友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
引合石は激怒した。己の性癖を教師へと晒し、しかもある意味知りたくなかった事実を邪智暴虐の化身。つまり己の母親から教えられた彼は家を飛び出した。
某アニメのワンシーンにある『もう良い!私ア○ドル辞める! 』と言わんばかりに家を飛び出し駆け出していく彼の背中を見た者は、いつもより彼の背中が小さく感じるだろう。彼の背中に掛けられる「今日は焼肉だからはやく帰ってきなさいよ!」という声を無視して引合は街へと走り出した。
街を駆ける彼に対して彼を知る者達はまーたなんかやってるよと言わんばかりの視線を向けるが今日の引合にそれを構う余裕は一切ない、ぶっちゃけ今日はもういっぱいいっぱいなのだ。
「うっうー……知らないもん。相澤先生が俺のおしめ変えてたとか……俺の性癖が親にバラされたとか……教育間違えたとか……知らないもん」
街を駆け抜け、とある海岸に辿り着いた引合は砂浜でのの字を描きながらぼんやりと海を眺めていた。朝焼けに照らされた海と、蒼く拡がる大空を眺め、彼はまた泣いた。
引合石、彼は今完全にキャラ崩壊していた。
「グレてやる……ッ! 母ちゃんの言うこと無視してやる! 買い食いして帰ってやる! 晩御飯残してやる! 」
そんな小さな叛逆を胸に秘め、彼は砂浜に寝転がり空を見上げる。蒼く拡がる大空が彼の眼前に拡がり、そんな光景を彼は何も考えずにただぼんやりと眺める。どれだけの時間そうやってしていたのか分からないが、彼はハッと気付く
「待てよ……今、制服じゃね? 」
バッと立ち上がり服装を見れば砂まみれの制服が視界に移る、散々にも程がある。母親に性癖をばらされたり知りたくなかった事を教えられたり制服は砂まみれになる、彼の中でいいようのない怒りがフツフツと湧き出てくる。
誰でもいいから八つ当たりしたい、ボッコボコにしたい。その思いが溢れ出し彼は砂浜を後にする。
「……そうだ。ヴィランを殴ろう」
京都に行くような感覚でヴィランを殴ろうと決意する。そんな暴力の化身に支配された引合を止める者は誰もいなかった。
───
街にはコンビニよりもヒーロー事務所がある。ヒーロー社会となった現代社会では日夜現れるヴィランと対峙する為にヒーロー事務所が街にこれでもかと言わんばかりに配置されており、日夜現れる莫大な量のヴィランとそれに対峙するヒーロー、犬も歩けばヴィランに当たる。そんな世界に変わっていた。
今日も何処でヴィランが暴れている。
銀行内から異形の姿をしたヴィランが外へと走り出す。それを止めようとヒーロー達が獅子奮迅の活躍をするも、異形故の圧倒的な力で全てを吹き飛ばし街を駆けていく。ヒーローの一人が増援を呼ぶ為に無線に連絡を入れようとする。その瞬間、ヴィランが地面に叩きつけられ動かなくなる。
一体何事かと思い。ヴィランを地面に叩きつけられた存在を探し、ヒーローは言葉を失った。
「母ちゃんのばーかっっっ! ばーかっっっ! 」
砂まみれの少年がヴィランを足蹴にした後、泣きながらこの場を凄まじい速度で後にして行くのだ。ドップラー効果よろしく母親への罵倒を残しながら。
突然の出来事に対処出来ず、気を失い地面に倒れ伏すヴィラン。困惑するヒーロー。そしてそれを見守っていた住人は困ったように頭を振った。
「まーた引合がヴィランぶっ飛ばしてるぞ」
「また引合か。今度は何があったんだ? 」
またアイツか、と。言いながら現場を後にする者達やその姿から何があったのかを考察する者達。
「制服砂塗れだったなアイツ。何やってたんだ? 」
「海岸で女にプロポーズしてけんもほろろに振られたんじゃね? 」
