友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか?   作:オティンティン大明神

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戦闘訓練 中

『逃げろ逃げろ!まぁ逃げたところで無駄だがな!必死に頭を捻れ!逆転の糸口を引っ張ってこい!』

 

『まぁ…そんな方法はないんだけどな!ハーッハッハッハッ!』

 

「(想像はしていたが…まさかこれほどとは)」

 

引合が虐殺ショーを初めて早数分。オールマイトは唖然としてモニター越しにその光景を眺めていた。本来この訓練はヴィラン役、ヒーロー役に分かれた者達がどれだけその役の思考をなりきれるか、そしてどのように相手を追い詰めるかにある。今回は初日の第1回、故にヴィラン役とヒーロー役がぶつかり合い、そこから何かを感じ取る。ただ、それだけで良いと思っていた。

 

『逆転のヒントだ!俺の個性は引き寄せと引き離しをする事が出来る!今お前達を追い掛けている針はそれの応用だ!』

 

『いつ触られ、何処を狙っているのか!それを理解しない限りこの状況は回避出来ない!』

 

『まぁ…分かっても俺には勝てないけどな!』

 

「(圧倒的な中、相手が諦めないように情報を与える…快楽的な犯罪を犯すヴィランにありがちな行動。己の圧倒的な個性への絶大なる過信と慢心)」

 

「(引合少年が演じているのは強個性を持って暴れている『大人こども型』ヴィランか…)」

 

引合が演じているヴィランをそう判断し成績をつけていく。どんなに厳しい目で見ても彼におかしい点は見当たらない。はっきり言おう、オールマイトの目から見て彼はヴィラン役として完璧だった。というかどう見てもヴィランそのものだった。

 

「なぁ…引合の奴、なんて言ってんだ?」

 

「つーかアイツ強くね?どうやって勝つんだよ」

 

「…俺の個性は強化型だからどうしても懐に入らなきゃならない。引合の個性が分からない限り不用意には近付けないのがキツいな」

 

「引合君の個性はなんなんだろう。個性把握テストの時には地面に触れた瞬間大ジャンプをしたりボールを吹き飛ばしたりしていた。そして今回の戦闘訓練では砂藤君と口田君をビルの中に謎の力で引っ張り、更に今二人は引合君から逃げ続けている。二対一で攻めるならチャンスは今しかない。つまり二人は今、引合君から攻撃を受けているんだ…」ブツブツ

 

少年少女達は引合石という少年がなにを言い、そして自分ならば彼をどうやって攻略するのかを考え始めている。これは嬉しい誤算だ。自分ならどうやって戦うか、どんな手を取るのか。これこそオールマイトが生徒達にして欲しかった事、故に悩む。彼等に音声という更なる情報を与えてやるべきかを。

 

「(本来ならば…音声を聞くのは教師だけなのだが。この試合は皆の成長の糧になる。聞かせるべきか…それとも)」

 

『これを見ているそこの君達!俺がこれからどんな手を取るのかを想像するんだな!次俺が対戦相手になったその時、対策を何も考えてなかったらボッコボコになるだけだぞ!』

 

悩んでいたオールマイトの耳に引合の声が響く。そうだ、何を迷う必要がある。聞かせてやるべきだ。引合少年が完璧にヴィラン役に徹しているのだ、『ヴィラン』とは何なのか。

 

その恐ろしさを

その陰湿さを

その悪辣さを

 

現場を覗いて、画面越しに教えられるのはきっと今しかない。彼ならばこちらが求めるヴィラン役として十分に動いてくれる筈だ。

 

「皆!これからこの音声を流す!今戦っている彼等が何を話し、何をしているのか。それを学び次の試合に活かして欲しい!」

 

「「はい!」」

 

生徒達の声を聞き、オールマイトは皆に音声が聞こえるように調整する。

 

「(頼むぞ引合少年。ヴィランとは何なのか、皆にそれを十分に見せてやってくれ)」

 

