友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか?   作:オティンティン大明神

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予想より長くなった


戦闘訓練 下1/2

「やべぇぞ口田…このままじゃあ引合にやられちまう!」

 

「気付け口田!お前の後ろだ後ろ!そんな事してる場合じゃねぇ!」

 

「あぁ天井に!完全に狙いを定めやがった!」

 

騒然とするモニタールーム、彼等は今ある一人の存在に夢中になっている。その存在の名前は口田甲司。個性『生き物ボイス』を持つ気弱だが心優しい少年だ。そんな少年が何故注目を浴びているのか、それは一人の存在が彼を捕獲せんと息巻いているのが原因である。

 

『──糸良し。針の残弾数良し。口田少年には気付かれてない…こちらスーパーイケメン天才怪人、これより対象Bの捕獲に掛かる』

 

『こちら尻尾怪人。対象Aは個性により拳圧で針を粉砕した後、対象Bに連絡を取ろうとする行動が何度か見られた。緊急事態だ、これより奇襲を掛ける』

 

『マジか。つまり砂藤は増強系かな?了解、こちらも即座に捕獲する<捕獲証明のロープ>に気を付けろ』

 

武器の状態確認と仲間と連絡を行った引合が口田の後方より近づいていく。音をたてず素早くひっそりと。その姿は正しく忍者、皆が寝静まった夜。人知れず人を殺す暗殺者そのものだ。

 

『…天井伝いに動くのって中々バレないな。こりゃ便利だ』

 

「うわっ…なにあれ。ゴキブリみたい」

 

動き方が天井を這いずり回るゴキブリを彷彿とさせる事以外は素晴らしい技術だと皆にそう思わせた。

 

「キメェ」

 

「爆豪君!学友をキモいとか言っては駄目だぞ!確かに彼の動きはゴキブリを彷彿とさせるがそれはそれだ!真に見るべきはその隠密性!物音一つたてず近付くあの技量は称賛に値するものだ!」

 

「キメェ」

 

飯田にすらゴキブリのようだと言われている我らが引合はそんな事全く気にせず進み続ける。

 

口田確保まで残り数十秒。

 

「凄いな引合は!まるであの黒くてカッコいい虫みたいな動きをしてるな!」

 

ゴキブリの如く天井を這いずる引合を見た夜嵐がそんな事を言い始め、周りにいる者がその言葉にギョッとする。熱い引合へのゴキブリコール。もしも本人がこれを知ったならば、何とも言えない顔で苦笑いするだろう。

 

『元来人間にはある感情が備わっている。それは危険信号を感じる為の重要不可欠なものだ…だが、この場においてそれはむしろ足枷となる』

 

「引合の奴、カサカサしながら何か言い始めたぞ」

 

『口田…分からないだろう。怖いだろう、麻酔薬がたっぷりと染み込んだ針に追われるのは。どれだけ逃げても追いかけてくるソレはお前の頭の中の殆どを占めているだろう…』

 

『「何故この針は自分を追い続けるのだろうか。どうしよう…何とかしなきゃ」フフフフフ。お前のその背中から心の声が聞こえてくるぞ』

 

『恐怖して逃げ回っているお前の心は既に一杯一杯。ならば後少し驚かすだけで良い。ただそれだけで事足りる』

 

その言葉を最後に無言となった引合は走る口田の頭上に位置を取る。これから引合が何をするのか、それを感じ取ったオールマイトは如何ともしがたい顔をする

 

「(もしかして引合少年…ヴィラン役、結構楽しんでる?)」

 

オールマイトの心の中の疑念は果たして正解か否か、それは置いておこう。そんな中、引合は口田にチェックメイトを掛けんと動いていた。

 

「口田くぅぅぅぅぅん!あぁそびぃまぁしょょう!」

 

「 ──ッ!?」

 

口田が走る眼前に、奇声を発しながら天井より引合が現れたのだ。突然の事に混乱が頂点に達した口田は身体を硬直させてしまう。そしてその隙を逃す引合ではない。

 

「隙あり!死ねぇい!」

 

その言葉と共に、引合は口田の身体を拘束する。口田の身体の動きを封じた引合は優しく怖がらせないように言葉を続けていく。

 

「安心しろ。一瞬チクッとするだけだ」

 

その言葉と同時に口田の手に針が刺さる。刺された痛みで目を大きくした口田だったが、抵抗する間もなく意識を闇へと落とす。

 

「良し…人質確保。テステスこちらスーパーイケメン天才怪人、対象Bの捕獲に成功、プランBに取り掛かる」

 

『了解、現在対象Aと交戦中。対象Aが何かを接種した瞬間、パワーが桁違いに上昇した』

 

「了解。無理はするなよ」

 

尾白と連絡を取り終えた引合は、即座に口田の通信機とヒーロー役だけに渡される捕獲証明のロープを奪う。

 

「これで王手」

 

そう言いながら口田の通信機を動かす引合。その通信機の繋がっている先は当然砂藤力道である。引合は繋がった瞬間、捲し立てるように言葉を発する。

 

「砂藤くん!三階中央!」

 

「信じて!」

 

最後の言葉を強く強調した引合は即座に連絡を切り、捕獲した口田を抱え走り出す。

 

『こちら尻尾怪人。対象Aの移動を確認、やったな』

 

「こちらスーパーイケメン天才怪人。当たり前だろ、俺を誰だと思っていやがる。今日の俺は無敵だ」

 

ヴィランは何故ヴィランなのか。それは簡単、ヒーローでは行えない所業を平然と行う事が出来るからヴィランなのだ。

がんじがらめのルールに締め付けられたヒーローと、何一つ制約のないヴィラン。有利なのは常にヴィラン。

 

「「えぇぇぇぇぇ!?」」

 

「んなのありかよ!人質取って相手を騙すとか最悪じゃねぇか!」

 

「ヒーローの所業に非ず…ッ!」

 

モニタールームで沸き起こる絶叫。皆が口々に言うのは引合石の先程の行動についてだ。口田を捕獲し彼の持つ通信機を使い砂藤に連絡をする。これをヒーローがやったら非難まったなしだ。だが、引合はそれを平然と行う。それは何故か?

