不良の自分がたり
『白神 桜花』
それがこの世界での俺の名前だった。
前世での俺がいつ死んで、どんな死に方をしたのかすら曖昧で、本当に俺の前世なんかあったのか、たまに俺でもわからなくなる。
でも確かに俺の頭の中には、ぼんやりとした、それでいて自分じゃない誰かの物だとはっきりと分かる記憶が存在していた。
その記憶での俺はいつも自分の意見を曲げていた。
自分の思い通りに物事を運んだことなど、なかったかもしれない。
それほどまでに、希薄な自我だった。
そんな風に過ごしていたからか、前世の俺には友人と言える人間もいなく孤独だった。
ただ入りたくもなく入った会社で仕事をして夜遅くに家に帰り、寝るだけ、意味も目的もなくただ一日を浪費するだけの日々。
そう考えると案外、俺の死因は自殺なんじゃないかと思う。
まあ、そんな前世での鬱憤が溜まってるのかは解らないが、今世はそれなりに自由にやらせてもらっている。
長々と語ってしまったが大したことのない、一人の人間が死んだというどこにでもある話だ。
誰もが聞いたことのあるなんの変哲もない人生、そんな人生を送った俺になんの因果かもう一度今を生きるチャンスが巡ってきたわけだ。
楽しませる自信はないが、まあ、暇なら見ていってくれ。
朝、鶏が鳴きお日様が天に昇る時間。
「ふぁぁ~~」
大きな伸びをしながら青年が目を覚ました。
年齢は16~17歳。
身長は180cm、がっしりとした体躯をしている。
顔はそこそこに整っており、10人に聞けば6人がカッコいいと口にすると思われる容姿をしていた。
だが異様に目を引くのはその鮮やかな赤髪と、あまりにも鋭すぎる眼光である。
これでは残りの4人は恐ろしいと答えるだろう。
彼は一言、怠いと呟くと再びベットに寝転んだ。
完璧に二度寝をかますつもりである。
外には彼と同年代ぐらいの少年、少女が学校に向かっている。
このまま二度寝をしてしまえば100%遅刻だが、彼にはそんなことは関係がないようだった。
この物語が始まるなり、早々に情けない姿をさらしている男こそ、この物語の主人公であり、我らがヒーローなのだ。
彼の名前は「白神 桜花」
前世の記憶を持ち、なんの因果か転生して別の世界へ生まれてきてしまった青年である。
今、しばらくはこの自堕落な青年が起きるのを待とう。
この青年が起きたときこそ、物語の輪が回り始めるのだから。
あせる必要はない、転生などをする人間がこのままなにもなく過ごすなど不可能なのだから。