友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
USJ襲撃から数時間が経ち。1ーAの生徒達は皆自宅に帰り、他の生徒達も安全を期す為に強制下校となった。生徒達がだれもいない雄英高校、本来生徒達の喧騒で賑わう学園内は静寂に包まれていた。
「……本当に良いんだね? 」
「早くして下さいリカバリーガール。この問答に合理性を感じない。俺は皆に伝えなければならない事、そして……やらなければならない事があるんです」
保健室、そこに2人の教師がいた。1人はこの保健室の主で治癒の個性を持つプロヒーローリカバリーガール。そしてもう1人は全身を包帯で包まれ身動き1つすら取れない男、1ーA担任プロヒーローイレイザーヘッド。またの名を相澤消太。
「……もう一度だけ言っておくよ。私の個性は治癒の促進、細胞の活性化を行う事により高速回復を可能とするんだ。アンタの身体は殆ど死体と同然四肢は砕けついでに体の内側も外側もボロボロ。アンタが今意識を保っているのが奇跡のレベルさね」
心底呆れ果てたように頭を振り被りながらもリカバリーガールは言葉を続ける。
「そんな状況で治癒をやってみな。壊れた器では治癒に耐えきれなくて破裂する可能性だってある」
「死すら生易しい苦痛に耐えて寿命を削る事になるよ」
それは脅しであった。だが、リカバリーガールは理解していた。眼前の男がこんな脅しで止まるような男ではないと。
「くどいですリカバリーガール。はやく」
やはり無意味だったとリカバリーガールは溜息をついた。相澤の目は既に決意している。この目を止められようか、いや止められない。本来ならば何を言われようが止めなければならない筈なのにリカバリーガールはこの目にだけは勝てない。
『すまん婆さん。こんなナリだがさっさと治してくれ。親友と愛する人が戦ってるんだ。俺だけこんな場所でノウノウとベットで寝ていられない』
『ここで寿命削って今すぐアイツらの元に行けるなら幾らでも削ってやる。だから頼む』
思い出すのはイレイザーヘッドの師の姿。その目とイレイザーヘッドの目、決意に溢れたこの目にはどうしても勝てない、故にリカバリーガールは折れた。
「……『ダブルス』の悪いところばっかり受け継いて。合理的もやりすぎちゃあ世話ないよ」
「……ヒーローとして。一教師として。この選択が一番合理的なだけです」
あくまでこれが最善だと言い張る愚か者に彼の師の姿を掛け合わせてしまい思わず悪態をつく。
「……恨むよ『ダブルス』」
静寂に包まれた雄英高校に苦痛を伴った叫び声が響いた。
───
私が初めてお師匠に夢を語った時、何かに驚いたように大きく目を開き、そしてその言葉を咀嚼するように何度か頷き、そして笑った。
『お前、イカれてるよ』
『だけど……そんなお前ならきっとなれるよ』
私がお師匠の力を引き継ぎ。ヒーローとして名を決めたあの時も、あの人は嬉しそうに笑っていた。
『オールマイト。全ての希望を背負う者、うん。良い名前じゃないか、似合ってるよ。俊典』
いつも笑っている人だった。笑顔こそが人々を救うと言わんばかりに笑みを絶やさずにいる美しい人だった。お師匠は私が理想とするヒーローだった。
『それが君の弱点だ』
『第2ラウンドだ。無様を晒せ、オールマイト』
だからこそ信じられない、あんな姿を。罪なき子供達を蹂躙し嗤う。まるであの男、オールフォーワンのような悪意に塗れたあの笑みを。
「……オールマイト! 聞いているのですか! 」
「あっ……あぁ!すまない! 少しぼんやりしていた! 」
隣から聞こえる声で現実に戻る。どうやら自分は物思いに拭けていたようだ。あのような事件があった後だと言うにまだ私は引き摺っているようだ。
「大丈夫ですか? やはりあの怪物との戦いのダメージが残っているのでは……? 」
「だいじょーぶ! 少し物思いに拭けていただけだ! 安心して欲しい!」