 

「(そうだ!引合少年はヒーローなんかじゃない!今の彼はヴィラン。こんなのヴィランなら当たり前にやってくる!引合少年が本物のヴィランだったなら口田少年は殺されているだろう!)」

 

「(それをやって欲しかった…ッ!それを皆に見せて欲しかった!ありがとう引合少年!)」

 

「…確かに石はヒーロー役じゃねぇな」

 

「えぇ。引合さんはヴィラン役です。オールマイト先生も戦闘訓練を始める前にヒーロー役もヴィラン役もお互いに成りきれと仰られていました」

 

「──ヴィランなら何でもありって事か。おもしれぇ」

 

オールマイトが伝えたかった事を理解した者達が口々にそう言い始める。一人オールマイトの伝えたかった事を曲解して受け取っていそうな者もいるがそれは敢えてスルーしておこう。

 

「さぁ!この戦いも大詰めに入った所で先程の質問をもう一回しよう!」

 

「『何故引合少年はビルの中に彼等を入れたのか!』ウーッン…分かる人!?」

 

「…戦闘訓練だから?」

 

誰ともなくそんな声があがる。だがそれは望む回答ではない、故にオールマイトは否と答える。

 

「ウーッン!確かにそれもある!だ、け、ど!引合少年が今、ヴィラン役だという事を良く考えて欲しい!」

 

「引合少年はどんなヴィランを演じている?それを考えるんだ!」

 

『どんなヴィランを演じているか』その言葉に彼等はあれやこれやと話始める。

 

「引合の奴、イケメンだの天才とか言ってたな。『自分に自信』があるんじゃねぇの?」

 

「核に触らせなくないならかっちゃんの言った通りビルに入らせなかったら良いだけの話だ…二対一の中であの態度。つまり『絶対に勝てる』って自信があったんだ」

 

「『チェックメイト』だの『王手』だのまるでボード『ゲーム』みたいな事を言ってたな」

 

「というか引合の個性なら二人とも一瞬で捕らえられるよな。なんで針を出して追い回すとかいう事をしたんだ?『意味ないだろ』」

 

「なんつーか…今思えば、猫が鼠を追い回すような…簡単に言うと『遊んでる』みたいだったよな」

 

皆が引合が演じているヴィラン像が何なのか、それを考えていると一人の少女が手をあげた

 

「引合ちゃんが『ヒーローとの戦いが遊びにしか思えないくらい自信がある』ヴィラン役を演じていたからかしら?」

 

「だから引合ちゃんは遊ぶような戦い方をしていた。自分に絶対の自信があるヴィランならビルの中にヒーローが入ってきても痛くも痒くもないと思う筈」

 

「むしろ『暇潰しにヒーローで遊ぼう』と考えていても可笑しくはないわ」

 

「だからヒーロー役の二人をビルの中に招き入れ、追い回すように戦っていた…違うかしら?」

 

少女の回答を聞いたオールマイトは大きく両手を広げ高らかに宣言をする。

 

「そう!引合少年は今、『自分の個性に絶大な自信と信頼を寄せる快楽的な犯罪を犯すヴィラン!』つまりこれをヒーロー基礎学にあるヴィランの犯人像に当て嵌めると」

 

「大人だが子供のような行動をとる『大人こども型』ヴィランだ!自分の欲求に抑えきれずこのような行動を取るヴィランは多い!」

 

「だが、引合少年の場合。そこに人質を取り罠を張るという行動を行っている。快楽的な犯罪を行う『大人こども型』ヴィランにはあまり見られない行動とも言える」

 

「これは何故か?分かる人!?」

 

「はい。オールマイト先生、それは引合さんが今演じている『大人こども型』ヴィラン役である前に引合石という人間だからではないのでしょうか?」

 

「正解だ!この戦い方は引合少年が持つ本質が大きく出ている。何でもありのヴィラン役となり本来ならばヒーローとして行えないような行動を取ることが出来る今、ぶっちゃけノリノリで演じているんだろね!」

 

「自分を天才イケメンと言い。遊んでいるように見えて、ちゃんと勝ち筋を残す戦い方。彼は本来とても思慮深い人間なのだろうと思うよ」

 

「個性上。常に思考を止める事なく、相手を自分の有利な戦い方に文字通り引っ張らなくてはならない引合少年らしいと言えばらしいね」

 

その言葉に誰かがボソリと呟く。

 

「…つまりヴィラン役を演じる演じない関係なく、この戦い方を普通に思い付いていたって事じゃね?」

 

「そう言えば…石は良く大和に向かって『俺はお前が嫌がる事をするのが好きだ』って言ってたな」

 

「ヒーロー志望とは思えない思考回路だな。爆豪とどっこいどっこいなんじゃねぇの?」

 

「──っざけんな!俺とあの糞端役野郎を比べんじゃねぇ!」

 

騒がしくなるモニタールーム。オールマイトは周りを見渡すと手を叩き注目を集める。

 

「静かに!もうすぐこの戦闘訓練に決着がつく。ヒーローチームとヴィランチーム、彼等が何を話し、どんな行動をとるのか。それを見聞きして自分の時にどうするのか、それを考えて欲しい!」

 

「「はい!」」




オールマイト回答 「『大人こども型』ヴィランを演じているから」

引合検定5級合格相当

ヒント
大和「引合?アイツは馬鹿だろ」
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