キリトの過ち   作:四季山

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後編は二段階構成となっております。


後編1

PoHの言葉をもう一度思い出してから、俺はこの場を後にする。

つい先ほど、俺が今まで許すことができなかった相手を倒し、俺の償いは終わったはずだった。

「ここからが真の償いだ」

決意を新たにして、道を進む。

「待ちなさい」

ラフコフがアジトにしていた迷宮区を少し下った時、俺は声をかけられた。

いや、かけられたというよりは呼び止められたに近いだろう。

俺は振り返り、俺を呼び止めた奴をみる。

白と赤の騎士服に、腰に下げたレイピア。

栗色の長い髪にこの世の物とはいえ思えない美貌。

このアインクラッドでもはや知らないものはいないと言えるプレイヤー、血盟騎士団副団長、閃光のアスナだった。

「元攻略組ソロプレイヤー。キリト、ここで何をしているの?」

彼女が持つ剣のように鋭い声で言う。

「あんたに話すことでは」

「先ほどここでレッドギルド『ラフィンコフィン』と攻略組の戦いがあったわ」

俺の言葉に割り込んで話す。

その言葉には少し苛立ちが感じられるのは気のせいだろうか。

「その戦いでラフィンコフィンは全滅。そして、攻略組にも十を超える死者が出たわ」

「それがどうしたんだ?」

「この戦いは攻略組に情報のリークがあって開始されたわ。当然、相手に知られないように準備も内々にしてね」

けれど、とアスナは続ける。

「私たちがこの迷宮区に入った時、奇襲があったわ。そうあたかも私達がここに来るのを知っていたようにね」

「それで、俺がラフコフに情報をリークしたと?」

しかし、アスナは首を横に振る。

少しの間の後、アスナは噛み締めるような声で言った。

「私達はその奇襲がわかっていたわ。そう、その少し前にあった大量のドロップアイテムや装備でね。あなたの仕業でしょ?」

実際にその装備は攻略組を挟み撃ちにしようと準備していたラフコフの別部隊の装備で、それらは全て俺が殺した。

その後、ドロップアイテムは全てその場に残し、この先奇襲があるかもと匂わせていたのも俺だ。

だが、俺は、

「さあな、情報をリークしてきた裏切り者の仕業じゃないのか?」

そうやってしらを切った。

もう話すことはないとばかりに俺は立ち去ろうとする。

だが、それは目の前に現れた数名のプレイヤーによって阻止される。

そのプレイヤー達は全員赤と白の騎士服を身にまとっている。

「あなたにはまだまだ聞きたいことがあるわ」

先ほどまで、穏便に話ど済ませようとしていたアスナも腰のレイピアを抜き、戦闘体勢だ。

「俺を殺す気か?」

「いいえ。ただ捕縛して罪を償ってもらうだけよ」

レイピアを中段に構え、こちらに向ける。

「例え、犯罪者であっても人殺しは人殺し。許されることではないわ」

「そうか」

「降伏するなら今のうちよ」

その剣呑な態度に俺は背中から剣を引き抜き、構える。

こちらの行動で拒否と認識したのか、周りのプレイヤー達もそれぞれの獲物をこちらに構える。

そして、唐突にアスナの剣にライトエフェクトが灯る。

細剣用突進系ソードスキル<シューティングスター>

瞬きをするよりも早く、猛烈な速度の突進技が襲いかかってきた。

それを読んでいた俺は軽く剣で、レイピアの剣先をいなし、軌道をそらす。

軌道をそらされた突きは俺には当たらずに通り過ぎる。

初撃をかわされたアスナは小さく舌打ちをし、

「総員、かかりなさい!」

と周りのプレイヤー達に指示を出した。

周りのプレイヤーが己の獲物をこちらに突き出してくる。

数は六。獲物は両手剣が二人に盾持ち片手剣が三人。そして、細剣使いのアスナ。

少々、部は悪いがここで負けるわけにはいかない。

俺は剣を構えて戦う。

背後から襲ってくる圧倒的な重量の剣をいなして、よける。

隙をついて攻撃するも、盾持ちの奴が出てきて受け止められる。

