友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
暗闇の中、黒衣を纏う男達は話し合う。天誅を、裁きを、役に立たない神ではなく我々自身の手でヤツを裏庭に埋めんと燃えに燃えていた。
「大和…アイツがこの学校にいるから…俺達はモテないんだ!」
「そうだ!俺達がモテないのはアイツのせいだ…」
「アイツさえいなければ…」
大和、個性「フェロモン」を持つこの学校が誇るモテモテキング。落とした女は数知れず老若関係なくそれら全てを落とした怪物。この存在こそが彼等がモテない原因である。そう彼らは確信し排除せんと息巻いている。
「静粛に。我らアンチ大和団。『糞モテ男死ね団』の活動は誰にも悟られてはならぬ。それを忘れたか」
「しかし議長!アイツのせいで俺達は辛酸を舐め続けているんじゃないですか!もう限界です!俺は一人でも戦います!」
「落ち着けと言っている!」
議長と呼ばれる男の声で皆が静まり返る。その姿を確認した議長は諭すようにゆっくりと語り出す。
「確かにアヤツのせいでモテモテ天然プリンスを除く全員が辛酸を舐める結果に陥っている。それはあの男、引合ですら変わらない」
「引合石、名誉会員000にして前議長を務めていたあの男ですら耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでいるのだ…」
議長の涙を堪えながら放つ言葉が男達の心を穿つ。いつもあの憎たらしい男と共に笑いあの轟の尻拭いをしていると彼がこの「糞モテ男死ね団」の一員だったとはここにいる誰もが知らなかったのだ。
「前議長として彼はそんな姿を何一つ見せず定例議会で『リア充死ね。大和死ね。死ねとは言わん消え失せろ』というスローガンを作りその言葉は今も根強く残っている。そんな彼が何故議長の座を降りたのか理解出来るものはいるか!?」
「それは一体…?」
「彼にとって、いや私達とってもうこの会は必要なくなったからだ!」
その言葉に激震走る。必要がなくなったとは一体どういうことなのか、何故自分だけではなく私達も入っているのかと
「簡単に言うなら彼等はもう三年生。つまり後数ヵ月で卒業する。そして前議長はこう仰っていた」
「『今年のバレンタインデー。去年と何一つ変わらなかったら、俺は議長を止める。高校生活に全てをかける』」
「『そして俺は真にアイツの親友として残り少ない学生生活を共に過ごす大和死ね』と仰られたのだ!」
それは諦め、華のない中学生活でもう構わない。だが、どんなに憎くても大和との友情を大切にしたいという心の叫びだったのだ。
「前議長がそんなに苦しんでいたなんて…」
「ぶっちゃけ俺達みたいにただ大和が嫌いなだけかと思ってた…」
と思い思いの感情を吐露する男達。それを見た議長は大きく頷くと高らかに宣言する。これからこの「糞モテ男死ね団」が必要がなくなる意味を。
「だが、そんな苦しい時代はあと数ヵ月もしないうちに終わりを遂げるのだ!奴等の中学生生活はもうすぐ終わる!つまり奴等との縁はもう直ぐ切れるということだ!」
「おぉ…!そうだ!もうすぐあの悪魔はこの地を去る!世界に平和は訪れるんだ!」
その宣言に喜びを隠せない男達。議長はそんな男達を睨み付け粛々と言葉を続けていく。
「前議長は辞める前に私にだけこう仰られた。『これを設立したのは圧倒的な理不尽である大和の愚痴を話すための場所だ。表だって話せば女子の攻撃の的になってしまう、そんな皆の為の場所なんだ。だから理不尽が去った後は大人しく解散し皆で男を磨くんだ』と!」
「『この場は理不尽を耐える場所であり出来る事をせずに喚く場所ではないのだ』と!」
「前議長は己が卒業した後この『糞モテ男死ね団』が変容するのを恐れたのだ!我々の心は一つ!」
