友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
「なに……俺に電話? 」
荘厳な部屋に1人の男がいる。その男は日本社会に置いて頂点の知名度を持つヒーローの1人、NO.2ヒーローエンデヴァー。その男に1つの連絡が届いた。
「はい……ただ『お前なら聞けば全て理解する。火急であり機密ゆえにこのような連絡しか取れない』……との事です」
その言葉に眉根を細める。プロヒーロー故に火急の案件、そして機密事項だというのは理解出来る。だが、それならば真っ先に己のヒーロー名を伝える筈。それがない時点でこの連絡は恐らくイタズラの類いの可能性が高い。
だが……もしもイタズラでなかった場合は未曾有の大事件を止められるチャンスを失う可能性も秘めている。
厄介な事だとため息を吐きエンデヴァーは電話を引き継ぐ用意をする。
「はぁ……分かった、預かる。もう下がって良い」
そう言うと女性社員は頭を下げて執務室から出ていく。その姿を見送った後、エンデヴァーは電話に出た。
「こちら。エンデヴァー、何があった 」
『急がないとお前の血は今日滅ぶ』
時間が止まった。理解出来ない言葉に脳が追いつかない、俺の血が滅ぶ。意味をそのまま捉えると俺の血族の滅亡、つまり今日、俺の一族は全員死ぬと電話の主はほざいた。
「なに……? 」
『お前は自分の嫁を守れ、後の手筈は全て整えてある。お前らが俺の手のひらで踊っていた方が此方としても非常にラクで済む』
「貴様! 待て! 何のことだ! 話せ! 」
慌てて電話の主にそう呼び掛けるも既に切られたのか電話越しに回線が切れた音が無情になるだけだった。
「糞ッ! 」
思わず受話器を力づくで叩き付ける。そしてそのまま立ち上がり携帯で家族へと連絡を取る。先ずは長女の冬美、直ぐに出た事に安堵して状況の確認を取る。
「冬美! 無事か!? 」
『えっ……おとうさん? えっ……これってどういう……キャッ!? 』
その言葉を最後に電話は切れた。
「冬美!? 待て! 冬美!? 」
その後も何度か電話をかけるが一方に繋がる気配がなく、慌てて他の者へと連絡を付ける。次男である夏雄、それもまた直ぐに電話に出た。
「夏雄! 現状を報告しろ! 」
『はぁ……? 現状ってアンタの考えてる通りだよ。意味わかんねぇけど……ってちょっまっ』
電話が切れる。
「夏雄!? えぇいどういう事だ! 夏雄!? 待て! 繋がらんかこのポンコツ! 」
スマホに有らん限りの悪態を付きながらエンデヴァーは何度も連絡をかけるが一向に電話に出る気配がなく、背中に嫌な汗が流れる。
もしや……焦凍も。
そう考え、急ぎ連絡を取るも焦凍と一向に連絡が通じない。何度掛けても相手が通話中だと無機質な音声が伝えてくる。
「焦凍! 出ろ! 焦凍ォォォッ! 」
携帯が己の熱で焼ききれる。 使えなくなった携帯を放り捨てエンデヴァーは慌てて執務室を後にする。
「『己の嫁を守れ』……糞ッ! なんだ! 何が起こっている!? 」
己の嫁。今は病院にいる筈の女の事を考えて思わず舌打ちを打ちそうになる。出来れば会いたくない存在だ、焦凍が大切な時に狂った挙句煮え湯を浴びせた女。エンデヴァーからすれば己の後継者として相応しい息子を育成してた時の蛮行、到底許し難い。だが、愛していない訳ではない。
ただ……己の後継者である焦凍の教育に狂ったままでは邪魔だっただけだ。
個性を使い急ぎアレが居るはずの病院へと向かう。本来面接時間は過ぎているがNO.2ヒーローとしての体裁を持つエンデヴァーからすれば大体の事は多少無茶はつく。
「またですか!? 今日の面会時間は過ぎています! だれであろうともって……エンデヴァー!? 」
「退け!火急の案件だ! 」
途中で止められるが知ったことではない。全力で階段を駆け上がり、アレがいる個室へと向かう。そしてアレがいる部屋を見つけると力づくで扉を開けた。
「おい! 無事か!? 」
己の嫁、轟冷の無事を確認する為に病室を見る。そしてその先にある光景に理解が及ばずエンデヴァーの思考回路はフリーズした。
そこには夏雄と冬美が困惑した顔で椅子に座っており、ベッドから此方を驚いた顔で見る冷と。
「えー……っと。どういう状態でしょうか? 」
「……まったく分からん。この千里を見通すイーグルアイを持ってしても、正直現状が見えん」
プロヒーローであるバードマン、そしてシンリンカムイが説明を要求するような顔で此方を見ていた。
現状を理解した瞬間、エンデヴァーの脳裏に1人足りない事実が駆け巡る。
「一体何処にいるんだ……焦凍ォォォッ! 」
病院にエンデヴァーの怒号が響き渡った。
───
「……これで詰みだ」
携帯をポケットに入れながら少年は呟く。2個ある内の1つを片付け、もう1つ持ってあった携帯へと意識を集中する。電話の先から聞こえる声と鈍い音に心底苛立ちを覚え、思わず唇を噛み締めていると、後ろから少年へと声が掛けられる。
「……『個性』は分かったか? 」
「……分からん。アイツはただ暴行を加えているだけだ……恐らく嬲り殺しにするつもりなんだろう、 さっきから聞くに耐えん言葉ばかりだ。まるで餓鬼の駄々だな」
視線の先にある空き家を底冷えする視線で少年が睨みつけていると、携帯の先から聞こえた言葉に目を丸くした。
『……本当に俺が死ねば姉さんと母さんの生命は助けてくれるんだな? 』
『あぁ! 約束は守るさ! 俺はお前とは違うからな! 』
少年は声色で全てを察した。片方は本気でここで死ぬ覚悟がある事を、もう片方は約束を微塵も守るつもりがない事を。
『やれお前ら! もっと痛めつけろ! 』
『……テメェがやるわけじゃないんだな』
『俺の『個性』じゃお前を殺せねぇ! 俺の個性はコイツらを動かす事が出来るくらいさ! まぁ! それだけでも今のお前くらい簡単に殺せるけどな!』
「……簡単に自分の手の内を晒す馬鹿が。大和、後は任せた」
「……あれで分かったのか? 」
「発動条件、能力は恐らく3パターンに絞れた。後は見て把握するだけだ」
あの程度の知能しかない奴ならこれくらいの情報で事が足りる。そう言い残し少年は大和と呼ぶ男へ先程まで持っていた携帯を渡し、その場を後にする。
「人間……切れたら人が変わるって言うが。アイツほどガチで怒らせたらヤベぇ奴はいねぇな」
俺のキティを傷付けた罰だ。有難く受け取って苦しんで死ねと笑い、大和は携帯を取り出し連絡をかける。
「先ずは王手の第一歩……いんやチェックはしていたか。やぁキティ、少し頼みたい事があるんだけど……あぁ、その件だよ。有難う。じゃあ、お願いね」
電話が終わり携帯をポケットをしまい込み大和は笑う。
「取り敢えず……結果は明日だな」
そのまま彼は裏路地の奥へと消えていく、約束された勝利に胸を踊らせながら。