友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
引合石は自身が置かれている状況をよく理解していた。最前線で轟焦凍と一対一の攻防を繰り広げ、鋼鉄をも溶かす熱線と圧倒的質量を誇る大氷壁が自分に向かって幾重にも放たれる中で、優位に立っている様に見せかけながら、それらが薄氷の上で成り立っている事実を良く理解していた。
轟焦凍、引合石と第一関門の最前線で争い合う存在。簡単に言えば、彼は引合石に対して優位に立ち向かえるのだ。
鋼鉄すら溶かし尽くす熱線を放ち、圧倒的質量を秘める大氷壁を幾重にも放てる彼は、存在そのものが災害と例える事が可能だ。無論引合とて災害並の威力を放つ事は出来るが、引合は触れられる物が必要不可欠。第一関門に於いて、仮想ヴィランを操り、全ての生徒を敵に回した引合ではあったが、轟焦凍はそれらを必要とせずに彼と同等の力を発揮する事が出来る。
引合に仮想ヴィランという武器が必要であるならば、轟焦凍にそれらは必要ない。その身から放たれる一撃が、仮想ヴィランを殲滅するに相応しい絶対的な力を秘めている。
鋼鉄を溶かし尽くす超高温の熱線、全てを取り込む大氷壁。それらを好き放題放てるとなれば、最早彼は無敵を通り越した何かだ。チートもチート、存在そのものが理不尽の権化だ。
そんな理不尽そのものと対等に争いながらも他の生徒達全てと相対する彼も理不尽を超越した何かなのだが、そんな彼にも限界はある。仮想ヴィランを操り、全ての存在へと喧嘩を売っている彼だが、最優先に争うべきは轟焦凍であり、もしも彼との争いで手を抜けば、確実に即殺されるのが目に見えている。故に彼へ攻撃の手を緩める事は出来ない。
隙あらば熱線、隙あらば大氷壁を放ってくる大災害の権化を無視すれば確実に死ぬ。故に、彼は優秀なサポート役として障子目蔵を自分の手元へと置いた。
障子目蔵 個性『複製腕』肩から生えた2対の触手の先端に、自身の体の器官を複製できる。この個性に引合は目を付けた。幾重にも増やした複製腕に目と耳の機能を最大限に使わせ、自分が把握しきれない状況の把握に務めさせた。自分は眼前の存在に集中しなければならない故の、サポート役。効果は歴然だった。彼はその個性を最大限に発揮させ、第一関門で前へ前へと進んでくる挑戦者達の場所を把握し、引合へとその場所を伝えた。故に引合は全生徒の第一関門として君臨する事が出来た。
しかし、こう思う者もいるかもしれない。引合石の個性を使えば、A組なぞ全て反発させてしまえば良いのではないのか? と。これに関しては全く以てその通りとしか言えないのだが、それをしない理由が彼にはある。第1種目が始まる際に、彼は観客に向かってこう言い放っている。『貴方達を決して退屈させない』と。
そう言い放っておきながら、反発させて終わり等という結末はあまりにお粗末が過ぎる。故に引合は、己を律し枷を付けていた。
つまらないオチはなんとしてでも回避すると。
この体育祭に全身全霊を賭けている者達に対して、それは余りにも残酷で、酷く優しい愚行なのだが、彼は他者にそれを指摘されようとも全く気にする事はないだろう。彼の行いに激怒する者が現れようとも『手加減される方が悪い』と、ハッキリと切り捨てるだろう。それが彼だ。
ならば、手加減する必要のない轟焦凍に対して反発を使わない理由とは何か? この答えも簡単だ。一言で答えるならば『反発させた所で熱線と大氷壁が止まる事はない。むしろ、右往左往に飛ばしてしまえば、今より手が付けられなくなる』だ。
轟焦凍の戦闘力は並のプロヒーローを遥かに凌駕している。そんな彼が反発で吹き飛ばされたらどうするのか、答えは簡単。
引合の反発によって縦横無尽に轟が飛ばされた場合、超火力による熱線と圧倒的質量をもった大氷壁が轟の予想していた場所とは別の方向へと放たれる可能性がある。そうなれば第一関門が大惨事を超えた文字通りの地獄絵図となる。つまり死傷者が出る可能性がある。だから彼を反発させて終わり、とは出来ないのだ。むしろ真正面で向き合う方が安全であり、対処の仕様がある。
