友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか?   作:オティンティン大明神

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過去編9

 

裏路地の奥にある小さな一軒家、そこには一人の少年の王国があった。とある事が切っ掛けで失った己の楽園、それをこの一軒家に作り直した少年は、嘗て己の楽園を壊した存在をこの場所で殺す事を決意していた。

新たな楽園を作り出したのだから、少年はもう過去の事を忘れてしまえば良かったのだ。その小さな王国で未来永劫、王様をしていれば救われていた。

だが。彼の肥大化し、小さな王国では収めきれない莫大な自尊心は悲鳴を上げていた。

 

過去の決算をしなければ己は幸せになれない、そう思ってしまった。

 

「轟ィ! 分かってると思うがお前が抵抗すればお前の家族がどうなるか分かってるよなぁ!? 」

 

感情の赴くままに己の手駒に命令をし眼前の下手人をいたぶり続ける。下手人が呻き、蹲る姿を見るだけで少年の心は少しずつ、少しずつ愉悦に変わっていくのを感じた。

昔。自分の楽園で行っていた遊び、適当な誰かを槍玉に上げて心を壊す遊び。あの時の愉悦感と自尊心を満足させる感覚が甦ってきたのだ。

 

「そうだよ、これが正しい姿なんだ。お前が下で俺が上なんだ。お前みたいな他者を見下す糞野郎が俺の上に居て良い訳が無い」

 

矛盾した言葉に気付かず少年は下手人をいたぶり続ける。彼の気が済む、つまりは下手人が死ぬ時まで。

 

「……約束しろ。絶対に姉さんと母さんに手を出すな」

下手人の目が少年を貫く。傷まみれで弱々しい姿でありながら揺るがない決意に満ちた目を見て少年はウンザリしたように言葉を続けた。

 

「……あー。当たり前だろ? 俺はお前と違って約束は守るんだ。だから……安心して死ね」

 

嘘だ、少年は快楽的で破滅的な性を持っている。そんな少年が見目麗しい存在を放っておく訳が無い。

「(歳上ってまだ味わった事なかったんだよなぁ……気になるなぁ)」

 

下劣に満ちた思考回路を隠し切れず愉悦に満ちた笑みを浮かべる。もしも下手人を殺したとして、それから起こる展開を彼は微塵も想像出来ていない。日本で2番目に強いヒーロー。エンデヴァーの逆鱗、下手をしなくとも彼は煉獄の炎に焼かれ死すら生易しい地獄に向かうかも知れないというのに、下劣な想像を繰り返していた。

取らぬ狸の皮算用、ここに極まれり。と言った所だろうか。だが、少年は幸運だ。ここにそのエンデヴァーは来ない。

 

代わりに別の存在が近付いている。その存在がエンデヴァーと何方がマシかと言えば大多数の存在はその存在の方がマシだと言うだろう。だが……彼を知る者は頭を振りこう答えるだろう。

 

俺からすればどのヒーローよりもアイツが最も怖い。と

 

蹲る下手人に自ら手を下そう。そう思い玉座から立ち上がり、近付こうとした瞬間。爆音が王国の中で響き渡った。

 

扉が突然吹き飛んだのだ。突然の事に困惑する少年の視界に一人の男が姿を現す。

 

「……俺はさぁ、別にお前のしている事に文句を言うつもりはないんだよ。嫌いなら嫌いで行動に移す。うん、隠れて陰口叩く奴らよりは好印象だ」

 

「基本的に大体の事は許容出来るんだ。だけど……これだけは許容出来ないって奴がいる」

 

男は己と同じくらいの年齢だった。眼前の下手人と同じ制服を着ている、つまり。この下手人と同じ学校の者かと辺りをつける。

 

「1つ、家族を大切にしない者……これは駄目だ。家族とは絆であり、宝。これを大切に出来ない奴を俺は信用出来ない」

 

男が近づく。馬鹿な奴だと少年は笑い己の駒に命令を下す。眼前の愚者を殺せと。

 

