友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか?   作:オティンティン大明神

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食堂 下

(どうするどうするどうする!? こんな時、どうすれば良い!? 引合君が言った通り逃げた方が良いのか!? でもそんな事をしたらあそこにいる人達が。でも、もしも対処を間違えたら……)

 

緑谷出久は考える。己が取るべき最善の手、自分達はこれからどうするべきなのかを己の思考の全てを使い模索していく。

 

(『ワンフォーオール』で大きな音を立ててこっちに視線を集める……駄目だ。そんな事したらパニックになってる人達が暴走するかもしれない。こんな事を考えてる時間にもあの人混みの中で怪我をしている人がいるかもしれない)

 

(必要なのは皆を刺激しないで視線を集める事。そんな方法がどこにある……考えろ。絶対に方法はある筈だ)

 

彼の思考の中から既に逃げるという選択肢は消え失せどうやって皆の視線を集めるのか。ただ、それだけに思考を張り巡らせていく。

 

緑谷出久は考える

目の前に現状を解決する為に。

 

(やだ……この子ったらブツブツ言い始めた。もしかしたらアカンかもしれん)

 

緑谷がブツブツ言ってるのを見て。俺は一抹の不安を感じていた。俺の想像ならば既に『皆を助けよう! 』となっている筈なのだが、現実はそう簡単にはいかないらしい。緑谷が学級委員長になるのを不安がっていたからこれを解決させて自信でもつけさせようと考えたんだが、いきなりこれは無理があったか?

 

「引合君って教室で皆をまとめてたよね!?アレはどうやったの?」

 

「あれは……簡単に言うなら全員の視線を集めて煽って盛り上げただけだからなぁ……この状況じゃあの方法は役にたたんぞ」

 

「そっか……良い案だと思ったんだけど」

 

名案と言わんばかりに聞いてくる麗日にアレは役に立たないと伝えると残念そうな顔をして諦める。

 

「……石なら何とか出来るだろ?」

 

「ショート。お前は俺を何でも出来るドラえもんとでも思ってないか?」

 

「……出来ないのか?」

 

不思議そうにこちらを見るショート。この馬鹿、本当にどうしてやろうか。

まぁ……ぶっちゃけ何とか出来る。だが俺がこの状況を解決したとして、待ち受けているのは緑谷が自分が学級委員長に相応しくないと考え、他の誰かに学級委員長を譲りたいと考える事だ。

そして、緑谷は誰に学級委員長を推薦するのか?そんな事、あの時の投票で分かりきっている。緑谷は間違いなく俺に学級委員長をやらそうと考える。それは不味い、非常によろしくない。

 

『僕はやっぱり引合君が学級委員長をやった方が良いと思うんだ』

 

『確かに引合はHRでも皆をまとめてたし食堂でも活躍したしな! 俺はそれでも良いと思うぜ! 』

 

『引合、もうメンドクサイからお前がやれ。それが一番合理的だ』

 

最悪の事態を想像し、思わず血の気が引くのを感じる。これで先生から『爆豪を何とかしろ』とか『峰田を何とかしろ』とか『取り敢えずこれ放課後までに頼むぞ』とか無茶振りされたらこれから待っているであろう俺の輝かしい学生生活が水泡へと消え去る。

 

(……最悪だ。間違いなく俺が学級委員長をやらなければならない事態になる。学級委員長になるとクラスメイトをまとめ、先生の雑用を聞かなければならない)

 

学級委員長とは雑用係だ。先生に放課後まで完全に支配される奴隷職。だれが好き好んであんな事をするというのか。なんとしてでも回避してやる。俺は天才でイケメンな引合石。この程度の危機、余裕で乗り越えて見せる。

 

「おい。緑谷」

 

「……駄目だ、これじゃあ皆がパニックになる。他の方法を考えないと。時間はない、他に何が出来る? 『ワンフォーオール』を使えばパニックになる。かといってそれ以外で皆の視線を集める方法が僕には……」

 

「……駄目だコイツ。完全に自分の世界に入ってやがる」

 

取り敢えずヒントを与えてやろうと思い、話し掛けるも。緑谷は自分の世界に入っており俺の声を全く認識していなかった。というか『ワンフォーオール』ってカッコいい名前の個性だな。俺なんて『磁力』だぞ『磁力』別に磁力操っている訳でもないのにこんな名前だからな。

 

「フンッ! 」

 

「アベッ!? 」

 

取り敢えず自分の世界に入っていた緑谷の頭を殴り現実に引き戻す。頭を抑えながら此方を見る緑谷に語り掛ける。

 

「ひ……引合君?」

 

「イケメン天才な引合君が特別にヒントをやろう。お前、自分だけの力で何とかしようとしただろ? 」

 

「学級委員長はクラスメイトに命令出来る立場だ。お前の周りには四人も命令出来る駒がある。それを加えて考えろ」

 

「引合君! 学級委員長とは皆の信頼を一身に受けて初めて務める事が出来る聖職! クラスメイトを駒として考えるなんて事は」

 

糞真面目な飯田の言葉を受け流しながら緑谷を見る。昼食中の話でコイツがオールマイトを特別視しているのは理解している。正直俺も同じ気持ちだからその気持ちは理解出来る。多分だがそのせいで『オールマイトならばどうする』って前提が存在しているのだろう。

 

高過ぎる目標に己が付いていけてない。恐らくだが、緑谷は今まで人前で何かをする人間じゃなかったのだろう。そんな人間にこんな事をやらせたらパニックになるのは自明の理。正直やり過ぎたかもしれん。

 

「困ったら人を頼れ。少なくともここにはお前に手を貸す存在がいるぞ」

 

「そうだよ! 私に出来る事なら何でも言って! 」

 

