友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか?   作:オティンティン大明神

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過去話 4

 

あの時の俺は石の言葉を受け止めきれずにいた。『お姉さんとゆっくりと話した方が良い』俺は姉さんになんと言えば良かったのか分からなかったんだ。

 

「おかえり……焦凍? 」

 

「……ただいま」

 

何を話せば良い。何を言えば良い、それすら分からない俺はただ返事を返して部屋へと向かう。また何も出来なかった、そんな自分に苛立ちを感じながら俺は足を進めた、その後は毎日のようにしている訓練をする。我武者羅に、訓練をしている時は他の事を考えなくてすむ。

いっその事、もう明日が来なければ良いのにと。そんな事を考えた。

 

『家族の絆は絶対に壊れない』

 

アイツの耳障りな言葉が頭の中で響いた。

 

朝は望まなくても必ず来る、俺は何時ものように学校へと向かう。学校に行く前にすら姉さんに何も言えず、そんな自分にまた苛立ちながら俺は足を進めた。苛立ちを隠せずにいると耳障りな雑音が俺の耳を穿いた。

 

「よぉ轟ィ……俺の事を覚えてるか?まぁ……スカした面で俺を見下してたお前が俺を覚えてる訳がねぇけどな 」

 

知らない声だ、アイツの声じゃない。顔を見ても覚えがない。俺はその声の主を無視して足を進める。ただでさえ機嫌が悪いのに、こんな奴と関わってる余裕はない。

 

「……やっぱりお前はそういう奴だよなぁ! なんにも変わらねぇ! 他人を見下したその目! 全てを拒絶するその背中! てめぇは本当にお前の親父に似ているよ! 」

 

その言葉に思わず振り返った。他の全ては受け流せるが俺にとって唯一認められない事を言われた気がした。

 

「……何だテメェ。何の用なんだ」

 

要件をさっさと聞いてこの場を去ろう。そう思い要件を問うと声の主は肩を竦め言葉を続けた。

 

「……まぁ、そうだろうな。他人に興味のないお前にとって俺はモブにすらなれない男だ」

 

「宣戦布告だよ。轟焦凍、いやNo.2ヒーロー。エンデヴァーの息子」

 

「俺はお前の事が心底憎い。世界中の誰よりもお前が嫌いだと言っても過言ではない、だから俺はお前を殺す」

 

それまで震えて待っていやがれ。そう言い残し声の主は去っていく。殺す、そう宣言されたのに俺の心に何も感じるものはない。どうでも良いと結論づけ俺は止めていた足を進めた。

 

考えるべきだった。己が憎まれる原因を、何故殺したいほど憎まれていたのかを。だが、たった一つの復讐の為に全てを顧みず突き進んでいたあの時の俺に、それを出来る訳がなかった。

 

「──なーんか轟って何時もつまんなそうな顔をしてるよな」

 

放課後。俺はアイツと一緒に将棋をしていると、突然そんな事を言われた。いきなりの言葉に眉を細める俺の顔をみながらアイツは言葉を続けていく。

 

「それだよそれ、眉を細めてニコリとすら笑わない。んな顔ばっかしてると表情筋が固まってそれ以外の顔が出来なくなるぞ」

 

「スマイルだよスマイル。あっプリ○ュアじゃないからな」

 

笑いながらアイツは言葉を続ける、俺の口元に指を当てて上に向ける。表情筋を無視して作られた歪な笑みが俺の顔で作られた。不機嫌そうに寄せられた眉根を親指でグリグリと指ですられる。思わず指から顔を離す。何をする、と視線に乗せ睨みつけるとアイツは何時もと同じように笑っていた。

その時、俺は初めてアイツの顔をマジマジと見た。誰かに似ている笑み、見ているだけで何か胸の奥が熱くなるような、そんな笑顔。

 

その時、俺は完全に察してしまった。この顔を俺は何時も見ている。

俺を見つめる姉さんの笑みだ。

昔、俺に煮え湯を浴びせる前の母さんの。

 