オールマイトの心の声に答えるように引合の声が聞こえ始める。そしてそれを聞いていた者達はヴィランの悪辣さ、非道さ、陰湿さを知る事になる。

 

「──テステス、こちらスーパーイケメン天才怪人。対象ABを分断する事に成功。後は計画通りに」

 

『 ──こちら尻尾怪人。了解…一つ聞くがこの名前いるか?』

 

「いる」

 

『…了解。また連絡する』

 

通信機を使い引合は尾白と連絡を行う。先ほどまで彼の目の前を砂藤と口田が逃げ回っており、左右の曲がり角で二手に分かれて逃走を行った。つまり引合は彼等を逃してしまったのだ。だが引合は全く慌てる気配なく悠然と歩く、彼が狙うのは左右で分かれた中で右に逃げた口田。

 

「惜しかったなぁ…あそこで針を食らう覚悟で攻められたら俺も焦ったんだが…逃げるだけではなぁ…」

 

「さーて…口田少年は何処に逃げたかな?」

 

そう言いながら引合は右手のグローブから細い一本の糸を射出する。糸は右側の曲がり角の先へと進んでいく。

 

「何処に逃げようとも俺に素肌を触れられた時点で無駄無駄無駄。グローブとかなら脱げばなんとかなったが、素肌はどうしようもない」

 

「俺と握手した時点で負けてたんだよ!ハーッハッハッハッ!『戦う前に勝つ』良い言葉だ!」

 

糸を追いながら引合は悠然と歩く。糸は着々と目的の存在の下へと近付いていき

 

「見つけたぁ…こちらスーパーイケメン怪人。目標Bを発見、捕獲に移る」

 

『…こちら尻尾怪人。了解、現在目標Aを発見、様子を窺う。核に近付き次第奇襲を掛ける』

 

「了解、目標Bを捕獲次第そちらの戦闘に参加する。もうすぐ詰みだ」

 

尾白と連絡を取った後、引合は目の前で針から逃げ惑う口田に狙いを定めた。

 

「──あの時の握手か!?」

 

「やっぱりオイラが思った通りじゃねぇか!引合の奴、訓練が始まる前から仕掛けてやがった!」

 

「んなのアリかよ!ズッケェ!」

 

「『戦う前に勝つ』確かにその通りですわね…」

 

モニタールームに衝撃が走る。引合石は戦闘訓練が始まる前に行った握手、あの時点で勝負はついていたと発言した。

 

「(引合少年!ヴィランとしては間違っていないが戦闘訓練前に攻撃を仕掛けるのは流石にどうかと思うぞ)」

 

ドン引きするオールマイトを他所に会話は進んでいく。勿論引合の事についてだ。

 

「引合が握手の時点で終わらせたと言ってたがアイツの個性は一体何なんだ?」

 

「握手の時点で終わっていた…つまり接触する事に発動する個性。ビルの中に二人が連れ込まれたのは握手したから…そして今、二人は引合君が射出した針に追われている。引合君の個性は一体なんだ?」ブツブツ

 

気になるのは当然謎に包まれた引合の個性。そしてそれを一から十まで全て知る者がここにいる。引合と同じ学校出身であり、いつも共に過ごしていた轟焦凍だ。

 

「…石の個性が知りてぇのか?」

 

「「教えて!」」

 

「おっ…おう」

 

クラスメイトの声に驚きながらも轟は話し始める。引合の個性、引合自身が絶大なる自信と信頼を寄せるその能力を。

 

「石の個性は…簡単に言うなら引力と斥力を操る力だ」

 

「引力と斥力?つまりは引き寄せたり引き離したり出来るの?」

 

「石が言うには『俺はこの世の全ての物体を+か-に分ける事が出来る。+と-は引き寄せられ+同士-同士は引き離される』…らしい」

 

