もののけの子 作:雪谷
待雪が来てから修道院は変わった。こいつに会う数年前から養い子としてひきとった悪魔の落胤である双子には顕著にその変化が表れている。
兄の燐は悪魔の血を強く引き継いでおり超人並みの怪力を持て余してグレかけていて、どうしたものかと思っていたがそんなもん関係ねぇとでも言うように、アイツはぶち壊してくれた。友だちになってくれた。
反対に弟である雪男は塞ぎ込みがちで体も弱く、本音で語ったりしない。勇気がない、自信がない、自分はいいやと思う反面負けず嫌いな所もある面倒くさいやつだけど、自由と好奇心の化身とも見える待雪と接することでなにか吹っ切れたようだ。
まるで一番上の兄のように、あの双子を甘やかし教え導く待雪には感謝してもしきれない。あいつにこんなこと言おうものならば常人ではないものを見る目で俺のことをばかにするのだろうがな。
まだ一月、されど一月。
この短い期間で、おやつの時間をつくって団欒の場をつくってくれた。
徹夜でゲームなんて4人で意地の張り合いをして、父と子の時間を増やしてくれた。
すれ違っていた俺たちが、待雪によって1つの家族として強い繋がりが出来ていく。今までだって俺なりに家族としてふれあい愛情を示してきたつもりだったが、上手く行かないことが多かった。
俺は不器用で子供の扱いなぞ知らず、俺ではどうしようもないことの方が多くて……
情けないが、アイツを思ってここに迎えたのに逆に俺の方が世話になっている。
「おじさん、今日は燐君も手伝ってくれたんだ」
籠一杯のカップケーキの山を燐と1つづつ持って表れた待雪。漂う甘い香りに誘われ既に待機中の俺たちに苦笑いして見せる待雪の隣にいる燐はどこか落ち着きなくそわそわしている。
よく見ると確かに均一にトッピングされ膨らんでいるものと、量がまちまちでたまにトッピングが混ざっているものがある。
うちの男たちは菓子の才能はないからなぁ。
もう燐が作ったやつは半分も残っていないだろう。にやりと笑えば楽しい時間の始まりだ。
「よーし、燐がつくったのはこれかぁ?」
「な、何でわかんだよ!?」
「だって兄さんのは見た目がちがうじゃない」
「あ、ほんとだー」
「やっぱり」
「まあまあ、食べよう皆。おじさんに食べられてしまうぞ」
……
壊れかけていた俺たちを俺の息子たちをその手で直してくれた、たまに遠い目をして何か深く考え込む待雪。その後は決まって何かを決意した顔になる。
12のガキのする顔じゃねえ。
お前はどこまで知っているのだろうか。全て知っていてなお、こうしてここで息をしているというのならあと少し俺の我儘に付き合ってくれや。
菓子を頬張る皆を眺めながら珈琲を飲んでる。自分はあまり好きではないのに菓子を作るガキに、抱きついて頭を撫でまわすと迷惑そうに毒を吐かれた。
でも逃げない辺り嫌ではないのだろう。
俺にもお前を甘やかさせてくれ。
血のつながった家族という人間に捨てられて悪魔と生きるお前に、人というものを知ってもらいたい。
優しいお前に優しさを知ってもらいたい。
頼られるお前に頼ることを知ってもらいたい。
まだ、お前は子供だよ。
「おじさん、苦しい」
いつの間にか腕に力を込めすぎていたようだ。
そこに燐と雪男が、左右から抱きついてきた。
腕の中から悲鳴が聞こえた気がする。お前ら以外と力ついてきたなぁ、俺も苦しいぞ。
そのぬくもりを堪能しているとカシャリとシャッターを切る音が聞こえた。
「あ、もっかい!皆でピースしようぜ!」
「いいね、お願いします!」
「よーし、お前らまとめて抱き締めてやる!」
「だから苦しいって……」
あとから見た写真には、皆満面の笑顔で写っていた。
真ん中でつぶれそうな待雪も、空の神様と一緒にいるときみたいに幸せそうな笑みを浮かべていることに、ちょっと達成感とか幸福感とか色々感じながら写真立てに飾って居間を出た。
あのあとまた徹夜でゲームをしたためまた、弁当をつくってやらないとな。
今日はメフィストに呼ばれているから、暫く忙しくなるだろう。
あの悪魔め、と今からなじっておく。
ご読了ありがとうございます。