「2つ、家族を使って脅す存在……これも駄目だ。この世で最も大切な物、だからこそ効果がある。確かに合理的だ、だからこそ俺はその行為を行う存在を忌避する」

 

駒の一人が投げ飛ばされる。愚者が駒に触れた瞬間に壁へと吹き飛ばされ、そのまま壁を突き抜けて外へと飛ばされた。

 

「3つ、俺の友人に手を出す奴。俺は友情と家族の絆が何よりも尊い物だと思っている。それだけは大切にしているし、それを大切にしない者と相入れるとは思えない」

 

男が近付いている。不味い、少年はそう直感し駒へと司令を出す。個性を使ってでもコイツを止めろ。

 

駒達が個性を使い愚者へと飛び込んで行く。火を使い、雷を纏い、身体を硬化させて愚者をうち滅ぼさんと有らん限りの攻撃を仕掛ける。

 

「こんな事を本心で言うのは初めてだ。多分……今生でこうやって言うのはお前だけだと思うよ」

 

駒が吹き飛ばされる。吹き飛ばされ磁石のように惹かれ合い、身動きの取れない1つの塊になる。

 

「俺はお前が嫌いだ」

 

「何なんだ……何なんだよお前は! 俺の王国に土足で踏み込みやがって! 一体お前は誰なんだよォ! 」

 

理解出来ない、俺の王国は轟焦凍以外に壊される訳が無い。そう思い少年は叫んだ。その叫びを無視して男は轟を見て笑う、酷く穏やかに。善行を行った子どもを見る大人のような顔で。

 

「良く耐えたな轟。後は俺に任せとけ」

 

「俺を無視するなァ! やれぇお前ら! アイツを殺せェ! 」

 

「少し黙ってろ」

 

その瞬間、駒達が全てを吹き飛ばされた。何があったのか目が追いつかない。 なんだこの男は……なんなのだ。俺は平穏を取り戻したいだけなのに。何なのだこの男は。

 

「なっ……なんで……お前が 」

 

轟の驚愕で呂律の回っていない声を聞き男は笑う、そんなのは当たり前だと心底愉快そうに。

 

「 なんで来た……? お前本当に馬鹿だな。あのなぁ……お前は知らなかったかもしれないが友達ってのは助け合うのが当たり前なんだぞ? 」

 

「お前の家族は無事だ。だから安心しろ 」

 

家族、その言葉を聞き轟の肩が上がる。轟が心の底から守りたかった物、失くすくらいなら自分が死んでも良いと思えるくらいに大切な者達。

 

「……本当に無事なのか? 本当に、信じても良いのか? 」

 

「信じろ。俺はクラス委員長様だからな。お前らを守るのは俺の仕事だ」

 

震える声で問い掛けられ男は笑う。そして、轟のポケットから携帯を取り出し耳をあて話し始める。

 

「おい。青少年保護育成条例から外れた淫行腐れ野郎……あっすいません、人違いです。ハイ。いやぁ……違うんですよ? 誤解です、ハイ」

 

やっちまった。と苦笑しながら男は動けない少年の耳元へと携帯を当てる。

 

 

『焦凍! 聞いてる!? 大丈夫!? 』

 

 

 

『焦凍! 何が起きてんのかさっぱり分かんねぇけど大丈夫なのか!? 』

 

 

聞こえてきたのは自分の兄弟の切羽詰まったような声、だが。その内容は此方を心配するような事ばかり、その事実に安心して轟は震える声で返事を返す。

 

「うん……大丈夫。身体中痛いけど大丈夫」

 

『全然大丈夫じゃないじゃない! 今どこにいるの!? 直ぐにお父さんがそっちに行くから! 』

 

スピーカー越しの声に反応して少年は大声でそれを制止する。

 

「おっっとぉ!? もしもヒーローをこの場に呼んでみな! お前の大切な者がどうなるの『出来るものならやってみるが良い』……か? 」

 

