友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか?   作:オティンティン大明神

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origin 轟焦凍 Rising

 

闇夜の中を駆け辿り着いた場所は彼が良く知っている場所だった、知っているが彼は今までここに来たことがない。彼にとって此処は自分の罪の象徴そのもの、自分が存在したせいで狂ったしまった者がいる場所なのだ。

 

「ここは……母さんが入院している病院? 」

 

全身が傷みで悲鳴をあげる中、轟はフラリと立ち上がる。ぼんやりと病院を見上げ何故この場所に飛ばされたのかを思い出し駆け出す。

 

「姉さん……ッ! 母さん……ッ! 」

 

大切な家族。自分が死んででも守りたいと願った者達の無事の確認、その為に轟は走りだす。身体の痛みなど忘れる程に。電話で無事は確認したが、目で確認しなければ気が済まない。人がまったくいない病棟を、母がいる筈の病室へと1秒でも早く行くために走り続ける。

 

「まーたですか! これ以上は……って君!? 酷い怪我じゃない!大丈夫!? 」

 

横から掛けられた声に気付く事なく轟は走り続け、遂に目的地の目の前に辿り着いた。そして、病室の扉を開けようとした瞬間、頭の中で悪魔が囁いた。

 

「(……本当に母さんに会っても良いのか? 俺の顔なんかを母さんに見せても良いのか? 俺のせいで母さんは狂ってしまった。そんな俺の顔なんて……)」

 

何を馬鹿な事を頭を振るが一度考え始めたらもう止まらない。堂々巡りのように考え始め、身体の動きが完全に止まった。

 

「……帰ろう。 姉さんも母さんも無事なんだ……だから大丈夫だ」

 

そう考え扉からを手を離す。そうだ、俺なんかの顔を見せたら母さんにとって良いことなんて何一つない。踵を返し、この場所を後にしようと動き出す。

 

『家族の絆は決して壊れない』

 

足が止まった。頭の中にアイツの声が響く、何時も笑っているお節介なアイツの笑顔が脳裏に蘇る。

『だから、大丈夫だ』

 

扉に手を掛ける、手が震え、恐怖で扉から手を離したくなる。大丈夫、だから会ってこい。脳裏で笑うアイツがそんな事を言っている気がする。

 

震えが止まった。

 

「……焦凍? 」

 

その姿を見た瞬間に考えていた事が全部吹き飛んだ。昔と何一つ変わらない白くて長い髪、目を大きく広げて此方を見るその姿、あの時から1度も会ってなかった。見ただけで涙が溢れて止まらなくなる。

 

「母さん……ッ! 」

 

色々話したい事はあった。クソ親父の特訓は辛くて、昔のように母さんに慰めて欲かった。

 

俺のせいで苦しめた事を謝りたいと思っていた。ごめんなさい、その一言を言い出せずにいた。会いに来るのがずっと怖くて、来れなかった事。

それから、それから、それから、いっぱい話したかった事がある筈なのに言葉にならない。

 

「俺ッ……信じてるんだ……ッ! 怖かったけど信じてみるんだ……ッ!」

 

俺の姿を見て駆け寄る姉さんと兄さんに身体を預けながら母さんへと近づいていく。

 

「焦凍!? ひどい怪我! 夏!早く! 」

 

「大丈夫か焦凍……って馬鹿!もう動くな! 身体中傷まみれじゃねぇか! おい!聞けって焦凍! 」

 

ズルズルとゾンビのように近づいてくる俺の姿を見て母さんは泣きそうな顔で此方を見た。分かってる。母さんが俺の事が怖いって、だけど信じるって決めたんだ。

 

『家族の絆は決して壊れない』

 

あの言葉を信じたいんだ。

 

母さんの眼前まで近付く、姉さんと兄さんの声が聞こえない。怯える母さんの手を握り、俺は笑う。アイツがやっていたような笑顔を頑張って真似する。だが……出来上がるのは歪な笑顔だけ。

 

『それだよそれ、眉を細めてニコリとすら笑わない。んな顔ばっかしてると表情筋が固まってそれ以外の顔が出来なくなるぞ』

 

アイツの言う通りだ。もっと笑っていられたら俺はアイツのように笑っていられた筈なのに。

 

「ごめんなさい……母さん。今まで怖かったよね? 」

 

「……違うの。違うの。違うの」

 

うわ言のように呟く母さん。ごめんなさい、俺のせいで苦しんだよね。でも……一つだけ許して下さい。

 

「それでも……俺は母さんが好きなんだ。あの時から変わらずに……ずっと」

 

母さんが此方を見る。目に涙を浮かべて、怖い……拒絶されたくない。でも信じるって決めたんだ、だから……

 

「俺が母さんを好きでいても許してくれますか……ッ! 大好きでいても良いですか……ッ!? 」

 

その言葉に返事はなかった、ただ昔感じた温かさに俺の全身は包まれた。

 

「ごめんね焦凍……ッ! 私が悪いの……ッ! 貴方は何も悪くないの! 私のせいでッ! 私のせいでッ! 」

 

