もののけの子 作:雪谷
気にする方はいないと思いますが自分的にすこしこうもやもや……。
あっという間に月日は流れ、夏休み。
私としてはやっとである。
あの後あったに定期テストでは僅差でまた同じ順位をとり、雪男君がいじけて三日ほど部屋から出てこなかったり、テストが終わってゆるんだ空気を熱血にした球技大会では燐君がバスケで某漫画の如くゴールをぶち壊したり、雪男君がバドミントンでネットに穴開けたり……
私?見学してましたが何か?ま、詳しくは気が向いたときにでも話すとしよう。
……とにかくこの双子、規格外にも程がある!
加減というものをしてほしかった。
「あー、やっと夏休みか」
「でも学校ないと暇だよな」
「あ、暑い……」
雪男君は暑さにやられて夏バテ真っ盛り、燐君は学校が恋しいほど元気が有り余っているようで若干羨ましい。
私はというと、
「じゃあ、私は山に帰る」
帰郷しようと思った、のだが……
「待て待て待て待て!マツがいなくなったら誰が雪男を看病すんだよ」
「お前がやれよお兄ちゃんだろ」
「こんな時だけ年長者扱い!?」
「マツ、僕からも頼むよ……兄さんに任せられると、僕死にそうで怖い」
「「そんなに!?」」
燐君の信用のなさに戦慄しながらも今修道院には私たち3人以外いないことを思い出した。祓魔師の仕事が突然忙しくなったようで、皆さん忙しく出動中である。
恐らく夏休み中は帰ってられないと言われた。
ならば、
「よし、一月分の泊まり準備してこい」
「「えぇ?」」
我が家に招待しよう。
「客間があるから寝袋等は不要だ」
「え?マジ?」
「唐突すぎるよ……」
「ほら急げ!」
「「ハイ!」」
私の急かす声に2人が慌ただしく準備し始める。その間に私はおじさんへメールしておくことにする。
宛名 おじさん
件名 お泊り会のお知らせ
本文 夏休みは燐君と雪男君をつれて山に帰る。
何かあれば家に来てくれ。
山は涼しいから雪男君も元気を取り戻すだろうし、自然が多いから野生児の燐君も暇はしないだろう。それに燐君は怪力をコントロールするいい機会だから、空の神様に修行をお願いしてみよう。なぜか私が来てからは怪力でアクシデントは起きてないみたいだが、備えあれば患いなしともいうしな。
雪男君は二階の書庫にでも案内しておけば大人しいだろう。医者になりたいと公言していたから、無難に医学書でもすすめておこう。何だかんだ言って燐君のこと大好きだから一緒に修行始めるかもしれないけど。
一応居間のテーブルに、書き置きも残す。
『山に帰ります、詳しくはおじさんに聞いてください。待雪』
なんだか語弊が生まれそうな文面だがまあよしとする。さあ二人の準備はどうかな?
「雪男!漫画はいんねぇ!」
「山に行くんだから漫画は要らないだろ、兄さん。それより着替えを多めに入れて」
「わかった!虫とかいるのかなー!」
「アミと虫籠は物置小屋」
「わっほーい!」
……うん、まだ終わりそうにないな。これはあれだな、旅行前の小学生と母親のやり取りと似ている気がする。
その後も、ゲームは持っていきたいとか電気はひいてあるのかとか肉食べたいとか……
「お前ら!着替えと宿題、勉強道具にゲームを持ったら玄関に集合!遅いと飯抜きだ!!」
「「それだけは勘弁してくれ!!」」
仲良くユニゾンした双子たちは大慌てで動き出し、ドタバタガシャーン!と事故りながらも準備を終えた。やればできるなら早くそうしろ。
結局荷造りをはじめて五時間後に準備が終わった。準備を始めたのがおやつの直ぐ後だったので、もう夕方だ。夏だからまだ明るいけど。
「さて、雪男君は知ってるかもしれないけど、移動にはコレを使う」
そう言って青い宝石を埋めてある銀の鍵を取り出した。
やはり雪男君は知っているようで、目を見開きついでため息をはいた。
燐君は意味がわからないと言った顔をして、鍵と私を交互に見比べていた。
「さて行くか」
「おう?」
「はぁ……」
内側から鍵穴に鍵を差し込み、扉を開けた。
「へぁ!?」
扉の先を見て間抜けな声を出したのは、勿論燐君。
「本当に山だ」
見渡すかぎり木や山菜などの植物に埋め尽くされていることに驚くのは雪男君。修道院はどちらかというと都会よりの街にあったから自然が少なくて、二人からすれば新鮮だろう。
「2人とも、驚くのは程ほどにして今日は家に入ってゆっくりしよう」
玄関の外向きにあるバルコニーに出るように設定してある鍵なので、今しがた出てきた扉を開いて中へ促す。
「「広い、天井高い」」
「ほら、ほら、靴脱いだら靴棚のスリッパ使って」
「ここ、1人ですんでるのか?」
「うん。客間は二階にあがってすぐのところ」
「「わかった」」
開いた口が塞がらない状態の二人を見送って、私は夕食の準備をすることにした。
客間のある二階からは双子の微笑ましくも仲睦まじい会話が聞こえてくる。これは後から揶揄ってやらねばならん。
ご読了ありがとうございます。