友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
食堂に鳴り響く警報。耳をつんざくような音を立てるそれは非日常の訪れを聞く者達に伝えていく。騒然とする食堂の中。警報と共に響き渡る人間的ではない、機械的なアナウンスが人々の恐怖を増長させた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください。繰り返します……』
「セキュリティ3!? こんな事初めてだ! 」
「ヤバイって! さっさと逃げるぞ! 」
我先へと食堂から逃げ出す者達の中。困惑した様子で辺りを見渡す者達は、逃げ出す者達の中に紛れ込み我先と食堂から逃げ出そうとする人の波の中へと入っていく。
「セキュリティ3って何ですか!? 」
「校舎内に誰かが侵入してきたって事だよ! こんな事初めてだ! 君達も早く! 」
近くにいた者に飯田が現状の確認を取り、飯田達も人の波の中へと入って行こうとする。その瞬間。
「ショート」
「分かった」
引合が轟に声を掛ける。その声に轟は頷きながら己の個性を発動させ、地面を凍らせ、逃げ出そうとした飯田達の動きを止めた。突然動きを止められ困惑する飯田達。そんな彼等の顔を見て引合は、先程と何一つ変わらない笑顔を飯田達に向ける。
「取り敢えず座っとけ。飯も食べ終わってないだろ? 」
鳴り響く警報。機械的なアナウンス。それらが非日常を伝える中、引合石は何一つ焦る様子はなく、先程と変わらぬ様子で飯田達に話し掛けた。
食堂は人々の恐怖に包まれている。
「引合君! さっきのアナウンスを聞いただろう!? ここは危険だ! はやく指示に従い屋外に出なければ! 」
「そうだよ!? はやくしないと」
飯田と緑谷が引合に詰め寄る。皆が食堂の出入口へと逃げ出しているのに何故動きを止めるのかと。彼等が止まっている間にも出入口には人がドンドンと集まっていく。このままでは自分達は取り残されてしまう。彼等の心に焦燥感が募り始める。
「なぁに焦ったら負けだ。ここはゆっくり待つのが正解。焦ってあの波に突撃したらただの馬鹿だ」
「そんな事を言っている場合では……ッ!」
飯田の焦燥感に駆られた顔を真っ正面から見て引合は安心しろと言いながら笑う。安心出来る理由は何処にもない、 こんな所にいる暇があるならいち早く避難しなければならない。そう引合に伝えると、もう一度『大丈夫だ』と言い張り昼食を取り始める。
「……なにか理由があるんだな?」
「あるからこうしてるんだろうが。説明して欲しいんだろ?」
「当然だ。下らない事なら俺は君を軽蔑する」
その言葉に引合は笑い『簡単な事だ』と前置きした後、説明を始める。
「先ず一つ。ここにいたら人の波に呑まれず、それにより発生する危険から逃れられる事が出来る」
そう言いながら引合が指差す先にはここから逃げる為に出入り口へ集まる人達の波。彼等を除いて食堂にいた者達全てが出入口に殺到しているのだ。それにより起こる結果など火を見るより明らかであり。
「──皆、混乱してちゃんと進めていないのか!?」
「正解。あそこにいる奴等の殆どが冷静さを失っている。密集した中では何が起きるか分からない。こんな時は別の場所から逃げるか、冷静に待つがセオリーだ」
そう結論をつけた後、引合は言葉を続ける。
「二つ目。ぶっちゃけあそこ以外の脱出経路がある」
「「えええぇぇぇっ!?」」
そう言い切った引合の言葉に飯田達は驚愕する。轟も飯田達までとは言わないが、両目を大きく開き、驚きを隠さずにいた。
「冷静に考えてあそこ以外にも出入口はあるだろ?」
「どこにあるん?」
麗日の言葉に、引合はその脱出経路があるであろう場所を指差した。その場所は生徒の誰もが知っていて、引合以外、誰もが思い付かなかった場所。
「調理室。あそこで働く調理員さんや作業員が緊急時に避難する際に生徒と同じ場所から避難する訳がない。彼等専用の出入口から逃げてる。間違いない」
そう言い切り、引合は緑谷を見る。その目はオールマイトの事を楽しく話していた時の目ではない。その目は相手の心の奥底を覗き見しているような、目の前の存在に嘘をついたところで無意味だと感じさせる目だった。
その目の前に緑谷の心は震える。彼の幼馴染であるかっちゃんのような相手を威圧する目ではない。もっと違う別の何か。体験した事のない感覚に苛まれたのだ。
「さて、緑谷。いや学級委員長。ここにいる五人はA組。この非常時にお前はどう動く?」
「どう動く……って?」
「俺達だけでこの場から脱出するのか。目の前で混乱している奴等を俺達で何とかするかだ」
一つはこの場からの逃走、これは簡単。五人で混乱しているこの場所から去るだけだ。難しい事は何一つない。だが、もう一つの選択肢は難しいで済む話ではない。
「ぶっちゃけた話、恐怖と混乱で冷静さを失った奴等の正気を取り戻すのは簡単な話じゃない。混乱を極めた人間の扱いを間違えたら大惨事になることは必至。何か一つでも間違えればあの場所は怪我人で溢れかえる事になる」
「俺としてはこの場から逃げる事を奨めておく。さぁ、どうする学級委員長。お前はこの場所でどう行動したい?」
引合の声が緑谷の全身に響き渡る。つまり引合は学級委員長である緑谷に、これからの五人の行動をどうするべきかの選択肢を与え、決定権を押し付けたのだ。
「俺達はお前の決定に従う。なぁ飯田? 」
「そうだな……緑谷君。君のここぞという時の胆力や判断力は『多』を牽引するに値する。俺もその判断に従おう」
「私もデクくんの判断に任せるよ! どうする!?」
「石が任せるって言うなら俺も文句はねぇ。好きにしろ」
学級委員長になった事を喜んではいたものの不安がっていた緑谷に突然押し付けられた責任と2つの選択肢。それは重圧となり緑谷の精神に重くのし掛かる。
「さぁ……どうする?」
恐らく、これが緑谷出久が引合石という存在から押し付けられた最初の苦難。余談だが、この事件を振り返って引合はこう語っている。
『コイツはやれば出来る子だと思って発破を掛けすぎた。だが、反省もしていないし後悔もしていない』
と。
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催促してます(正直)