「これは俺の母ちゃんの受け売りなんだが……世の中最後まで笑ってる奴が勝つらしいぞ。まぁ……オールマイトも似たような事を言ってたし間違いないな! 」

 

「だからさ、お前も笑っとけ。肩肘張らずに生きてた方が人生楽しいぞ」

 

「だから。お前も笑っとけ」

 

意味が分からない。だけどその最後の一言だけは俺の胸に深く突き刺さった。

だからだろうか、聞いてしまった。コイツなら教えてくれるかもしれない、そんな事を思って聞いてしまう。

 

「……俺は何を話せば良いんだ? 」

 

要領を得ない言葉足らずな俺の言葉にアイツはまた笑って

 

「なんでも良いさ。今日学校であった事でも良いし。空が綺麗だったら、今日は青空が綺麗だったでも良い。そんな単純な事で良いんだ」

 

「嫌な事があったらそれを話せば良い。そういうのは溜め込み過ぎると身体に毒だ。出さないと狂っちまう」

 

そうだなぁ……とアイツは頭を捻り窓から景色を見る。そして俺に語り掛けるように言葉を続けた。

 

「見ろよあの雲。ウンコみたいじゃね! 」

 

そうアイツが指を指す先に見える雲は夕暮れの色に染められて確かに糞に見えない事もなかった。下らない、聞いた俺が馬鹿だったと思い席を立つ。そのまま家へと足を進めた。

 

「おかえり焦凍……焦凍? 」

 

姉さんの言葉に俺は動きを止める。何か話さなきゃならない、一体何を話せば良い?

 

「……今日ウンコみたいな雲を見た」

 

本気で自分が嫌になった。いきなり俺は何を言ってるんだ、そう思い頭を振る。

 

「悪ぃ……違う 」

 

「フフッ……ウンコって……焦凍がウンコって……フフッ」

 

否定しようと言葉を続けると姉さんは顔を逸らして肩を震わせていた。失敗した、自己嫌悪の波に取り込まれる。頭の中でグルグルと自己嫌悪を吐き出す俺の身体が引き寄せられる。

 

「……違うって事は他にも何かあったんだよね? お姉ちゃんに教えてくれない? 」

 

姉さんは嬉しそうに笑っていた。抱き寄せられた姉さんの体温を感じながら俺は言葉を続ける。

 

「……アイツが変な事を言ってたのをそのまま言っちまっただけだ。それ以外に何にもねぇ」

 

その言葉に姉さんの動きが止まった。何時もの笑顔が顔が呆気に取られたようになる。何秒か分からなったがその顔がまた笑顔に戻った後、姉さんは言葉を続けた。

 

「あるじゃない、他の事がいっぱい。今日は洗いざらい話してもらわないと怒っちゃうんだから」

 

今日は訓練サボっちゃいなさいと笑う姉さんに引っ張られ居間へと連れていかれる。

 

「それじゃあ教えて? そのアイツくんの事」

 

俺はアイツの事を話した。幸いアイツは毎日のように俺に構ってきたから姉さんに色々と話す事が出来た。

 

無理矢理将棋をやらされる事、アイツは強くて俺は未だに勝てない事を。

弁当の中身を無理矢理交換させられた事、人の魚を卵焼きと無理矢理交換させられた事。

無理矢理トランプをやらされた事、何度も何度も最後までジョーカーを握っていた俺を見てアイツは笑いやがった事。

 

話し出すと止まらない。そんな中、姉さんは何時もの笑みで俺に語り掛ける。

 

「……アイツくんは焦凍のお友達なんだね」

 

即答出来なかった。アイツは俺に無理矢理関わってくるだけ、友達ではない。その筈だ。それに俺はウンザリしている、その筈。

 

「……分からねぇ」

 

だが、口から出た言葉は肯定でも否定でもない。そんな言葉を聞いても姉さんは笑っていた。

 

その日は姉さんと話した、沢山話した。夜になり寝床につく。

 

明日は何を姉さんと話そう、そんな事を考えながら。

 

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