「つまり…触ったらそこで勝ち確定かよ!ズッケェ!チートじゃねぇか!触れられたら近付く事も出来ねぇ!どうしようもねぇ!」

 

赤髪の少年がそう声をあげる。触れば引き寄せる事も引き離す事も自由自在、彼等が持ちうる個性でも、ここまで強力な個性を持っている者は少ない。

 

「切島少年!『ズルい』『チート』で終わらせてしまえばそこで終わりだ!大切なのはその『チート』で『ズルい』個性をどう攻略するかだ!」

 

オールマイトの鋭い指摘が赤髪の少年、切島鋭児郎に飛ぶ。ヒーローになるのならば『ズルい』『チート』で終わらせてはならない。ヒーローならば圧倒的な存在に立ち向かわなくてはならない。故に考える、どうすればその存在に勝てるのかを常に模索しなければならないのだ。

 

「──それに引合少年の個性を打ち破る方法を理解している者もいるみたいだぞ」

 

周囲をグルリと見渡したオールマイトがそのような事を言い出す。あの圧倒的な個性を打ち破る方法、それは一体なんなのか

 

「…ウーンッ!誰か分かる人!?」

 

シュボッと音を鳴らしながらオールマイトが腕をあげる。生徒達に挙手を求めるも誰も手をあげない。静まり返った空間の中、苛立ちを隠さず爆豪が声をあげた。

 

「──チッ。考えれば馬鹿でも分かるだろうが」

 

「はい!爆豪少年!」

 

「…俺が引き寄せられてんならその対極となる部分をぶっ壊せば良い。後、体験して分かった事だがアイツの引き寄せる力は強弱が効く。そこを突けば一瞬だけ力から逃れられる。その一瞬を使えば問題ねぇ」

 

そう、引合の個性の対処方法は案外あるのだ。

引き寄せられるなら引き寄せている部分を破壊してしまえば良い。

着ている服が引き寄せられていたら脱げば良い。

もしも引き寄せられている途中だとしても、それに負けない力で逆方向を向けば良い。

 

単純だがそれが対処方法として一番正しい。

 

「後、あの糞端役野郎…完全にナメプしてやがる」

 

「引合がナメプしてるようには見えねぇけど…むしろ遠慮なく暴れてるだろアレ」

 

一通りの説明を終えた爆豪は苛立ちを隠さずモニターを睨み付ける。その先にいるのは不敵に笑う引合石。

 

「アイツが本気を出せばアイツらはビルの中にすら入る事が出来ねぇ。辺り一帯をアイツらと同じにしちまえば反発で吹き飛び、それで終わる。完全に舐めてやがる」

 

爆豪の言葉を理解した者の中には顔を青ざめさせる者もいた。引合は戦闘訓練前に触る事に成功している、ならば+でも-でも良い。相手と同じ方を設定しておけば彼等はビルの中に近付く事すら出来ないのだ。

 

「確かに爆豪少年の言うとおりだ。ならば何故、引合少年は彼等をビルの中に入れたのか。次はそれを考えてみよう!」

 

そう言いながらオールマイトはモニターを見る。モニターの先には針から逃げ回る口田とそんな彼を捕獲せんと動く引合が映し出されている。

 

『逃げろ逃げろ…お前は知らないだろうがその先は行き止まり、そして今回お前が立ち向かわなくてはならないのは針だけじゃない。このスーパーイケメン天才怪人もいる!』

 

『お前は既にチェックメイトに嵌まってるんだよぉぉぉっ!』

 

しかしこの引合ノリノリである。

 




引合石 個性『磁力』
触った物は+か-に設定できる
+と-は引き合い+同士-同士は反発する

対処方法として
服が触られたら脱げ
引っ張られていたら対極となる部分を粉砕しろ
肌なら焼け無理なら諦めろ

何故引合君がビルの中に招待したのか、賢い読者の皆様なら分かるでしょう。考えてみてね!
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