友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
「ヤバい……今俺、輝いてる! こんな感覚初めて! もう何も怖くない! 」
「えっ……ちょ……まっっ! 」
評価員がこの場にいるとすれば即座に全員が満点の札をあげる、それほど美しい一撃だった。全身の筋肉を躍動させバネの如く地面を蹴り上げ対象の顎を撃ち抜く。アッパーカットと呼ばれるそれを放たれた哀れな少年は宙を舞い地面へと落下する。
「「上鳴ィィィッ! 」」
ドシャァァと心地よい音を鳴らしながら地面へと落下したクラスメイトの安否を案じる悲鳴が第一関門最前線にて谺響した。
まぁしただけなのだが。
「安心しろ! 峰打ち……ヘェェェイッ! 」
「待て待て待て引アアアアアッ! 」
嘆願の命乞いは最後まで言い残せず、哀れな次なる犠牲者は宙へと投げ飛ばされた。一般的な高校男児の身長を遥かに下回る彼は、身体を掴まれジャイアントスイングから大きく振りかぶられ大空へと飛翔した。悲鳴をあげながら大空を飛ぶ少年。このまま落下すれば脳漿をぶちまけ、さながら地面に叩きつけられたトマトを彷彿とさせる惨状を作り出すだろう。
だが、そこは天下の雄英学校ヒーロー科。哀れな峰田を助けられる者は当然存在している。疾風を身に纏い宙へと飛翔した少年は、危なげなく峰田を抱き抱えると何時もと変わらぬ満面の笑みを持って身の安全を伝えた。
「大丈夫か! 」
「夜嵐ィ……ありがてぇけどぉ……ありがたいんだけどぉ……」
夜嵐イナサの快活な笑顔を見上げ、その腕に抱かれてる峰田はモゴモゴと口篭る。その様子に天真爛漫であり、空気読み人知らずなイナサは不思議そうに首を傾げながら言葉の続きを待つ。
「なんでお前は男なんだよぉぉぉぉっ! 男の胸板触っても嬉しくないし楽しくねぇよぉぉぉっ! 胸筋発達しすぎだろお前さぁぁっ! 今すぐ女体化してキレ目系爆乳美少女にフォームチェンジしろぉぉぉっ! 」
「……良く分からんがすまん! 」
カッと目を見開きながら謝る夜嵐と泣きながら夜嵐の胸板を叩く峰田、状況だけ見れば意味不明である。そんな混沌渦巻く2人の様子を地上から見ていた蛙吹は夜嵐へと声を掛けた。
「気にしないで良いのよ夜嵐ちゃん。ソレはさっさと捨てても良いのよ? 」
最早、峰田はソレ呼ばわりである。命の恩人に女体化して胸揉ませろと宣ったのだから仕方ないのかもしれない。因みにこの場に集まった女生徒全員が峰田の言葉を聞きドン引いてる。
「だってさぁ! そうだ引合! お前ならオイラの気持ち分かってくれるよなぁ!? 」
自分を大空へと放り投げた存在へと助けを求めんと峰田は声を掛けた。因みに声を掛けられている馬鹿は脹脛のトルクから煙を吹かせながら蹴りかかってくる存在の一撃をバックステップで躱しながら眼前にある足を持ち、ハンマー投げの要領で放り投げている。放り投げた先にいたクラスメイト達を巻き込みながら倒れ込む飯田を見送った後、引合は嫌そうな顔をして峰田の言葉に対して返答した。
「ホモかよお前」
「そうだろ……っ!? ん……ホモ? 」
同じ巨乳愛好家である彼ならばきっと分かってくれる筈、そう思って声を掛けた峰田であったが突然のホモ認定に言葉を失う。
「女装癖があってホモとかお前もう役満じゃねーか。頼むから俺の近くに近寄らないでくれ」
そう言いながらも引合は自分を越えようとする者をちぎっては投げちぎっては投げを繰り返す。放り投げられている者達からすれば会話のついでに投げ飛ばされているのでたまったものではないが、そんな事を考える暇も与えられず文字通りポンポンと宙を舞った。
「大体なぁ……身体が女になったからって中身が女になった訳じゃないだろ? それに……身体だけなら俺もショートも女になった事あるわ 」
後半は現在、眼前にいる轟以外に聞こえないような呟き声だったが。個性上、耳が他者の何倍も優れている耳郎はその言葉を聞き逃さなかった。女体化経験がある、その一言に呆気に取られ動けずにいるとは露知らず、彼等は彼女に聞かれている事実に気付く様子もなく言葉を続けた。
「……懐かしいな。2年の頃だったか? 」
「そうそう。3人とも女になって大惨事凝山大戦が発生した時だな」
放たれた拳を1歩下がる事によって躱し、振り子の如く片足を振り上げ、振り抜かれた拳を蹴り上げる。そのまま残った片足で宙を舞い、頭部へと踵落としが放たれた。
「……この程度。当たるつもりはねぇぞ」
が。先程された事を返すかのようにバックステップでその一撃は躱され、放たれた踵落としは地面を穿つだけの結果となる。
「……正直知ってた」