「「それだ」」
と、色々な疑惑が浮上している中、ヒーローは突然訪れたアウェー感を全身に浴びながらヴィランを拘束した。
そんな事件の1連を撮影していたテレビ局はこの事件は使えないと判断し、そっと録画を中止した。
右を行けばヴィランがいて左を行けばヴィランがいる。今日も街はヴィランフィーバーな1日だったのだが、ヒーロー達は己の仕事を果たせずにいた。
1人の少年が突然現れヴィランを無力化しながら、涙を流しながら消え去るという意味不明な事態が街で多発したのだ。
泣きながらヴィランを足蹴にして母親への罵倒を放ちながらその場所から消え去っていく。この少年を捕まえて厳重注意を行うべきなのだろうが、ヒーロー達は少年を捕まえれずにいた。彼の移動速度が常軌を逸していたのだ、彼から目を離した瞬間に姿を消しヴィランを無力化する。ヒーロー達が彼を止める為に呼び掛けるも彼には届いていないのか、彼はただ涙を流しながらヴィランを無力化していた。
そしてそれを見る街の者達は『まーたやってるよ』くらいにしか感じておらず。それどころか、その少年に手を振る者すら出る始末。
困惑するヒーロー達。一部のヒーロー達の中には『アレが落ち着いたら保護しに行けば良い』と言って放置する者達もいた。ヒーローとしてその言動は如何な者かと憤慨するヒーローもいたが、その発言をする者達全員が皆して遠い目をしていたのを見て誰もが口を閉じた。
そして……時間は昼を過ぎ夕暮れへと姿を変えていく。海は夕暮れ色に染まり、大空と海。その両方が少し寂しい夕暮れ色に変化している海岸で、少年はコンビニで買ったおにぎりをほうばりながらため息をついた。
「帰りたくねぇ……帰りたくねぇ……」
ブツブツと家出している子どものような事を言う少年の肩に手が添えられる。その手の主を少年は見て、またため息を吐いた。
「うっわ……バードマンじゃん」
「……誰にだって家に帰りたくない日はある。今日はウチの事務所に泊まるか? 」
「……泊まる」
コクリと頷き、少年はバードマンと呼ぶプロヒーローの背中について歩き出す。
互いに何も話さずに歩いていく中、バードマンは少年を励まそうと話しかける。
「まぁ……人生、何があるか分からない。何があったのか知らんが気にするなよ」
「分かってるけど……落ち込む」
そう言ってまた無言になる少年の姿を見てバードマンは内心慌てふためいた。理不尽が人の姿を持って生まれた問題児が元気を失っていたのだ。彼はこうなっていた原因をある人から伝えられて知っていたのだが、それを言えば彼がまた落ち込むと知っていた為。敢えて言わないようにしていた。
何度か話していく内に、何とか元気づけようとしたバードマンはついに口を滑らす。
「まぁ…性癖は人それぞれだからな! 俺も好きだから安心しろ! 」
しまったと思いなんとか誤魔化そうとするも時既に遅し、少年の顔が裏切られたと言わんばかりに絶望に染まり夜の街を駆け出した。
「……もう誰も信じられないっ!」
「カームバァァァック! 引合待て! 少しだけで良いから待っって! お前逃がしたら俺が紬さんに怒られるから! お願い待ってプリーズ! 」
夕暮れに染まった街の中を少年とプロヒーローが駆け抜けていく。そんな彼等の姿を呆れたように見下ろしていた1人のプロヒーローがいた事をここに記しておこう。
何はともあれ引合石の臨時休校は終わった。色々と彼にとって散々な日なのだったが、その経験が彼を強くしていくのだろう。多分、恐らく、きっと。
「先輩……なにやってるんですか」
呆れ果てたような声が夜の街の中に消え去った。
B√結構人気で笑いました
まぁ書くとしてもまだまだ先なんですけどね!