地獄の業火を彷彿とさせる声がスピーカー越しに響いた。まるで大罪を起こした愚者を今にもうち滅ばさんと唸りを上げる地獄の軍勢、地獄の釜が開いたような威圧感が込められた声。その声に少年は震え上がる。

 

 

 

『息子が世話になっているようだな。聞こえているだろう? 小物とやら』

 

 

 

「エッ……エンデヴァー……ッ! 糞っ! だがお前がここに来ればお前の嫁と娘は死ぬ事になるぞ! それで良いならこっちに来てみろ! 」

 

悲鳴じみた虚勢を聞きエンデヴァーは笑う。そして、言葉を続けた。

 

『……安心しろ。俺が行く必要もないらしい。そうだろう、小僧? 』

 

『まぁ……そういう事っすね。貴方がここで家族を守っている限り、アイツは轟を守り、しかも小物を無力化してくれますよ』

 

エンデヴァーの事に反応するように一人の少年の声がスピーカー越しに響く。

 

『……どんなヒーローよりもアイツは信用出来ます。餓鬼の言葉と決めつけるのも有りですが、アイツに任せればこの件が表に出ることなく此処だけで終わらせます。まぁ……どうするのかは貴方次第です』

 

『ふん……本来ならば個性の不正行使、ヒーローへの虚実を含めた救援要求で厳重注意は免れぬが……必死に考え抜いたであろうその浅知恵に免じて目をつぶってやる……で、お前は部屋に入らないのか? 』

 

『入ったらアイツにボコボコにされそうなんで……それはちょっと』

 

『……身の丈に合わない程の強力な個性故の苦悩か、難儀な物だ』

 

それを最後に携帯は切れる。電池が切れたのだろう、轟の携帯から光は既に失ってしまった。だが、轟の胸に光は宿された。希望、約束された家族の安全に涙を流す。

 

「……マジでビビったが……エンデヴァーが来ないなら別にどうって事ねぇ! てめぇらぶち殺して逃げれば良いだけだ! 」

 

そう言い張る少年の声を無視して轟は男へと語りかける。いや、それは語り掛けるというよりも嘆願のそれと似ていた。

 

「……信じても良いんだよな…ッ? 」

 

「任せろ。俺は今世紀最高の天才で誰もが羨むイケメンの引合石様だぞ? 」

 

「……頼っても良いんだよな!? 」

 

「おう!俺は頼られるのが大好きだからドンと来い! 全部受け止めてやる! 」

 

無視され続ける少年。無視され続け、最早存在すらしていないように扱われ、未熟で激昂してしまう彼の精神の限界は直ぐに来た。

 

「……テメェら全員死ねェェェッ! 」

 

全ての駒を総動員して、眼前の愚者共をうち滅ぼさんとする少年の姿を見た男は笑う。そして轟に触れ、笑った。

 

「……取り敢えず、家族の安全な姿を確認してこい」

 

轟の身体が宙を舞う。そして……そのまま壊れた扉を超えて一直線に空を舞う。

 

「───ッ! 待て! オイ! 」

 

轟の声に返事を返すかのように男は背中越しに手のひらを振る。軽く行われる別れの挨拶をする姿に轟は有らん限りの声で叫ぶ。

 

「───引合ィ! 」

 

思わず呼んでしまった名前が男の耳に届いたのか、それは分からないが。引合へと襲いかからんと迫る人達、そしてそれを眼前に捉えながら引合は吠えた。

 

「クラスメイトを守るのは委員長様の特権だ! 分かったらどけカス共! ここで全員ノックアウトだ! 」

 

それを最後に轟の身体は暗闇に支配された大空を舞い、何処かへと飛ばされていく。

 

轟焦凍、彼の人生の中で1番長い日の終わりが近付いていた

 

 




もうすぐ終わる……やーっと終わる。もう……ゴールしても良いよね?
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