兄弟子の家に住まわしてもらうことにしたから。」
「ちょっと待ってくれ、いきなりすぎるし・・・、ってかどうやって俺の家入った!?」
「色々とあって。」
何があったんだよ。
いくら妹弟子だからといってもJCと同棲は社会的に大丈夫なんだろうか・・・。これこそ本当にスキャンダルになりかねない状況じゃないだろうか。
「し、師匠には話したのか?」
「うん、将棋の上達のためって言ったら頑張って来なさいって言ってくれた。」
「そ、そうなんだ。」
師匠は銀子に甘いからなぁ。
「そもそもなんで俺の家に住む必要があるの?」
「・・・八一の監視。」
銀子は一瞬黙ってから理由を話す。なるほど、八一があいちゃんに取られないか心配ということか。だから八一の家に近い俺の家に住むことにしたのか。
俺は男として見られてないらしい・・・。
「ダメかな・・・」
ここまで強引に話を進めようとしていた銀子が、一転して不安そうに唇を噛みしめ上目遣いで聞いて来る。
「う・・・い、いいよ。」
銀子にあんな顔されちゃ、俺は断れない。
「よろしくお願いします。」
銀子はかしこまって挨拶する。
こうやって俺と銀子の二人暮らしが始まることになった。
断じて下心はないからね!?
クーデレって書くの難しいですね。