涙で母さんの服を汚していく、止めなきゃならない。分かっているのに止まらない、止められない。

 

「こんな私が貴方の母でいても良いのか分からなかった! 貴方を傷付けた私が貴方を愛する資格があるのか分からなかった! 怖かった! けどそれは焦凍じゃない! 」

 

「浅ましくこうやっている私自身が怖かった! 貴方を傷付けた罪悪感を忘れてしまうんじゃないかって! 貴方に謝らなきゃならないのに、あの人の言葉に甘えて謝りに行かなかった私の性根が! 貴方を許すだなんて愚かな事を言い出すかもしれない私が! 」

 

「母さん…ッ! 母さんッ! 母さんッ! 」

 

母さんの思いを初めて聞いた。互いに互いを恐れていたんだ、初めから話し合えば良かった。

 

「焦凍! ごめんなさい! 痛かったよね……ッ! 怖かったよね……ッ! 私のせいで一生残る傷を……ッ! 」

 

「一緒に居て欲しかった! クソ親父が怖かった! 母さんがいない夜が怖かった! 」

 

涙と共に今まで押し留めていた思いが放たれていく、止まらない。ただがむしゃらに叫びながら俺は母さんに抱き着く。母さんがそれに呼応するように抱き締めてくれる事実に、また涙が溢れた。

 

長い一日は終わった、彼は今までなくしていたもの全てを取り戻したのだ。母の愛、姉の思い、兄弟の絆。その全てを。

 

轟冬美と轟夏雄はそんな2人の姿に涙が溢れ思わず抱き着く。初めて家族が一つになった、そんな思いすら感じていた。

 

「……ふん」

 

そんな姿を見てエンデヴァーは鼻を鳴らすとこの場所を後にする。まるで自分はこの場所にいる資格がないと言わんばかりに。

 

扉に手を掛け、出ようとした瞬間。声が掛けられる。

 

「待てよ……クソ親父」

 

「……なんだ」

 

その背中に声を掛けたのは轟焦凍だった。ボロボロの姿でしっかりと立ち上がり決意に満ちた顔で睨み付ける。

 

「……俺はアイツを信じる事をした」

 

「……何を『黙って聞け、クソ親父』」

 

言葉を遮られエンデヴァーは押し黙る、その姿を見ながら轟焦凍は言葉を続けていく。

 

「俺はアンタが嫌いだ。母さんを追い込んだアンタが憎い、殺してやりたいとさえ願っていた」

 

「『家族の絆は決して壊れない』」

 

「アイツの言葉は本当だった、だから俺は信じる事にする」

 

言おうか言うまいか、何度か悩む素振りを見せ、勢いに任せるかのように吐き捨てた。

 

「俺はアンタが嫌いだが、残念ながらアンタが俺の親父であるのは事実らしい。アイツの言葉に従ってアンタを親父である事を俺は認めるよ」

 

「クソ以下のゲス野郎だが、それでもアンタは俺の……俺達の親父だ」

 

不服と言わんばかりにそう吐き捨て轟焦凍は先程まで一緒にいた母親の元に駆け寄る。それを見届けエンデヴァー……轟炎司は返事を返した。

 

「ふん……下らぬ反抗期が終わったのなら『左』を使うのだな」

 

その言葉に冬美が声を上げ、夏雄が冬美を宥めながら炎司を睨みつけた。

 

「お父さん! そんな言い方ないじゃない! 焦凍が少しでも近寄ってくれたのに肝心のお父さんがそれじゃ何も始まらないじゃない! 」

 

「姉さん……コイツはこんな奴なんだ。焦凍が頑張って歩み寄ってもコイツは自分の事しか考えてない屑野郎、失敗作の俺達なんていてもいなくても変わらないんだろ? 今……凄い良い所なんだ。さっさとここから出て行けよ 」

 

出て行け、と意志を込め睨み付ける夏雄の目に押されるように炎司はこの場所を後にする。ピシャリ、と扉が締められる音が部屋に響いた。

 

「焦凍……」

 

「大丈夫。それでも……あんな奴でも俺の親父だ。認めたくはねぇが、そういう事なんだ」

姉の心配するような声。だが、轟の目に憂いはない。覚悟の灯った眼で吐き出すようにそう返事を返した。

 

「俺さ……焦凍と遊んだ事とか全くなかったけど……夜、毎日のように泣く焦凍に何かしてやれる事はないかって考えてたんだ」

 

夏雄がポツリ、ポツリとまるで呟くように言葉を吐き出していく。

 

「毎日のように啜り泣く焦凍、焦凍を庇ってあのクソ野郎に手を出される母さん。何かできる事はないのか……ずっと考えて、何もなかった」

 

「失敗作の俺達はあの糞野郎に何かされる事はなかったけど……焦凍は毎日のように……そして母さんがいなくなってから焦凍の隣に母さんがいなくなって……」

 

「あぁ! くっそ何を言いたいのかさっぱりわかんねぇ! けど! これだけは言わせてくれ! 」

 

頭を掻き毟り夏雄は焦凍を抱き締める。

 