「……君に任せると言ったのだ。緑谷君、君の判断に僕は従おう」

 

俺の言葉に麗日と飯田が追従する。ここまで来たら後は流れだ。どんなに空気の読めない奴でもここまでお膳立てされたらやるしかないと腹をくくる筈。もしもここまでやって緑谷が悩むなら俺の負け。ここで動き出すなら俺の勝ち。

 

「……皆。力を貸して欲しい! 」

 

緑谷の決意の宿った瞳を見た瞬間、俺は自分の勝利を確信した。

 

この後の事は語るまでもないだろう。だが、強いて語るとしたら。

 

「引合君!君の個性で僕をあそこまで飛ばして! 」

 

「りょーかい。上手くやれよ 」

 

緑谷を引合が出入口の上に向かって反発させ、緑谷が混乱の中にある出入口の上を飛翔する。顔面をぶつけながらも出入口の上に辿りつき、緑谷は大声をあげ皆の視線を集めた。

 

「だ……大丈夫です! 皆さん! 落ち着いてください! 落ち着いてください! 大丈夫です! 」

 

皆が集まる出入口。そこに突然現れた緑谷の大声、その存在に密集していた者達は顔を上に向け足を止め。その瞬間、飯田と麗日が声をあげた。

 

「皆さん! 落ち着いて下さい! パニックにならず冷静に列を作り、安全に校外へと脱出しましょう! 」

 

「怪我をしている人がいたらその人を先に出してあげてくださーい! 」

 

その声に呼応するように密集している人達の中からも声があがる。

 

「皆! アイツらの言ってる通りだ! 安全にここから出よう! 」

 

「ここに踏まれて怪我をしている人がいる! 先に通してやってくれ! 」

 

一度冷静になった者達は、自分達がやるべき事を理解すればそれに従い行動し始める。それからは皆が迅速に行動し食堂から皆が脱出する事に成功した。

 

「やったねデクくん! 」

 

「流石だ緑谷君! 君のお陰で皆が冷静に脱出する事が出来た! 」

 

「そっ……そんな、皆がいたから成功したんだ。僕だけの力じゃどうしようも」

 

麗日と飯田からの称賛を受け緑谷は慌てたように否定する。その言葉に待ったを掛けるように、引合は緑谷の言葉を否定する。全てはお前がやったのだと。

 

「それは違う。緑谷、これはお前が考えお前が成し遂げた事だ。謙遜は良い事だが、やり過ぎると嫌味だぞ? 」

 

「お前の行動で皆が冷静になり、そのお陰で全員が冷静に脱出する事が出来た」

 

「お前はあそこにいる皆を『助けた』んだ。『ヒーローみたいで』かっこよかったぞ」

 

引合の言葉を聞き緑谷は涙を流す。

 

「う……うん゛! 」

 

「次は俺達がここから出る番だ。行くぞ学級委員長」

 

怒涛の昼休みは終わった。その後の授業はHR。朝。学級委員長と副学級委員長を決め、次は他の生徒の役職を決める時間だ。

 

「どうした引合。なんでバリカンなんて持ってんだ?」

 

「……もしかしたら断髪式が始まるかもしれないからな」

 

「? 」

 

「ひ、引合君! 峰田君! ししし、静かにして下さい! 」

 

八百万に作って貰ったバリカンを持ち峰田と話をする引合。二人がそんな話をしていると緊張でガチガチになりながらも壇上に立つ緑谷から注意を受ける。

 

「大丈夫かみどりやー? 」

 

「緊張でガチガチじゃねーか」

 

「ダッセーんだよクソナード」

 

「皆さん静かにしてして下さい……ほら委員長。話を進めて」

 

緑谷を揶揄する者達を八百万が注意し緑谷に話を促す。その声に頷き、緑谷は話を続けた。

 

「でっでは他の委員決めを執り行って参ります!」

 

「……けど、その前にいいですか!?」

 

「僕は……今まで学級委員長をした事がありません。 人の前に立つ事が始めてで、正直緊張しています」

 

「で……ですが、そんな僕でも精一杯頑張っていますので皆さんよろしくお願いしまひゅ! 」

 

最後の一言で噛んだ緑谷は顔を真っ赤にしてそのまま沈黙する。生暖かい視線が緑谷に集まる中、引合は拍手と共に大きな声をあげた。

 

「ブラボォォォ緑谷! 頑張れ学級委員長! よっ!未来のプロヒーロー!」

 

「頑張ってねデクくん! 」

 

「学級委員長として分からない事があるなら何でも言ってくれ! 俺が力になろう! 」

 

引合の声に続き麗日、飯田の声があがり、クラス中から緑谷に対する応援の声が沸き上がる。

 

「食堂であんな活躍をしたんだ!緑谷なら出来るって!」

 

「頑張れよ非常口緑谷! 」

 

「「みーどりやっ!みーどりやっ!みーどりやっ!」」

 

「皆……ありがとう! 」

 

沸き起こる緑谷コール。それを聞き緑谷は涙を流す。彼の人生の中で、恐らく初めて受ける歓声を浴び、この瞬間、学級委員長として頑張る事を固く決意した。

 

「……ケッ!」

 

その様子を不快そうに眺め爆豪は悪態をつく。その視線の先にいるのは学級委員長である緑谷出久。

 

そして。

 

「……」

 

無言で寝袋の中に入り、相澤消太は一人の生徒を眺めていた。それは学級委員長である緑谷出久ではなく。

 

「みーどりやっ! みーどりやっ! みーどりやっ! みーどりやっ! 」

 

笑顔で緑谷コールをする引合石。相澤の鋭い瞳が、その姿をクラスが落ち着くまで眺め続けていた。

 

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