友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
「目が覚めたかい?死柄木弔。酷い顔だ、顔を洗ってくると良い」
とある雑踏渦巻く繁華街のとある路地。腐乱した生ゴミとそれを貪り食うネズミが闊歩する裏路地にある小さな雑居ビルの三階。隠れ家的なバーを彷彿とさせる内装の部屋に彼等はいた。
「女ァ……なんで邪魔しやがった」
黒い霧から現れた女性が死柄木と呼ぶ少年を優しく起こす。それはまるで幼子を起こすように丁寧なものだったのだが、彼女がとても乱雑に死柄木を放り投げたのは彼女の後ろに控えていた黒霧が良く知っている事だ。
「開幕早々でガチガチにメタられて行動不能にされた者の言葉ではないね。まさかオールマイトに会う前にゲームオーバーにされるとは、これもまた経験さ」
「死ね」
己の感情のままに吐き捨て、その両腕を女性に向かって突き付ける。その行動を制止しようとした黒霧を女性は笑みを浮かべながら止め、パチンと指を鳴らす
少年の両腕が彼女の顔に触れると思われたその瞬間、彼の動きが止まった。
「短気は損気だよ、死柄木弔。『僕』の教育方針が甘過ぎるせいなのは理解出来るがそれにしても君はもう少し自制心を覚えるべきだ」
「怒りをただ闇雲に吐き出すだけでなく。蓄え、ここぞというところで全て出す。そうする事で本来以上の力は出せると言うものだ」
女性は優しく微笑みながら少年の頭を撫でる。その行動で戦意を削がれたのか、少年は腕をダラりと降ろし黒霧へと言葉を掛ける。
「疲れたし今日は寝る。『先生』が呼んだら起こしてくれ」
「畏まりました死柄木弔。良い夢を」
フラフラとこの場を後にする少年の後ろ姿を見送り女性はカウンター端に置いてあるテレビモニターの電源を付けた。
「やぁ『僕』。君の教育方針に色々と言いたい事があるが……今日の僕は非常に機嫌が良い。だから本題から話そうじゃないか」
soundOnlyと表示されたモニターから1人の男の声が響く。
『この歳になって自分に説教されるのは中々感慨深いから何時でも歓迎するのだけど。それで……あの子はどうだった?』
「最悪だよ。僕の『あの子』に開幕早々メタられてゲームオーバーさ。あのまま放置してたら黒霧以外全員刑務所送りさ」
いや。案外勘の良いあのヒーロー様ならあの子の事を察知して保護するかもしれないねと笑いながら結論を付ける女性の声を聞きモニター越しの男も薄く笑った。
「後1年……間違いなくそれまでに『あの子』は覚醒する」
『へぇ……』
空気が変わった、女性の近くでコップを磨く黒霧はそう感じた。いや女性だけではない、画面越しにいるさる御方も心底愉快そうに同じように顔を歪めている筈だ。と感じ取る。
「『個性終末論』世界は何れ1人の人間が持つ個性に飲み込まれ滅びる。というとある学者が残した理論だ。彼は酷く聡明で賢かった。彼が何れ来る人類の滅びに警鐘を出す為に学会で出した理論は封殺され、彼は悲しみと絶望の中で生命を落とした」
『誰もが御伽噺だと思った。個性とは人智を超越する力そのものだが、既に個性が生活の一部となっていた大衆共に彼の警鐘が届く事はなかった』
『「この世界を滅ぼす個性等幾らでも存在しうるのにね」』
例えば……あの突然変異で産まれたヤクザと彼の支配下にある少女の個性や八百万家に代々引き継がれる個性がその1つだね。と女性は笑い言葉を紡ぐ。
『だが……それらは真に彼が残した『個性終末論』に相応しい個性とは言えない』
「そうさ。確かに彼等の個性ならば世界にすら喧嘩を売って勝利する事が出来るだろう。だけどそれだけ、彼等は人類に対して勝利するのが関の山。『個性終末論』には程遠い」
『 だが。あの家が持つ……『引合』の持つ個性は彼等のような生易しいものじゃない。アレの個性の本質はもっと根源的な物だ』
モニター越しの男が昂揚したのか声に力が入り始める。その声を聞き女性は酷く邪悪な笑みを浮かべた。
「何故、人類に個性が発現したのか 。『僕達』新人類は世界によって産み出されたのか。その答えは全て『引合』の持つ個性が証明している」
『あの個性の本質を知る者は僕達しかいない。オールマイトと共にこの僕に立ち塞がった彼等ですら自分の持つ力の本質に気付かず上辺だけを使っていたからね』
いや……もしかしたら理解したからこそ敢えて上辺だけを使っていたのかもしれない。と女性は笑う。モニター越しの男の声も心底愉快げに『確かに。ほんの一欠片でも良心があるならこの個性が持つ真の力を奮う事はないだろうからね』と笑った。
「そして……その切符を持っているのは、僕と」
『この僕と』
「『あの怪物』だ」
女性は嗤う。酷く愉快げに、その美貌を悪に歪ませ、全ての悪逆を尽くして尚至れぬ悪の頂点、魔王の如く心底邪悪な笑みを浮かべ
「僕達の中で一番近いのはあの子だ。今日、あの子は知った筈だ。自分の持つ個性、そして理想とするオールマイトの弱さを」
あの子こそ僕の後継者に相応しい存在だ
───通信が切れる。どうやら『あれ』が勝手に落としたのだろう。まだ話したい事はあったのだが、許そう。なんせ今日は良い事があった。とても良い事だ
「どうした先生。やけにご機嫌じゃないか」
「あぁドクター。僕の人形がちゃんと仕事を果たしていたのが嬉しくてね。それだと思うよ」
表に出したつもりは一切無かったのだが。それも仕方ない、許してくれ。
「あぁ……あの劣化コピーか。先生があんな役に立たん塵芥を創り出して喜んでた時は遂に気でも狂ったと思ったが……遂に役に立ったのか」
「嗚呼……僕のちょっとしたおままごとで無聊を慰めるのももうすぐ終わりだ」
「そうか……全てが終わったら約束は果たしてもらうぞワシはアレが手に入ればそれで良い」
約束は守るさドクター。あの力さえ手に入れば他の全ては塵芥に等しい。あげるよ、あんなゴミ。
「全ては僕が真なる魔王へと至る為に」
楽しみにしているよ……本当にね
伏線しかない話です個性終末論とか原作で単語しか出てないので遠慮なく好き勝手使うスタイル