正面から轟焦凍と向き合い、尚且つ他の生徒の相手もする。本来ならば不可能とも言える偉業だが、それらを可能としたのは、引合石の他と隔絶する実力と障子目蔵のサポート、そして雄英高校が誇る資金力によって生み出された仮想ヴィラン達である。
それら全てがあったからこそ、彼は全生徒に対して立ち向かう事が出来た。一つでも欠ければ崩壊する砂上の楼閣の上で、彼は戦い続けた。
だが、ここで状況は一転する。吹出漫我、物間寧人の2人が放った一撃だ。この一撃によって仮想ヴィランの半数を失った彼は全生徒達を相手取る事が出来なくなる。唯でさえ眼前の大災害の化身に手一杯だと言うのに、戦力の半数を失った彼は轟焦凍以外に放てる仮想ヴィランを減らすしか出来なくなった。
戦況は一転する。圧倒的優位に立っているように見えていた引合の砂上の楼閣は完全に崩れさり、轟焦凍以外の最前線への侵入を許してしまう。
これにより、第一関門は超えられるだろう。見ていた誰もがそう思った。立ち向かっている引合ですら半分諦めていた。
だが、運命の女神は彼に微笑む。新たなる乱入者達。それが引合の命運を大きく引き伸ばしたのだ。
『オイオイオイ! どういう事だ! ここまでくればもう第一関門は超えたも同然だろうが! なんでこんな展開になるんだ!? 』
プレゼントマイクの声がスタジアムに響き渡る。スクリーン上に映し出されている光景は引合石対轟焦凍と他4名の構成となっている。五対一、こうなれば引合を超えるのは時間の問題の筈と、誰もが思っていた。
スクリーン上に映された光景に誰もが絶句する。引合石は五対一にも関わらず圧倒的優位を見せつけ、最前線を守り切っていた。その光景を眺めていたイレイザーヘッドは一つの事実に気付いたのか、ボソリと呟く。
『轟の奴……動きが鈍いな。さっきまでの力を出せていない。不味いぞ……他の奴らに気を使い、今までの超火力による牽制が出来なくなっていやがる』
『アァン!? って事はあれか! 周りに他の奴らがいるから轟の本領を発揮出来ないって事か!? 』
『あぁ……不味い。轟が本領を発揮出来ずとも、引合にそれは関係ない。むしろ超火力による戦場の支配が消えた事により、今までよりも十全に動けている』
スクリーン上に映し出される光景、それは彼の独壇場そのものであった。爆破を放たれようが、竜巻が巻き起ころうが、殴りかかられようが、銃器を生み出すが、それら全てを引合はいなしきる。
爆破には仮想ヴィランの盾を以て対処し。
竜巻には同じく仮想ヴィランを巻き起こしている張本人へと放ち。
常人では耐えられぬ超常の力を持った拳の一撃は、無情にも躱され、そのまま腕を捕まれ投げ飛ばされる。
銃火器を生み出し転用する前に、それらを奪われ逆に使われてしまう。無常にも引合に武器を与えてしまう結果に陥る。
そして、先程まで引合と一進一退の戦いを繰り広げていた少年は思うように動けなくなった状況に焦りを感じた。本来ならば熱線を放てた状況でも、周りにいる者達がそれを阻害し、大氷壁など放てば眼前の4人がどうなるか分からない。1度は逆転した筈の戦況が更に逆転する。
「やべぇ……今俺輝いてる! ちょー輝いてる! やっぱ俺ってやれば出来る子だったんだ! 」
もう一度言っておくが轟焦凍とは災害の化身とも呼べる程の実力を秘めた存在だ。だが、そんな彼が十全に戦うには、周りに気を使わずにいられる戦場が必要不可欠だ。先程までは最前線で引合と一進一退の激戦を繰り広げられたのは、一重に彼等以外の存在がいなかった事に尽きる。
「……思うように動けねぇ」
轟が一撃を放とうとすると、必ずと言っても良いほど引合は他の4人の誰かを射線上に巻き込む位置を取る。故に放てない、故に思うような動きが取れない。強過ぎる個性が、逆に己の首を絞める事態に陥ったのだ。
「やはりド派手で強力な個性よりも地味で万能系な個性がナンバーワン! つまり俺がナンバーワン! 」
有頂天極まる引合だが、運命の女神とは気まぐれだ。女神は勝利を確信する者に苦難を与え、逆境の中にいる者達にこそ、勝利への切符を手渡す。
乱れきった仮想ヴィランの群れを乗り越え、A組、並びにB組の者達が最前線へと近付いて来ているのだ。これ以上の最前線の増員に引合石は耐えられるのか?
登竜門が少しずつ開き始めている。
次回 第一関門決着
いやぁ……長かった(しみじみ)