「(どうしよう……聞かなきゃ良かった)」
1人、耳郎が引合の爆弾発言に戦いていると、横から心配したような声が掛けられる。
「どうしたの耳郎ちゃん! 顔が真っ青だよ! 」
「ごめん透……ちょっと知りたくなかった現実から逃避してた」
「んん? どういう事? 」
クラスメイト、それも最強格の2人がTS経験者でしたなんて口が裂けても言えない耳郎とその様子に懐疑的な声色を出す葉隠。2人が謎の緊迫感に包まれている中でも時間は無情に、なお残酷に進んでいく。
『オイオイ峰田ァァッ! そりゃねぇだろ! Heyイレイザー! お前の教育方針どうなってんだ! アイツとんでもねぇ程アレじゃねぇか! 』
『なんで……アイツらは……全国放送だって分かってんのか……ぐっ』
スクリーン越しに彼等の姿を眺めていたマイクが峰田をネタにし始める。全国放送されている映像とは思えない惨事、まさかの坊主頭のクラスメイトに対する女体化希望宣言にスタジアムにドッと笑いが起こる。
キレキレのマイクとは対照的にイレイザーは顔を真っ青にして腹部を押さえていた。どうやら限界は近そうである。もしも彼が現在職員席に不倶戴天の怨敵たる魔王が偉そうに座り込んでると知ればどうなるのか想像に難くない。
「ふん……下らん、雄英の質も落ちたものだ。あんな愚か者をヒーロー科に入れるなど、あれが焦凍と同じ科の存在とは断じて認めん。むしろ焦凍とアレを同じクラスにして貰っては困る、もしも……あんな愚物と共に過ごし朱に交われば赤くなってしまうなんていう事態に……取り敢えず根津校長にはそれとなく言ってみよう」
一般席の片隅。ガヤガヤと盛り上がりを見せる中、一人の男性がスクリーン上に映っているド変態を心底見下したような顔で言葉を発した。
「……あんな変態でもアンタよりマシだろ」
自分でも流石にそれはないと思いながらも悪態を吐かずにはいられない青年が男性へと苦言を呈す。その言葉を聞き、言い返すでもなく、男性はただジッと青年を見詰めた。
「……んだよ。文句あんのか? 」
「……いや、お前の言葉通りだ。己の覇道の為に家族を……お前達を蔑ろにした俺は……永遠に許されるべきではない。ましてや妻を……冷を限界まで追い込んだのだ、この場にいる事すら許されない事は分かっている」
「分かってんなら「だが」……んだよ」
隣合って座っている筈なのに、その間は果てしなく深い溝がある。彼等の周りにいた者達もその雰囲気に押され思わず口を閉ざし。彼等を見守る女性達は、一人は沈痛な面持ちで自分の膝を強く掴み、もう1人はそんな女性を励ますように肩を抱き締めている。
「今日だけは……共に見届けさせて欲しい。俺の最高傑作であり……お前達の弟が花開く、その瞬間を」
頼む。深々と頭を下げながら言われた言葉に青年、轟夏雄は困惑する。自分の知っているこの男はこんな事を決して言う男ではなかった。彼の弟が産まれ、今までナリを潜めていた欲望を隠さなくなった男は、母と弟に対して酷い行いをし始めたと記憶している。自分達失敗作には目もくれず、ただ弟を……自分の最高傑作を完成させる為に一心を注いだ。
虐待なんて鼻で笑える程の訓練、それを庇う母を殴り飛ばす姿は隠れて弟の様子を見守っていた自分ですら恐怖を覚えるものだった。
「……んだよ、いきなりそんな殊勝な態度で」
故に、彼は眼前の男を許す訳にはいかない。例え弟がこの男を許しても、母がこの男を庇っても、姉が何を言おうとも、自分だけは許してはならないのだ。
「違うの夏……この人は、全部を背負って……」
「……母さんは優しすぎる。燈矢兄はコイツのせいで失踪した、それを分かってる癖に。コイツは焦凍に対してあんな無茶を……」
「……燈矢は惜しかった。俺の炎を超えていたが冷の体質をお前達の誰よりも濃く受け継いでた。だから……」
「だからってなんだ! お前が……ッ! 」
男の胸倉を掴みあげ、睨み付ける。脅せるなんてちっとも思っていない。だが、恐らく自分だけなのだ。焦凍はあの夜、間違いなく何かを悟った。どんな奴であろうともこの男は俺達の父親だと言った、きっと焦凍の中でコイツに対する憎悪は少しずつ薄れているのかもしれない。
それは良い事だ。弟がこの男に対して囚われなくなった、それは何よりも喜ばしい事だ。
「お前が……ッ! 」
姉さんは昔からこの男を許していた。燈矢兄がいなくなってから自分が今、兄弟で1番上だと感じたのだろう。母もいなくなり日に日に荒んでいく焦凍の心を守る為に自分がしっかりしないとと、母親の代わりをした。
姉さんは昔から優しかった。それこそ、あの男にも父親として何か焦凍に対して思いがあると、そんなある訳がない事を夢想する程に。