「「モテたい!イチャイチャしたい!おっぱいもみたい!」」
一子乱れぬ叫び声、それは彼等にとっての絶対の指針。性欲猿と言われる年齢の男にとって揺るがない絶対の願い。
「その為に我らは己を磨き、目指すは来年のバレンタインデー!そこでチョコを手に入れる事!その為にも議長権限によりこの『糞モテ男死ね団』は解散する!」
「だが忘れてはならない!我らの心は常に一つだということを!」
それは長い時間共に過ごした仲間との別れ。だが、それを悲しむことはない。何故なら皆の心は一つである限りこの『糞モテ男死ね団』は永遠であり。また彼等の絆は不滅だということ。
「我々の絆は不滅だ!」
「「オオオオオオオオオオオォ!」」
男達は黒衣を脱ぎ捨てる。そこにいるのは哀れな嫉妬者ではない。明日のため、未来の為に己を磨き抜くと決めた漢の目そのものだった。男達は歩く、未来への栄光のロードを。果てしなく長いモテ男への道を。
「…そういえば前議長と大和の野郎の進学先被ってなかったか?」
唐突な一人の男の言葉に皆が止まる。確か前議長である引合石は雄英高校ヒーロー科、そして忌まわしき存在大和は同じく雄英高校普通科だと噂されている。
「…」
「偉大なる前議長に敬礼!」
「「敬礼!」」
彼等は思わず敬礼の形を取っていた。それはこれまでの感謝の気持ちもあるが、それだけではない。恐らく起こりうる前議長の苦難の道に幸あらんと願いを込めているのだ。
「…俺達は雄英高校は止めておこう。身の程を知ってるし、何よりアソコにはやつがいる」
「やっぱすげぇよ前議長は…」
──
「ぶぇっくしょい!あーくそ!なんか調子悪いな」
「無理はするなよ。無理をして身体を壊したら元も子もないからな」
「大丈夫だ。俺は超優良健康男児だからな」
「女にでも恨まれてるのかもな」
「だったらお前が先に変死体にならなきゃおかしいだろ」
気遣ってくれるショートとここぞとばかりに人を煽る大和にそれぞれの対応をしながら勉強をする。俺がいうのもなんだけど俺と大和はいつも煽り合いしかしてないような気がする。コイツらには内緒だが『糞モテ男死ね団』を設立した時くらいから大和と友人になって、コイツのど畜生ぶりとモテっぷりに何度血涙を流した事か。
「いやいや、俺は恨まれないから」
「俺も恨まれる要素ないっつーの」
これだ。大和は女をとっかえひっかえしてもぜんっぜん恨まれない。それはこいつの個性のお陰なのか、それともこいつの人となりが編み出せる技なのか未だに理解が出来んが兎に角コイツらは恨まれない。代わりに俺が恨んでいたが
「…俺は恨まれてるんだろうな」
「あー…それはないな」
そう言いながら落ち込むショートを俺と大和が否定する。何故って?俺は実体験があるからな。
「仮に恨まれてても実行に移される事はないな。間違いなく被害は全部引合だ」
「うーん…困った。全く否定できる所がない」
ぶっちゃけショートにマトモな対応が出来るようになったら俺が割りを食う必要はなくなるのでさっさと対人スキルを成長させて欲しいというのが俺の切なる願いだ。多分叶うことはないけど。
「すまねぇ…」
「だから気にすんなって。というか大和、こうなること予測してただろ」
「煽れるときに煽っとけが家言なんだよ俺の家」
「捨てとけそんな糞の役にも立たない家言」
そう吐き捨て勉強に取り掛かる。ショートの教えの上手さ、そして俺の天才的頭脳により学力はグングンと伸びつい最近行われた模試ではまさかのA判定をとる事態となった。やはり俺は天才である。これは知的イケメンへの第一歩と言えよう。
「…おい。そこ違うぞ」
「何を馬鹿な…あっ」
「やっぱ馬鹿だわコイツ」
…ほんの少しケアレスミスがあるがそれを克服すれば俺はさいきょうになれる。
俺ってば天才な上にイケメンなのね!