隙ありとばかりに突き出してきたレイピアをサイドステップで避け、そのまま距離を取る。

「ちっ、数が多い」

一人一人の技量は俺以下でも、数が数だ。

このまま戦闘を続けても明らかにジリ貧。

いっそ、殺す気で戦えばこの状況を打破できるかもしれないが。

最悪の考えが浮かぶも、首を横に振る。

そんなことをしてしまえば、俺もあいつらと何も変わりやしない。ただの殺人鬼だ。

いや、今も変わらないのかもしれない。

俺が一人で思念している間にも、戦闘は続く。

無数の剣の攻撃に、かなり苦しい状況だが実はまだ策はある。

だが、

(本当にここで使っていいのか?)

仮にあの男がこの場をモニタリングしていた場合、この策は使えなくなる。

だが、ここでアスナ達に捕まってしまえば全てが水の泡。茅場を討つことはできなくなる。

(いや、いっそのことアスナたちに全てを話すか?)

一瞬、それを考えたが俺の少し残った恐れがそれを否定する、

こんな危険な賭けに彼女を巻き込む訳にはいかない。

となると、あれを使うしかない。

俺は真上から振り下ろされる両手剣を弾く。

元々の重量はあちらのほうが大きいが、圧倒的なレベル差による筋力値の差でなんとか押し返す。

そして、二回ほど高く跳躍し距離を取る。

ここからは時間との戦いだ。

すぐさまメニューウインドウを開き、ストレージの欄を確認する。

視界の端ではアスナが再び突進技の構えを取っており、あと一秒程でこちらに向かってくるだろう。

俺はさらに操作のスピードを速める。

ストレージから、一本の剣を装備しメニューを閉じる。

アスナの剣が猛烈な速度で襲いかかってきたのと、俺が剣を装備したのはほぼ同時だった。

アスナの剣を再び片手の剣でいなす。

「えっ」

突進する時にアスナが俺の状態を確認して驚きの声を上げる。

俺の片手には先ほどと変わらずに黒い剣が装備されている。そして、反対側の手、そこには白と赤の剣が装備されていた。

そう、俺は両手に二本の剣を持っているのだ。

「なんだあれ?」「初めて見たぞ?」「これだからビーターは」

あまりの事態に、他の団員達も驚いている。

その隙を逃さずに、俺は攻撃を仕掛ける。

敏捷値全開のダッシュで距離を詰め、ソードスキルを発動させる。

二刀流スキル<ダブルサーキュラー>

片手剣と盾を持った団員は、最初の攻撃を防ぎきるも二発目をもろにうけて、吹き飛ばされる。

その隙を逃さずに他の団員が攻撃してくるが、このスキルの硬直は短い。

すぐさま別のスキルを発動させる。

二刀流スキル<エンドリボルバー>

二本の剣による回転攻撃が、攻撃を発動しようとしていた二人の団員をノックバックさせる。

これで残ったのは二人。

残った団員は目の前の俺を見て明らかに恐怖していた。

そんな二人の剣を弾きあげて、戦闘不能にさせる。

そして、残った一人。

「な、なんなの、それ」

アスナに向かって歩いていく。

こちらに向かってゆっくりと歩いてくる俺に恐怖しているのか、肩が僅かに震えている。

「エクストラスキルの二刀流だ。あんたのところの団長みたいなのかもしれないけどな」

「それって、ユニークスキルってこと?」

ユニークスキルとは解放条件不明のエクストラスキルで、たった一人しか習得できない。

現時点で知られているのは、血盟騎士団団長の持つ『神聖剣』のみだが、俺の二刀流で二つになった。

「多分そうかもな」

「ねえ、あなたは一体なにがしたいの?」

アスナが聞いてくる。

その声には恐怖の他に違う感情も混じっているように感じられる。

俺は少し自嘲気味に笑う。

「ただの償いだ。それ以上でもそれ以下でもない」

それだけ言って、近くの倒れている団員から転移結晶を奪い取る。

「今度会うことがあれば現実世界で会おう。その時に全てを答えるよ」

そう言って、俺は転移のコマンドを唱える。

「転移『グランザム』!」

叶えるつもりのない約束をして。

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