友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
『焦凍……お姉ちゃんね。本当は少し心配していたの。焦凍が学校で辛い思いしてないかって。辛くて学校に行きたくないって考えてるんじゃないかなって』
また……姉さんと話し合えるようになったんだ。
『でも。安心した……今の焦凍ならきっと大丈夫。ううん、絶対に大丈夫』
そう笑う姉さんの笑みはいつもと違っていた。俺はその笑みを守りたい、もう二度と姉さんを苦しめたくない。
あの笑顔を守りたい。
『おいおい。どうしたよ轟焦凍、黙りくさっちまって。俺はお前の人生最後の会話相手、もっと色々と話そうぜ? 』
だが……コイツがいる限り姉さんを守る事が出来ない。姉さんだけじゃない、俺のせいで苦しんだ母さんの生命も危ない。
『───良いのよ、お前は……』
ノイズまみれの記憶にある母さんの姿。鮮明に覚えている俺に恐怖する顔じゃない、それよりももっと昔の母さんの姿。
姉さんと母さんを守りたい。その為なら……俺は。
「あぁ……そうだな」
『そうそう!人生最後なんだし色々話しておかないと損だぜ損! 』
今日、ここで死んでも良い。
───
「やっぱりか……可笑しいと思ったんだよ。色々と」
夕暮れ時の凝山中学に1人の少年の声が響く。その少年は自分のクラスの教室の前で納得し、怒気を隠せない声色で言葉を続けた。
「あの後輩が沙織の携帯を持っていたのが可笑しいと思ったんだ……しかも彼処は底辺オブ底辺が集まる裏路地、後輩が通るような場所じゃない。しかもあの時の後輩の顔、確信した」
脳裏に映るのは泣きそうな顔で此方を見る後輩で、俺を睨みつける姿は見ていて痛ましかった。少年は眼前で倒れ付す少女を抱き抱え言葉を続ける。
「誰だ……俺の愛するキティの1人を使って轟を操っていた奴は。誰でも良いが覚悟しとけよ、俺は自分の物が勝手に使われて、しかも傷つけられるのに堪えられる男じゃねぇ」
「お前だけは絶対に破滅させる」
そこに何時もの信条大和の姿はない。今のクラスメイトが彼の姿を見れば驚愕の余りに後退りしてしまうだろう。
溢れんばかりの殺意。端正な顔を怒りに歪ませ、少女を抱き締める彼は最早別人の域に達している。
携帯電話を取り出し大和はとある人物へと電話を掛ける。相手が電話に出た瞬間、声色を変え大和は言葉を発した。
「ねぇ俺のキティ。ちょっと頼みたい事があるんだけど」
先に要件を言う必要は無い、彼女達が大和の願いを断る訳が無い。大和自身もそれをよく理解しているからこそ言葉を続ける。
「俺のキティ達の中に最近沙織が何処に行っていたのかを知っている奴がいたら教えて欲しい。出来るだけ早く、これをグループLINEで流して欲しい。頼めるかな? 」
当然の如く返事を返す電話相手の声を聞き大和は柔らかな声で返事を返し通話を切る。
「ありがとう。愛しているよ」
通話を切り、大和は少女を抱き抱え歩き始める。
「俺の物を傷付けた代償はキッチリ支払って貰うぞ。ゴミ屑」
引合石が彼のこの姿を見れば困ったように笑いながら彼の事をこう表現するだろう。
あの頃のお前、全開だな。と
そして彼の携帯に返事が入る、先程頼んだ事の結果がもう届いたのだ。別に可笑しい所は何も無い、彼の持つネットワークの力があればこの程度は容易い事。その結果内容を読み込み大和は笑う、口元を裂ける程に歪ませて。
「ほぉ……なるほど。最近そこに沙織は……なるほどなるほど。つまり此処が奴さんの拠点って事か」
そこは裏路地の奥にある1つの小さな空き家。そこならば誰かが何かをしていても誰も気に留めないだろう。昔からチンピラが屯している場所の1つだ。なるほど。と大和は納得し携帯を操作する。
「よぉ童貞野郎。轟の奴がヤベぇ事になってやがったぞ」
電話先の相手はそれだけで現状を理解し、大和へと情報を求める。知りうる情報を全て話し、相手の声色が段々と低くなるのを感じ大和は薄く笑った。
「(流石は俺の知りうる最強の存在だ。プロヒーロー共に頼るよりも圧倒的に頼りになる)」
電話越しに感じるこの圧倒的な安心感。渡した情報から既に幾重にも可能性を潰し正答へと近付いているこの圧倒的なスピード。
『……相手が何かを盾にして轟に何かを要求しているのは火を見るよりも明らかだな』
「その通りだ、アイツはあの時泣きそうな顔で俺を睨み付けやがった。恐らくアイツが最も大切な物を盾にされたんだろう……つまり」
「『家族』」
電話越しの相手の声が氷点下よりも下がった、大和はそう感じた。コイツは最も家族を大切にする男。家族、コレを使われたとなれば、コイツの逆鱗に触れたと同義。
『大和……轟の家族の情報分かるか? 』
「おう。1から100までぜーんぶ分かってるぜ。なんならスリーサイズもいるか? 」
『いらん、さっさと相手を詰ます。戦う前に終わらせる』
何時もなら通じる軽口すら反応しない相手に大和は笑う。思った通りの反応、いや、それ以上だと。
「エンデヴァーを除いて家に住んでいるのは轟とその姉、ちなみに姉は××小学校の教師。後3人いるが1人は行方不明、1人は母親で病院、もう1人は大学生で今は大学近くのマンションだ」
『全員安全な場所に纏める』
「どうやって? 」
現在、全員が全員同じ場所にいる訳では無い。俺も流石に轟の家族の電話番号まで分からないと言うと相手は言葉を続けた。
『数だけは有り余っているヒーロー共を使う。こんな時だ、精々俺の手のひらで踊って貰う』
『何時もは給料泥棒してる余り者なんだ。ここで働かなくて何時働かせる』
時折コイツが見せる姿。何時もの飄々とした姿でもなければ友情に熱い姿でもない。ただ冷徹に敵を追い詰める姿。
これだ。と大和は背中に冷や汗が流れたのを感じた。自分の怒りすら消し飛ばす程の圧倒的な圧力、電話越しに感じるこの存在感。これがコイツなんだ、大和は感じていた。
最後に確認事項があるとアイツは語る。
『任せろ、全ては俺の為にある。それで……確かめたい事があるんだが』
「ほんっとーにお前が親友で良かったよ。俺は……どうした?」
『轟の電話はまだ繋がっているな? 』
「当たり前だろうが、携帯なんぞ腐るほどある。欲しけりゃくれてやろうか? 」
そう軽口を叩くと電話越しの相手は即座に返事を返す。電話越しに空気が流れる音が相手の声と混じりながら聞こえてきた。
『直ぐにでも取りに行く。そこを動くな、お前のいる場所はお前を『触っている』から分かる』
「……マジでお前が敵じゃなくて良かったわ」
その瞬間、圧倒的な存在感を感じた。景色全てが歪んだような威圧感を放つ存在が空から大和の眼前に降り立つ。
「来たぞ」
「……素早いご登場で」
そこに何時もの笑顔はなかった。
引合(魔王ver) 多分今作初登場です
正直過去話くらいでしか使われません(悲しみ)