「…お前ってほんと頭は回る癖に変な所でポカやらかすな。入試試験でやらかすなよ?」
「おいおい、今の俺は模試判定Aの天才くんだぞ?余裕で合格してやるから見とけよお前」
「そう言えば引合は一般で行くらしいが轟は推薦入試だっけ?やっぱすげぇなお前」
「無視かおい」
当然の如く俺の言葉は無視され、ショートの話題になる。ショートは賢い、そりゃもう俺が模試Aになるくらい教えるのが上手いくらいだ。友人として鼻が高い事この上ない、色々と足りないこの友人はなんかかんや優秀なのだ。
「俺は受かるからどうでも良い。それより石が心配だ」
そう自分の事を切り捨てるショートに二人揃って近所のおばさん(ver2)になり井戸端会議を始める。
「まー聞きましたか大和さん!この子ったら『俺は受かるからどうでも良い』ですって!」
「ほんとビックリですわね引合さん!この子倍率300に喧嘩売ってますわ!」
「喧嘩とか売ってねぇよ」
そう馬鹿正直に返すショート。判りづらいが半分不貞腐れた顔になってるのを見て二人して笑う。昔はここまで会話してくれなかったが色々あって今ではここまで出来るようになった。正直ショートの成長ぶりは目を見張るものがある。
「すまんすまん!お詫びに引合がなんか奢ってるやるから許せ!」
「別に良いけどお前も金出せやゴラ」
「蕎麦食いてぇ」
「「お前の蕎麦は高い」」
「…なんでも良いって言ったじゃねぇか」
奢るといってもお前が大好きな数千円する蕎麦を奢れるほどの財力を俺達中学生が持ってると思わないで欲しい。
「あー!モテてーなー!金欲しーなー!キャワイイ女の子侍らせてぇなー!」
「おいおいこんなイケメン二人侍らせて何言ってんだよ」
「蕎麦食いてぇ…」
その後俺達三人はレストランの安い蕎麦を啜り、これから女と会うとか抜かした馬鹿と別れ家路へと足を進めた。
「…あんまり旨くねぇ」
「そりゃお前のお気に入りと比べたら天と地の差があるに決まってるわ」
「後辛かった」
「それは大和に言ってくれ」
味に満足していないセレブ様の言葉に苦笑いをしながら足を進める。帰りながら話す話題はいつも学校での出来事から始まり終わる。
「 ─んで大和の奴が『女とか侍らすもんだろ』とか言うもんだからクラスの男共がぶちギレてジャーマンぶちかましてたわ。アイツマジで妬みで殺されそう」
「 ─んで俺が模試のA判定取った事をクラスの奴等に報告したらアイツらなんて言ったと思う?」
「『脅迫は犯罪だぞ!』って酷くない!?こんな優しい俺が人を脅迫してA評価取るように見えるか!?」
いつものように俺が一方的に話してショートがそれに相槌を打つ。そんな何時も通りの帰り道を進み途中で別れる。
「じゃーなショート!明日は体育あるから体操服忘れんなよ!」
「分かった。じゃあな」
「おう!」
今日も良い日だった、明日も良い日でありますように
「ただいま」
「おかえり焦凍。今日はちょっと遅かったね」
「…アイツらと一緒に蕎麦食べてきた」
「そう…美味しかった?」
ここで辛党の俺が七味とワサビを大量に混入したらどうなると思う?
ぜってー不味いわそれ
うるせぇ見とけよ絶対旨いから…
…どうよ?
…辛いし痛いし味が分からん。お前も食う?いや食え。
ばっかお前そんなの劇物人に食わそうと…かっら!なにこれかっら!くっそショートも食え!食って三人で苦しめ!
辛ぇ…
だろ!?もっと食べても良いんだぞ。
だろ!?じゃねーよボケ!それ自分で食べろよ!絶対に残すなよ!
「蕎麦はあんまり旨くないし辛かったけど…楽しかった」
「そっか…晩御飯食べれる?」
「…食う」
家にて
「おっ電話だ…って大和かよ。もしもし?」
「おう引合!女が帰って暇だからこれからお前に家に行っても良いか!?」
「寝言は寝て言え。俺の目が黒いうちはお前を家にいれん」