「俺はお前の事が好きだからな! 昔の俺はアイツが怖くて何も言えなかったが、今の俺なら庇ってやれるから! 」

 

「糞野郎が住んでる家に耐えられなくなったら俺が住んでるマンションに来い! 一緒に暮らそう! 」

 

兄に抱き締められ轟は心地よさそうに目を細める。初めて聞いた兄の本心、そして抱擁。嬉しくない訳がなかった。

 

「そうじゃなくて……夏、そろそろアンタは家に顔を見せなさい。彼女が出来たからって向こうばっかにいて」

 

「うぇぇ!? 姉ちゃん! それは言わないって約束したじゃん! 」

 

「してないわよ……ったく。ほら、母さんも! 」

 

夏雄の言葉に呆れたような顔をした冬美は母親の背中を押しながら抱き合う兄弟に被さる。

 

「夢みたい……こうやって家族で一緒に笑い合えるなんて……」

 

涙混じりの冬美の言葉が3人の胸に深く染み入る。轟を中心に家族全員で抱き締める姿を見る者は今、何処にもいない。

今日、彼等は本当の家族になったのだ。

 

『家族の絆は決して壊れない』

 

轟焦凍にとってこの日が始まりの日。父親をただ憎み、復讐の為に力を付けていた己から一歩進み出せた日だ。

 

───

 

「……夢? 」

 

「起きたか寝坊助……まぁ。熱も下がったようで何よりだよ」

 

目が覚める、確か自分は風邪を引いていて学校を休んでいた筈。そう思い辺りを見渡すと、呆れたような顔で笑う親友の姿がそこにあった。

 

「石……来てたのか」

 

「おう、先生様から言われて来てやったよ。2日連続とはよっぽど調子が悪かったんだな……っと、プリントは置いてるからな。もう少し寝てろ」

 

そう言い部屋を後にする石の背中に言葉をかける。

 

「悪ぃ……携帯。そこにあるから持ってきてくれ」

 

「ん?元気になったからって携帯を触るのは良くないぞ……冗談だ。ほら」

 

そう言いながら渡された携帯はあの時の一件でボロボロになっている。あの時から変わらずに使い続けている携帯、誰に何を言われようとも買い換えなかった携帯。

 

「……んじゃ、おやすみ」

 

背中越しに手を振る石を見送り布団の上で携帯を触る、触ると言っても電源を付けるだけだ。

 

そこには、笑顔の石と大和に囲まれながら仏頂面で映っている自分の姿。その写真を見て轟はまた夢の中へと落ちていく、明日こそ学校に行こうと思いながら。

 

次の日、轟が教室に入ると何時ものように石と大和を中心にして男子達が盛り上がっていた。

 

「トゥーンワールド! 無駄デース引合ボーイ! トゥーンは無敵ナノデース! ペペロンチーノマンマミーヤ! ターンエンド! 」

 

「色々混じってないか?……俺のターン! ドリラゴ召喚! そして死者蘇生! 墓地から再び甦れ不死鳥よ! ラーの翼神竜! 」

 

「無理だぞ」

 

「ラー……の」

 

「このモンスターは特殊召喚出来ないぞ。現実を見ろ」

 

「ラー……俺の……三幻神最強の神……ラー……」

 

どうやら遊戯王をしているらしくまた色屋がリアルソリッドヴィジョンとやらの代わりをしていた。

 

「おはよう。石、大和」

 

そんな2人に挨拶をする。すると2人は此方に気付いたのか元気よく挨拶を返してくる。

 

「おう轟! 調子は良くなったか? 」

 

「おはようショート! お前はラーの翼神竜は特殊召喚されるべきだと思うよな!? 」

 

「悪ぃ……ラーは使わねぇからわかんねぇ」

 

自分が使っているカードでは無い為分からない。そう言うと引合は悔しそうに吐き捨てた。

 

「ちぃE・HERO使いめ!お前なんてガッチャガッチャしてれば良いんだ! 」

 

「まぁ……取り敢えずトゥーンブルーアイズでトドメデース! 」

 

「イワァァァックッ! 」

 

騒がしい日常。他のクラスメイトにも挨拶をして自分の席に座る。あの時の俺に今の生活を言っても信じないだろう。

 

すごすごと自分の席に座る石にカバンからあるものを取り出し話し掛ける。それを見た石は笑い、カバンの中から別のデッキを出す。

 

「ふぅん! 貴様のような凡骨デュエリストが幾ら束になろうとも適わない事実を教えてやる! 」

 

「色屋ァ! デュエル開始の宣言をしろぉ! 」

 

「……2回目は100円ね」

 

「アッハイ」

 

2人で50円ずつ出し色屋がデュエル開始の宣言をする。

 

「デュエル開始ィーッ! 」

 

「「デュエル! 」」

 

今日もきっと楽しい1日が待っている。

 




小物くんがボコボコにされる話しはカットされました()
書いててつまんないから仕方ない()
ぶっちゃけ小物くんに需要ないしね。作者も書いてて「なんやコイツ……」ってなるのでバッサリカット

ごめんなぁ小物ォ!ほんとごめんなぁ!
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