「お前が…ッ!! 」
母さんは誰よりも穏やかで優しかったから狂った。あの男によって荒んでいく焦凍と、日々あの男に暴力を振るわれたから。
「お前が……ッ!!! 」
自分だけはこの男を許してはならない。皆は優しすぎる、皆が許しても自分だけはこの男に自分が犯した罪の深さを教えなければならない。
「……許されるつもりはない。それだけの事をしたと自覚している」
「だが……今だけで良い。共にこの場にいる事を許してくれ……たった一度で良い。お前達と共に今の焦凍の姿を……」
そう言いながら目を伏せる男は昔見た姿と違って酷く小さく見えた。例えるなら、まるで謝り方を知らない子どものような。
「夏……お願い……」
姉さんに背中を強く握られる。姉さんはずっと家族が一緒になれれば良いと願っていた。姉さんは今ならきっと家族が仲良く出来るかもしれないと思っているのだろう。
俺も譲れない。けど途中で逃げた俺よりも、焦凍をずっと傍で守ってきた姉さんの言葉の方がもっと譲れない。
だから手を離す。掴んでいた胸倉を離しスクリーンを見る作業に戻る。
「……姉さんが言うからだ。だからここにいるのは認めてやる」
スクリーンに映る光景に集中し、周りから聞こえてくる声を右から左へと受け流す。
「すまない……」
弱々しいその言葉は俺に聞こえていない。
スクリーン上の光景はドンドンと変化していく。引合という少年が立ち塞がる第一関門、そんな中で立ち向かう生徒達。最終的にA組があと少しで超えられる、その瞬間に彼等は現われた。
『ハーハッハッハ! これこそ! 漁夫の利って奴さぁ! 君達みたいな思考停止猿共には分からないだろうけどねぇ! 人間には賢く立ち回る知恵ってのがあるのさぁ! それじゃあさよなら! 君達のお陰で楽に突破出来たよ!アハハハハ! アハハ……アハハ……』
地面から突如表れ、強襲を行った彼等は引合の身体の下半身を地面に埋め、なんとか地面から出てきた彼をキノコ塗れにしつつ、全身鉄の身体の少年2人が彼を弾き飛ばし、巨大化した鉄の両手で彼を掴むと、後方へと放り投げた。
『うっわぁ……隙見てソレとかマジえげつねぇ。ブラドがこの場にいたら問い詰めるレベルでえげつねぇ……というか引合動かねぇな。なんでだ? 』
『 ……良く見ろ、口からキノコを吐き続けている。恐らく呼吸器官を菌糸類で満たされたのだろうな。知らない個性故に対策が取れなかった……か。まぁ、こんな結末もありだろう』
解説の言葉を聞き良く見ると、確かに呻くようにキノコを吐き続ける姿がそこにはあった。立ち上がる事すら難しいと言わんばかりに蹲り吐き続ける姿は見ていて痛々しいものがある。
『おーっとぉ!? ここで轟が引合の元にいくぅ!? 行くなら今だぜ! さっさと行こうぜ! Hey! 』
『……苦しんでる友人を置いていけないと言う事だろう。これは競走なんだが……まぁ、そんな姿は嫌いではない』
心配そうに駆け寄る焦凍へと吐きながら何かを語り掛ける引合。何秒間か会話すると、焦凍は凄まじい速度で前方へと移動を始める。それを追うようにA組も進み始め、ヒーロー科で第一関門にその場にいるのは彼だけになる。
『フッフッフッ……フフフフフフ。初めてですよ……俺をキノコまみれにして跳ね飛ばして……しかも放り投げたお馬鹿さんは』
スクリーン上から引合の声が響き渡る。今まで注目されていた故に、今も彼がスクリーンに映し出されていた。
『おいおい……イレイザー……アレ、大丈夫なのか? こういうのもなんだが。引合の奴、顔がヤベぇぞ』
『……』
『ここで無言になるなよ! 怖えーじゃねえーか! 』
解説が突然無言になり司会が慌て始める。そして引合は立ち上がったかと思うと、徐に鉄板に乗り地面を高速移動し始める。
『……一方的に追われる恐怖を思い知らせてやるぜェェッ! 俺は壁になるより追う方が得意なんだよなァァァッ! 』
そんな奇声を発しながら。
無言でスクリーン上の映像を変える司会と解説。何度かの呼吸音が聞こえ、そして司会のたった一言だけの小さな声が耳に届いた。
『俺……もう司会やめたい』
『逃げるな。お前よりも俺が逃げたい』
この瞬間、スタジアムの誰もがイレイザーヘッドに同情したのは語るまでもないだろう。
第一関門 ロボインフェルノ改め
怪獣大決戦〜その他勇者を添えて〜 突破
同時に第二関門
クレイジータクシー引合 開幕
体育祭はやるイベントが多すぎてオティンティン憤死しそう()
なんでこんなにやる事が多いんですか!(半ギレ)
そうです僕が馬鹿みたいに増やした結果ですよバーカ!(半泣き)