USJでの一件が解決し、駆けつけた警察によって捜査が開始された。捕縛されたヴィランの数は70を超えており、その中には以前にも個性犯罪を行ったものがいたとの報告がされた。
しかしその件はあまり問題ではない。本当に問題なのは取り逃した彼女達だ。
「それなら良いんだけどね……しかし困った事になった。オールマイト、その話は本当なのかい?」
「えぇ……あの姿は間違いなく私の師匠。志村菜奈の姿でした」
根津校長に聞かれ再度肯定する。あの時いた女性は間違いなくお師匠だ。だが、解せない。何故あの人があそこにいるのか、そして……何故。
「……お師匠は死んだ筈なのです、それは間違いない。なのに何故」
「アンビリーバボーな事もあるもんだな。USJに攻めてきた敵のボスがオールマイトの師匠でしかも既に亡くなっているとはなぁ……」
逆立てた金髪と個性的なサングラスが特徴的なプロヒーロープレゼントマイクが驚いたように言葉を吐く。それを聞き他の教師、プロヒーローが口を開いた。
「しかし……幾らオールマイトのお師匠だとしてもあの相澤消太をあそこまで一方的に嬲れる者がいるのか? 」
「スナイプ……いたからこうなったんでしょ。あんたが1番身に染みて分かってる筈よ」
テンガロンハットを被ったプロヒーロー、スナイプに扇情的な衣装を身に纏ったプロヒーローミッドナイトは呆れたように頭を振る。
相澤消太、彼はこの雄英高校で頂点の実力を持つプロヒーロー。抹消という個性を無効化する強力な個性から放たれる奇襲はあらゆるヴィランを確実に捕縛していた。
そんな彼の実力は彼等が良く知っている。並のヴィランごときでは手も足も出ない存在 、それが彼の筈なのだ。
「……オールマイトの師匠と同じ姿をしていた者と黒霧と呼ばれていたヴィラン。彼等を捕り逃してしまったのは不味かったかもしれません」
血の如く紅い衣装を身に纏うプロヒーローヴラドキングがそう言葉を漏らす。様々な言葉が飛び交う中、根津は言葉を発した。
「……あの脳が露出した怪物。脳無と呼ばれていたらしいね。あれが現場から合計4体発見されたらしいけど、オールマイト。君が4体も倒したのかい? 」
「4体……あれが4体だと!? 」
根津の言葉にオールマイトは立ち上がる。信じられない言葉を聞いたと言わんばかりの態度に他のヒーロー達は眉を細めた。彼らのプロヒーローとしての直感で嫌な予感を感じ取ったのだ。
「私は一体しか無力化していない! あれは私の100%のパワーと対峙し、恐ろしい回復力と凄まじいタフネスを持っていた! あんなのが他に三体も存在していたとしたら……」
そう言い、オールマイトは言葉の先の未来を想像し顔を顰めた。生徒達ではまだ相手にすらならない存在。あの子達の前にアレが対峙すれば間違いなく殺されていただろう。
「オイオイ……つまりなにか? その脳無って奴を倒した奴がいるってのか? それも生徒の中に? 」
「……イレイザーヘッドが倒したのかもしれない」
マイクの困惑した声にプロヒーローセメントスが1番ありうる自体を提示した。
「まぁ……その辺りは回復した消太に聞けば分かるでしょ。それよりもあの謎の物体の話しをしましょう」
同意するミッドナイトに他の教師達も納得したように頷き彼女の言葉の続きを待つ。その中でオールマイトだけはピクリと身体を動かし汗を流す。
「大雨暴風ゾーンから現れた謎の巨大な球体。あんな出力を持った個性を持つヴィランがいたとしたら私では太刀打ち出来ないわ」
「アノヨウナ状況ヲウミダセル個性ハ『サイコキネシス』カ『念動』クライナモノダロウ」
「もしかすると他の勢力のヴィランの仕業なのでは? その存在が彼等の邪魔をする為に行動を移したとか」
不味い、オールマイトは内心冷汗をかく。このままではあの球体を作り出した存在が誰かの話になってしまう。オールマイトにとってあの球体を作り出した存在、つまりは引合石なのだが。オールマイトは彼に対して非常に罪悪感とか後悔を感じている。
「(不味い……ヘタすれば引合少年に疑いが掛かってしまうかもしれない。あの子に危険な目に合わせてしかもヴィランかもしれない疑いを掛けてしまったら私は彼等に見せる顔がマジでなくなる! )」
何とかしなければ。と頭を捻る脳筋No.1ヒーローの背中越しにドアが開く音が聞こえた。
「まぁ……あれを作ったのは引合石で、あの脳無を無力化したのは引合石なんですけどね……自分で言ってなんだがあの馬鹿ロクな事しないな 」
そこにいたのはイレイザーヘッドだった。身体中に包帯を巻き、フラフラと歩く姿はゾンビを彷彿とさせるものだったが爛々と輝く目が彼が死人ではないと唯一証明していた。何時もような死んだ目でない彼の姿に他の教師達は言葉を失う
「先輩! 傷はもう平気なのですか!? 」
「13号か、婆さんの治癒受けたから問題ない。そんな事より話さなきゃいけない事が山ほどあります」
13号に一言だけ返すと相澤消太は言葉を続ける。
「で。オールマイト先生はしっかり話をしましたか? 」
「ん!? なんの話かい!?」
「そりゃ貴方とオールフォーワンとの確執。『ダブルス』の持つ個性、そしてあの謎の女……いえオールフォーワンと呼称すべきですね。奴が何故この場に現れたのか……それは自分が知ってるんでこれから話します」
色々と話してはならない事をぶちまけた。これには根津とオールマイトは絶句である。
「相澤くぅん!? HAHAHA! イキなり何を言い出すかと思えばHAHAHA! 」
「チュー……チュー! チュー! 」
呂律が崩壊するオールマイトと思わず野生に帰ってしまった根津校長。そんな2人を無視して相澤は話を続ける。
「あー……すいませんがこれから話す事は国家機密並の最重要機密だから。覚悟して聞いてください。マイク、ラジオでボロだしたら物理的に首が飛ぶと思え」
「What!? 消太いきなりどうした!? そんな事をお前が知ってる事は驚きだがそんな事をいきなりペラペラ言い出すとかお前らしくねぇぞ!? 」
困惑するプレゼントマイクの言葉に頭を振り相澤は話を続ける。
「……俺らしくない事をせざる得ない状況になったんだ」
溜息を吐き放った言葉はこの場にいる全ての者達の意識を何処かへ吹き飛ばした。
「引合石がヴィランに狙われている。ついでに狙っている奴はオールマイトの因縁の存在で最強のヴィラン、オールフォーワン。個性を奪う力を持つ最強の怪物です」
「どうやらオールフォーワンは引合石の両親である元プロヒーロー『ダブルス』の個性を奪っているらしく、彼等の個性は引合石の個性を片方ずつ持っていました」
「引合要。個性『引力』」
「引合紬。個性『斥力』」
「そしてオールフォーワンは引合石を育て上げオールマイトが持つ個性『ワンフォー『相澤くん! ちょーっと待って欲しい!マジで全部言っちゃうつもり!? というか引合少年がオールフォーワンに育て上げられたってどういう事!? 』……だって貴方に任せるとずっと言わなそうですし、オールフォーワンが言ったんですよ『引合石はワンフォーオールを引き継ぐに最高の器だ僕がそう育て彼はそれに答えた』ってね」
慌てて言葉を遮るオールマイトをサラリと受け流し相澤は言いたいことを全部言いきった。
ワンフォーオール、オールフォーワン、引合石。言葉の真意を知らぬ者達はその意味を測りかねているが知っている者は顔を真っ青にしている。ぶっちゃけオールマイトである。因みに根津校長は野生に完全に帰ってしまいチューチューと鳴きながら部屋の中を走り回っている。
「aaah……つまり良く分からねぇけど引合リスナーがやべぇ状況にいるって事だな? 」
「そうだ……って事でオールマイト。頼みがあります」
「……これ以上なにか? 」
これ以上何を言われるのか困惑するオールマイトに相澤は言い放つ。その言葉を聞きオールマイトは完全に現実から逃避した。
「貴方の持っていた力の結晶。ワンフォーオールを俺に下さい」
「……は?」
校長ちょっと野生に帰りすぎじゃない?